第497話 認証検査に合格す
お気に入り36840超、PV110350000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
本認証検査から1週間ほど過ぎた頃、湯田さんから結果を知らせる書類が届いたと連絡があり、急遽学校終わりの放課後に向かう事になった。制服のまま直接向かおうかとも思ったが、流石に拙いだろうと俺達は手早く制服から私服へ着替えを済ませ、期待と緊張が入り混じった面持ちを浮かべながら桐谷不動産へと向かう。
この手の検査で一発合格は難しいかもと思いつつも、何かの偶然で一発合格しているかもという期待を胸に抱きつつ。
「受かってると良いんだけど……やっぱり一発合格ってのは難しいだろうな」
「そうかも。事前に確認や改修しておいた方が良いポイントは事前に聞いていたけど、この手の検査って重箱の隅をつついてダメ出しを繰り返す……ってイメージがあるんだよね」
「そうね。実際の経験は今回が初めてだけど、そういったイメージがあるのってニュースやドラマの影響かしら?」
そしてスムーズに一発合格すると良いんだけどなと愚痴を漏らしながら歩いていると、何時の間にか桐谷不動産の前に到着していた。
俺達は顔を見合わせた後、意を決し階段を上り始める。
「いい結果を聞けると良いんだけどな……」
思わずといった感じで、事務所の扉のノブに手が触れた裕二の口から内心が漏れる。一発合格なら話は早いのだが、不合格なら改善し再検査して結果が出るまでに更に半月以上の時間がかかるだろうからな。
運が悪ければ年内合格は厳しい……といった事態にまでなりかねないな、といった不安が脳裏をよぎる。
「お邪魔します、広瀬です。先日の検査の結果が出たと連絡を頂いたので来ました」
裕二の声が事務所の中に響き、暫くすると部屋の奥から人が椅子から立ち上がる音が聞こえた。
そして部屋の奥から顔を見せたのは、俺達に検査結果が届いたと連絡をくれた湯田さんである。
「いらっしゃいませ、学校がある平日に呼び出す形になって申し訳ない」
湯田さんは少し申し訳なさげな表情を浮かべつつ、軽く頭を下げながら俺達に来店の挨拶をする。
「いえいえ、お気遣いなく。自分達も検査結果が届くのを、一日千秋の思いで待ってましたからね。結果が出たというのなら、出来るだけ早くに内容を知りたいというものですよ」
「そうですよ湯田さん。検査結果が書かれた書類が届いているのに、週末まで待つというのは結果が気になって仕事……学業が手に付きませんって」
「私も例え検査結果が残念なモノだったとしても、早く結果を知りたいです。結果を知る事が出来れば、落ち込むなり奮起するなり次の動きが取れますからね」
小さく笑みを浮かべながら俺達は湯田さんに、自分達も早く結果を聞きたいので呼び出しは問題ないと返事をした。実際問題、柊さんが言う様に結果の合否が分からないと次の動きが取れないからな。
賃貸契約の締結か、再度岬物件の改修作業か……合否が分からないと動きようがない。
「そう言って貰えると助かります。それではダンジョン協会から届いた書類の方をご用意しますので、応接席のソファーに座ってお待ちください」
「分かりました」
俺達は湯田さんに促されるまま、応接席のソファーに腰を下ろした。
「あっそうそう、飲み物はいつものでよろしいですか?」
「はい、ありがとうございます。いつものヤツでよろしくお願いします」
「それでは、少々お待ちください」
軽く会釈をした後、湯田さんは店舗を後にし事務所へと移動していった。
そして店舗を出ていく湯田さんの後ろ姿を見送った後、俺達は小さく息を吐き安堵した表情を浮かべる。
「湯田さんの様子を見るに、そう悪い結果にはなっていないようだな」
「そうだね。合格してるかは分からないけど、手酷い不合格を突きつけられたって事はなさそうかな?」
「湯田さん達不動産会社基準で、思っていたより修正点が少なかった……って感じかもしれないわよ?」
まあ不合格だったとしても、大規模な改修が必要というレベルの不合格ではなさそうだ。
「まぁどちらにしても、認証を得るにはもう少し時間が掛かりそうだな。年内に認証が貰えれば御の字、って感じになるのかな……」
「流石に認証を得るのに、あと数ヶ月は掛かるってのはきついよ。それだけズレ込んだら、認証を得た後に賃貸契約を交わして施設整備を……うん、来年の春前に訓練施設として稼働できるようになれば大成功って言われても、素直に喜べない事態じゃないかな?」
「そうね。来年になったら私達も本格的に進路について考えないといけなくなるから、進学にしろ就職にしろ今ほど探索者活動に時間は注げなくなるかもしれないわ」
出来るだけ早めにスキル使用認証を得られないと、学生生活と探索者活動を両立するのは中々厳しい事になりそうだ。認証さえ得られれば、施設整備の体でスキルの練習が出来るんだけどな。
そんな事を3人で話し合って時間を潰していると、扉の外に湯田さんが人数分の飲み物とダンジョン協会から送られてきた試験結果が入った書類を持って戻って来ていた。
湯田さんは持ってきた飲み物を配った後、俺達の対面のソファーに腰を下ろした。
「お待たせしました、コチラがダンジョン協会から送られてきた認証検査の結果になります」
「ありがとうございます」
湯田さんがテーブルの上に置いた長封筒には、ダンジョン協会の文字とロゴマークが書かれていた。封筒の端がハサミで切られ開封されている跡があるので、検査の結果自体は湯田さんも把握しているらしい。
その上で湯田さんが結果を口にしないのは、はてさて良い知らせなのか悪い知らせなのか。
「拝見させてもらいます」
裕二は封筒から3つ折りになった書類を取り出し、一拍間をおいてから開き中身を確認する。
そして素早く書類に目を通した裕二は、少し目を見開き驚きの表情を浮かべながら湯田さんに顔を向けた。
「これ、本当ですか? 一発合格だなんて……」
「「ええっ!?」」
思わぬ裕二の言葉に、俺と柊さんは思わず驚きの声を上げる。
それに対して湯田さんは、俺達の反応に同感だとばかりに軽く頷いた後に口を開く。
「はい。私達にとっても驚く出来事なのですが、どうやら本当に一発で合格を貰えたようです。念の為、ダンジョン協会の方に電話をかけてみたのですが、結果は変わらず合格との事でした」
「じゃぁ、本当に一発合格したんだ……」
湯田さんの念入りに確認をした上での合格を断言する発言に、俺達3人は思わず呆気にとられたような表情を浮かべながら全身の力が抜ける感覚を覚えた。
青天の霹靂、まさかの出来事である。良くて改善点の少ない不合格だと思っていたのに、まさかの認証検査一発合格である。誰も一発合格できると思っていなかったところにコレだ、ただただ驚く事しか出来ない。
「勿論、満点合格という訳ではありません。書類の方には各種試験項目の評価も同封されてますので、そちらの方にも目を通してください」
同封されている別紙の書類を見る様にと湯田さんに促され、未だ心ココに在らずといった様子の裕二は、ユックリとした動きで同封されている試験評価が記載された書類に目を通していく。
そして俺と柊さんも首を伸ばし、裕二の手元の書類を覗き込む。気になって仕方がないからな。
「結構な数の検査項目があったんですね。ええっと? 評価方法は優、良、可、不可の4段階と」
検査評価の書類には沢山の検査項目が並んでおり、各項目に対し4段階の評価がなされている。注意事項に記載されている書類の見方説明によると、不可の評価が一項目でもあると認証検査は不合格になっていたらしい。
一項目落としただけで不合格になるのは厳しいは思うけど、施設利用者や施設周辺住民の安全性を考えれば厳しくなるのも当然かなとも思った。
「不可は即改善、可は要改善、良は改善するのが望ましい、優は問題無しといった感じみたいだな」
「そうみたいだね。俺達の所は……良評価が一番多い感じだね」
「そうだけど、可の評価も結構数が多いわ。特に……事前に指摘されて応急処置を施した場所なんかは、可評価ばかりよ。やっぱり応急処置だけじゃぁ、万全の体制とはいえないわよね」
柊さんの言う様に、可評価を貰った場所を見てみると、応急処置で乗り切った場所の大半が要改善を求められていた。他にもいくつか可評価を貰った場所はあるが、可評価が付いている部分は事前検査で河北さんに指摘されていた部分ばかりだ。
コレは……偶然かな?
「可評価が付いた部分については、今後長期計画として改善していった方が良いでしょうね。一度に改善するには時間も費用も掛かりますから」
「そうですね。外周フェンスも可評価を貰っていますけど、長さが長さですから直ぐに全面張替えってのは無理かなと」
「そうですよね。新設するための費用や古いフェンスの撤去費を考えると、粗く見積もっても数百万から1千万近くは掛かるでしょうから……」
「あそこ、広いですからね」
穴埋めの応急処置に使う材料費だけでも、20万円ぐらいかかったからな。全面張替えともなれば、幾らかかるのか想像も出来ない。
湯田さんが言うように、気長に改修計画を立てるのが無難だろうな。
「まぁ改修を必要とする部分は多いですが、承認検査自体は合格しました。ですので、まずは訓練施設でのスキル使用申請を行おうと思いますが……よろしいですか? 恐らく申請を出せば、必要書類を提出してから1,2週間で正式にスキル使用認証を得られると思います」
「「「おおっ!」」」
湯田さんから告げられた思わぬ朗報に、俺達3人は喜びの声を上げる。長期戦を覚悟し今年一杯で認証検査に通れば……と思っていたのに、最速1週間でスキル使用認証を取れるとは!
俺達は互いに嬉し気な表情を顔に浮かべながら、小さくガッツポーズをした。
「認証申請に必要な書類はコチラで用意しているので、皆さんの了承が得られてから提出しようと思っていました。申し込まれるのでしたら、コチラの申請書に必要項目を記入してください」
「おあずかりします」
湯田さんが差し出してきたスキル使用認証申し込み書を受け取り、俺達は素早く内容に目を通し確認していく。
「俺達が記入するのは、名前と探索者資格の固有番号だけですね」
「他の項目については、コチラで埋めておきました。基本的に申請する土地の情報についての項目でしたから」
「ありがとうございます。ええっと……記入内容に間違いはなさそうですね」
桐谷不動産の仕事を信用していないわけでは無いが、誤記入や意図せぬ内容が書かれていないかを確認するのは当然だ。寧ろ何の確認もせず書類に記入した方が、湯田さんも困るだろうな。
そして3人で書類に目を通した後、問題ないと判断したので必要事項を埋めていった。
「これで良しっと、湯田さんお願いします」
「はい……確かに受け取りました。ではこちらでスキル使用認証申請の方を、申し込ませていただきます」
湯田さんは受け取った書類を確認した後、クリアファイルに挟んだ。
いやはや、認証を得ようと苦労したが、最後の申請書作成は結構あっさりしたものだな。
申請書関係が一通り終わったころ、店舗の入り口が開き桐谷さんが俺達に姿を見せた。
事務仕事を片付けていると聞いたので、急いで一段落付けて俺達に顔を見せにきてくれたようだ。
「遅くなって申し訳ない、少々仕事が立て込んでしまって」
「いえ、お気になさらないでください。自分達が急遽お伺いしたわけですので」
裕二と軽く挨拶を交わした後、桐谷さんは湯田さんの席に腰を下ろし今回の件について話を始めた。
「まずは、おめでとうございます。無事に認証検査に合格し、スキル使用承認も目の前ですね」
「ありがとうございます、これも桐谷不動産の方々がお力を貸してくださったお陰です。自分達だけでは、ココまでスムーズにスキル使用認証の申し込みまでこぎ付ける事は出来ませんでした」
「いえ、我々としても、今後の仕事に生かせるいい経験になりましたから」
「そう言っていただけると助かります」
裕二と桐谷さんは軽い言葉の応酬をした後、軽く咳払いし桐谷さんは本題を切り出す。
「では認証問題にも見通しも立ったことですし、賃貸契約に関するお話も進めて行きたいと思います」
「そうですね。一番ネックになっていた問題が解決する見通しが立ちましたし、俺達としても契約締結に向け進めていきたいと思います」
この岬の土地を練習場にしようとしていた上で、一番の問題だったスキル使用認証の問題が解決できそうな以上、賃貸契約に関する話を進めようとするのは当然である。
まぁ実際に賃貸契約を結ぶのは、正式にスキル使用認証を得られてからにはなるだろうけど。




