第516話 保護者面談?開始
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学校終わりの放課後、俺達は指定された駅近くのカルチャースクールの集まるビルに足を運んでいた。舘林さんと日野さんのご両親から俺達、現役探索者から探索者に関する話を聞きたいという打診があったのだ。無論、世間一般に流布されている情報には一通り目を通しているそうだが、やっぱり身近に現役の探索者が居るのなら生の意見を聴いてみたいとの事らしい。
まぁ子供が負傷率の高い探索者になりたいといい出したら、保護者として慎重な対応をとろうとするのも無理はないと思う。
「すみません、わざわざ皆さんにこんな所まで来てもらって」
「私達が上手く説得できていれば、皆にこんな手間をかけさせなくて済んだのに……」
「いやいや、大丈夫だから気にしないで」
舘林さんと日野さんは手間をかけさせ申し訳ないといった表情を浮かべながら、俺達5人に向かって軽く頭を下げる。まぁ学校終わりに私事で先輩を呼び出すなんて、気まずいだろうな。
しかし事前に説得に必要なら俺達も手伝うといっていたので、俺達は気にする事は無いと苦笑を浮かべながら胸の前で小さく手を振った。出番がない事が一番良かったんだけど、まぁ探索者の先輩としてしっかり説明しよう。
「それにしても、貸し会議室か。今まで使った事ないから、イマイチピンとこないな。こういう所って、簡単に借りれるモノなの?」
「あっ、はい。場所が空いていれば、ネットで当日利用予約もできるみたいです。利用料もそんなに高くないみたいで……」
「ウチのお父さんが何度か使ったことあるらしくって、どこで話し合いをするかって困ってたらココを予約してくれました」
「全員で11人だからね。それだけの人数が一堂に集まるとなれば、まず場所探しからしないといけないか。それを考えると、ココの利用権が取れて良かったのかな」
少し気まずい雰囲気になったので、話題を変える為に話し合いをするビルを見上げながら舘林さんと日野さんに話しかける。話題が変わり顔を上げた舘林さんと日野さんは、少し言い淀みながら事情を話してくれた。
まぁ俺達全員と両保護者が集まるとなれば人数が人数になるからな、皆集まって話し合いをしようとすれば場所の問題が出て来る。
「はい。それに話す内容が内容なので、ファミレスなんかの大勢の人が集まる場所は不適切じゃないかともいってました。説明の過程で先輩達に踏み込んだ内情を聞くのなら、周りの人が簡単に聞き耳を立てられるような場所は使わない方が良いって」
「その辺も気遣って貰っての貸し会議室か……確かに内容によってはファミレスなんかじゃ話しにくい話題も出てくるだろうしね。いわなきゃいけない事なんだけど、周りを気遣っていい出しにくいってなったら意味が無いしさ」
「はい。テレビなんかで流れている噂や情報ではなく、現役探索者の本音を聞きたいっていってました」
どうやら舘林さん達の御両親は、真剣に2人の探索者に成りたいという希望を考えているらしい。
しかしそういう事なら、少々生々しい話になるかもしれないが確りと内情を話した方が良いだろうな。
「わかった。現役の探索者として、しっかりと体験談を話させてもらうよ。そういう意味では、俺達と美佳達で探索者を始めた時期が違うってのは都合が良いかな。日々変わる探索者業界の違いを説明しやすい」
「そうだな、俺達が始めた頃と美佳ちゃん達が始めた頃じゃ大分違いがある。今から始めようとしている舘林さん達にあっているのかは分からないけど、大枠としては使える知識もあるだろうしな」
「そうね。夏休み明けって事でダンジョン内にいる人も多くなっているでしょうから、昔の大混雑して入場規制されてた頃の話とか役に立つかしら?」
「始めた時期が近いのは私達なんだけど……夏休み明けでガラリと環境が変わったんだよね」
「うん。それに一気に大量の新人探索者が入った影響なんだろうけど、少し治安が悪くなったというか……空気が悪くなったというか」
舘林さん達の御両親の意気込みを聞き、俺達は先輩探索者として話して良いか悩んでいた話もする事にした。テレビや雑誌なんかでダンジョンの事が紹介されるときは、基本的に良い事しか書いてないからな。都合が悪い面の話は、実際に探索者をやっている者に聞くのが一番いい。
まぁその結果、舘林さん達がご両親との話し合いの末に探索者になる事を諦める事になったとしても仕方が無いだろうな。
約束の時間が迫って来たので、話し合いの場所として指定された会議室へと向かった。貸し会議室のある階層は意外に静かで、利用中を知らせるドアランプが点灯しているので人が居るのは確かのようだ。
どうやら結構防音性は高いらしく、大声で怒鳴り合えば別だろうが普通に会話をするだけなら音漏れは気にしなくて良さそうだ。
「ココだね、第4貸し会議室。利用中のランプもついてるみたいだし、もう舘林さん達の御両親は到着しているらしいね」
「朝登校する前に、早めに来て準備してるっていってました」
「そうなんだ、じゃぁ余り待たせるのも申し訳ないから入ろうか?」
「はい」
初顔合わせになる俺達が先に入るより、舘林さん達が最初の方が良いだろうと先にと促す。すると舘林さんがドアの前に立ち、入り口のロックは既に解除してあるらしく何の抵抗もなくドアレバーを押し下げ扉を開いた。
「お待たせ、先輩達を連れて来たよ」
「お疲れ様」
舘林さんとドアの空いた隙間から、部屋の中にいる4つの人影がちらりと見えた。
そして互いに軽く会釈をしつつ素早く全員室内へと入り、まずは簡単な自己紹介を行う。
「本日は時間を作ってくれてありがとうございます。舘林麻美の父、舘林健吾です」
「母の舘林晴美です」
健吾さんが軽く頭を下げながら、説明会に参加する俺達にお礼を述べる。
舘林さんの御両親は、背の高い細身のミディアムヘアーのサラリーマン風お父さん、背中に届くセミロングでスレンダー体形のお母さんだ。
「日野涼音の父、日野達郎だ」
「母の日野霧江です」
日野さんの御両親は、日に焼けた色黒短髪マッチョなお父さん、ショートヘアのグラマー体形のお母さんだ。
そして今度は俺達が簡単な自己紹介を行う。
「ご紹介ありがとうございます、2人の部活の先輩に当たる広瀬裕二です。コチラこそお忙しい中、わざわざ場所を用意していただきありがとうございます」
「九重大樹です」
「柊雪乃です」
「麻美ちゃん達と同級生の九重美佳です」
「岸田沙織です」
俺達は軽く頭を下げながら、舘林さん達の御両親との初顔合わせを済ませた。
そして挨拶を済ませた俺達は健吾さんに促され、会議室に備え付けられているパイプ椅子に着席する。因みに席順としては、舘林さんと日野さんが各々の御両親に挟まれる形で俺達の対面の席に座り、俺達は
裕二を中心に美佳・俺・裕二・柊さん・沙織ちゃんの順だ。
「さて、今回君達に時間を作って貰った用件は娘達から伝わっている、と思っても良いのかな?」
「はい。彼女達が探索者になる事を望んでおり、皆さんの許可を貰う為に現役探索者としての生の意見を聞かせて欲しい、ですよね?」
健吾さんが保護者の代表として話を進めるらしい。まぁ個別に質問を投げ掛けられ話が飛び飛びになってしまうよりは良いので、俺達も裕二を代表者として話を進めて貰う。
「それは良かった。ではまず君達に、私達の今現在の立場を伝えておくよ。私達は娘達から探索者に成りたいと話を持ち掛けられた時、当然ながら反対したよ。世間一般に流れている情報だけを見聞きしても、モンスターと戦って負傷する危険性が高いからね。無論、ダンジョン産の回復薬を使えば大きなケガでなければ痕も残らず短期間で消えるのは知っている。しかし一方で、怪我は治っても酷いトラウマを抱え探索者を引退し日常生活にも支障が出る……等といった話を同時に聞くとね?」
「皆さんの立場は分かりました、確かにおっしゃる通りだと思います。探索者はダンジョンに潜り、モンスターと戦う事でドロップアイテムを獲得し収入を得る職業です。探索者として身を立てようと思えば、基本的にモンスターとの戦闘は不可避であり、常に負傷のリスクを背負い続けます」
淡々とした口調で語る裕二の話を聞き、舘林さんと日野さんの御両親は少し表情を強張らせながら娘達の顔をチラリと覗く。現役探索者である裕二が断言する以上、いつか大怪我を負うかもしれないといった不安が付きまとう。
まぁどんなに強くなったとしても、ダンジョンで少しでも油断をすれば怪我をするときは怪我をするからな。更にモンスター相手でなくとも、トラウマ級の体験をする可能性はなくもない。ドロップ品の横取りを考える不良探索者に襲われるとか、階層深く潜った先で物資が枯渇し困窮し立ち往生する、モンスターに返り討ちにあった重症の探索者を目の当たりにする、とかさ?
「そうか……因みに回復薬で回復できるケガの範囲がどの程度かというのは分かるかい?」
「回復薬の効果ですか……私見を加えた話で良いですか?」
「ああ、勿論だとも。回復薬を使えば実際どの程度のケガまで治せるんだい?」
「そうですね……」
裕二は少し考えを纏める様に間を開けた後、右手の指を3つ立てながら説明を始める。
「まず一般的にダンジョンから産出される回復薬と呼ばれるものには、その効果によって3つの等級が有ります。初級・中級・上級です。初級が世間一般で回復薬と認識されるもので、一番多く市場に出回っているものですね。大体1本が1万円ほどで、服用すると痛みや疲労が回復し軽い打撲や切り傷が直ぐに治ります。大体の探索者はダンジョン探索時に、幾つか保有しており随時使用しています」
「私達が知っている回復薬はそれだね。だとすると、あまり大きなケガには使えない感じかな?」
「複数個使えばそれなりに効果はあると思いますが、急を要する怪我の場合は素直に上の等級の回復薬を使った方が良いと思います」
裕二の話を聞き健吾さん達は納得の表情を浮かべながら、話の先を聞きたそうな眼差しを向けていた。
「中級は少々お値段があがり、1本100万円前後になります。市場に出回っている数も少なく、駆け出しの探索者はあまり持っていませんね。中堅探索者になってくると、お守り替わりに1本は持っている感じになると思います。効果としては初級の強化版で、骨折や深い裂傷などより大きなケガにも対応します。自分達が実際に使用された所を見たケースだと、骨折した手足が短時間で治り、深く切り裂かれ大量出血していた裂傷が瞬く間に塞がっていました」
「1本100万円とは高いが、その効果が本当なら確かにその価値はあるんだろうね。モンスターと戦う探索者には勿論だが、プロスポーツ選手など怪我が進退に直結する者達には垂涎の代物だ。一般の市場にはあまり出回らないのは、その辺の事情も関係しているんだろうね」
「そうかも知れませんね。大怪我が瞬時に治るとはいえ、一般人が手を出すには少々お高い品です。そしてそれは駆け出し探索者にも適用されていて、怪我を治すために中級回復薬を使用し、借金とトラウマを抱え引退……なんて事も実際に起きていますからね」
「それは……」
健吾さん達は裕二の話に何とも言えない表情を浮かべながら、心配げな眼差しを舘林さん達に向けた。ある程度大きな怪我も等級の高い回復薬を使えば治るというのは朗報だが、治療が原因で借金を抱えるとなれば……素直に喜べる情報とはいえないだろうな。
そして裕二は微妙な雰囲気が漂い出したので、軽く咳ばらいを入れながら最後の回復薬の説明を行う。
「そして最後に上級についての説明ですが、正直これは現時点では考慮しなくて良いと思います」
「それは何故だい? 中級でその効果なら、上級となればより強力な効果がありそうなんだが……」
「その効果故に、って所ですね。上級ともなれば、四肢欠損からの再生や致命傷からの回復なども望めます。ですが上級は産出数自体が少ない上、価格も高額でその高い効果ゆえに一般市場には出回りません。噂なんですが、上級については既に上の方で順番待ちが発生しているなんて話も聞きますしね。ですので一般の方がコレを手に入れるには、自力でダンジョンから上級回復薬を取得する実力を身につけるか、強いコネとプレミア価格になっている回復薬を買い取る資金力が必要になってきます」
「……そういう事か」
世知辛く感じるかもしれないが、そういう事である。
もう何年かすれば高価かもしれないが、一般市場にも上級回復薬が出回るようになるかもしれない。だけど、流石に直ぐにというのは無理だろうな。




