第512話 創部当初からの目的を達成しよう
お気に入り37440超、PV116030000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
気晴らしのつもりで赴いたダンジョンで少々予想外の出来事に遭遇したものの、思わぬレア物をゲットし望外の収入を得た。厄介事に巻き込まれる可能性の対価として適切かは不明だが、大きな買い物をし出費が嵩んでいた現状ではありがたい事に違いは無いけどな。
そして難事を乗り越えた俺達は月曜日、普段通りに登校し普通に授業を受け普通に放課後を迎えた。
「今日も一日、やっと終わったな」
「そうだな」
終業のHRも終わり、俺は背伸びをし凝り固まった体を解しながら愚痴?を漏らしていると、近くの重盛が話に乗ってくる。
「お疲れ、今日はなんか何時もより辛そうだったな。やっぱりお前らにとっても、ダンジョン探索明けの学校はキツイものなのか?」
「ん、まぁね。とはいっても、ダンジョンでちょっとしたトラブルに巻き込まれたせいで体的にはともかく精神的に疲れてるって感じかな?」
「ちょっとしたトラブルね……大きなケガもなさそうだし、他の探索者と揉めたりしたのか?」
「そういう訳じゃないんだけどね。トラブルで早上がりする事になったせいで、予定していたより収入が減っちゃってさ。ダンジョン探索にかかる費用を考えると、ね?」
重盛にミスリル関係の事は話せないので、トラブルに遭い収入減で気苦労が……と誤魔化す事にした。
「なるほどな。確かに世間的に探索者は儲かるといわれているけど、お仕事をする以上は諸々の諸経費ってのは掛かるもんだよな」
「そういう事。交通費や消耗品といったダンジョン探索をする為に毎回かかる経費を上回る収入を得ない限り、探索すればするほど赤字一直線だからね。その上、経費を安く上げようと削り過ぎると安全面に不安が出て来るから、最悪は削った経費以上に医療費がかかる……なんて事にもなりかねない」
「……出ていくお金を削りたいって気持ちはわかるけど、それじゃぁ本末転倒だよな」
「だよな。一応今の所全体としてはプラス収益だから問題は無いんだけど、気分的にはね?」
難しい表情を浮かべる重盛に、俺は苦笑を浮かべながら痛いのは痛いんだよと告げる。
そして重盛とそんなやり取りをしていると、少し呆れた様な表情を浮かべた裕二が話しかけてきた。
「話が盛り上がってるところ悪いけど大樹、部活に行くぞ? 今日は皆で週末の打ち合わせをする予定だろ?」
「えっ? ああ悪い、直ぐに準備するから少し待ってよ」
裕二に指摘され教室の時計を見ると、HRが終わってからそれなりの時間が経っていた。俺は慌てて通学バッグに荷物を詰め込み、席を立つ。
「それじゃぁ重盛、また明日な」
「おう、何か引き止めて悪かったな。広瀬も部活頑張れよ」
「ああ、じゃぁな」
重盛と別れの挨拶を交わした後、俺と裕二は教室を後にした。
そして廊下に出ると、俺達を待っていたらしい柊さんと合流する。
「遅かったわね」
「ごめん、ちょっと重盛の奴と話し込んじゃっててさ」
「そう。まぁ良いわ、行きましょう」
柊さんに先導される形で、俺達は部室へと向かい移動し始めた。
部室の扉前に到着すると、既に部屋の中に誰かがいる気配を感じた。どうやら美佳達の方が先に来ているらしい。俺が重盛と長話をしたせいで出遅れたかな?
俺は少し申し訳なさげな表情を浮かべつつ、扉を開き部屋の中に入る。
「お疲れ、皆早いね」
「あっ、お疲れお兄ちゃん。ちょっと早くウチのHRが終わったから」
「「「お疲れ様です」」」
部屋の中では美佳達4人が椅子に座り、それぞれのんびりとした様子でおしゃべりをしていた。どうやら俺達は、それ程遅れてきたわけではなさそうだ。
軽い挨拶を交わした後、俺達も空いてる席に腰を下ろす。
「早速なんだけど、今週末の話をしようと思うんだけど良いかな?」
椅子に座り荷物を片付け一息ついた後、俺は早速今日の本題について話を切り出す。
すると美佳達4人は少し緊張した面持ちを浮かべ、座ったまま姿勢を正し視線を俺に向けてくる。因みに裕二と柊さんは、特に緊張した感じは無く早速かといった顔をしていた。
「良さそうだね。じゃぁ早速、今度の日曜日に簿記検定試験が行われます。予てからの予定通り、ウチの部の活動実績を作る為に全員で参加します」
「創部当初から資格取得を目的にしていたから、いよいよって感じだな……」
「そうね。ちょっと創部当初の目的が変わっちゃっているのかな?とは思うけど、持っていて損をするような資格でもないし合格目指して頑張りましょう」
裕二と柊さんは感慨深げに資格取得への意欲を見せる。創部当初は部を存続させるための建前としての目標だったが、今では資格取得を目指して勉強をし、是が非でも合格したいという気になっていた。
そして美佳達4人は緊張した面持ちを浮かべながら、資格取得への意欲を見せる。
「合格できるかは分からないけど、精一杯頑張るよ」
「大丈夫だよ美佳ちゃん、テキストとか一杯勉強したから大丈夫だよ」
「うんうん、分からない所とか皆で教え合って勉強したもんね」
「やるべき事はやっているから、問題に集中すれば大丈夫よ」
今までやってきたことを思い返しつつ、皆で励まし合い不安を払拭しようとしていた。
まぁ創部当初から資格取得を目標にしてきただけあり、半年近く皆でコツコツと勉強してきたからな。学業とダンジョン探索の合間合間にではあったが、市販のテキストも含め勉強はしっかりやってきたつもりだ。後は試験前最後の追い込みと体調管理をバッチリしておけば……大丈夫なはずだ。
「皆、簿記試験へ向けての準備は大丈夫そうだね。目標は全員で合格だけど、無理に遅くまで試験勉強したりはしない様に。試験前に体調を崩したら元も子もないしさ?」
「そうだな。不安な気持ちを掻き消す為に試験前に徹夜で勉強を……ってのはやりがちだけど、実際には体調を崩し易くなるし、頭の中の整理も出来ず集中力が欠けてってあまり良い事はないからな。良い成果を出す為には、確りと休息をとるのは重要だぞ」
盛り上がる美佳達を心配し、俺と裕二は意気込み過ぎて無茶をしない様に釘を刺しておく。試験前に一夜漬けをして挑んだ結果、眠気で集中力が持たず覚えた筈の知識が出てこなかったり、簡単な計算を間違えたりするってのは良くあることだからな。
今までのコツコツと積み重ねてきたものを信じ、確り休息を取ってから万全の体調で挑む方が無難というものだろう。
「そうね。試験当日に寝不足による体調不良で欠席じゃ、普通に不合格になるより悔しいもの。アレだけ勉強して備えて来たのに、ちょっとした無理をしたせいで受けられなくなるなんて……って」
「うん、そうだね。不安だからって無理し過ぎない様に気を付けないと……」
「「「はい」」」
釘刺しは無事に成功したらしく、美佳達の過剰な意気込みは抜けたようだ。
とはいえ、残り1週間を切っているので合格目指しての追い込みは必要だけどな。
「まぁそういう訳だから、無理しない範囲で皆で最後の追い込み勉強会をしようと思う。基本はこうして放課後に部室に集まって、皆で勉強をって感じでさ。どうかな? 勿論、何か他の用事があるのならそちらを優先して貰って良いんだけど……」
そう言いながら皆の顔を見渡し、勉強会の開催に賛成かどうか確認をとる。
すると皆は顔を見合わせた後、軽く頷いた。
「ああ、勿論良いぞ。勉強はしてるけど、覚えた知識の確認という意味では皆で教わり合うってのは有効だしな」
「そうね。聞かれたことに対し、正しい答えを返せるかどうかはしっかり勉強していないと出来ない事だものね。私も勉強会を開くのは良い事だと思うわ」
「私も賛成。試験日までずっと一人で勉強っていうのも、息苦しくてストレスが溜まりそうだしさ……」
「私も勉強会したいです、一人で勉強していると本当に大丈夫なのかなって少し心配で……」
「私も勉強会したいです」
「私も……」
どうやら満場一致で勉強会の開催は決まりのようだ。やっぱり一人で勉強しているのは不安になるよな。普段の学校での定期試験ならまだ要領もつかめているが、資格試験なんてまず受けないモノの要領なんてさっぱりだ。普段の定期考査なら、どれだけ勉強すれば何点は取れそうだなっていう感覚もつかめるのだが、全くの未知といえる今回の簿記試験ではどれだけ勉強すれば合格点に届くのかって感覚が全くない。どれだけ市販のテキストなどを勉強しても、何時までも勉強不足感が付いて回ってくるのだ。
俺もコレだけ勉強しているから大丈夫だと思う反面、心のどこかでコレでは合格できないのでは?という不安がふとした瞬間に湧いてくる。その不安を払拭する為にも、現状確認の意味も含め皆で勉強会をやっておきたかった。
「良かった。それじゃぁ皆、勉強会を開くのに賛成って事で良いんだね?」
「ああ」
「ええ」
「「「「はい」」」」
全員の賛同が得られたという訳で、俺達は簿記試験前最後の追い込み勉強会を開く事になった。やっぱり皆、俺と同じ心境で不安だったらしい。
そして今日は簿記試験のテキストなどを持ってきていなかったので、全員持ち回りのクイズ形式で口頭問題を出し合った。意外に答えられたのだが、細かい部分で間違っているものも多く確認しておいてよかったと思った。
放課後に追い込み勉強会を行い始め1週間、いよいよ簿記資格試験当日を迎える。俺達は試験会場になっている商工会議所に向かう為、地元の駅に集合し皆で一緒に向かう事になっていた。
因みに昨日の夜は緊張で少し眠るのが遅くなったが、朝もスッキリ目は覚め体調も悪くない。
「美佳、そろそろ行くぞ」
「うん、ちょっと待って。えっと、忘れ物は無いよね……」
俺が声を掛けると美佳は筆記用具バッグの中を確認し、忘れ物が無い事を確かめ一安心していた。ココで受験票や筆記用具を忘れたら馬鹿みたいだからな。
そして確認を終えた美佳を連れ玄関へと向かうと、母さんがお見送りを兼ねた激励をくれる。
「2人とも頑張って勉強したんだし、絶対合格できるから頑張ってきなさい」
「うん、ありがとう」
「行ってきます、頑張って合格してくるね!」
母さんに見送られながら、俺と美佳は家を出た。集合時間もある事だし少し急ぐかと、俺と美佳は軽いジョギングペースで走り出す。まぁ軽いジョギングペースといっても探索者の足なので、一般人の自転車ぐらいのペースなんだけどな。
お陰で集合の時間より、10分ほど早く目的地の駅に到着した。
「あっ柊さん、おはよう。早いね一番乗り?」
「おはようございます」
一番乗りかと思ったのだが、既に柊さんが先に駅の改札近くで待っていた。
「おはよう九重君、美佳ちゃん。どうやらそうみたい、といっても私もついさっき来たばかりよ」
「そうなんだ」
そして柊さんと挨拶を交わしている内に、続々と待ち人は集まり5分と待たずに全員集合した。
「皆おはよう、まずは誰も寝坊せずに集まれて安心しました」
「ははっ、そんな奴いないって」
俺の軽い小ボケに、皆小さく苦笑を浮かべる。流石に試験当日に寝坊する者はいないよな。
「まぁ冗談はさておき、おはよう。コレから試験会場に向かうけど、皆忘れものとか無いかな? 今ならまだ取りに帰る時間はあるからね」
「来る前に何度も確認したから大丈夫だよ」
俺の念の為の確認に、皆大丈夫だと返事をする。
「そっか、じゃぁ少し早いけど会場にいこう。会場の空気に慣れる時間もいるだろうからね」
「そうだな」
試験会場入りまでにはまだ時間はあるが、タダでさえ慣れない資格試験だ、試験モードへ気分を切り替える為の時間は多目にあった方が良いからな。慣れない空気感に緊張し、実力を発揮できなかったというのは良くあることだし。
そして全員で電車に乗ると、試験会場がある数駅離れた町へと移動した。
「会場到着だね。まだ試験開始までは時間はあるけど、もう試験会場は開いてるみたいだから入ろうか?」
「そうね。最後に軽くテキストとかを見直したいし、入りましょうか」
まだ少し早い時間だが、試験会場へ入ると俺達と同じ様に早入りした受験生達が各々にテキストを広げたりしながら最後の確認作業を行っていた。
うん、やっぱり試験会場って独特の空気感があるよね。慣れる時間を取って正解だな。
「じゃぁ受験番号毎に席が割り振られてるみたいだから、バラバラの席になるけどお互いに頑張ろう」
「おう。まぁやる事やったんだ、無駄に緊張せずに頑張るとしよう」
「ええ、勉強会でも皆良い線いってたし大丈夫よ。落ち着いて回答すれば問題ないわ」
「「「「はい」」」」
纏めて申し込んではいるが、少し受験番号がズレていて互いの席は離れている。少々心細いが纏まっていても試験会場の中でワイワイガヤガヤと騒ぐ訳にもいかないので、ココから先は個人の勝負だ。試験時間までに上手く緊張をほぐし、これまでの勉強の成果を発揮するだけだな。
そして暫くして試験開始時間を迎え、監督官の合図を持って簿記資格試験は開始された。さぁて、合格目指して頑張るとしますか!




