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第507話 やっぱり把握してたらしい

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 部屋に入ってきた袴田さんは軽く自己紹介をした後、机を挟んだ俺達の対面の席に腰を下ろした。

 一瞬、席を立ち挨拶をした方が良いかも?と思ったが、既に袴田さんも腰を下ろしているので軽く頭を下げながら自己紹介を兼ねた挨拶をする。


「お忙しい所、急な相談のお願いを受けて下さりありがとうございます。自分は広瀬と申します、普段からココでの探索をメインにしています」

「九重です、お忙しい所ありがとうございます」

「柊です、よろしくお願いします」


 学生探索者の挨拶としては多少硬い感じになったが、急な面会をお願いした側として最低限の礼儀はわきまえています、という体は整えられていると思う。今回俺達がとった面会方法は袴田さん視点から見ると、これまでの功績や実績を鼻にかける学生探索者がココ(協会出張所)に対し無理やりトップ会談を要求をしてきた、ととらえられる可能性もあるからな。いけ好かない横柄な輩と思われるより、最低限の礼儀は弁えていると思われる方が良いに決まっている。

 そして堅苦しい挨拶にも効果はあったのか、袴田さんも特に俺達が行ったアポなしトップ面談依頼に不快感を示す事も無く、にこやかな笑みを浮かべたまま話を聞く姿勢を見せてくれている。


「こちらこそ、よろしくお願いします。皆さんの事はココ(協会)に保管されている記録資料を軽く見た程度ですが、ある程度は把握しています。これまでの探索において、かなりの実績と経験を積まれているそうですね」


 いったいどんな事が書かれた資料に目を通したのかと聞いてみたいが、本筋の相談には関係ない事なので口を堅く閉じて我慢する。話題が逸れると忙しい所わざわざ来て貰っているのに、この相談が無駄に長引く事になるからな。忙しい所を抜けて来ただろう袴田さんの為にも、話題は本筋だけに絞り手早く相談を済ませるべきだろう。

 そんな事を考えていると、袴田さんは少し不安げな表情を浮かべながら真剣な眼差しを俺達に向けて口を開く。


「だからこそ、そんな皆さんがダンジョン探索を急いで切り上げてまで緊急で相談をしたい事があると要望され、私達としても少し驚きを隠せません。……何かあったのですか?」


 袴田さんは鋭い眼差しで俺達を見据え、本筋の相談内容を問いただしてくる。

 民間トップクラスの探索者がダンジョン関連で緊急に相談をしたいと願い出る案件、ココ(出張所)の責任者としてはいち早く相談内容を確認したいと考えるのは当然だろう。


「はい。今回、緊急で御相談があるとお願いしたのは、今日行ったダンジョン探索においてイレギュラーな現象に遭遇したからです。もしかしたら既に他の探索者から報告が入っているのかもしれませんが、俺達は今回起きた現象の事について今まで聞いた事がありません。もし俺達が最初に遭遇した現象ならば、最低限の報告はしておかないと他の探索者が何も知らずにこの現象の被害にあうかもしれないと考えたからです。無論、このイレギュラー現象に再現性があるかは今の段階では分かりませんが」

「そうですか、配慮していただきありがとうございます。確かに再現性については現段階では不明でしょうが、こういったイレギュラー現象が起きる可能性があると事前に知っているだけでも、随分と探索における安全性が変わってきますからね。それで、皆さんが遭遇したイレギュラー現象というのはどんなものだったのですか?」


 裕二の前置き説明に袴田さんは納得したような表情を浮かべながら、相談内容のイレギュラー現象について聞いてくる。再現性が有るか不明というところで袴田さんは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、コチラとしても分からないものは分からないんだからさ。

 そして裕二は軽く息を吸い、一拍間を開けてから本題を口にする。

 

「今日の探索において、29階層に出現するオーガと交戦しようとした所……新種のオーガらしきモンスターと遭遇しました。おそらくオーガの上位種にあたるモンスターだったのだと思います」

「オーガの上位種が出た、それは本当ですか!?」

「実際の所がどうなのかは分かりませんが、多分。外観は通常のオーガを一回り大きくし、身に着ける武具が立派になってました。戦い方も通常のオーガより熟れている感じで、オーガを上回る戦闘能力を持っているモンスターでしたね」

「そう、ですか……」


 裕二がオーガソルジャーの件を報告すると、袴田さんは軽く目を見開き驚きの表情を浮かべた後、動揺した雰囲気を醸し出しながら思案顔を浮かべつつ軽く俯き黙り込んだ。

 これは……どっちだ? 驚きの表情を浮かべたのは、オーガに上位種がいるなんて知らなかったという事なのか、オーガの上位種が出たという事に驚いたのか。動揺しているのは、オーガの上位種の存在を協会は知っており、ついにココ(民間開放ダンジョン)にも出たかと考えているという事なのかな?


「……」


 裕二は無言で軽く俺の脇腹を突き、視線でアレ(ミスリル)を出してくれと指示してくる。俺も無言で軽く頷き、机の下に置いていたバッグに仕舞っていたミスリルを取り出し机の上に置く。

 見た目はアルミやステンレスに似た光沢の金属塊だが、裕二はコレを見せて悩む袴田さんが口を開く為の背中を押す一手にしたいのだろう。 


「それでその、そのオーガの上位種らしきモンスターがドロップしたアイテムがコレ(ミスリル)になります。一緒に出現していたオーガを倒したら前回戦った時と同様に上級回復薬?をドロップしましたので、コチラはオーガの上位種がドロップしたアイテムで間違いないです」

「!? コレは……広瀬君、本当にコレがドロップしたんだね?」


 俺達が提出したドロップアイテムの金属塊を目にした袴田さんは目を見開き、少し唖然とした表情を浮かべながら裕二に間違いなくコレはオーガソルジャーのドロップアイテムなのかと確認の念押しをしてくる。どうやら袴田さん的には、まさかの事態が発生したという事だ。

 どうやら袴田さんには、コレが何なのか推察できる予備知識が有ったらしい。つまりダンジョン協会は、今回の件を知っていると考えても良いという事だ。何せ最低限の予備知識が無ければ、鑑定スキルやアイテム持ちでない以上、見ただけでコレの正体に気付いたようなリアクションは出来ないからな。


「はい。ただこのドロップアイテムの正体については、まだ換金所に提出し鑑定して貰っていないので不明です。オーガの上位種らしきモンスターが出現した件を報告する時の証拠品にと思っていたので、すみません。まだ猶予時間内ですけど、ダンジョンを出てから直ぐに換金せずに長時間未鑑定のドロップアイテムを持ち歩くのはダメですよね……」

「あっいえ、その件は大丈夫です。確かに今回のイレギュラー現象を報告するのならば、何かしらの証拠品はあった方が良いですからね。後程下の窓口の方で、今回の探索で入手したドロップアイテムを提出して貰えれば大丈夫です。もし多少超過したとしても、コチラの方で特例措置を指示しておきます」

「分かりました、ありがとうございます」


 少し心配だった未鑑定のドロップアイテムを提出せずに持ち歩くという行為が、袴田さんの配慮で多少申請時間が超過しても問題無しとなった。ダンジョンから産出されたドロップアイテムの流通管理をする関係上、緊急治療が必要な場合などを除きダンジョン退出後3時間以内にドロップアイテムの提出が必要になる決まりがある。仮に何の成果が無い場合においても、その旨を申請する決まりになっていた。 

 因みにダンジョンへの入退出記録が残っている以上、ドロップアイテムの提出申請記録が無いのは誤魔化せない。悪質でない場合は、初犯だと口頭注意とドロップアイテムの事後提出で済まされるが、2度目からは罰金や一定期間のダンジョン入場禁止処分が下される。更に意図的にドロップアイテムの提出を拒んだり横流ししたと判断されるような悪質な行為を行ったと判断された場合は、DP(ダンジョンポリス)に案件が移管され裁判沙汰になる事もあるらしい。






 そして俺達の心配事が解消され安堵していると、袴田さんが少し控えめな口調でとあるお願い事をしてきた。


「それでその、コチラを少しお預かりしてもよろしいですか? 直ぐに鑑定し、コレの正体を確認したいんです。もしコレが我々の考えるモノだった場合、ちょっと込みいった事情があり対応が変わってきますので」

「分かりました、ソレはお預けします。ですが先に、オーガの上位種らしきモンスターが出現した件についてはどのような対応がされるのかお聞きしても良いですか? こうしている間に万一あのイレギュラー現象が再び起きた場合、何も知らない探索者がいたらかなり致命的な状況に陥るのではないかと少し心配で……」


 ドロップアイテムの確認を早急に行いたいと主張する袴田さんに、裕二はオーガソルジャーの件へ協会がどの様に対応するのかを尋ねる。俺達としてはドロップアイテムの正体自体は知っているので、協会がこの件にどのような対応を取るかの方が気になる事だ。

 袴田さんのこれまでの反応から察するに、協会はオーガソルジャーとミスリルの件を把握している様だしな。対応が変わるといっている以上、知った上で周知していないという事になるので、それなりの事情がある面倒な案件という事だ。


「無論、その件については事実を確認次第対応します。その事実確認の一助の為にも、コチラを鑑定し正体を確定させたいのです」

「分かりました。俺達はその鑑定が済むまで、ココで待機していればいいんですか?」

 

 袴田さんがこの様子だと、この件がひと段落付く迄家に帰してくれなさそうなので、一応確認しておく。


「申し訳ありませんが、その様にしていただけると助かります。それとこの件について、他の誰かに話されましたか?」

「いえ、まずは協会に報告と相談をしてからと思っていましたので」

「それは良かった。この件は何の下準備も無く広めてしまうと混乱が生じる可能性がありますので、協会の対応が決まるまでは口外しないで頂きたいと思います」

「……分かりました。確かにイレギュラー現象が事実なのかの確認も取れてない段階で、仮定の話を無秩序に広めるのは混乱の元にしかなりませんね」


 悪い噂というのは、尾ひれ胸びれが付いて誇張されたものが直ぐに広まるからな。影響力が高そうな情報は、最低限正しい情報を公的機関が一次情報として公布しておかないと、何が正しい情報なのかの判断基準が作られないまま混乱を助長する結果になる。それを考えれば、現段階で俺達に口止めをするというのは正しい対応だろう。

 ココは素直に同意しておいた方が良いだろうな。


「ありがとうございます、ではコレを鑑定してきますので少々お待ちください」

「鑑定にはどれくらいの時間がかかりますか?」

「査定はせずに優先し鑑定しますので、それほどかからないと思います。そうですね……遅くとも30分以内には終わると思います」

「分かりました、お待ちしています」

 

 袴田さんは軽く一礼した後、ドロップアイテム(ミスリル)をポケットから取り出したハンカチで隠す様に包み大事に抱え部屋を出ていった。

 そして俺達は椅子に座ったまま軽く背伸びをした後、今の相談の内容について意見を出し合う。


「さっきの袴田さんの反応からすると、協会はあのオーガの件について知ってたみたいだな?」 

「そうみたいだね。最初は信じられないって感じで疑ってる様な反応だったけど、ドロップアイテムを出してからは、まさか……とか、遂に……って感じの反応だったかな?」

「そうね。ドロップアイテムの正体にも心当たりがある感じだったし……知っていたのは間違いないでしょうね。私達が初遭遇って訳ではなく、他の探索者があのオーガについて既に報告していたのかもしれないわ。協会が黙っていた件と、オーガの出現場所を考えると……自衛隊や警察所属の政府系探索者チームが報告者かしら?」

「そうだった場合、ちょっと面倒な案件に首を突っ込んじゃったのかもしれないな……」


 最初からある程度予想はついていた事態だが、こうやってそれが事実であると示されると思わずため息が漏れてしまう。政府が意図的に情報を制限をする様な案件、また面倒事である。

 そして暫く3人で愚痴という名の雑談をしながら部屋で待っていると、15分程で少し困ったような表情を浮かべた袴田さんが戻って来た。予定の半分にも満たない時間で戻って来たという事は、かなり特急で鑑定を済ませて戻って来たんだな。


「お待たせしました皆さん、鑑定が終了しコレの正体が判明しました」


 袴田さんは席に着くと、ハンカチに包んでいたドロップアイテム(ミスリル)を広げて見せながら、少し深刻そうな声で正体を口にする。


「このドロップアイテムはミスリルでした。幻想金属と呼ばれる希少ドロップの一つで、政府が安定的な供給を目指している準特定重要物資……いわゆる戦略物資と呼ばれる代物です。申し訳ありませんが、今回の件についての対応が決まるまで、イレギュラー現象と共にコレの存在についても暫し口外禁止とさせて貰います」


 袴田さんは真剣な眼差しを俺達に向け、ハッキリとした口調で今回の件は一切口外無用だと告げる。

 やっぱり今回も、マジックバッグの件と同じ対応が求められちゃったか……また皆で協会支部に赴いて、口止め取引と守秘義務の締結かな?
















協会はやはり知った上で秘密にしていたました、ですね。


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挿絵(By みてみん)

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上級回復薬欲しさに何度もフロアボスを倒すなんてことをする探索者は自衛隊をはじめ30階層に到達している者の中ボーナス的に考えて結構いそうだ。 だからこそいつか起こりえるイレギュラーの犠牲が出る前にミス…
ドロップ品の秘匿はともかく探索者の安全を考えたらボス周回で上位種が出るのまで秘匿しちゃうと協会の信頼性まで失われそうだな。一般探索者も企業系はぼちぼち到達してるだろうし回復薬目当てに一部は周回するだろ…
やっぱしこうなりましたか。 しかし、ミスリルをGETしたい国や企業は、コレ知ったら囲い込みたいだろうねえ。
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