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朝起きたらダンジョンが出現していた日常について……  作者: ポンポコ狸
第5章 ダンジョン中層階に向けて
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第48話 起こるべくして起きた

お気に入り9360超、PV 2980000超、ジャンル別日刊16位、応援ありがとうございます。

 

 

 

 



 美佳の入学式が終わった翌週、朝の報道番組でそのニュースは流れた。

 

『昨日未明、〇県〇市のダンジョンで、未成年探索者が多数のモンスターに襲われ死亡する事故が発生しました』

『怪我を負った同パーティーの未成年探索者に救援を求められたDPが現場に向かった所、モンスターに襲われている未成年探索者を確認したとの事です。救助後、すぐに病院に搬送されましたが搬送後まもなく死亡が確認されました』

『被害者の未成年探索者は、今春探索者になったばかりで、今回が初めてのダンジョン探索だったそうです』

『現在、DPと警察は共同で現場を検証し事故の経緯を確認しています』

『では、次のニュースです』


 家族揃って朝食を取っていた食卓は、水を打った様に静まり返っていた。 

 皆手に持った箸の動きを止め、無言のまま顔を動かし視線を俺に向けてくる。その瞳には、不安の色が色濃く浮かんでいた。

 暫く沈黙が続いた後、美佳が搾り出すように俺に問いかけてくる。


「お兄ちゃん。今のニュース……」

「……ああ。近所にあるダンジョンでの出来事だな」

「そう……だよね」


 俺が肯定すると、美佳は何か言おうとしたが再び黙り込む。美佳が黙り込むと、今度は父さんが話しかけてきた。   


「大樹。今更の様だが、お前達は大丈夫なのか?」

「大丈夫って……モンスターと戦う事?」

「ああ、そうだ。お前の探索者としての稼ぎを見ると大丈夫だろうとは思っているが、こんな事件報道があると流石に心配だ。ダンジョンの中で何があったかと言うのは、お前から話を聞くしか知らないからな。危ない事はしていないよな?」

「危ない事の定義が難しいけど、取り敢えず無茶な事はしていないよ父さん。不測の事態が起きても、余裕を持って対処出来るだけの体制は整えてるから」

「……そうか。内情を良く知らない以上、父さんがこれ以上何か言う事はしないが、無理だけはするなよ? 大怪我を負ったり、死んだりしたら元も子もないんだからな?」

「わかったよ、父さん」

  

 父さんはまだ何か言いたそうではあるが、取り敢えず納得したのか口を閉じた。 

 そして、最後に母さんが口を開く。


「大樹」

「……何、母さん」

「私達が探索者をやめなさいと言ったら、貴方辞める?」


 母さんが真剣な眼差しで、俺に探索者を辞めないかと問い掛けてくる。

 確かに、俺が探索者を続けている限り、ニュースで報道されているような危険は常に付きまとう。親としたら子供にそんな危険な事はさせたくないだろうな。

 でも……。 


「……辞めないよ。少なくとも今すぐにはね」

「……そう」

「ごめん、母さん。心配かけて」


 俺の返答に、母さんは残念そうな表情を浮かべている。


「いいのよ、貴方が自分でそうと決めた事なら」

「……ありがとう」

「でも、怪我には十分に注意しなさい。もし一度でも、在学中に大怪我をしたら貴方が何と言っても探索者を辞めさせるわよ?」

「……ああ、うん。分かった」 


 何時の間にか流されて、母さんに妙な約束させられていた。 

 でも、まぁ……回復薬がある以上。即死でもしない限り、大怪我を負ったままダンジョン外に出る事はないかな?

 って……あれ?もしかして、回復薬があるダンジョン探索ってDead() or Alive()?


「じゃぁ、話はここまでね。さっ、早く朝ごはん食べちゃいなさい。みんな遅刻するわよ?」 


 母さんの声で俺達3人はハッとし、TV画面の時刻表示を見てみると時間がかなり進んでいた。重い話のせいで食欲がわかないが、俺達は朝食を胃の中に流し込んだ。

  

  

 

 

 

 

 

 朝食を手早く食べた後、俺は美佳と一緒に学校への通学路を歩いている。高校の真新しい制服を着た美佳は背中まで伸びていたセミロングの髪をバッサリと切り、ショートボブに髪型を変えていた。美佳が言う所の高校デビューでのイメチェンの成果だろう。何処と無く垢抜けた雰囲気がある。

 途中で別れていた交差点を越え、高校に一緒に登校する様になってからは美佳はいつも嬉しそうにしていたのだが、今日に限っては表情に影があった。

 まぁ、朝からあんな話をすれば当然か。


「まぁ、なんだ? 俺達はそう簡単に怪我をしたりしないから、そんなに心配するなよ」

「……でも、お兄ちゃん」

「実際、今まで俺達が怪我を負った姿を見た事あるか? 無いだろ?」

「……うん。でも、やっぱり心配だよ」


 美佳が心配そうな表情を浮かべながら、俺の顔を下から上目遣いに覗き込んでくる。

 ……くっ!我が妹ながら、中々の破壊力だな!

 俺はそんな感情を表情には出さず、落ち付かせようと美佳の頭を軽く撫でてやった。美佳は何処と無く気持ちよさそうに目を細め、俺のナデナデ行為を受け入れている。

 俺……ナデポスキルって持っていたっけ?

 俺が自分の謎技能に首を傾げていると、後ろから沙織ちゃんが声をかけてきた。


「おはようございます、お兄さん。美佳ちゃんも、おはよう」

「ああ、沙織ちゃん。おはよう」

「ん? ……あっ、沙織ちゃんだ。おはよう」


 俺と美佳は、沙織ちゃんに朝の挨拶を返す。って、おい美佳。お前……顔がふやけきってるぞ?

 そんな美佳に呆れ気味の表情と眼差しを送っているのは、美佳と同じデザインの制服を着た沙織ちゃんだ。沙織ちゃんも高校デビューをきっかけにツインテールだった髪型をストレートロングに変えたらしく、子供っぽさが抜けていた。


「気持ちよさそうだね、美佳ちゃん? でも、なんか顔色が少し悪いよ?」


 沙織ちゃんの指摘に、ふやけていた美佳の顔が陰る。


「ちょっと……今朝のニュースがね」

「ああ、あの県内の未成年探索者が亡くなったって言うニュース……」

「うん。お兄ちゃんは大丈夫だって言うんだけど……やっぱり心配だよ」


 俯く美佳の姿を見て、沙織ちゃんが少し非難的な眼差しで俺の顔を見てくる。


「……お兄さん?」

「いや、そんな目で見られると困るんだけど……。本当に無茶はしていないから、大丈夫……って言っても信じてくれないよね?」

「はい。何回かお兄さん達のダンジョン内での映像を見せてもらっていますから、無茶はしていないと言う事は分かっているつもりです。でも……」

「あんな、敵意満々で襲いかかってくるモンスターが出てくるんだよ? 一歩間違ったらって思うと……」


 二人には何度か空間収納等の隠し事が映らない程度の、ダンジョン戦闘の映像は見せてある。

 身に着けたアクションカム目線なので、モンスターが敵意と殺意を持って俺達に襲いかかってくる光景がマジマジと映っている映像だ。確かにあれを見れば、俺達にとっての簡単な対モンスター戦でも素人目には危険危機一髪映像だな。 


「心配してくれているのは、十二分に分かったよ。でも、本当に大丈夫だから。今まで俺達が一度でも怪我らしい怪我を負って帰ってきた事があったか?」

「ですが、お兄さん。回復薬を使えば、簡単な怪我なら消えますよね?」


 沙織ちゃん、中々的確な指摘をしてくるな……。 

 でも……。


「確かにそうだけど……。なぁ、美佳?」

「……何?」

「母さんが俺の洗濯物に、血や傷があるって言った事あるか?」

「……そう言えば、聞いた事無い」

「そうだろ? 血を流す怪我を負っていたら、多少なりとも衣服に痕跡があるさ。それに、朝出て行った時に着ていた服と違う服で帰ってきた事もないしね」


 前は汚れたらランドリーで洗って帰ってきていたし、最近では柊さんの洗浄スキルのおかげで新品同然に綺麗だ。血染のまま持ち帰った事はないので、母さんに何か言われた事はない。 


「だからさ。心配するなと口が裂けても言えないけど、大怪我を負うような事はしないって約束するよ」

「……ほんと?」

「ああ。約束する」

「……うん」


 納得してくれたのか、美佳の陰っていた表情が少し良くなる。沙織ちゃんも、取り敢えず納得してくれたのか、それ以上の指摘はしてこなかった。

 しかし……俺が大怪我を負う様な敵って、低層階付近に居るのかな?無論、油断しない事が前提だけどさ。


 

 

 

 

 

 

 美佳達と昇降口で別れ、漸く通い慣れた感じがし始めた新教室に入る。既にそれなりの人数が登校し、教室の中は生徒達の雑談で賑わっていた。

 軽く耳にした限りにおいて、その話題は今朝のニュースに関するものが多い。


「裕二と柊さんは、まだ登校してないのか……」


 見慣れた人影はがまだ教室に居ないので、俺は取り敢えず鞄の中身を取り出し机に移す作業を行う。

 その作業をしていると、クラス替えで新しく知り合った男子生徒、重盛響輝(しげもり ひびき)が話しかけて来た。


「おはよう、九重」

「ああ、おはよう」

「なぁなぁ、朝のニュース見たか?」

「ニュース番組は見てるけど、どのニュースの事だ?」


 重盛の言うニュースに心当たりはあるけど、主語が抜けているので一応聞いておく。


「ダンジョンで未成年の新人探索者が死んだ、って言うニュースだよ」

「ああ、そのニュースね。見たぞ」

「去年、ダンジョンの一般開放がされた時から今まで、こんな事一件も起きなかったのにな。何で今更、こんな事が起きたんだ?」

 

 重盛の言う事は、尤もな事だろう。

 理由は恐らく……。


「まっ、起こるべくして起きた事故……って事なんだろうな」

「起こるべくして起きた? どう言う意味だ?」

「寧ろ、今まで一度もこの手の事故が起きていなかった事の方が、ある意味おかしかったんだよ。狩猟経験もない様な一般人が、行き成りモンスター……生き物を躊躇なく殺せる訳がないだろ?」

「いや、まぁ、それはそうだろうけど……」

「ソレが出来たのは、同一階層に過剰なまでに探索者が犇めき合った結果、モンスターは狩る物って言う場の雰囲気に流されたからだろさ」

「場の雰囲気?」

「経験ないか? 後で冷静になれば、何であんな事をやったんだって後悔するアレ」


 コンサートや祭り等のイベント特有の熱狂した雰囲気に飲まれ、普段やらない様な事を躊躇無くやるアレだ。勝利を記念し橋から川に飛び込むアレとか……まぁ色々。


「……」

「そんな雰囲気に当てられ勢いに流され1回でもモンスター討伐を経験すれば、2回目以降はそれほど躊躇はしなくなるさ」


 所謂、殺しの経験を積むと言うヤツだな。

 そこまで言うと、重盛の顔色が若干悪くなる。

 

「だったらなんで、ニュースの新人は死んだって言うんだ?」

「前と今だと、ダンジョンの状況が違うからな。規制前は探索者が同階層に過密状態で居たみたいだけど、今のダンジョンは入場規制の御陰で各階層に探索者がそれなりに散らばっているらしい。そんな状況で、規制前の熱狂にほだされる雰囲気は作れないさ。その新人探索者達はある意味、素面の状態でモンスターを殺すって言う難事に直面したと言う事だよ。まぁ十中八九、モンスター討伐を躊躇して返り討ちにあったって言う所じゃないか?」

「……」

「それにニュースで言ってたけど、4月に変わって直ぐに探索者資格を取ったって言ってたから、新人同士でパーティーを組んでいたんじゃないのか? パーティー制度の御陰で頭数は揃えていたんだろうけど、ダンジョン経験者が一人も含まれていないんじゃ……文字通り、羊の群れを狼の前に放り出したに等しいな」

「……」


 俺の話が進むにつれ、重盛の顔色は次第に悪くなっていく。

 大丈夫か、コイツ? 


「おい、大丈夫か?」

「……ああ。ありがとうな、九重。何となく、理由が分かったよ。じゃぁ俺、行くわ」

「あ、ああ」


 軽く手を挙げながら、重盛が俺の前から去っていった。自分から話を振ってきたのに、変な奴だな……。

 重盛が去った数分後、裕二が教室に入ってきた。


「おはよう、裕二」

「ああ、大樹か。おはよう。早いな」

「まぁな」


 軽く挨拶を交わした後、裕二は自分の机の上にカバンを置きに行く。

 少し離れた位置にある机に鞄を置いた裕二が戻って来ると、まだ空いている俺の前の席に座る。 

 

「そう言えば大樹。お前、ニュース見たか?」

「未成年探索者の?」

「ああ、それだ」

「その話題なら、さっきまで重盛の奴と話してたよ」

「重盛?」


 裕二が首を左に振り、重盛の姿を見る。

 ……って。


「アイツ、どうしたんだ? 無気力気味に、机に突っ伏してるぞ?」

「さぁ? ああ、さっき顔色が少し悪かったから……寝不足だったんじゃないか?」

「? そうか」


 机に突っ伏す重盛の姿に興味がなくなったのか、裕二は顔を正面に戻す。


「で、ニュース報道の後、お前の方はどうだった? 家族に止められなかったか?」

「止められ……はしなかったな。でもまぁ、怪我には十分注意しろって言われた」

「そうか。俺の所も心配はされたけど、特に進退については何も言われなかったな」


 まぁ裕二の場合は元々、重蔵さんが実践経験を積んでこいってダンジョンに放り込まれた立場だからな。心配はしても止められはしないか。

 って、そう言えば……武道家の家系でもない俺の家族は、何で俺に探索者を辞めろって言わなかったんだ?

父さんは黙認だし、母さんも条件付きとは言え許可、美佳も何だかんだで納得していたし……アレ?これは……信頼されているって思えばいいのだろうか? ……深く考える事はやめとこう。

 そして登校時間ギリギリ、滑り込むようにして小走りの柊さんが教室に入って来た。その顔は一見無表情に見えるが、苛立ちと悲哀が見え隠れしていた。

 何があったんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主人公達と一般生徒との認識の違いが、浮き彫りになる形になる会話でした。




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― 新着の感想 ―
心配するのが遅いというかまぁマスコミの印象操作もあったろうからなぁ。 ダンジョン潜ってない人は基本的にゲームと同じようにしか考えてないのがね。
あ〜これは探索者やってくれって言い出した親御さんが今更ダメって言い出したパターンだな というか重盛くんは身内が……。ご愁傷様 原作だと妹はダンジョン探索肯定派じゃないのかな?動画見たあと気落ちして辞め…
[一言] 女の子の親御さんはダンジョン禁止令出しそうだけどね。 もしそうならもっと早くに止めるべきだよ、今更かよ柊パパママ←って気分になるw
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