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第504話 オーガ君は助けを呼んだ、が……

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 俺達はあまり気が進まないなといった表情を浮かべながら、オーガが出てくる……筈の広間へと足を踏み入れる。前回の事を思えば、また置手紙だけあり本人は雲隠れしているんだろうと思いつつ。モンスターに出現拒否されるのって、意外にくるものがあるんだよな。

 だが、何の気なしに広間の中央に視線を向けた時、その予想が外れた事に気付き俺達は少し目を見開き一瞬固まった。


「えっ? アレってまさか……?」

「そう、みたいだな。どうしたってんだアイツ、前回逃亡したくせに……?」

「ねぇ? 心なしか……自信ありげな雰囲気を出していない、あのオーガ?」


 俺達が目を見開き驚いたモノ、それは今回も居ないだろうと思っていたオーガの姿が広間の中央にあったからだ。命乞いの様な書置きだけ残し姿を現さなかったオーガ。それが柊さんが言う様に、どこか自信ありげな雰囲気を醸しながら、俺達を真っ直ぐな威嚇する様な眼差しで見ているのだ。腕組みをしつつ自信ありげに仁王立ちしている姿からは、とても前回俺達との戦闘を逃亡していたとは思えない。

 いったいあのオーガに何があったんだ?


「……ちょっと意外だったけど、向こうにやる気があるのならやるしかないね」

「そうだな。しかし、ああして自信ありげに出て来たって事は、何かしらかの秘策を用意してるって事だろうな。何かしらかの罠なのか、配下の増員なのかは分からないけどさ」

「ええ。流石に前回戦いもせずに逃亡したオーガが、何の策もなしに突っ込んでくるって事は無いでしょうね。あれだけ堂々とした立ち姿を見せているんだから、あれは私達と逃げずに戦って勝てるっていう自信の表れだと思うわ」


 逃げずに立ち向かう事を選択するという事は、戦う手段があるという事だからな。どういう戦い方をしてくるのかは分からないが、あの逃亡オーガが戦う事を選択したんだ。罠や伏兵なり警戒するに越した事は無いだろうからな。

 そしてどうやらオーガの一定範囲まで近寄らないと戦闘が始まらない、という方式は変わっていないようなので、俺達はまだオーガに動きが無い事を確認した後、他に広場内で変化している場所は無いかを観察し始めた。もし何かしらかのトラップが仕掛けてあるのなら、以前訪れた時と床や壁に違和感や配置が異なっていたりするかもしれないからな。


「特に広間の中に変化はないみたいだね、新たに設置されている物とかは無さそうだよ」

「ああ、そして事前に伏兵が配置されているという事もなさそうだ。あと、天井にもモンスターが隠れられそうな場所は無いぞ」

「トラップの方は、現時点では特に仕掛けられてなさそうよ。でも、オーガが召喚する配下によっては気を付けた方が良いと思うわ、種族特性を使った罠を仕掛けるといった可能性も無くはないでしょうから……」


 広場内を観察した結果、特に以前来た時と室内に変わった様子はなく、それ故にオーガの自信あり気な雰囲気が逆に不気味に感じられる。あの自信ありげな態度、いったいどんな秘策を用意しているんだか……。

 俺達はより一層警戒を強くしつつ、何時でも動ける態勢を整えながら戦闘を行うための準備に入る。


「まずは、光源の確保からだね。右回りでケミカルライトを壁際に設置していくから、裕二は左回りで設置していってよ」

「了解、それじゃぁ柊さんは……」

「私は光魔法を使って天井に光源を設置しておくわ」


 という訳で、俺達はオーガの攻撃識別範囲に触れない様に気を付けつつ複数の光源の設置をしていった。今までと違い何が起きるか分からない以上、周囲を明るくし視認性を良くして不意打ちを防ぐ為に必須の対応だ。視界が明瞭であれば、仮に何かトラップを仕掛けられても素早く対応できやすくなるからな。

 そして光源の設置を終えた俺達は、改めて自信ありげに腕踏みをし仁王立ちしているオーガと正面から対峙する。


「準備は良い?」

「おう、良いぞ」

「私も大丈夫よ」

「じゃぁ……始めようか」


 俺達は軽く息を吐き一拍間を開けた後、ユックリとした足取りでオーガに歩み寄っていく。

 そしてオーガの攻撃識別範囲に踏み入れた瞬間、微動だにせず仁王立ちしていたオーガが動きを見せた。






 腕組みを解いたオーガは自信ありげな雰囲気を醸し出しながら俺達を軽く睨みつけてくると、俺達から視線を外さずに威嚇する様に咆哮を上げた。ココまでは若干通常の動作と異なるモノの、戦闘に際し配下を召喚するためのテンプレ動作である。

 しかし、通常時と異なる異変は直ぐに起きた。


「……ん? 召喚陣が1つだけ?」

「ああ、しかも前に見た召喚陣より大きくないかアレ?」

「そうね。それに何だか、召喚陣のラインの発色も以前のモノより濃く無いかしら?」


 通常時と異なる動きを見せるオーガから少し距離を取り警戒を強めつつ、俺達は冷静に状況を分析していた。通常時と異なる大きさと発色を見せる召喚陣が1つ現れ、咆哮を上げ続けるオーガの顔に浮かぶ表情は勝利を確信する自信の色が深まっていった。

 どうやらオーガは配下の召喚数を絞り、強力な1体の配下を呼び出し俺達にぶつけるつもりのようだ。オーガの秘策というのは、量より質って事か……。


「何が出てくるんだろう?」

「さぁな? でも、俺達に勝てないと思って前回逃げたヤツが、今回は逃げずに俺達に勝てると自信を滲ませるヤツだからな。それなりに強力なモンスターだと思うぞ……油断はするなよ」

「ええ……出て来るわ」


 柊さんがいう様に、オーガが作りだした召喚陣からソレはユックリと姿を見せ始めた。背丈はオーガより少し大きい程度だが、その体は金属製の部分鎧で覆われており、右手には鉈の様な分厚い大剣、左手には二の腕まで覆い隠す金属製の分厚い丸盾が装備されている。

 そして何より、召喚されたモンスターの顔はオーガと同系列のモノだった。つまり召喚されたモンスターとは、オーガの上位種という事になるのかな?


「……大樹、アイツが何なのか分かるか?」

「ちょっと待って、【解析鑑定】っと……分かった。アイツはオーガソルジャー、近接物理戦闘に特化したオーガだね。見た目通り、オーガより高い身体能力で武器を駆使した戦闘を仕掛けてくるヤツっぽい」


 【解析鑑定】の結果を見るに、召喚したオーガより能力値が結構高くなっているっぽい。探索者基準のレベルでいえば、10くらい違っているんじゃないかな? まぁコレは基本スペックの話なので、技量しだいで更に優れた戦闘能力を発揮する可能性もある。

 寧ろその可能性を強く警戒した方が良いだろうな、態々ソルジャーという名称がついているのだから。


「オーガソルジャー……まさか新しい配下じゃなく上位種が出て来るとはな」


 裕二は少し唖然とした響きの籠った呟きを漏らしながら、俺の助言を聞きオーガソルジャーへの警戒度を上げながら鋭い眼差しを向けていた。無論、俺と柊さんも同様に警戒を強めている。

 そして上位種モンスターの出現に警戒する俺達を横目に、オーガとオーガソルジャーは低い呻きのような鳴き声をあげながら何か話している様な動きを見せている。少し面倒臭げな様子のオーガソルジャーと、腰低く下手に出た応対をしているオーガ。


「何かさ、揉めてない?」

「そうだな。これは……アレかな? 仕事に失敗し先輩に泣きついた後輩と、尻拭いに駆り出された先輩って構図だ。後輩の尻拭いに駆り出されるのは嫌だったけど上にいわれたから仕方なく出て来たって感じでさ、後輩も自分の失敗が原因だから先輩に平身低頭で謝り続けるしかなくって……」

「ちょっと広瀬君、変な例えを出さないでよ。そうとしか見えなくなってきたわ、あのオーガ達」


 柊さんは何と言い表せば良いのか分からないといった表情を浮かべ、俺と裕二は何故だか申し訳ない事をしたかな?といった謎の罪悪感が込み上げてきた。

 確かにあのオーガからしたら俺達って、空気が読めない場違いな迷惑客?になるのかな。初心者を想定し作られていた施設に、超上級者が何度も何度も通い場を荒らし景品?を搔っ攫っていく。景品を譲渡し示談交渉?をしたのにまた姿を見せたので、恥を忍んで上役を呼んで実力行使で対処に出たって感じか?


「何かさ、こう……居た堪れなくない?」

「ああ、まぁそうだな。だけど、ココに入った探索者の相手をするのが向こうの仕事?なんだしさ。うん、別に俺達は何も悪い事はしていないさ……多分な」

「ええ、私達は何も悪くないわ。ちゃんとココのルールにのっとって、オーガと戦おうとしているだけだもの。突破者が必ず回避ルートを選択しないといけない仕様になっていない以上は、突破者が何度も周回利用する事も想定の範囲内なのよ」


 居た堪れないといった表情を浮かべる俺と裕二に対し、柊さんは素知らぬ顔で問題無しと結論を出していた。まぁ確かに柊さんがいう様に問題はないんだろうけど、何ともスッキリとしない感じがする。

 そしてオーガ達の話も一段落したのか、オーガソルジャーは手にした鉈の様な大剣を俺達に向け構え鋭い視線を向けてきた。どうやら、いよいよ戦闘開始らしい。



 



 戦闘が始まる前、オーガは一歩後ろに下がりオーガソルジャーの援護に徹する構えを見せる。確かにこれまでの戦闘を鑑みれば、下手にオーガソルジャーと共に戦うより要所要所で援護に入る方が勝率は高まるだろうからな。同族モンスターでも基本スペックが大きく違えば、上手く連携を取って……というのも難しいのだろう。

 それに対し、俺達もオーガが動き出す前に対オーガ戦の方針を素早く決める。


「大樹、俺はオーガソルジャーとの主攻を担当するから、後ろのオーガの牽制をしつつ援護を頼む」

「了解。それじゃあ柊さんには全体の監視を頼むね」

「トラップの有無の確認や伏兵への警戒ね、任せて」


 コチラの方針も決まり、オーガソルジャーがユックリと動き出したのが見えたので、いよいよ戦闘が始まった。オーガソルジャーはオーガから俺達の実力?を聞いているのか、無闇矢鱈に近寄ってくる様な事はせずに慎重に間合いを詰めてくる。後ろで待機しているオーガも手に持つ棍棒を構え、隙を見つければ即座に援護に入るとばかりに鋭い眼差しを向けて来ていた。

 そして裕二も相手の出方を慎重に見定めながら動いているので、非常に静かな戦いが繰り広げられている。互いに少しづつ相手との間合いを慎重に詰めていき、対峙した当初の間合いから半分ほどまで距離を詰めた時、ついにオーガソルジャーは大きな動きを見せた。右手に持った大剣を大きく振り被り、裕二に切りかかろうとしてきたのだ。


「ガァッ!」


 しかし、切りかかってくると思われたオーガソルジャーが実際に取った動きは、正面に対峙していた裕二に向かって咆哮を上げ威嚇しつつ、左手に持った丸盾を体の前面に勢い良く突き出し殴りかかってきた。いわゆる、シールドバッシュという攻撃だ。切りかかる動作を囮に近距離で発した咆哮の威嚇で相手の動きを一瞬硬直させ、その隙を逃さずに盾と体格の優位を生かした相手を殴り倒す、か……中々戦い慣れた動きだな。

 しかし、相手が悪かったな。


「ふっ!」


 裕二は突き出された丸盾を咆哮の影響を感じさせない滑らかな動きで回避しつつ、シールドバッシュを回避されオーガソルジャーの死角になった左側面に体を滑り込ませた。攻撃を回避されたオーガソルジャーは目を見開き驚きの表情を浮かべ、自身の死角に滑り込む裕二の動きを視線で追う事しか出来ていない。突き出した丸盾は躱され、囮として振り上げた大剣は体勢的に無理があり間に合わない……詰みだ。

 因みに、後方でこの一連の動きを目したオーガは驚愕と絶望が入り混じった表情を浮かべていた。自信を持っていた上位種の助っ人という秘策が、呆気なく打ち砕かれる瞬間を目にするとなればそうなるか。


「よっと!」


 裕二は軽い掛け声を漏らしつつ、手に持つ小太刀の刃をオーガソルジャーの首の防具と防具の隙間へ滑り込ませ……易々とオーガソルジャーの頭を刎ね飛ばした。 

 うん。確かにオーガより戦い方は上手くなって戦闘能力は上がっているっぽいけど、まだまだ俺達にとって強敵といえる敵にはならないかな。


「お見事、どうだったオーガソルジャーの手応えは?」

「モンスターがフェイントを使ってくるのには驚いたけど、まぁ見ての通り問題は無かったな。それより、戦闘はまだ終わってないんだ、こういった話は戦闘後にな? 気を抜いてると怪我をするぞ」

「分かってるって。それに戦闘後とはいうけど……相手は戦意喪失しちゃってるっぽいしね」

「……そう、みたいだな」


 俺と裕二は警戒感を残しつつも何ともいえない視線をそちらに向けると、そこには完全に戦意を失い真っ白?に燃え尽きているオーガが立ち尽くしている姿があった。

 自信満々で強い先輩?に来てもらったのに、いつもと変わらない結末に……うん、ドンマイ。 
















期待していた援軍が一合も持たずに敗北……うん、残念。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ダンジョン経営もモンスター関係も大変ですね。。 知能や感情ある敵だからこそ出てくる気まずさ すごいです
なんかとても切なくなりました
次は今回のオーガパイセンの上司が来るんでしょうか(そして敢えなく瞬殺) …まあ、他の方にも言われている通りダンジョン最下層まで完全クリアしないと階層スキップが解放されない仕様にしたダンジョン創造主の…
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