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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第5章 ダンジョン中層階に向けて
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第49話 ニュースの反響

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不機嫌そうだった柊さんの機嫌は、昼休みになっても直っていなかった。


「どうしたの柊さん? 朝から不機嫌そうだけど……」

「……ちょっと、ね」


 柊さんの机に歩み寄った俺は、出来るだけ軽い調子で疑問を投げかける。

 しかし、柊さんは言葉少なく返事を返すだけだった。

 コレは大分、嫌な事があったみたいだな……。


「もしかして……朝のニュース、未成年探索者死亡の件?」

「!」

 

 どうやら、当たりの様だ。

 柊さんは暫く机の天板に視線を落とした後、顔を上げ俺の顔を見る。 


「……ええ、そうよ。今朝のニュースを聞いた後、お父さん達とちょっとね」


 柊さん表情が、露骨に曇る。

 柊さんは更に詳しい事情を話そうとしたが、俺達の傍まで近寄って来ていた裕二が小声で待ったを掛ける。


「ちょっと待った。それ以上の話は、少し場所を変えてからにした方が良いぞ」 

「……裕二?」

「教室で話す様な内容じゃないみたいだしな」


 俺は顔を上げ、少し周りを見回してみると、目の合った近くの数人が顔を逸らす。

 どうやら聞き耳を立てていたようだ。まぁ、朝から不機嫌そうな様子だった柊さんの事情を聞きたいって言う気持ちも分からなくもない。


「じゃぁ、柊さん。少し場所を変えようか?」

「ええ」 


 裕二の提案に乗って、俺達は昼飯の弁当を持って教室を後にする。

  

 

 

 

 

 

 

 

 俺達は中庭のベンチに座り、弁当を啄みながら柊さんの話を聞いていた。


「つまり、柊さんのお父さんが探索者を辞めろって言ってるって事?」

「ええ。朝登校する前の時間に少し話しただけだけど……辞めろって一方的に言って来たのよ」


 娘を心配する父親と言えば聞こえは良いのだろうが……今更?と言うのが、俺の素直な感想だ。裕二も俺と同じ感想を抱いているのか、眉間にシワが寄っている。


「今まで半年近く、探索者としてダンジョンに行ってるのよ? 正直、今更?って言う感じよ」


 柊さんは、溜息と共に胸に溜まっていた物を吐き出す。

 どうやら、柊さんも同じ感想のようだ。

 まぁ、当然だろう。今までも数は少ないとは言え、探索者が死亡したって言うニュースは流れていた。

 それなのに、今更辞めろって……。


「未成年の探索者が、近くのダンジョンで亡くなったから慌てたみたい。今までの亡くなった探索者の殆どが成人……探索者を専業としている人達だったし、別県のダンジョンでの死亡事故だったから、遠くの事って思っていたみたいなのよ」


 再び、柊さんの口から溜息が漏れる。

 何と言ったら良いのか……。俺と裕二は顔を見合わせ、曖昧な表情を浮かべ合うしかなかった。  

 つまり、アレだ。近所で死亡事故が起きて娘と同世代の者が被害者だから、漸く身近な問題であると認識したと。

 はぁ……。 


「今まで未成年者の死亡事故が起きていなかったし、私も毎週無傷でお肉を持ち帰ってきていたから、ダンジョンがそこまで危険な物だとは認識していなかったみたい。慣れって怖いわね。TVや雑誌の情報を真に受けて、ちょっと危険なアトラクション……って感じで受け止めていたみたいなのよ」


 いやいや、それは問題のすり替えでしょ?

 本当に娘の身を案じていたのなら、もっと早く探索者を辞める様に促していないと……。

 俺が口を出す前に、裕二が先に疑問を口を出す。 


「それって、おかしくないか? ダンジョン協会のHPをみれば、死亡者や重傷者の統計は出ていた筈だろ? 親御さんが見ていれば、流石にダンジョンの危険性には気付くだろ?」

「危ない物だと言う認識は、していたみたいだけど、身に迫った危険な物、と言う認識が無かったのよ。……広瀬君は警察のHPに乗っている、交通事故死亡者数を見て、身に迫った物として認識出来る?」

「それは……」

「危ないと感じられたとしても、直ぐ傍にある身に迫った物としては認識しづらいでしょ? それと同じよ。実際に事故に遭うか、その場面に遭遇しないと、人って本当の意味での危険は認識出来ないわ」


 ……確かに柊さんの言う通り、人ってそんなものかも知れない。

 根拠の無い変な自信で、自分は大丈夫やアイツは大丈夫等と言う思い込み、提唱されている危険性を正確には認識しないからな……。危ないと言われている意味や、大丈夫と言われる意味まで考えず、言われていることを深く思案せず鵜呑みにする。飲酒運転や薬物使用……ちょっと例を挙げるだけでも、いくらでも事例は出てくるし。

 

「お父さんは辞めろって言っているけど、私としては今の段階で探索者を辞めるつもりはないわ」

「……良いの?」


 柊さんはハッキリと探索者続行を宣言するが、俺と裕二は心配げに問う。

 ちょっとアレな親御さんだとは思うけど、娘を心配していると言う事には違いないと思うからだ。


「ええ。九重君の御陰で低リスクで探索者を続けられたけど、散々命の危険がある無理難題を言って来たのよ? 私の意見を通しても良いじゃない」


 妙に迫力のある微笑みを浮かべながら、柊さんは問題ないと言う。


「ええ……っと?」

「お母さんはお店の為に私に探索者をやらせたって言う負い目があるから、少し説得すれば私の側に立ってくれると思うわ。今まで怪我らしい怪我もしたこと無いから、説得は可能ね」

「……」

「お父さんは……少し面倒ね。言い出したら、人の話を聞かない質の人だし……」


 柊さんは目線をお弁当に落とし少し悩んだ後、顔を上げ俺と裕二の顔を見る。


「ねぇ、九重君、広瀬君。少しお願いがあるんだけど……」

「……お願いって?」


 何となく、柊さんのお願いの内容に察しが付く。


「稽古の後、時間あるかな?」

「ああ、うん。重蔵さんとの稽古以外に用事はないから、一応大丈夫かな? 裕二は?」

「俺も大丈夫だな」


 重蔵さんとの稽古の後は、基本的に家に帰るだけだから時間はあるな。


「じゃぁ二人共、ちょっとお父さんの説得を手伝って貰えないかな?」

「えっと……俺と裕二が?」 

「ええ」


 軽く頷き肯定する柊さんに、俺と裕二は顔を見合わせる。

 それは……ちょっと無理じゃないかな?

 俺達、柊さんの親御さんとは会った事はないんだけど?初対面の相手の説得って、効果あるのか?

 

「俺達、柊さんの親御さんとは面識ないよ?」

「分かってるわ。説得と言っても、言葉で説得して貰うんじゃないわ。ちょっと殺陣の相手をして欲しいのよ」

「殺陣?」

「ええ。何時も稽古でしている様な感じで、両親の前で立ち合って貰いたいのよ」


 なる程。つまり、探索者としての腕を見せつけて説得するって事か。

 確かに、百聞は一見に如かずって言うしね。口で説明するより、実際に柊さんの槍捌きを見せた方が説得の効果はあるか。

 

「なる程」

「そう言う事なら、今日は爺さんに殺陣の稽古を付けて貰うのも良いな」

「ああ、確かに。少しでも見栄えが良い方が、説得力があるからな」


 俺達が重蔵さんに付けて貰っている稽古は、超実戦的と言う様な物。とてもではないが、殺陣と言うには殺伐とし過ぎている。目潰しに急所攻撃……一般人なら絶対に引く。

 事前に殺陣用の稽古しておかないと、拙いだろうな。 


「ありがとう」

「でもまぁ、殺陣を見せたからって説得出来るかは分からないよ?」

「ええ、それは分かっているわ。でも、強烈なインパクトを与えれば説得の足掛かりにはなるわ」

「それなら、良いんだけど……」


 柊さんの話を聞く限り、柊さんのお父さんはかなり頑固な人の様だ。   

 上手く行けば良いんだけど……。


「帰ったら話を付けるって言って登校して来たから、お父さん首を長くして待っている筈よ」


 俺たちの協力を得られると分かり、柊さんの曇っていた表情は晴れ生き生きとしたモノへと変わっていた。  

 

 

 

 

 

 昼食を食べ終え昼休み終了時間ギリギリに俺達が教室に戻ると、クラスメートの視線が集中する。

 そして、柊さんの表情から機嫌が直っている事を見取り、柊さんの席と隣接する辺りから安堵の息が漏れる音が聞こえた。まぁ、朝から不機嫌ですと言った風情だったからな、柊さん。 

 午後の授業が始まると、授業開始前に教科担当教諭から放課後に臨時の全校集会が開かれる事が伝えられた。未成年探索者の死亡事故に関して、全校生徒に向けての話があるとの事だ。同じ県内から未成年者……高校生の死亡者が出た事には、学校としても何らかの対応をしなければいけないのだろう。

 午後の授業も終わり、全校生徒が体育館に集合し臨時の全校集会が始まった。 

  

「ですので、我が校の方針としては、在校生にはダンジョン探索の自粛を要請します」

 

 壇上に立つ校長の宣言に、体育館の中が生徒達の私語で大きくざわつく。

 自粛……直接禁止とは言っていないが、実質的に禁止令である。校則が改訂されていないので、禁止とは明言しないだけだ。 


「静かにしなさい! 校長先生の話はまだ、終わっていませんよ!」

「お前ら、静かにしろ!」


 体育館の両サイドに立っていた先生達が、生徒を静かにさせようと怒鳴り声を上げる。

 その声に反応して、生徒達のザワめきも次第に沈静化していく。3分程の時間をかけて、漸く体育館の中は静かになった。静かになったのを確認し、校長は話を再開する。


「この要請は、皆さんの身の安全を考えての物です」


 いや……どちらからと言ったら、学校側の責任を回避しようという、先手を打っての自粛要請じゃないかな?学校側としては、大々的に自粛を要請したって言う事実を得る為のさ。

 再び体育館の中がざわめくが、先程より小さな物で注意の声が飛ぶ事はなかった。


「私としても、我が校の生徒が在校中に亡くなると言う悲しい事は起きて欲しくありません。皆さん、是非その事を考えて下さい」


 生徒の身を案じるような校長の語り口調だが、在校中(・・・)にだけは死ぬなと言っている様に聞こえるのは、俺が物事を斜めに見過ぎているのだろうか?


「では、これで臨時の全校集会を終了します。皆さん気を付けて帰宅して下さい」


 校長の締めの挨拶で、臨時の全校集会は終了した。生徒達は3年から順番に体育館から退出して行き、近くの生徒同士で臨時全校集会について話し合っている。

 俺も教室への帰り際、チラホラと聞こえる探索者資格を持つ生徒達の声に耳を傾け内容を盗み聞く。


 

「おい、どうする?」

「自粛要請の事か?」

「ああ、今週末のダンジョン行きは自粛するか?」

「まさか! 校長も禁止じゃなく、自粛要請って言ってたしな。別に行っても良いだろ」

「でも、実際に高校生探索者から死亡者が出ているし……」

「それって、新人だったからだろ? 俺達には関係ないさ!」


「今月お小遣い厳しいんだから、ダンジョンに行かないなんて選択ありえないわよ!」

「そうよ。来月新作のブランドバッグが売りに出るんだから、今月はダンジョンで稼がないといけないのよ」

「大体、その死んだって言う新人探索者……1階の雑魚に殺られたんでしょ?」

「そうみたい。1階で死ぬなんて、逆に凄くない?」

「そうそう。単にそいつ等が鈍臭かっただけで、もっと深くまで潜れる私達には関係ないわよ!」


「暫くはダンジョン行きを控えて、様子見しないか?」

「うーん、まぁ、別にそれでも良いけど……」

 

 

 うーん、何と言うか……皆、天狗になってるな。聞こえて来た生徒達の会話の内容を統合すると、主な意見は3つだ。 

 一つ目は、問題の新人探索者がショボ過ぎたから死んだんだ、と言う意見。2つ目は、自分達はレベルの高い探索者だから、ダンジョンに潜っても問題ない、と言う意見。3つ目は、暫くは要請に従って、ダンジョン行きは自粛しよう、と言う意見だ。1つ目の意見は、殆どの生徒の会話で共通していたが、2つ目と3つ目では意見が分かれていた。

 しかし、大多数の生徒は2つ目の意見を推し、3つ目の意見を推す生徒は極小数しか居ない。自粛要請も集会終了早々に、形だけの物に成り下がっていた。


「何の為の全校集会だったんだろうな?」

「さぁ? 皆、自粛する気はないみたいね」

「一定の実力があれば探索者って、割が良いバイトみたいな物だからね。自粛って言われて……はいそうですか、って聞き入れる人は少数だよ」


 教室に帰り着いた俺達は、先程行われた全校集会について話し合っていた。

 他の生徒達もグループに分かれ、自粛要請について話し合っている。 


「結局は事が起こった時用の、学校側の予防線じゃないかな? 自分達はちゃんと生徒達に、ダンジョン行きは自粛する様に言っていましたってさ」

「そうだな」

「そうね。本気で生徒のダンジョン行きを止めようと思うのなら、在学中に取得した運転免許証みたいに、探索者カードを学校側で保管するって言う名目で没収する筈よ」


 柊さんの言う通りだろう。うちの学校では在学中の運転免許取得は校則違反で、学校卒業まで学校側に没収され保管される。ダンジョンに入るのに探索者カードが必要な以上、本気で生徒のダンジョン行きを阻止しようと思えば運転免許と同じように没収するべきだろう。

 協会で探索者カードの再発行も出来ない事はないが、未成年者のダンジョン探索をあまり快く思っていない政府や協会の事だ、再発行理由で弾く可能性もある。

 

「おーい、お前ら席に着け。HRを始めるぞ」


 担任が教室前方の扉を開け入って来る。集会後と言う事もあり、連絡事項も特になく数分でHRは終了した。


「じゃぁ重蔵さんに事情を話して、殺陣の稽古を付けて貰おうか?」

「ああ、爺さんも嫌とは言わないだろうさ」

「そうだと良いわね」


 俺達は荷物を纏め教室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニュース後の学校や学生達の反応です。

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― 新着の感想 ―
勝手な話やで
ラーメン屋の両親が酷いのは間違いないけど、家庭問題を探索者仲間に持ち込んでくる女子が…いまだに査定額の高い肉独り占めしてるのかな
説得(物理)かな? 誰が聞いても今更って感想しかでませんよね...
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