第509話 やっぱり数が無いと駄目か……
お気に入り37360超、PV115410000超、ジャンル別日刊57位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
袴田さんとの面談を終えた俺達は、いったん出張所の建物を出て外に設置された休憩場で一息つく事にした。流石に話題が話題だけに緊張して疲れたので、一息つきたくなったからだ。
そして自販機でそれぞれ飲み物を購入し、長椅子に横並びで腰を下ろし一気に飲んで……大きな溜息を吐き出した。
「乗り切った……よね?」
「ああ。今の所は、だろうけどな」
「まぁ、不信感を持たれるのは仕方がないわよ」
周りに人や監視カメラが無い事を確認してから、小声で先程の面談の愚痴を漏らしあう。まぁ内容自体はかなり濁しつつ、だけどな。
「そうだよね。でも、黙っていて何かあったら、それはそれで後味が悪いし」
「そうなんだよな。まぁ一応向こうは知っていたみたいだけど内密な話だったらしいし、対策を講じようと思えば報告自体は必要な行動だっただろうから……うん、必要な事だったんだよ」
「そうね。あの感じだと滅多にないみたいだけど……万一があったらヤッパリ後味が悪い事になるわ」
俺達は何とも言えない表情を浮かべながら、報告は必要だったよね?と互いに確認し合う。オーガソルジャーの件自体は協会や国も既に把握していたので、怪しまれるのを覚悟で自分達が報告する必要は無かったのではないか?と思わなくもないが、こういった事はある意味自己満足、自己弁護の為に必要な行動だからな。
もし事が起きた時、あの時報告していれば……とは思いたくないしさ。
「報告は必要な事で間違ってなかった、だね」
「そうだな、俺達は必要な事をやっただけだ」
「そうね、何も間違った事をやった訳じゃないわ」
全員の結論が出た所で俺は胸の前で軽く柏手を打って、この話はここで終わりだというアピールをする。分かり易い区切りは必要だからな。
「それじゃぁ、残りのドロップ品の査定にいこうか。袴田さんが話を通してくれているとはいえ、余り遅くなるのも悪いしね」
「そうだな。色々疲れたし、早く査定を終えて帰るとしよう」
俺と裕二が飲み終えた空き缶を持ちながら立ち上がると、何かを思いついたらしき柊さんが座ったまま声を上げた。
「あっ、そうだ。今日は予定よりかなり早く上がっちゃったから、時間があるなら下で食事をしてから帰らない? 前にこの辺で食事をしてから大分間が空いちゃってるしさ、色々新しいお店とか出来て変わってると思うんだ。新しいダンジョン食材を使った料理とかあると、ウチのお店の新メニューの参考に出来ると思ってるんだけど……」
「ああ、そういえばお昼まだ食べてなかったね。確かにココ最近はこの辺でご飯を食べるってことしてなかったし、折角時間もある事だしそれも良いかもしれないね」
「そうだな。流通するダンジョン食材の種類も増えてるし、何か新料理が出て来てるかもしれない。興味もあるし、折角時間もあるから行ってみるか」
食事でもどうかという柊さんの提案に、俺と裕二は興味を引かれ直ぐに賛成した。いわれてみればここ最近は夕方遅くまでダンジョンに潜っているせいで、ダンジョンから出れば直で電車に乗って自宅まで帰っていた。
こうして明るい時間にダンジョンから出て来るのは久しぶりなので、下の町を散策するのも良いだろう。ダンジョン公開初期の頃から開発が進んでいたので、今では田舎町の面影も薄くなるほどに発展しているしな。
「じゃぁ査定待ちの時間で、どこか良いお店が無いか調べてみようか」
「そうだな。何もせずに待つのも暇だし、ちょうどいい時間つぶしになるか」
「ええ、じゃぁ査定に行きましょう」
俺達は飲み終えた空の缶を自販機横のゴミ箱に捨て、再び出張所の建物へと向かって移動する。
まだピークまで早い時間帯という事もあり、査定窓口はさほど混みあってはいなかった。整理券発券機で待ち札券を発行すると、3組ほど待つだけで良かった。
コレだと、大体5分前後も待てば順番は回ってくるかな?
「思ったより人が少なくて良かった、やっぱりこの時間帯に戻ってくる人は少ないみたいだね?」
「そうだな。折角ダンジョンに潜るのなら、食事は中で携帯食を食べて時間いっぱいまで……って人が多いんだろう。新人探索者なんかだと早めに出てくるかもしれないけど、ソレもダンジョンに潜ってる全体の人数で考えればまぁ少ないだろうしな。コレだけ増えた査定窓口がある事を考えれば、ドロップ品確保数の少ない新人探索者メインなら査定でそう混む事も無いさ」
「そうね。夕方頃になると中堅探索者がメインになるから、確保しているドロップ品数も多いから査定にも時間が掛かってる感じだわ。それで待機人数も増えて待ち時間も長くなって……って悪循環になってるのよね」
そういう訳で、今の時間帯はこうして話して時間を潰しているだけで待ち札の番号が呼ばれる。
俺達の待ち札の番号が呼ばれたので、3人で査定窓口に向かう。
「お待たせしました、御用件はドロップ品の査定でお間違え有りませんか?」
「はい、お願いします」
「分かりました。では探索者カードと査定するドロップ品の提出をお願いします」
俺達は探索者カードを提出し、今回の探索で得た数少ないドロップアイテムを査定カウンターの上に提出していく。予定では今日の夕方遅くまで潜ってドロップアイテムを集めるつもりだったので、予定数には全く届いていない寂しい品数だ。
まぁ1つで数千万する厄介な大物が有ったので、収支的には問題ないんだけどな。
「はい、お預かりします。では査定を行いますので、待ち札の番号が呼ばれましたら窓口までお越しください」
「はい、よろしくお願いします」
俺達は軽く頭を下げてから査定窓口を後にし、待合席のソファーに腰を下ろした。
今日は査定して貰うドロップ品の数が少ないので、10分ぐらいで終わるかな?
「さてと、今日はあまり待ち時間もなさそうだし早く今日行くお店を探そうか?」
「そうだな。で、ジャンルはどうする? そこだけでも先に決めておいた方が絞りやすいんじゃないか?」
「そうね。私の希望としてはお店の新メニューに取り込みやすい中華系とかが良いんだけど……別のジャンルのでも大丈夫よ? 和食でも洋食でも」
柊さんは少し申し訳なさげな表情を浮かべながら、希望ジャンルを述べる。
「中華系か……新メニューをってなら、創作系とかも良いんじゃない?」
「創作系か……どんなのが出て来るか分からないのが少し怖いけど、それも良いんじゃないか?」
たまに聞く料理のジャンルだが、正直どんなものが食べられるのか良く分からない。何となく、元の料理の独自アレンジ料理、なのではといった印象だ。
ただまぁ、新メニューの参考にするのなら普段食べない系の方が参考になるんじゃないかな。
「創作系……確かに普段食べないから参考になる、かも?」
「正直どうだろう?と思うけど、モンスター肉を使った料理とか、そもそも創作料理だよね」
「……いわれてみれば確かに、既存の肉から代替してダンジョン食材とか使ってる時点で創作料理だよな」
今でこそモンスター肉も美味しさから多くの人がさほど違和感なく食べているが、市場に出回り始めて1年ほどしか経っていない新しい食材なのだ。既存の料理体系が無い以上、ダンジョン食材を使ったら料理は全て創作料理といって良いはずなんだよな。
それを考えると、ダンジョン食材を使った創作料理店というのは、積極的にダンジョン食材料理を発展させようとしている料理屋って事になるのか?
「まぁ個々にそれ系のお店が有るか分からないか調べてみよう。無かったら柊さんがいう様に、中華系で調べれば良いんじゃないかな?」
「そうだな、まずは調べてみるか」
「ええ」
俺達は各々スマホを弄り、お店探しを始める。
結果、無いかもしれないと心配していた創作系料理のお店も、急発展している町という事で商機を見出し出店したらしい新しく出来たお店が1件だけだがヒットした。
「あった、駅からは少し離れてるけどギリギリ徒歩圏内だね」
「どれどれ? お値段もダンジョン食材を使ってるから、そこそこって感じだな」
「写真で見る限り、懐石じゃない和食系の創作料理って感じかしら?」
見つけたお店の紹介ページを見ながら、ココにするかどうか話しあっていると、査定窓口の方から待ち番号札の番号が呼ばれた。どうやら時間切れらしい。
俺達はスマホを仕舞い、ソファーから立って査定窓口へと向かう。
「お待たせしました、査定が終了しました。こちらが査定一覧になります」
「ありがとうございます、確認させて貰います」
裕二が受付担当の人から受けとった査定一覧表を覗き込み、3人で内容を確認する。大体のドロップ品の査定額は平均的な数字が記載されており、1つだけ提出したオーガがドロップした上級回復薬が以前査定に出した時より少し高く査定されていた。
最近は29階層まで到達できる企業系探索者も増えてるから、市場に回せる上級回復薬の供給数も増えて買い取り額も下がっていると思っていたんだけどな。
「とりあえずコレは持ち帰りたいので、査定対象から外してください」
「分かりました、では他の品は全て買取という事でよろしいですか?」
「はい、それでお願いします」
査定一覧にある上級回復薬の項目を指さしつつ持ち帰りを主張すると、受付の人も慣れた様子で了承し手続きを進めてくれた。
「では、お支払いの方法はどなたかの口座に一括でしょうか? それとも個々に分割でしょうか?」
「3等分でお願いします」
「分かりました」
確認作業が終わると買取手続きは直ぐに終わり、探索者カードと共に買取明細と上級回復薬が俺達に返却された。因みに上級回復薬を除いた買い取り額の総計は、凡そ20万円程だった。
やっぱり査定に出したドロップアイテムの数が少なかった上、スキルスクロール等のレア物も無かったので、20階層以降のドロップ品が中心でも買い取り額は程々といった感じになったな。
「こちらはお返しします。以上で買い取り手続きは終了となります、またのご利用お待ちしています」
「ありがとうございました」
買取手続きを終えた俺達は、受付担当の人に軽く一礼してから窓口を後にした。
無事に買取手続きが終わった俺達は、ダンジョン前のバスロータリーからシャトルバスを使い、下の町の駅まで下りてきた。まだ早い時間帯だったのでバスの中は空席だらけ、無事に席に座る事が出来たのは幸いだったかな。
お陰で少々見難かったものの、バスの中で調べていた創作和食のお店の下調べの続きが出来た。
「地図を見る限り、お店は向こうだね。メインの通りを暫く進んで、脇道に逸れてって感じかな?」
「ちょっと遠いけど、まぁ15分20分も歩けば到着するだろう。道すがら、この町がどう変化しているのか見て回るのも悪くないしな」
「そうね、前に見て回った時より大分新しい建物もお店も増えているわ。初めてココのダンジョンに潜りに来た頃の、辺り一面田畑が広がってたっていうのが嘘みたいな光景よね」
何か一つ、新設校やイベント施設といった象徴的なモノが出来ると、急に寂れた田舎町が発展するという話を聞いた事があったが、こういう事なのかと俺達は感嘆の眼差しで急発展を遂げている元田舎町を目にし実感した。大きなマンションや大型店舗の出店が予定されているのか、俺達の目の前を大型の建設車両が何台も道を走っているしな。
ダンジョンが解放されてからたった1年足らずでこれなら、来年にはもっとすごい事になってそうだ。
「そろそろお店に行こうか、折角いったのに営業時間が終わっても困るしさ」
「そうだな。昼営業の終了時間まではまだ余裕はあるけど、ラストオーダーギリギリに駆け込むのは嫌がられるだろうしな」
「そうね。余裕をもって来店する方が、お店としても有りがたいでしょうね」
何となく柊さんの実感の籠った意見に、俺と裕二は有無を言えない何かを感じ取った。
という訳で、町を観察しつつお店へ向かう事になった。散策は食事を終えた帰り道でも出来るしな。
「へー、この牛丼チェーン店も出店したんだ。24時間営業だし、お持ち帰りも出来るから夜遅く出て来る探索者には人気はありそうだね」
「おっ、あの全国展開してるスーパーも出店予定なんだ。こんな所にもすぐ出店決めるだなんて、商魂たくましいな」
「へぇー、ココに何店舗か集まって総合美容サロンエリアが出来るんだ。女性探索者向けかな?」
道中ちょっと歩いて観察するだけで想像以上に町は発展しているのが見て取れ、今後もさらに発展し続けていく予定らしい。
そして町の変化を観察しながら歩き続ける事15分程で、俺達は目的のお店に到着した。




