第490話 調査申し込み完了
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予定通り着替えを済ませ駅前に集合した俺達は、電車を使って協会支部最寄りの駅まで移動した。協会支部には平日でもそれなりの数の探索者達が訪れており、中々の賑わいを見せていた。まぁ活動のメインがダンジョン探索とはいえ、それなりに事務手続きは必要だからな。昨今のダンジョンブームを考えると、この賑わい方も当然か。
今日は事前調査の申し込みをするだけなのだが、コレはもしかしたら少し時間が掛かるかも知れないな。
「とりあえず、総合受付でどの窓口に行けば良いのか聞いてみよう。自分達で変に探し回るより確実だろうしさ」
「そうだな、正直どこの窓口に行けば良いのかサッパリだ。ここ、滅多に来ないしな」
「多分、2階になるんじゃ無いかしら? 1階は探索者資格の発行や更新手続きなんかの窓口がメインでしょうし……」
役所手続きの探索者でゴッタ返している1階窓口を横目で眺めながら、柊さんの推測が当たっていて欲しいなと内心で祈る。あんな混雑の中に突入して順番待ちをしていたら、いつ自分達の番が回ってくるのか分かったモノでは無いからな。仮に2階が混んでいたとしても、1階ほどではいないだろう……と願いたい。
と言う訳で、さっそく総合案内受付カウンターに待機している係員の女性に話しかける。
「すみません。少々お尋ねしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「はい、御用件は何でしょうか?」
「私有地に練習場を設置する際の事前調査を申し込みたいんですが、どの窓口に行けばいいのでしょうか?」
「? ! 申し訳ありません。練習場設置に関するお申込みでしたら、2階の受付窓口をご利用ください。窓口で御用件をお伝え下されば、担当者が応対いたします」
受付の女性に用件を伝えると一瞬意味が分からないといった様子で不思議そうな表情を浮かべたが、内容を認識すると同時に少し慌て、軽く頭を下げながら謝罪の言葉を口にしつつ、俺の質問に対する返事をくれた。
柊さんの予想通り、俺達の用事を担当する部署は2階にあるらしい……空いてると良いな。
「2階の受付ですね、ありがとうございます」
「いえ、他に何か御用はありませんか?」
「大丈夫です、ありがとうございました」
俺は軽く頭を下げながらお礼の言葉を口にし、総合案内受付を後にする。
「2階の受付に行けだって。良かった、あの中に突っ込んでいかなくて済んだよ」
「そうだな、じゃぁ目的地も分かった事だしサッサと移動しよう」
「そうね。あまり時間を掛けていると帰りに乗る電車が、帰宅ラッシュの真っ只中になっちゃうわ」
柊さんは少し眉を顰めて嫌そうな表情を浮かべ、横目で階段を見ながら早く2階に行こうと促す。俺も帰宅ラッシュの満員電車に乗るのは、色々な意味で遠慮したい。
そして俺達は教えられた2階の窓口を目指し、多くの探索者で混雑する1階窓口を横目に階段を上った。
2階は思っていたより混んでいなかったので、受付窓口は直ぐに見付かった。やっぱりまだ、この手の申請をする人は少ないらしい。
まぁそれに一応、オンライン申請も出来るしな。
「すみません、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが良いですか?」
「はい、どういったご用件でしょうか?」
受付窓口に座っていた男性係員の青年に声を掛けると、一瞬怪訝気な表情を浮かべたものの直ぐに笑顔で応対してくれる。
まぁココを訪ねないといけない用事がある学生探索者など、滅多に居ないだろうからな。係員の人にとっても、珍しい事例だったんだろう。
「私有地におけるスキル使用可能な練習場設置の許可申請についてお尋ねしたいのですが……」
「はっ? えっ、ああ、すみません。スキル使用可能な練習場設置について、ですか?」
係員の男性は戸惑いの表情を浮かべつつ、念を押すように再確認をしてきた。
「はい。自分達で練習場を持とうと計画しているんですが、協会のHPで調べたら正式申請前に事前調査が受けられるとあったので確認に来ました。練習場用地の購入も検討しているので、そこがスキル使用が許可される土地なのかの確認をしたいと思いまして」
「なっ、なるほど……しょ、少々お待ち下さい。今担当の者を呼んで参ります」
係員の男性は戸惑いの表情を浮かべたまま、俺達に向かって軽く一礼した後席を外し担当者?の方へと向かって足早に移動していった。やっぱり普通は俺達のような学生が申し込む様な用件じゃ無いだろうな。練習場を作る為に土地を買う学生か……まぁ居ないよね。
そして暫く……といっても5分も経ってはいないが、係員の男性がもう一人の戸惑いと面倒くさげな表情を浮かべる壮年の男性を受付に連れて戻ってきた。
「お待たせしました。コチラ、私設訓練施設管理課の野原さんです」
「野原です、よろしく」
「九重です、よろしくお願いしますね」
「早速ですが、お話の方をお聞かせ頂けますか?」
野原と名乗る壮年の男性は俺達3人を値踏みをするような眼差しで流し見た後、軽く咳払いを入れさっさと話を進めようとする。真摯な対応とはいえないが、まぁいきなり現れた学生が土地を買って練習場作るから、等と言って最初から真剣に対応しろというのは難しいだろうな。普通なら最初に、大言壮語のバカが来たのか?や、イタズラ目的か?と思って当然だ。
そして俺は野原さんの考えが察せられたので、特に不快な表情を浮かべること無く相談内容を口にする。
「ええ、はい。俺達は今、スキル使用が可能な練習場を作ろうと計画してまして、その為の用地を探しています。ですが用地購入あるいは賃貸後に練習場を作ったは良いものの、肝心のスキルの使用許可が下りないとなっては本末転倒ですからね。そしてどうしようかと思い協会のHPを調べた所、私有地でのスキル使用許可の申請を行う前に、事前調査を行って貰えるという項目を見付けまして……」
「なるほど、それで皆さんは事前調査制度の内容を確認する為にいらっしゃったと? 一応HP経由で、オンラインでの申し込みも可能だったのですが……」
「いえ、自分達のような学生が用地を確保し練習場を作るといいだしても、HP経由の申請ではイタズラで申請したのでは無いかと疑われ申請を受け取って貰えないかもと危惧しまして。少なくとも本気で動いていると知ってもらう為にも直接受付で顔を出し申し込んだ方が良いのではないかと考えた次第です」
オンラインはスマホ一つで気軽に申し込める分、仮に俺達の年齢からイタズラと判断されれば事前調査の申し込み申請を受け取ってもらえたとしても、日程調整中という名の元に後回しにされ延々と日程が決まらなくなるといったことも考えられる。まぁ先に申込者に確認をとるだろうから、そんな無体なことはしないと思うが……念の為に窓口にきたという理由には出来る。
「なるほど、それで皆さんで窓口までおこしになられたというわけですね。では相談室の方をご用意しますので、少々お待ち下さい。ああそれと皆さんの身分照会の為、探索者カードの方を提示して頂けるでしょうか? 本日、探索者カードの方はお持ちになられて?」
「あっ大丈夫です、持ってきています」
「ありがとうございます。では君、探索者カードをお預かりして確認の方をよろしく頼むよ」
「分かりました」
「では相談室の方を用意して来ますので、一旦失礼させて頂きます」
野原さんは係員の男性に俺達の身分照会を任せ、相談室を用意する為といって一時退席した。
2階の一角にある相談室の方に移動し、事前調査申請に必要な書類を用意してくるといって野原さんが席を離れて既に15分近くたっている。6畳ほどの折り畳み式の長机が2つとパイプ椅子が6つのシンプルな相談室に、だ。流石に時間を持て余す。
しかも先程から何やら相談室の外が少々慌ただしい様な気配を発しており、何か急ぎの用事が発生し野原さんも足止めされているのかも知れないので、勝手に相談室の外に顔を出して催促をというのも気が引ける状況だ。
「……まだかな?」
「何か外は慌ただしそうだからな、もう少し時間が掛かるんじゃ無いか?」
「それでも、遅くなるのなら遅くなると1度顔を出して欲しいわ。何の説明も無く、只待つっていう状況は流石に苦痛よね」
暇すぎて、相談室に入った最初は緊張し凝り固まっていた俺達3人も待ち疲れたとばかりに姿勢を崩しだらしのない座り方をしていた。外の情報が何もない隔離状態で待ち続けるのはキツいって。
その上、スムーズにいけば10分15分で書類提出も終わり帰れると思っていたので尚更だ。
「せめて何か説明資料を置いていってくれてたら、それを読んで暇潰しが出来たんだけどね」
「申請に必要な概要はHPに載ってるから不要、って考えられてるのかな?」
「あり得なくは無いわね。オンライン申請が可能な以上、規則や規約が掲載されてても不思議じゃないもの。最初の説明の時に九重君がHPを見たって言ってたから、改めて資料を用意する必要は無いかって判断したのかも知れないわね」
俺達は疲れた表情を浮かべつつ小声で愚痴を漏らしながら、野原さんが戻ってくるのを待つしかなかった。最悪、もう少し待って戻ってこなければ日を改めてまた来ますと申し出るのもありかなと考えつつ。
そして更に待つこと10分、延べ30分近く待って書類を持った野原さんが上役らしきもう一人の中年男性を連れ相談室に戻ってきた。
「すみません皆さん、大変お待たせしてしまって。私設訓練施設管理課係長の河北と申します」
「お待たせし、本当に申し訳ありませんでした」
俺達は慌てて椅子に姿勢を正し座り直し、野原さんと河北さんと向きあう。
申し訳なさげな表情を浮かべる河北さんは軽く頭を下げ、野原さんは少し焦った表情を浮かべながら深々と頭を下げ俺達に向かって謝罪の言葉を口にした。30分近く待ちぼうけを食らわされた身としては、謝罪して貰えるのは当然と考えるものの係長まで出張ってくるのは少々予想外の出来事である。
「あっ、いえ。何か外が慌ただしいというのは察していましたので、緊急の御用が入ってお忙しかったんでしょうし気にしないで下さい」
待ちくたびれたので今日は帰ろうかと思っていた、という雰囲気を微塵も見せること無く、俺は二人の謝罪に気にしないでくれと返事を返す。
ココで下手に追及しても、話が拗れ更に時間をとられるのも面倒だからな。多少思うことはあれど、グッと堪えるべきだろう。
「お心遣いありがとうございます。では遅くなりましたが、私設訓練施設設置に関する事前調査の件につきまして話をさせて頂きたいと思います」
「よろしくお願いします」
謝罪をすませた野原さんと河北さんは一瞬小さく安堵の表情を浮かべた後、一言断りを入れてから俺達の対面の席に腰を下ろした。
この狭い部屋にこの人数で座ると少し狭く感じるな。
「改めまして、私設訓練施設管理課係長の河北です。本日は訓練施設設置前のスキル使用認可の可否確認の為の事前調査を御希望だとか?」
「はい。俺達は共同で資金を出し合い、スキルの練習も可能な訓練施設を作る計画を立てています。その為に幾つかの候補地を、知り合いの不動産屋さんに協力して頂き数カ所選定しました。ただ、あくまでも探索者がスキル無しで訓練出来る広さの土地という形での選定ですので、スキル使用の許諾を得られるかまでは現段階では不明です。一応、協会HPに記載されているスキル使用許諾を得る為の基準は満たしていますが、専門家の目線で見た場合許可を得られるかが……」
「なるほど、それで訓練施設の用地を購入する前に事前調査を受けたいと?」
「はい。不動産屋さんにも事情を説明し、候補地への調査の為の立ち入り許可は得られています」
俺達の訓練場計画の進捗具合を説明すると、河北さんは少し感心したような表情を一瞬浮かべていた。専門家の視点で見れば俺達の計画に穴はあるだろうが、重蔵さんや桐谷さんに協力して貰っているのでそこそこ確りしたモノの筈だからな。
少々小金を稼いだ学生探索者がノリと勢いで無計画に訓練場を作るといっているわけでは無い、と理解して貰えたのなら幸いだ。
「そういう事でしたら、我々が調査の為に立ち入るのに問題は無さそうですね。偶にあるんですよ、物件の調査に向かうも、不動産屋や地主さんに立ち入り許可をとっていなく目の前で引き返すという事が……」
「許可が得られてないのに立ち入ると、不法侵入になってしまいますからね」
「その通りなんですよ。ではコチラの書類に必要事項を記入し、希望の調査日をお教え下さい。必ず御希望の日時に決まるというわけではありませんが、出来るだけご要望に添った日時を設定いたします」
「分かりました」
俺は野原さんが差し出してきた調査申込書類に必要事項を記入し、希望日について裕二と柊さんと話し合う。平日は学校があるから難しいので、やっぱり土日しかないよな。
そして希望日を記入し、俺達は申込書類を河北さん達に提出した。




