第506話 ご相談があるのですが……
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道中に出現するモンスター達に八つ当たりしながら、1時間程かけて俺達は地上に戻って来た。予定より大分早く戻って来たので入り口ゲート付近はそれほど混雑はしておらず、スムーズに除染などの退出処置は終了。入り口ゲートがある施設を後にする。
外に出るとまだまだ日は高く上っており、あまり嬉しくない想定外の成果を思い出し溜息をつきながら着替えを行う為に更衣室へと重い足取りで移動し始める。
「何時もなら、着替えを済ませたら換金手続きへ……っていきたいけど、今日は無理なんだよね」
「ああ、換金をする前にココの責任者とオーガソルジャーについて話をしてからだな。というより、どうやってココの責任者とアポを取るかがまずは問題だ」
「そうよね。ただの一探索者のチームが責任者と話がしたい、といっても今日の今日で取り次いでくれるかどうか。それも、高校生の学生探索者がともなれば……難しいでしょうね」
地方の出張所とはいえ、一施設の責任者ともなれば様々な業務を抱える立場ゆえ基本忙しい。数日前からアポイントメントを取っていれば面会のスケジュール調整もでき問題ないだろうが、当日ともなれば結構難しいだろうな。緊急事態ともなれば色々手続きを省略し合う事も出来るだろうが、オーガソルジャーの出現は異常といえば異常だが、特殊な出現条件?をクリアしオーガと戦う事が無ければ発生しない問題でもある。異常事態ではあるが、緊急性が高いのか?と聞かれると首を傾げる事案だな。
まして学生探索者の利用が少ない階層かつ、報告者が学生探索者チームともなれば……虚栄心や見栄からくる悪戯と受け取られずに真剣に取り合ってくれるか疑問である。
「とはいっても、報告せずに帰るって選択は無いしね。まずは窓口で、面会のアポが取れるか聞くだけ聞いてみるしかないかな?」
「そうだな。もしアポがとれなかったら……宮下さん経由で裏口面会かな? ドロップアイテムの件もあるし、根回しせずに換金窓口に持ち込むのは拙いだろうし」
「そうね。もし窓口でドロップ品がアレだと分かったら、色々騒ぎになるでしょうから……手間でも根回しをしてからの方が良いと思うわ」
幾ら希少性の高いレアドロップのミスリルとはいえど、多分協会のドロップ品のデータベースにはのっているだろうから。何の根回しもなく窓口で判明した場合、最悪一騒動起きる可能性は少なくないかもしれないな。俺達がミスリルを手に入れたという情報が漏れた場合、ミスリル欲しさにオーガソルジャーの出現条件をしつこく聞いてくる輩、売却していると知らずに力尽くでミスリルの現物を奪おうとする輩、もう一度入手してこいと脅迫してくる輩等々……希少性が高いからこそ面倒事が舞い込んできたりするかもな。
そんな面倒事を避ける為にも、情報規制の為に最低限の根回しはしておかないと。
「俺達のこれまでの実績?を鑑みて、直ぐに会って貰えると助かるんだけどね。ドロップアイテムの換金実績を見て貰えれば、俺達がオーガと戦う事が今回が初めてじゃないってのは分かってもらえると思うんだけど」
「そうだな。30階層近辺のドロップアイテムを何度も換金しているから、悪戯の報告で面会を希望しているとは思われない筈だ。調べて貰えれば、だけどな」
「その点も申告した上で、オーガに関する急ぎの報告があると伝えてアポを取った方が良いでしょうね。何割かアポをとれる確率が上がるはずよ」
自分達の成果を見栄を張って自慢している様で少し気が引けるが、アポを取れる確率が上がるのならやった方が良いだろうな。多少の気恥ずかしさを我慢すれば面倒事が減るのだ、やるしかない。
以前ココでスカウトの仲介をして貰った……された?事もあるので、多少なりとも名前は売れていると思うので話題を出せば調べて貰える、といいな。
「そうだね。じゃぁ着替えたらとりあえず受付で報告したい事があるから責任者と面会できないか?って聞くのと、その時に渋られたら実績を調べてくださいとお願いしようか」
「そうだな……」
「じゃぁ早く着替えてしまいましょう。どれくらい時間が掛かるか分からない事だし、早めに動いた方が良いわ」
柊さんの提案に俺も裕二も静かに頷き、重い足を先程までより少し早く動かし更衣室へ向かう。直ぐに面会が出来れば良いが、向こう側の予定もあるだろうから幾分かの待ち時間が発生するのは避けられないだろう。その上、その幾分かが数分になるか数時間になるかも分からないし、報告がすぐに終わるのかも分からない。
最悪、日が暮れても話が終わらないといった事もあり得るからな。
更衣室で手早く着替えを済ませた俺達は、荷物を持って窓口がある出張所事務所施設に足を運んだ。まだ一般的な探索者が引き上げるにはまだ少し早い時間帯なので中はそこそこ空いており、受付で順番待ちをする時間はあまりかからなさそうである。
といっても今回俺達が利用するのは、何時も混雑している買取窓口ではなく一般相談受付窓口なんだけどな。こちらはあまり利用者が居ないみたいで、受付番号札を発券したらすぐに番号が呼ばれた。換金窓口もこうだと助かるんだけどな……まぁ無理だよな。
「お待たせしました。本日はどのような御相談でしょうか?」
「ええっと、ダンジョン内でモンスターが普段と異なる動きを見せたので、その報告と相談をしたいんですよ。それでその……可能なら個室で、出来ればその報告にココの責任者の方にご同席していただきたい、と思っています」
「……すみません、少々お待ちいただけますか?」
裕二が相談内容を告げると、受付担当の女性は少し不審と困惑が入り混じった表情を一瞬浮かべ、俺達に待機を指示して一礼してから席を離れた。離れていく係の人の後ろ姿を視線で追うと奥の方の席、おそらく受付窓口業務の責任者である上司の元へと向かっているようだ。
そして係の人が上司?らしき人に話しかけると、上司?らしき人の顔が俺達の方を向いたので、俺達も気づいた事を知らせる為に軽く一礼しておく。すると上司?の人は仕方ないといった表情を一瞬浮かべながら席を立ち、係の人と共に窓口の方に向かってくる。
「お待たせしました。何でも内密で相談したい事がある、との事ですが?」
上司?さんは表面上は柔らかな対応をしてくれるが、少々隠しきれていない不審と困惑の入り混じった眼差しを向けてきていた。まぁ俺達のような学生探索者がいきなり内密の話がしたいと訴えれば、まずは悪戯を疑う事から入るよな。特に今は私服に着替えているので、より年相応の学生といった雰囲気が強いだろうし。
コレは失敗したかな? 特に汚れてもいなかったので、緊急感を出す為に着替えずに来た方が良かったかも?
「あっ、はい。いくつか相談したい事があります。まず一つ目は、今日の探索で遭遇したとあるモンスターが普段行なわない動きを見せたので、それの報告を。二つ目は、それとそのモンスターの動きを協会側で把握しているのか? 三つ目は、そのモンスターが落としたドロップアイテムの取り扱いについてです。それでその、詳しい相談内容は他の人目を避けられる個室でお願いしたいです、ココではちょっと……」
「そうですか……失礼ですが探索者カードの方を確認させていただけますか?」
「あっ、はい。ちょっと待ってください……はい、どうぞ」
「ありがとうございます、お預かりします」
上司さんは裕二から探索者カードを受け取ると、受付担当の人にカードを渡し照会をお願いしていた。まぁ内密の話があるというのなら、話を聞く前に身元確認の一つでもしておきたいのは当然だろう。
それに身元が確かな者と身元不明の者とでは、同じ情報でも信頼性に雲泥の差が出るからな。
「っ! 係長、ちょっと……」
「ん、どうした? !?」
探索者カードの身元照会をしていた受付担当の顔に驚愕の表情が浮かび、少し慌てた様子で上司の係長さんに身元照会画面の確認を促していた。覗き込んだ係長さんも、少し信じられないといった顔を俺達に向けて来るし……うん、その身元照会画面に何が表示されているのか非常に気になるリアクションだ。
そして身元照会を終えると、先程まで二人の瞳に浮かんでいた不審と困惑の色が消え、真剣味の増した表情が浮かんでいた。
「ありがとうございました、カードの方はお返しします」
「あっ、はい」
「それで相談の方なのですが、相談室の方の空きを確認してきますので少々お待ちください。部屋のご用意が出来次第、先程の待ち受け番号の方でお呼びさせて頂きます」
「分かりました、お手数をおかけしてすみません」
俺達は軽く頭を下げ窓口を後にし、待合席に腰を下ろし呼び出されるのを待つ事にした。
そして無事に話が進められそうになり、俺達はそろって安堵の息をつく。
「どうにかなりそうだね。まぁここの出張所の誰が出て来るのかは分からないけど、とりあえず内緒で話が出来そうで良かったよ」
「そうだな、一時はどうなるのかと心配したけど。ただ、あの照会画面には一体何が表示されてたんだ? 照会された途端、一気に話を聞く対応が変わったぞ?」
「そうね……もしかして宮下さん辺りが何か、特記事項に重要機密共有人物とでも書いたんじゃないのかしら? それならあの変わり身にも納得がいくわよ」
まぁ確かに軽い気持ちで開いた身元照会画面に、重要機密共有人物とか書かれていたら、一般職員が動揺するのは当たり前か。実際にどう書かれているのかは分からないけど、民間の学生探索者としては似たような表記がされてもおかしくない実績は上げてるだろうから……何と書かれているのかとても気になる。
そしてそんな雑談をしながら待っていると、20分程経って再び俺達の待ち受け番号が呼ばれた。
「大変お待たせしました、相談室の準備が出来ましたのでご案内します」
「分かりました、よろしくお願いします」
受付担当の人はそういうと窓口にクローズの立て札を置き、俺達を先導し相談室へと案内してくれる運びになった。窓口を閉鎖して良いのか?と少し心配になったが、まだ利用者の数も少なく他の受付窓口は開いているので大丈夫らしい。とはいえ、あまり長い時間閉鎖できないようで、案内してくれる受付担当の人は少し足早の移動になっていた。
そして俺達は2階の相談室、一番端にある小会議室へと案内された。因みに隣にも小会議室はあるのだが、誰にも利用されていないので内緒話という事で機密保持にも配慮してくれているらしい。
「こちらになります。相談責任者を呼んでまいりますので、少々お待ちください」
「分かりました、案内ありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
「いえ、では」
俺達が軽く一礼しお礼を言うと、案内してくれた受付担当の人は軽く一礼してから相談室を後にした。 残された俺達はホッとした表情を浮かべながら、意外にスムーズに話が進んだことを喜んだ。下手をすれば日を改めて、等といわれていただろうからな。
そうなっていたら、宮下さん経由で面会のお願いをするしかなかった。早期面会は叶っただろうが、かなり居心地の悪い面談になっていただろうな。
「誰が来るかは分からないけど、話が分かる人だと助かるんだけどね」
「ああ。異常事態がおきたってのも問題だけど、コレが初めてのケースじゃなかった場合も問題になるんだよな。再現性が低い現象だから民間探索者に周知させて無かったのか、意図して隠していたのか……その辺の事情を理解してる人だと良いんだけどな」
「希少なドロップアイテムが手に入るから、独占入手の為に情報を秘匿していたってのは、ゲームなんかではたまにある話よね。まぁ大体何処からか情報が漏れるから、期間限定の独占にしかならないんだろうけど……」
もし政府や協会がオーガソルジャーの件を知っていた場合、良い意味で考えれば希少なレアドロップ目当てに民間探索者から余計な犠牲を出さない為、悪い意味だとやっぱり民間で発見されるまでの期間限定の独占が目当てかな? ミスリルはかなり優れた性質を持つ金属らしいし、独占できる間に技術開発を進めリードしようと考えていたのかも。まぁダンジョンを民間に開放している時点で発見される事は織り込み済み、滅多にない現象でも何れは試行回数の暴力で発見されるから期間限定だって事は理解していたんだろうけど。
ただもしそうだった場合、民間探索者からオーガソルジャーが出たという報告を協会が受けたタイミングが、他の民間探索者に周知するつもりのタイミングなのかもしれない。俺達がオーガソルジャーからミスリルを手に入れた民間探索者第一号である、といった発表をされるのは阻止したいな。ちゃんと意思表示はしておかないと……。
受付担当の人が相談室を出て行って5分後、スーツを着た50歳前後の眼鏡をかけた男性が入ってきた。鋭い眼差しで俺達を一瞥した後、直ぐに表情を崩し柔和な笑みを浮かべながら自己紹介を含んだ挨拶をしてくれる。
「お待たせしました。私はココの所長を任されている、袴田です。何でも内密の御相談があるとの事ですが?」
望んでいた事とはいえ、どうやら本当に所長さんが相談にのってくれる事になったらしい。でも普通こういうのって、もう少し下の人が話を聞いた上で一番偉い人が出て来るものなんじゃ……何で?
俺達の協会での評価ってどうなってるんだ?




