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第505話 厄介なモノを残していたな

お気に入り37230超、PV114390000超、応援ありがとうございます。


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 真っ白に燃え尽きた?様子のオーガが佇む中、何ともいえない雰囲気が流れてもオーガソルジャーの死体は淡々と粒子化を始めた。死体の粒子化が始まる、つまり完全にオーガソルジャーが息絶えているという事だ。まぁ首を刎ねられている以上、よっぽど特殊な生態をしているモンスターでも無ければ死亡確定だったんだろうけど。

 そして、オーガソルジャーの粒子化を受け、真っ白に燃え尽きていたオーガはどうにか正気を取り戻したらしく、手に持っていた棍棒を俺達に向け構える。ただし、今にも泣きだし逃げ出したそうな雰囲気を醸し出しながら、だけどな。


「……なんか、やりづらいね」

「そうだな。とはいえ、ココを通過する為にも倒さない訳にもいかないしな……」

「何をいってるのよ2人とも? いつも通りサクッと倒せば良いのよ……その方があのオーガにとっても良いでしょうし」


 悲壮な覚悟を決めてるっぽいオーガを、このまま倒して良いモノか?と俺と裕二が悩み躊躇しているのに対し、柊さんは現状を長引かせるのはオーガにとってもかわいそうだからスパッとやっちゃえという。

 どちらにしろ先に進むには倒さないといけないので、何ともいえない申し訳なさを飲み込みつつ裕二がオーガに向かって武器を構える。


「まぁ、何だ? 次、頑張れよ」

「!?」


 なんか裕二の別れの言葉?を聞いたオーガが、激しく動揺し怒ったような表情を浮かべながら抗議したげに口を開こうとしていた。

 しかし、オーガの口から抗議の声?咆哮?が漏れる事は無かった。裕二がオーガが声を出す前に、一気に間合いを詰めオーガソルジャーと同様に首を刎ねたからだ。


「「「……」」」


 だが最後の最後、刎ねられ地面を転がった際に頭だけになったオーガと目が合う。気のせいかもしれないが、恨みがましい目でもう来るな!と訴えているように感じた

 たぶん、気のせいじゃないんだろうな。


「何か、後味が悪い事になったね」

「そうだな。でも、仕方がないじゃないか。相手が出て来る以上、倒さないと先に進めないんだしさ」

「そうね。前回の様にお詫びの品?だけ置いていてくれたら、戦わずに先に進めるのに……」


 俺達が何とも座り心地の悪い気持ちを抱いている内に、倒したオーガも粒子化を始めていた。

 そして十数秒後、オーガが消えた後には予定通り1つのドロップアイテムが転がっている。【解析鑑定】を使ってみると、オーガのドロップアイテムは何時も通りの上級回復薬であると出た。


「うん、予想通り」

「そうか。今回はオーガソルジャーとの同時出現だから、何か違うドロップアイテムが出るかな?と思ってたんだけど、ドロップアイテムは普段通りなんだな」

「つまり今回の件は、上級者による周回対策の懲罰的措置?ってやつだったのかもしれないわね」


 柊さんの意見に、俺はなるほどと納得し軽く頷く。確かにゲームとかでもレアドロップアイテムの独占対策に、そういった周回対策が取られているケースがあると聞いた事がある。

 もしかしたらこの上級回復薬も、ダンジョンが更なる探索推進の為の褒美措置として施しているのに、上級者が独占するなんて!といった感じになってるのかも?


「まぁ真相は定かではないけど、こういったケースがあったってのはダンジョン協会に報告届けておいた方が良いのかな?」

「目立つからやりたくは無いけど、報告はしておいた方が良いだろうな。今回は俺達だったから問題なかったけど、もしどこかのパーティーが独占を狙って周回を繰り返し……とかやったら、パーティー全滅もあり得る。オーガ戦の適正レベルを大きく上回る実力があるパーティーなら問題ないかもしれないけど、ギリギリで倒せたり少し余裕を持って倒せるレベルのパーティーだと、いきなりオーガソルジャーが出てきたら戦力的にも精神的にも難しいだろうな」

「そうね。オーガと戦うだけと思っていた所に、オーガを超えるモンスターが急に現れたら……直ぐに対処できるパーティーは少ないでしょうね。そうなれば、全滅も無くはないわ。可能性は低くても、そういったケースがあると知っておくだけで違うでしょうから、報告はしておいた方が良いわね。勿論、信じて貰えるかは別の話だけど、報告はしておくだけで私達の心理的負担は確実に減るわ」


 確かに万が一の事態が発生した後になって、あの時報告しておけば……と思い悩む事になるのは避けたい。一応協会の方に報告しておけば、信じて探索者達に周知するかは別にしても義務は果たしたって事になるからな。

 もし何かあったとしても、ちゃんと報告してたのになと自分を誤魔化す事は出来る。


「そうだね。ココから出たら、とりあえずオーガソルジャーの件は報告しておこうか。信じて貰えるかは別にして……」

「ああ、何か信じて貰える材料があれば良いんだけど……コレの映像は出来れば見せたくは無いからな」


 そういいながら裕二は、ヘルメットに付けているアクションカムを軽く小突いていた。検証用にダンジョン内での行動記録を付けているので、このカメラで撮ったオーガソルジャーの姿を見せれば信じて貰えるだろう。だが、一般的探索者と比べればオーガソルジャーを倒したシーンは非常識的(瞬殺)なので、逆に映像の信憑性を大きく下げる可能性が高い。

 オーガソルジャーを反撃の暇も与えずに一刀両断、まず一般的な探索者じゃ出来無い真似だろうからな。


「大丈夫そうよ2人共、ほらアレ」


 俺と裕二がどうやって記録映像を使わずに、オーガソルジャーの事を報告するか悩んでいると、柊さんがオーガソルジャーが消えた跡を指さしていた。

 そして柊さんが指さす先に視線を向けてみると、そこにはライトの光を反射し白っぽく光り輝く小さなドロップアイテムが転がっている。


「アレは……オーガソルジャーのドロップアイテムか」

「そういえば、まだ回収してなかったな。何が出たんだ?」


 俺達はユックリ歩み寄り、オーガソルジャーがドロップしたアイテムの確認を行おうとする。






 オーガソルジャーがドロップしたアイテムはかなり小さく、手の平の上にちょこんと乗る大きさの長方形の金属塊?だった。色合いはパッと見た感じ、アルミやステンレスに近いと思う。重さはサイズ相応でそれほど重くもなく、単一乾電池より軽いぐらいか?

 まぁ上級回復薬をドロップするオーガの上位種がドロップしたものだ、それなりに価値のあるものだとは思う。まずはコレの正体を知る為にも、【鑑定解析】っと……ってコレは。


「どうした大樹、急に固まって。それの正体分かったんだろ?」

「あっ、うん、ちょっと……取扱注意かも?」

「取扱注意って、何か危ないモノだった?」


 何ともいえない表情を浮かべる俺の反応に、裕二と柊さんは怪訝な表情を浮かべながら俺の手元にあるドロップアイテムに視線を向ける。パッと見はタダの金属塊でしかないけど、確かにこれはオーガの上位種からドロップするアイテムにふさわしい。

 俺は意を決し、裕二と柊さんに金属塊の正体を伝える。 


「これ、ミスリルのインゴットらしい」

「はっ、ミスリル?」

「ミスリルですって?」


 ドロップアイテムの正体がミスリルだと告げると、裕二も柊さんも呆気にとられたような表情を浮かべていた。まぁいきなりミスリルなんて代物がドロップしたといわれたら、当然の反応といえば当然の反応だよな。レア中のレア物というべきドロップアイテムがでたのだから。

 ミスリル、いわゆる幻想金属と呼ばれるドロップアイテム群の1つだ。一応ダンジョン協会のHPにある存在確認済みドロップアイテムリストには載っているが、公式に取引された事があるとは聞いた事が無い。ミスリルの現物はダンジョン出現初期の頃に、ファーストドロップ品としていくらか出現した分だけというのが通説だ。そして何故そんな貴重な代物の存在が一般公開されているかというと、政府が規制や改修をする前に手に入れたファーストドロップ品を民間人がネットで公開していたからだ。隠さないのではなく、隠せないということである。


「どうしよ、コレ? 前に山の中のダンジョンで手に入れた、錬金術のスキルスクロール並みに厄介な代物だよ」

「おいおいマジかよ、マジでミスリルがドロップしたのか? うわぁ、ヤバいな……」

「ミスリルか……ファーストドロップ以外で、公式にダンジョンからドロップしたって話は聞いた事が無いわね。もちろん、この前の様にドロップ情報自体が秘匿されている可能性もあるけど」


 どうやってオーガソルジャーの存在を証明するかと悩んでいたのに、突如出現した錬金術のスキルスクロール並みの厄介事に頭を抱える。確かにコレをオーガソルジャーの出現報告と一緒に提出すれば信じて貰えるかもしれないが、コレをそのまま買取カウンターに提出したら一騒動おきそうである。

 少なくとも俺達としては出来るだけ穏便に話を進めたいので、協会側にも出来るだけ穏便に対応して貰いたい。最悪支部の方にでも連絡して貰って……一度顔を合わせたことがあるお偉いさん、宮下さん辺りに話を通して対応して貰う方が良いかな? 錬金術のスキルスクロールの代わりに提出したマジックバッグの件で責任者を担当していたし、確か課長さんっていってたから。


「どちらにしろ、厄介事を抱え込んじゃったってのには変わらないよ。スキルスクロールとかの別のレアアイテムと取り換えて提出するって手もあるけど、もし今回の件が初めてじゃなく何度も確認されている現象だった場合が面倒だから、出来ればやりたくないし」

「そうだな。民間探索者って視点で見ればオーガソルジャー出現の件は初めてになるかもしれないけど、自衛隊とかの政府系の視点で見れば何度かあった現象かもしれない。そうだった場合、何故出現したドロップ品が違うのか?って疑われるかもしれない。もちろんこれは、オーガソルジャーのドロップアイテムが固定式だった場合だけど」

「オーガのドロップアイテムの件を考えれば、オーガソルジャーのドロップアイテムが固定されている可能性は低くないんじゃないかしら。それに流通量は少なくとも上級回復薬が流通している以上、自衛隊とかの政府系探索者が定期的にオーガを討伐しているのは間違いないと思うわ。そうなると、今までで数度はオーガソルジャーが出現していても不思議じゃないでしょうね」


 その数度で全てミスリルがドロップしていた場合、俺達が違うアイテムをオーガソルジャーのドロップアイテムとして提出したら……うん、より一層面倒事に発展する可能性があるな。素直にミスリルを提出してしまった方が、まだマシだろう。

 つまり今回のオーガソルジャーの件を報告すると、そこそこの騒ぎになるか大騒動になるかのどちらかという事だな。


「出現報告と一緒に、素直にミスリルを提出した方が良さそうだね。下手に隠すと余計面倒な事になりそうだからさ」

「そうだな。報告自体をしないって手もあるけど……それが原因でってなるのは嫌だから、報告しないってのは無しだろう」

「そうね。そうなると報告する時にココの責任者立ち合いの元、別室で、って形にして貰うしかないわ。騒ぎにはなるでしょうけど、受付で報告するよりはマシでしょ」


 そう結論を出し頭痛を感じながら顔を見合わせた後、全員で一斉に溜息を漏らす。

 何で練習場関係で溜まったストレス発散する為に来たのに、新しい厄介事を抱え込まないといけないんだろう? 何か悪い事したかな?






 ミスリルを【空間収納】に回収し終えた俺は、疲れた表情を浮かべながら裕二と柊さんにとある提案をする。


「今日は30階層から探索するつもりだったけど、ココまでで探索は終了にして上に戻らない? オーガソルジャーの件を報告するのなら、色々時間も掛かるだろうしね」

「そうだな。普段通り探索した後に報告していたら、何時家に帰り着けるか分かったものじゃなくなりそうだ」

「残念だけど、ココで引き返した方が良いでしょうね。報告したら直ぐに帰れる、という事にはならないでしょうし」


 俺達は残念ながらといった表情を浮かべながら、設置したケミカルライトを回収し帰り支度を始める。30階層から本格的な探索を行うつもりだったので、残念ながら今回の探索では余りドロップアイテムは集まらなかった。まぁ幾らになるか分からないが、幻想金属とも呼ばれるレアアイテムのミスリルが安価で買い取られる事も無いだろうから、赤字になる事は無い……と思いたい。

 今回の探索には訓練場の整備費を稼ぐつもりで来ていたので、それなりの価格で引き取ってもらえると助かるんだけどな。


「さて、ライトの回収も終わったし帰ろう。2人とも、忘れ物は無い?」

「ああ」

「大丈夫よ、気は重たいけどね」


 そして俺達は下の階層に降りる階段ではなく、入ってきた扉を潜り地上を目指し移動を始めた。

 ただその帰還の道中、少々遠回りをしつつ目についたモンスター達に八つ当たり気味に攻撃を仕掛けていったのは大目に見て欲しいかな。
















厄介事の種を残し一矢報いた……のかな?


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挿絵(By みてみん)

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今度は隠さずに報告 秘密を抱えて最前線を攻略していると大変ですね 読者としては楽しいです
ミスリルならファーストドロップにも値する。もっともある程度ドロップしているから研究されているようなので、産出はされている状態。ボスが助けを得る初めての状況ぐりいかな?普通に提出すれば問題はないと思う。…
ある意味ではファーストドロップだったからとか? ボスが応援を呼んだのが始めてなのか オーガファイターが未発見ダンジョンからの応援だったのかまではダンジョンに聞いてみないとわからないかもだけど
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