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第517話 まずは一安心して貰えた、のかな?

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 上級回復薬をめぐる世知辛い噂話に少し場の雰囲気が何ともいえないモノになったが、コレに関しては実力を兼ね備えた探索者が増えるまで待つしかないだろうな。何といってもまだダンジョンが出現してから2年にも満たず、探索者と呼ばれる職業が生まれダンジョン探索を始めてまだ1年ほどでしかない。現時点で民間探索者の大半は駆け出しから中堅で、上級回復薬を確保できそうな探索者はまずいないんだからさ。

 まぁ自衛隊や警察なんかの公的機関に所属する探索者達は、そこそこ上級回復薬を確保していそうだけど。オーガの上位種の存在を知ってたし、上級回復薬を確保する為に周回してるっぽいしさ。


「まぁ少々話が脇に逸れましたけど、回復薬の効果については今話した感じですね。少々お金は掛かりますが、中級回復薬を使えば余程大きなケガでなければ治す事は可能だと思います」

「確かに、今の話を聞く限りそんな感じですね。……念の為の確認なのですが、実際に中級回復薬で怪我を治した後、暫く時間を置いた傷跡等を見られたことはありますか? 副作用的なモノが出ていたといった事は……」

「自分達が知る限りにおいては、副作用的なモノはなかったと思います。ただ精神的な傷、トラウマ的なモノを治す事は出来ません。自分達も中級回復薬を使って傷は全て治ったがトラウマが残って引退した、そういう探索者と直接話をした事があります。日常生活に支障が無い程度にトラウマを克服できた人でしたが、探索者への復帰は無理だっていってました。そして、パーティーメンバーは今でもトラウマを克服出来ずに苦しんでいるとも」

「……そうか、噂話ではなく直接話をしていたんだね」


 裕二の話を聞いた健吾さんは沈痛な表情を浮かべながら、探索者になりたいといっている自分の娘達に視線を向ける。今の話を聞いて、本当に探索者になるのか?と。

 そして同じく裕二の話を聞いた舘林さんと日野さんも、話の内容は理解しても実感が伴っていないのか、何ともいえない表情を浮かべていた。


「勿論この話は、ダンジョンが民間向けに一般開放されて直ぐの頃の話です。当時はまだ皆がダンジョンがどういったモノなのかロクに把握しておらず、モンスターと対峙する際のノウハウも乏しく、探索者間の秩序(暗黙の了解)等も定まっていませんでした。皆が行き当たりばったりで対応し、少しずつノウハウを貯めていた頃の話です」

「未成熟だったゆえに起きた事故、といいたいのかね?」

「すべてがそうだとは言いませんが、現在ではかなり改善されているのであまり起きない事例だとは思います。……美佳ちゃん、ちょっと話を聞いても良いかな?」

「はっ、はい!」 


 突然裕二に話を振られた美佳は、緊張した表情を浮かべながら上擦った声で返事をした。


「ははっ、そんなに緊張しないでよ。それで聞きたい事なんだけど、最近のダンジョン上層部の雰囲気なんかを聞かせて貰いたいんだ。例えば、探索者同士で良く乱闘が発生しているとか、怪我を負った探索者をよく見かけるとか、ケガ人を放置して探索を続ける探索者がいるとか……」

「いやいや、ダンジョン内といっても治安はそこまで終わってませんよ!」


 美佳の緊張をほぐす為か、悪乗りした裕二の冗談に美佳は勢い良く突っ込みをいれた。

 まぁそらそうだよな、裕二のいう通りならダンジョン内はどこの修羅の国だといいたい。


「ははっ、じゃぁ緊張も解けたみたいだし話を聞かせてくれるかな? それで実際の所、最近はどんな感じなんだい?」

「あっ、はい。ええっと、最近のダンジョン上層付近は夏休みに新人探索者が大量に新規参入してきたので、少し人口密度が過剰気味になってます。それとモンスターとの戦闘に了承を得ずに横入りをしないといった、暗黙のルールを分かってない新人さんが古参と少し揉めてましたけど、時間と共に解消していってるので治安自体はそこまで悪化してません。ただ、人数が増えた事でモンスターとの遭遇率が減った上、上層のドロップアイテムの供給が増えた事で買い取り額が下がったので、少し雰囲気がピリついてる感じですね」

「なるほど、まぁ大体何時も通りって感じだね」

「そうなんですか? 何だか皆少し浮足立っている様な感じなんですけど……」

 

 美佳と沙織ちゃんは夏休みが大量新規参入期初めてなので驚いている様だが、以前にも似たような騒ぎは起きている。俺達が経験しているだけでも、入試を終えた高校3年生が春休みに大量参入したし、ゴールデンウィークと夏休みに新1年が大量参入したりと3度経験している。

 まぁ大体1月もあれば落ち着くので、今の時期ならそう大きな問題は起きないだろう。


「モンスターとの遭遇率が下がった上、買い取り額も下がってるからね。駆け出しを卒業した位の探索者達が、今までの狩場より下の階層に移動しようかどうかって悩んでるんだよ。今まで得ていた収入を維持しようと思ったら、人口密度が低くモンスターとの遭遇率が高い階層で、買い取り額の高いドロップアイテムを得ないといけないからね。その辺の事情が、ピリついた雰囲気として影響を与えてるんじゃないかな?」

「なるほど。確かにしっかりとレベルを上げて力をつけた探索者なら、買い取り額の高いドロップを求めて狩場の階層を下げるのは当然の選択ですね。階層を下げるか悩んでた探索者にとっては、新人の大量参戦はいい切っ掛けですし」

「そういう事だね。それに大勢の新人が居る中、明らかに上の実力を持つ探索者が居座り続けるのは周りから鬱陶しがられるだろうから、実力にあった階層に移動する方がいくらか気分は楽になるだろうしね」

「ああそういえば私達も何回か、何でこんな階層に居るの?って目で見られたことが有りました」


 まぁ美佳達は俺達が基本から教え鍛えたからな、ブームの勢いだけで参入した新人探索者とは下準備からしてスタート位置が違う。他の探索者達と成長速度に違いが出るのは、当然というものだ。大きな怪我をさせない様に、階層移動などはかなり慎重に進めたが、他の探索者からするとかなり早い移動だったと思う。

 おかげで夏休みの新人大量参入期でも、そこまで混乱の影響は受けなかったみたいだしな。


「まぁそうだろうね。それで新人探索者達の怪我事情やモンスターの戦闘の様子はどんな感じか分かるかな?」

「私達が見る限り、上層階部分で大怪我を負った人はそんなに出ていませんね。今は階層当たりの人口密度が高いので、新人探索者パーティーがモンスターと戦闘している周りに、他の探索者パーティーが複数控えてるような状況ですから。だから援護要請が出たら他のパーティーが参戦する、といった感じです」

「なるほど。そんな状況なら、助けを呼ぶタイミングを誤らなければ大怪我を負う事はなさそうだね。援護要請した際、ドロップ品の分配では揉めてなかった?」

「最後まで見てないので分かりませんけど、特に揉めてる感じでは無かったと思いますよ?」


 基本的にモンスターとの戦闘で援護をして貰ったら、報酬としてドロップ品の一部を譲渡するのが暗黙のお約束だ。たまに報酬で揉めることがあるが、スキルスクロール等のレアドロップでも無ければまず揉める事は無い。

 それに周りに他の探索者達がいれば、周りの目を気にして法外な報酬を求める事も出来ないだろうからな。無論、例外はいるけど。


「ありがとう美佳ちゃん。今お聞きされたように現在のダンジョンでは、上層階部分で活動する分に関しては比較的安全性が確保されています。危ないと思ったら、躊躇わずに周りに助けを求めれば酷い怪我は早々負わないかと」

「そのようだね。君達の話を聞いている限り、最低限の安全性は確保できていると感じたよ。ただ同時に、それに頼りきりになるのが危険だろうという事も」


 健吾さんは真剣な眼差しで裕二を真っ直ぐ見た後、無言で舘林さん達を一瞥した。


「そうですね。最終的にダンジョン内でものをいうのは、自分達が鍛えた力になります。必ずしも助けてくれる者達が近くに居る、という訳ではありませんからね。どこまで進むのか、どこで引き返すのか、自分達の限界を見極める目が重要です」

「引き際が重要という事だね」

「はい。怪我を負う探索者の多くは、自分達の限界を見誤って深入りした者達が殆どです」

 

 そして周りに他の探索者達が沢山いるせいか新人探索者程、周りの皆が進むのだから大丈夫と思い込み深入りしやすい。安全性を確保しやすい代わりに、周りに沢山人がいるせいでついといった……赤い信号皆で渡れば怖くない、といった状態である。

 まぁ、ある程度安全性が確保されている状況で一度やらかしていた方が、取り返しのつかない失敗をするよりはマシなんだけどな。それに一度痛い目を見た探索者達は慎重に自分達の力を見極めて探索を進める傾向にあるので、探索者を続けるうえではリスクはあれど良い経験を積んだともいえる。


「なるほど、ダンジョンでは自分の力を冷静に見極め続けないといけない。そして見極め続けられるのなら、現在のダンジョンの上層階部分は比較的安全である。そういうことだね?」

「絶対に怪我を負う事が無いとはいえませんが、おそらく初級回復薬の治療効果範囲内のケガで済むと思います」


 昔クラスメート達がミイラ状態で学校に登校していたが、重症と思われる怪我を負ったやつはいなかったからな。最近は皆も収入が安定してきたのか、回復薬の使用を惜しまないので治療痕を残したまま登校する姿はほとんど見かけなくなったよ。

 そして俺達の話を聞き、現在のダンジョンでは酷い怪我を負う可能性が低く、治療する手段もある事が分かり保護者一同は少し安心したような表情を浮かべながら胸に溜まった空気を吐き出していた。 






 舘林さん達が探索者になった際、ダンジョン探索中の安全性がある程度確保されていると分かり会議室の中の雰囲気が少しだけ柔らかいモノに変わった。一番の懸念事項だった部分が、少しだが解消した結果だろう。

 そして場の雰囲気が少し和んだタイミングで、遅まきながら日野さんのお母さんである霧江さんからコンビニの袋に入っていたペットボトルのお茶が配られた。俺達が席に座って直ぐに話が始まったので、配るタイミングを失っていたらしい。


「ごめんね、初めに配ってればよかったんだけど」

「いえ、気にしないでください」

「すまない、私がすぐに話を始めてしまったせいだ。まずは一息ついてから話を始めればよかったのだが、つい気が逸ってしまって……」

「いえ、お気持ちは理解できます。ダンジョン探索を行う娘さん達の安全が確保できるのか、気が逸ってしまうのは当然ですよ」


 皆でお茶を飲み一息つきながら、少し雑談をかわす。一番の懸念事項が解消した保護者達は、自己紹介を交わした最初の頃とは違い柔らかな表情を浮かべていた。

 そして話は進み、話題が舘林さん達が自宅で話していた俺達についてのモノになる。


「そうなんだよ、娘達から君達の活躍について色々聞いてね。あの体育祭で見せた凄い演武、実はかなり手加減をしたものだったとか?」

「ははっ、まぁそうですね。あの時の演武は速さこそ探索者のモノでしたが、動き自体は観客への見栄え重視のモノでしたから」

「じゃぁ実際のダンジョン内でする動きは、アレ以上だと? 私にはあれ以上の動きというものが、イマイチ想像できないのだが……」

「実際にダンジョンでモンスター相手にする動きとは違いますからね、ダンジョン内ではあんな無駄な動きはしませんよ」


 俺達がダンジョン内でする動きは、重蔵さん監修の極限まで無駄を削いだ動きだ。まぁ重蔵さんと比べれば、まだまだ無駄が多いんだけどな。

 それを高レベル探索者の身体能力で振るえば……まぁモンスター相手でも優勢を取れるというものだ。


「どこに無駄があるのかさえ分からないが、探索者として修練を積めば娘達もあんな動きが出来る様になるのかい?」

「動きのキレや技の冴えといった技能の部分は分かりませんが、動作の素早さや力強さといった面では同等の動きが出来る様になると思います」


 裕二の返答に健吾さんは一瞬目を細めた後、どこか意を決したような声で問いかけてきた。


「そうか……君達は、これからも探索者は増えつづけると思うかい?」

「そうですね……探索者が職業として成り立つレベルに達する者は程々に増える位でしょうが、今の学生探索者レベルの者はかなりの数増えると思います。現状でも高校生の半分程は、一度は探索者を経験しているでしょうから」

「やっぱり今後も増えていくか……」

「はい。でも、もしかしたら高校では在学期間中の探索者資格の取得が禁止になるかもしれませんよ? 短い期間でも色々と探索者に関する問題が起きてますから、噂話に聞く探索者育成校以外の高校では全面禁止といった感じで」


 まぁその決定が出るまでには少なくとも、数年はかかりそうだけど。噂の探索者育成校が出来るまでは、現役探索者学生達の反発も強いだろうしな。

   















探索者の数が多いので上層に限っては、ある程度の安全性が確保できているといった感じですね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ダンジョンリスクはある、でも ほとんどのクラスメイトがダンジョンで強化された中 娘だけ無防備に普通なリスクもある って親御さんの考えが伝わってきます
浅い階層なら、普通のスポーツと同じくらいのリスクになってるのかね? 普通といっても、アメフトや格闘技みたいな分類になるだろうけど。
リアル系が本作の売りとは言え 普通の野山でもクマの被害あるのに 確定的に一般人にとってクマレベルの魔物の巣に子供だけで行かせるとか狂気じみてるよなぁ 初期投資に色々込みで50万くらい掛かりそうだし 責…
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