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第503話 閉鎖環境に長期滞在か……

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 20階層を過ぎると活動している探索者の数も減り、次の階層への階段までの最短ルートを利用する人も疎らで大分先へ進みやすくなってきた。学生探索者の姿はあまり見られ無くなり始め、専業探索者…個人事業主系と企業系探索者が主に活動している感じだな。

 そして階段前広場には企業ロゴが描かれたテントが複数設置されており、企業所属の探索者達が組織的な動きで業務を行っている姿が見られる。

 

「この辺も大分様変わりしてきたね。上の方はまだ探索しているって感じだけど、何というか……作業場って感じがするよ」

「まぁこの辺の階層からは、企業系がメインで活動してるからな。抱えてる人材がそれなりに育ってきて、ドロップアイテムの収集に携われる数が揃って来たって事なんだろう。それに企業である以上、投資に対しそれなりの利益を出さないと後が続かなくなる。そうなると、活動している企業系探索者達も自然と効率的な動き……作業的なモノになってくるさ」

「そうね。そしてそういった動きをしている人が多くなれば、自然と周りもそういった動きになる。特に周りの空気を読んで周りに合わせがちな日本人の気質を思えば、ね?」


 まぁそうだろうね。大勢の人が同じようにしていると、何となくそうしないと……って考えがちになるよな。不思議な事にさ。

 まぁそういった空気が嫌な人は早々にこの辺の階層を立ち去るんだろうけど、実力が無いと先へ進むのも難しいだろうから……長時間の活動が難しい学生探索者とかはこの辺に来る前の階層で足が止まりそうだな。企業系探索者達が更に力を付けて、下の階層をメインに活動するようになるかしないとさ。


「まぁその分、最近はドロップアイテムの供給量も増えているんだけどね。いち消費者としてみれば良い事なんだろうけど、個人事業主系や学生探索者から見ると……ちょっと今のダンジョンに息苦しさを感じるかもしれないね」

「そうかもしれないな。長期間活動すればそれだけ効率的な動きのノウハウが溜まる分、中にはその効率が良い動き以外をする事を嫌う者もいるだろう。特に利益を優先しがちな企業からすれば、作業効率の悪化は収益減に直結するからな。邪魔者がいなければもっと稼げるのに……って感じでさ」


 何かそれ、どこかで聞いた事がある話だ。確かそれって結局、威張り散らす古参を嫌って新規がいなくなり衰退したとかってオチの話じゃ無かったかな? 排他的になり過ぎた結果、大本がダメになったって。 

 うん、何時になるかは分からないけど、何れは企業系と個人系の探索者をそれぞれ別のダンジョンに分けた方が良いかもしれないな、ダンジョン業界の維持を考えると。


「間口広く一般公開されているダンジョンなのだから、排他的な雰囲気にならないと良いんだけどね。まぁそれより、道の先の方にモンスターが居そうな気配があるんだけど……どうする? 倒す? 迂回する?」


 俺は通路の先の方を指さしながら、裕二と柊さんにどう対処しようと相談する。

 最短ルート上に居る人が減るという事は、その分モンスターと遭遇する確率が上がるという事だ。これまでは先に進んでいた探索者パーティーが倒してくれていたお陰で遭遇する事は無かったのだが、運悪く?本日最初のモンスターと遭遇する事になった。


「迂回は面倒だな、倒すで良いんじゃないか? ここら辺に出てくるモンスターなら、たいして時間を掛ける事なく倒せるんだしさ」

「そうね、倒して進みましょう。もしかしたら、良いモノが出るかもしれないんだし」

「じゃぁ、倒してから先に進むとしようか」


 意見が一致した事で倒すという事で話は決まり、本日最初のモンスターと戦う事となった。






 方針も決まり特に緊張することもなく道を進むと、俺達の前に察知した気配と違わずモンスターが出現した。出現したモンスターはミノタウロスが2体、威嚇する様な唸り声をあげながら俺達を睨みつけてくる。どうやら俺達の事を敵と認識したらしい。

 そして2体のミノタウロスを前にし俺達は、警戒をしつつも歩みを止めずにユックリと間合いを詰めて行く。


「手早く済ませて先に進もう、今日の探索は30階からって感じなんだしさ」

「ああ、さっさと片付けて先に進むとしよう」


 俺と裕二はそれぞれ自身の得物を抜き放ち、軽く目配せをし目標の割りふりを確認する。

 因みに柊さんは万が一の際のバックアップ担当なので、周辺を警戒しつつ少し後ろで待機している。


「よっ」

「はっ」


 俺と裕二は唸り声をあげ威嚇しているミノタウロスが余計な動きを見せる前に、一気に間合いを詰め手にした得物をミノタウロスの首目掛けて振り抜く。ミノタウロスには俺と裕二の動きが見えていなかったのか、唸り声をあげた態勢のまま自分の首に迫る刃を避ける動作を見せずにいた。

 結果、俺と裕二の振るった刃は何の抵抗も受ける事なく、正確にミノタウロスの首を切り裂き跳ね飛ばす。一般人や低レベルの探索者が傍から見ていたら、何時の間にか俺と裕二がミノタウロスの後ろに移動していて、ミノタウロスの頭が宙を舞っていた様に見えていただろうな。

 

「良し、終了っと」

「まっ、こんなものだろな」


 俺と裕二は首を撥ねられ血を吹き出しながら倒れるミノタウロスから血潮を被る事を避けるために距離を取りつつ、洗浄スキルを使い得物に付着した血や脂の処理をおこなっていた。汚れが残っていると、得物の切れ味が落ちるからな。

 そして他にモンスターが潜んでいないことを確認してから、得物を収めて戦果の確認を行う。


「うーん、残念。普通のお肉だね」

「こっちはコアクリスタルだな、まぁ何もでないよりはマシなんだろうけど」


 空振りでこそなかったが、余り良いドロップでは無かった。ミノ肉の方は今でもそれなりの買取価格だが、コアクリスタルの方は本当に最低限の買い取り額だからな。ミノ肉自体は美味しいので、換金せずにお土産行きかな?


「お疲れ様二人とも、ドロップアイテムの方はレア物が出なくて残念だったわね」

「まぁ、何も無いよりはマシかな。それより裕二、荷物は空間収納の方に入れておくから」

「おう、頼むな」


 そして俺は裕二からドロップアイテムを受け取り、手早く空間収納の方に仕舞った。預かったものは帰る時に、偽装用に持ってきている背中のバッグに移せばいいからな。まだ序盤の行き道で多くのドロップアイテムを持っていたら、重心位置が動いたりして結構邪魔になる。

 そして一通り後始末を済ませた後、俺達は再びダンジョンの奥へと進み始めた。


「この先はちょこちょこモンスターと遭遇するだろうから、適当に相手をしながら進もう」

「そうだな。他の探索者達が戦っているとかでなければ、倒して進むのが早いだろう。もし見える範囲に先客がいたら、危ない場面でない限りは迂回しよう。倒すのを待っていたら、時間が掛かるだろうからな」

「そうね、そうしましょう。どんどん先に進まないと、探索に使える時間が無くなってしまうわ」


 基本方針は接敵したら倒し、先客がいれば援護の有無を確認した後に回避だな。先を急いでいるとはいえ、流石に見捨てるのは無しだ。

 そして方針が決まった俺達は、軽いジョギング程度のペースでダンジョンの奥へと進み始めた。まぁ軽いジョギング程度といえど、高レベルの俺達がやれば陸上選手の短距離走並みのペースになるんだけどさ。






 25階層を通過し30階層の近くまで下りてくると、学生探索者はおらず企業系探索者の数も目に見えて減ってくる。そして何より階層全体に張り詰めた緊張感や疲労感、倦怠感や不快感といった負の雰囲気がほのかに漂っていた。

 階段前広場にはこれまでの階層にもあったような企業ロゴの入ったテントがいくつも設置されているのだ、利用している探索者達の顔にあまり笑顔が浮かんでいないように感じる。 


「何かさ、ココこら辺の階層って雰囲気が淀んでるように感じない? 前に来た時より人は増えてるけど、活気が無いというか……」

「そうだな……何となく暗い顔してる人が多いな」

「そうね……ちょっと嫌な感じがするわ」


 広場を見渡すと元気な人も多いのだが、負のオーラを纏っている人が2割3割混じっているといった感じだ。コレは……企業系探索者がやっている、長期間にわたる滞在型探索の弊害かな? 確か長期間閉鎖環境にいるとストレスで精神や体調を崩す者が出る、といったのを聞いた事がある。それに当てはめると、ダンジョン内での長期滞在は、かなりストレスを溜めやすい環境だろう。

 元々民間の探索者というのは、学生や一般社会人出身者の数が多い。特殊環境下で過ごす訓練や検査を事前に行っていた、等という者はまずいない。そんな者達を探索者としての力があるからと、事前に大した訓練や検査を施すことなくダンジョンに長期間放り込んでいれば……まぁ適応できない者が出るは当然だろうな。


「ダンジョン探索が順調に進んでいるのは良い事なんだろうけど、コレはちょっと拙いんじゃないかな? このままの体制でダンジョン企業が探索を進めていたらその内、所属している探索者達の不満が爆発するんじゃ……」

「その可能性は無くも無いな。ダンジョン企業はより多くの利益を出そうと、効率重視の今の体制を整えたんだろうけど……時期尚早というより準備不足だったんだろうな。探索者達がレベルアップの恩恵で超人化しているからこそ、元々はただの一般人だったという視点を見落としているんじゃないかな? ゆっくり時間を掛けて、ストレスを溜めにくい体制を整えた方が良いと思う」

「そうね。ストレスを溜め込み過ぎると人間関係もギクシャクし出すし、こんな人間関係の固まった閉鎖環境下だとちょっとしたトラブルでも大きな争いに繋がって……なんてことが起きるかもしれないわ」


 その上、企業系探索者達がテントを張っている階段前広場はセーフエリアと言う訳では無いので、モンスターがいつ襲撃してくるかも分からないので常時最低限の警戒を続けなくてはいけないというストレスが溜まる環境である。

 確かにローテーションで定期的に交代要員と仕事を替わるのだろうが、如何に探索者として力はあってもこの環境に慣れない者は慣れないだろうな。寧ろこの辺の階層で活動出来るレベルの探索者が、暴発寸前までストレスを溜めやすい環境下に置かれているという事の方が怖い。

 

「確かにそんな事は起きて欲しくないね。でも、どうやったら改善出来るかといわれると……」

「休憩時間とかの自由時間に気分転換できる何かがあれば良いんだろうけど……ダンジョン内だからな」

「30階層以降の草原地帯や森林地帯で気分転換、ってのは無理でしょうね。もっと企業系探索者全体の平均レベルが上がれば話も別なんでしょうけど……」


 柊さんの提案は将来的には使えるかもしれないが、現状での採用は難しいだろうな。草原階層も森林階層も、洞窟通路メインの30階層より上の階層と比べれば遥かに明るく開放感がある。気分転換の場として使えるとは思うが、比例して出現するモンスターの強さも厄介さも増すからな。そのモンスター達との戦いに苦戦するレベルの探索者達では、到底気分転換の場としては使えない。

 それはそうだ。警戒していても命の危機にさらされる場で、誰が気を抜いて気分転換が出来るんだという話である。


「何か良い解決策があれば良いんだけどね」


 俺達ではどうやって解決すれば良いのかアイディアは出てこず、若干申し訳ない気持ちを抱きつつ階段前広場を後にする事しか出来なかった。






 30階層、前回来た時はオーガにまさかの対応をされた曰くある階層である。階層の守護を放棄し、ドロップアイテムだけを残し出て来ないとは……思ってもみなかった対応だった。

 流石にアレには、3人揃って唖然とした記憶がある。何というか、バツの悪い微妙な気持ちにもなったな。


「……居るかな?」

「……どうだろうな?」

「居て欲しいような居て欲しくないような……微妙な気持ちね」


 せっかく上級回復薬を合法的に所有できる機会である。その為にはショートカットはせずに、オーガと戦ったという証拠が必要になるのだ。

 なぜなら、前回までは30階層の階段前広場に企業系探索者達がテントを張っていなかったのだが、現在は1つ設置されていた。多分30階層より下の階層を探索するためのベースキャンプにしているのだろう。草原階層は長草のせいで視認性が悪い上、火気厳禁の環境だからな。ベースキャンプを設置するには向かない階層だ。お陰で監視者とはいわないが、オーガ戦を行ったか否かを証言する者がいる状況が出来てしまっている。

 

「……いこうか」

「ああ」

「そうね」


 いささか気は進まないが、俺達は扉にコアクリスタルを嵌めて扉を開き広間の中へと足を進めた。

















閉鎖環境適用訓練ってのが、宇宙飛行士の試験とかにもあるとかなんとか?


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
閉鎖環境試験 宇宙兄弟に詳しく載ってた記憶あるわ。
もともと仲良しグループのお泊りじゃなくて、 親密度関係なく同僚との数日同室お泊り 結構きついですね はたから少し見て雰囲気悪しが伝わるなら、効率悪いとなりすぐに改善されるといいですが。。 どうなるか楽…
使ってないけど肉ナイフ(剥ぎ取りナイフ)ってどうなったんだっけ? ミノなら肉確定にする価値あると思うんですけど? 増量2頭分なら数万はいきそうだし単純に旨いし、あと剥ぎ取りナイフって肉限定だけどモンハ…
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