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第515話 お疲れ様会終了、なんだけど?

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 不安げな表情を浮かべる舘林さんと日野さんに、俺達3人は黙り込みながらどう返事をすれば良いのか悩む。武器を購入するお金を貸すこと自体は、昨日ダンジョンで臨時収入が有ったので資金的には問題ないので簡単だ。だが、数十万ものお金を探索者を続けられる適性も意思も定かでない様態の部活の後輩に貸しても良いのか?という点は大きな問題だろう。

 しかも割と少なくない数の新入り探索者が、最初のモンスターとの戦闘で恐怖や嫌悪感、嫌気を覚え探索者を辞めている。もし舘林さん達が意気揚々と探索者になったはいい物の、最初のお試し程度の探索で挫折してしまえば……返済の当てのない数十万もの借金を抱えてしまう。親しい友達の兄妹で部活の先輩に高校生の身でありながら、だ。


「「「「……」」」


 似たような想像が浮かんだのか、俺達3人は眉を顰め難しい表情を浮かべながら無言で顔を見合わせる。どう考えても気安く良いよ、とは返事をできない問題だ。

 しかも、コレはまだマシな想定であり最悪、四肢欠損等の大怪我や酷いトラウマを負ってしまえば日常生活にも支障が発生し、治療の為に俺達の保有している上級回復薬を提供したら数千万単位の更なる負債を抱える事になる。

 

「そうだね、確かに金額が金額だけにいい出し辛いかもしれないよ。でも、まずは親と相談する所から始めるしかないかな? どういう考えで探索者を始めたいのか、その為の初期投資資金をどうするのかをさ。親を説得するのに経験者の意見が欲しいというのなら、俺達の経験談ならいくらでも話せるよ」

「ああ、まずは探索者になりたいという話を親に通してからだろうな。武器に関しては……何か良いのがないか考えておくよ。まぁ最初は二人の探索者としての適性を見る為に、工具系をお試しで使ってみるのが良いかもな。アレなら安く手に入るし、学生探索者は結構使ってるからな」

「そうね。それに武器の購入費以外は自分達で用意できているのでしょ? だったら、親御さんも二人の探索者になりたいという本気を疑う事は無いと思うわ」


 なので、現状で俺達の返事はこれしかない。

 とてもでは無いが、現状で安請け合いをするのはダメだろう。それに第一、数十万単位のお金の貸し借りを高校生が保護者に黙って行うことなどできない。最低限、金銭の貸し借りについては保護者に探索者になりたいという話を通してからだ。


「「……」」


 俺達の返事を聞き舘林さんと日野さんは、少し期待していた返事とは違うなという表情を浮かべていた。たぶん俺達が武器を提供、あるいは購入資金を貸してくれるかもと期待していたのだろう。美佳達の例を考えれば、その可能性を期待するのも無理からぬことかもしれないが……流石にね?

 そして俺達の返事に不満を覚えているのは、舘林さん達だけでは無かった。俺達の返事に仕方がないよねといった納得の表情を浮かべながらも、美佳と沙織ちゃんも少し不満そうな表情を浮かべている。


「……不満そうだな美佳」

「えっ? あ、うん、ちょっとね。お兄ちゃん達のいいたい事は分かるんだけど、私達の時とは対応が違うな……って」

「まぁ、それはな? 舘林さん達の悩みも分からなくは無いけど、流石に数十万単位のお金の貸し借りを簡単に決める訳にはいかないだろ。美佳達だって探索者になってそれなりに経ってるから分かるだろ?探索者が世間一般的にいわれてるほど気軽なモノじゃないって。確かに探索者になる事自体は資格試験に申し込んで合格すればいいだけだけど、探索者を続けるってのはそれなりの運と実力と根性がいるってのは」

「うん、そうだね」


 国としても経済成長の起爆剤であり、成長産業であるダンジョン産業を振興しようと間口を広げているので探索者を始めること自体は簡単だ。ただし始める事が簡単なだけで、世間一般で言われているように稼げるようになるかは話が別である。

 その上、まだまだダンジョン探索のノウハウの蓄積が足りていない状態であり、探索者が辞めて減る数より新規参入の数が多ければ産業維持には問題ないよね?といった有様だ。 


「そうなると自己資金だけで用意できるなら兎も角、最初っから高価な武器を借金してまで購入していたら、探索者としての適性が無いのに引くに引けない状況になって……って事も考えられる」

「……それは」

「そんな心理状態にある探索者が、いかに危険な状態か美佳達も分かるだろ? 少しでも借金を減らすために無理にモンスターに挑んだ結果……というのは見たくない。特に身近な知り合いともなればね」

「そう、だね」


 俺がいう心理状態の探索者に心当たりがあるのか、美佳と沙織ちゃんは沈痛な表情を浮かべながら目を逸らし黙り込んだ。まぁ美佳達が暫くメインの活動階層にしていた上の方では、そこそこ目にするタイプの探索者だからな。腰が引け嫌々な様子でモンスターと戦い、怪我無く戦いを終えた事に喜びながら罪悪感に満ちた表情を浮かべつつドロップアイテムを拾い、ドロップアイテムに一喜一憂しながら溜息を漏らし重い足取りで進む後ろ姿を。

 更に酷い場合は、ポーション代の出費も惜しいとばかりに、おざなりの治療に血染めの包帯を巻いたまま歩いている姿を見る事もある。そんな人達に共通する事は、いつ終わるのかと諦念の色で濁った瞳と精神的に疲労困憊した疲れた表情だ。


「それに最近は新規参入者が増えて市場にドロップ品の流入が増えた分、昔に比べて買い取り額も下がってきているからね。昔に比べて探索者活動を維持しつつ、借金を返済しようというのは結構難しくなってきてると思うよ。スキルスクロールなんかのレアドロップ品を運良くゲットするとかしないと、短期返済は難しいだろうね」


 このあいだの夏休みで万単位の学生探索者が新規に参入しただろうから、継続して探索者を続ける者が半分と見ても上階層のドロップアイテムの買取価格は確実に下がるだろうな。人が多くなればそれだけドロップアイテムの回収量も上がり、不足気味で高騰していた需要が満たされるという事だからだ。

 その為、安価でダンジョン素材が手に入るのは市場的には良い事なのだろうが、特に上層階でドロップアイテムを回収する駆け出し探索者にとっては買い叩かれていると感じるだろうな。聞いていた話と違うってさ。


「大樹のいう事にも一理あると思うぞ。探索者としての適性を確かめる前に、借金をしてまで高い武器を揃えるのは少し待った方が良いだろうな。一階層に出て来るモンスターなら、俺達の誰かが付いていればケガをする事も無いだろうしさ」

「そうね、私もまずは1度試してみてから武器を購入する方が良いと思うわ」


 俺の意見に乗る様に裕二と柊さんも、1度適性を見る為に試しにダンジョンでモンスターと戦ってから武器を購入した方が良いとアドバイスする。去年なら少々初期投資が掛かっても回収したドロップ品が高値で買い取って貰えていたので、適性さえあれば上層階をメインに活動していても初期投資金の回収は容易だった。今年の春先でも美佳達の様に慣れれば、少し時間は掛かるが初期投資の回収は可能だった。

 しかし夏休み後の今だと、レアドロップ品を確保できないとなると初期投資金の回収にはかなり時間が掛かる事になるだろうな。買い取り額が安くなった上、上層階で活動する探索者の数が増えモンスターとのエンカウント率が低下し、獲得経験値不足でレベルアップ速度の鈍化した結果、階層進出速度が落ち高価値ドロップアイテムの取得がより困難になると。


「えっと、その、皆の話を聞いてると、武器の購入は一度モンスターとの戦闘を試してからの方が良い……のかな?」

「そう、だね。いわれてみると確かに一度試してからの方が良い、のかも?」


 舘林さんと日野さんは、俺達の話を少し引き攣ったような表情を浮かべながら動揺した様子で聞いていた。コレまで伝え聞いた話と、俺達の内情込みの話との差異に驚きと戸惑いを感じている様だ。

 まぁ基本的にテレビや雑誌で表に出る話って、景気良さげな話が多いからな。苦々しい内情話なんてのは滅多に表に出ず、ネットなんかで流れる暴露話モノは真偽が定かではなく信憑性に欠けやすいし。


「そうだね。二人に適性が有るか分からない段階で高価な武器を買うのは、俺達的にはちょっとお勧めできないかな?」

「俺達も今でこそこうやって色々言えてるけど、初めてモンスターと戦った時の衝撃は今でも覚えてるよ。あの時は2人と一緒だったし、探索者を続ける理由があったから乗り越えれたけど、目標が曖昧だったら辞めてたかもしれなかったな」

「そうね。ダンジョンでモンスターと初めて戦った時に感じたあの衝撃は、私も今でも覚えてるわ。アレを乗り越えられずに探索者を辞める人が出るのも、まぁ仕方がない事なんでしょうね」

「うん、そうだね。私も今でもあの衝撃は覚えてるな……」

「そうだね、苦手な人が続けるのは無理かも……」


 俺達5人は自分達が初めてダンジョンでモンスターを倒した時の事を思い出しながら、少し遠い目をしながら若干表情を苦々し気に歪めた。

 思い返してみると、良く誰一人心が折れなかったな俺達。






 昔を思い出し少々話が脇に逸れたが舘林さんと日野さんは、経験者の生の体験談を聞き少し自分達が勇み足気味であった事を自覚し方針を変える事にしたようだ。

 まずは自分達の親に探索者になりたいという事を伝え、武器の購入資金の話も相談するとの事。その際に説得の手伝いを、先輩探索者の俺達が経験者として行う事を約束した。 


「ご両親の説得は手伝うけど、許可を取れるかは2人の熱意しだいだからね?」

「はい、分かっています。頑張って説得して見せます」

「先輩達や美佳ちゃん達がサポートしてくれるっていえば、親も私達の話を頭から切り捨てる事は無いと思います。私達の親も、体育祭で先輩達の活躍を見てますし」

「えっ、アレを見てたの?」

「はい、私達の高校初めての体育祭という事で応援に来てくれていたので知ってます。家に帰ってからも、先輩達の演武の話で盛り上がったんですよ?」


 舘林さんに過去の所業に関連する報告を聞き、俺達3人は思わず頬が引きつる。アレを2人の保護者達が見ていたとは……体育祭なんだしそういう事もありえるか。

 まぁそれならそれで、保護者を説得する際は有利に働くかな? ただの部活の先輩の言葉というより、探索者としての片鱗を見たことがある先輩の言葉の方が信憑性があるだろうしさ。


「そ、そうなんだ。……あのさ、もしかして俺達がその時の生徒で部活の先輩だってのは話してる?」

「はい、部活を始める際に報告してます。経済系の部活だって教えたら驚いてましたけど」

「そっか……まぁあの演武と経済系の部活じゃギャップがあるからね。驚くのも無理は無いか」

「探索者になると文科系部の部員でもあんなに動けるのか、ってお父さんが驚いてましたよ」


 説得する時に協力するとはいったものの、何となく顔を合わせづらいな。体育祭での演武という先入観がある分、どっちに転がるか分からないのが少し怖い。

 

「そっか、探索者の部活じゃないのは理解して貰えてるってって考えて良いんだよね?」

「はい、この間の文化祭も見に来ていてウチの部の発表を興味深そうに見ていましたよ」


 まぁ変な誤解はされてないみたいなので、その点は安心できそうだ。最悪、部活動の為に部員を強引に探索者に仕立て上げようとしている……と思われているのかも?と心配していたからな。後藤グループの所業のせいで、そんな誤解を持たれている可能性が無くもないしさ。

 となると、舘林さん達の保護者を説得に参加する場合は、タダの探索者をやっている部活の先輩としての立場で話に参加すればいいって事だ。


「そうなんだ、残念ながら文化祭ではお会いしなかったな。それじゃぁ2人とも、まずはご両親の説得を頑張ってね」

「「はい!」」

「よし、それじゃぁそろそろお開きにしようか。皆、試験はお疲れ様。今日はゆっくり休んで、また明日から頑張ろう」

「「「「「「お疲れ様(でした)」」」」」」


 こうして舘林さん達からの相談話も纏まり、俺達の簿記試験お疲れさま会は無事?に終了となった。試験の合否が出るまで暫くかかるが、まぁ自信と少しの不安を抱きつつ気長に待つとしよう。だがまずは舘林さん達と保護者の話し合いが無事に終わる事を期待しよう。俺達の出番が無いのが一番だからな。

 しかし願い虚しく簿記試験が終了してから3日後、俺達7人は駅近くの貸会議室で舘林さんと日野さんのご両親と対面する事となった。どうやら説得は難航しているらしい。
















上層階のドロップ品の買い取り額も下がっている状況で、後輩に多額の借金を抱えさせるのは……。


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挿絵(By みてみん)

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とうとう錬金術の出番?包丁と金属製の棒の即席槍を見た目そのままっぽいちゃんとした武器にとかできちゃう?デスマの初期魔物槍みたいに。 まあ冗談は置いといて最初は作者さんの言う通りの激辛水鉄砲とそこに追…
新年おめでとうございます 妹じゃないから大金貸すのは嫌だなぁって本音を隠して、説得上手でした
まあ結局は殺し合いの環境だから下手に借金してから挑戦するよりかは一層でスライム刈ったりしながら安い武器で他の敵を倒しながらいけるかどうかを見極めるのは必要だろう
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