第484話 部の新方針決定
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開示された情報を沙織ちゃん達3人が処理し頭が冷えるまで、俺達は暫し時間をおくことにした。今何か追加で情報を出したとしても、情報過多で受け入れられないだろうからな。
そして10分ほどクラスで起きた何でも無い話などで時間を潰しつつ、沙織ちゃん達が落ち着きを取り戻したのを見て話の続きを始める。
「すみません、話の腰を折っちゃって……」
「「すみません」」
「いやいや、気にしないで。混乱して当然の話だしね」
落ち着きを取り戻した3人が軽く頭を下げてきたので、俺は小さく手を振りながら笑顔で気にしないように伝える。練習場を購入しようかと考えている等といった程度の事前情報も無しだと、混乱するのは当たり前だからな。
「それで今、裕二のお爺さんから知り合いの不動産屋さんを紹介して貰えたから、練習場候補地を探し回っているって段階だね」
「実際に動いてるんですか……」
「うん。何回も内見に行ってるから、ある程度物件にも目星が付いてきてるけど正式にはまだ探し中って感じだね」
「すごい。そこまで話が進んでるなんて……」
練習場計画の大まかな進捗具合を説明すると、沙織ちゃん達は驚きの表情を浮かべながら感嘆の声を上げている。まぁ沙織ちゃん達からすると、つい先程こういった感じの計画があるからと聞かされたのに、予想以上の進捗具合に2度驚いたといった感じかな?
練習場の購入予算等といった詳細は話してないけど、一つ上の先輩が土地を買おうとしている……まぁ聞かされる側からすると驚くしか反応のしようはないか。
「計画自体は、夏休みの頃から動いてたからね。不動産屋さんが親切に対応してくれたお陰で、自分達が求める条件の物件を探せているよ」
「一般的な土地探しと比べると、探索者が必要とする条件の物件は結構特殊で難物だからな。爺さんが紹介してくれた不動産屋さんじゃなかったら、探している物件の条件を提示した段階で断られていたかも知れなかった。一般人の求める条件と、探索者が求める条件じゃ扱う物件が違いすぎるからな」
「そうね。街中でアパートやマンション等といった賃貸物件を主力に紹介している一般的な不動産屋さんじゃ、私達が探している物件は取り扱っていない可能性が高かったでしょうね。その点、物件より前に不動産屋さん探しから始めなくて済んだ私達は運が良かったと思うわ」
まぁ夏休みの頃とはいってるけど、終わりも終わりに始動したけどね。それと裕二や柊さんがいうように、桐谷さんを紹介して貰えて本当に良かったよ。
念の為というか確認の為に、駅前の不動産屋とかが入口に掲げている不動産情報を覗いてみたことはあったが、俺達が桐谷不動産で探しているような人里離れた山奥物件等は掲載されてなかったからな。直接店員さんに尋ねてみれば物件リストは出てくるかも知れないけど、掲載されている物件情報を見るに専門外といった感じだっただろう。
「不動産屋さんにも、そういう得手不得手ってあるんですね」
「まぁどんな業種でも、細かく分けたら扱う裾野は広いからね。店のアピールポイントにもなるし、得意分野に特化した店作りって感じじゃないかな? 賃貸専門とか、地域密着型とかって感じでさ」
「確かに裾野が広すぎると、何を相談したらって迷っちゃいますよね。ある程度絞られてる方が、相談に行く方としても助かります」
「そうだね。そして俺達が紹介して貰えた不動産屋さんは田舎の土地というか山林というか、人里離れた土地に強い不動産屋さんだったんだ。攻撃スキルの使用許可が下りる練習場を作るとしたら、どうしてもそういった所の土地に作るしか無いからね」
紹介して貰った桐谷不動産のことを軽く説明すると、沙織ちゃん達は納得したような表情を浮かべながら小さく頷いた。攻撃スキルの使用許可が下りる土地、というのは練習場を作る上では大事な条件だからな。せっかく練習場を作ったのに、許可の問題でスキルの練習が行えないのでは練習場を作った意味が半減する。
そしてコレまでにどういった物件を紹介して貰い内見したのかを、沙織ちゃん達に軽く紹介しておく。
「へぇー元鉱山、そんな土地も売られてるんですね。初めて知りました」
「俺達もこうやって探し回って、色々な物件があるんだぁって知ったよ」
「普通に生活していたら、まず縁が無い世界の話ですからね。先輩達が出した条件に則って紹介された物件とはいえ、そこはやめておいた方が良いんじゃないですか? 万が一、有害物質が流出するって可能性もありますし」
「俺達もその可能性があるって考えて、流石に危ないからその物件は遠慮させて貰ったよ。万が一が起きたら、俺達じゃぁ責任なんて取れないからね」
「そうですよね。でも山奥の土地だと、自分に直接関係が無くても何時の間にか産廃が投棄される場合もある、ですか……」
「人里離れて人目が少ない土地って事は、悪いことを考える人にとっても都合が良い土地って場合があるからね。仮に購入するとなったら、フェンスを設置するとか監視カメラを複数設置するとか色々対策をしないといけないから……管理が難しそうな土地だよ」
最初の頃に紹介して貰った物件はまだ条件設定が曖昧だった頃のモノなので、色々と目を瞑るには大きすぎる問題点が点在していたからな。流石に安くてある程度条件に合致しているとは言え、警察や裁判沙汰になりそうな問題が埋没してそうな物件は買えない。
とは言え、その頃に紹介された物件は桐谷さんが俺達に土地探しの難しさを教える為に用意したような、チュートリアル物件のようなモノだったからな。元々俺達に買わせる気は無かったみたいだしさ。
「まぁそんな感じで、俺達は紹介して貰った色々な物件を内見して回っている所だね」
「まぁ行く度行く度、勉強になってるよ。正直、土地を買うって行為を軽く考えすぎてたなぁ……って今になって痛感しているよ。もう少し色々勉強した上で、動くべきだったなってさ」
「そうね。確かに探索者業で土地を買うお金は用意出来たんだけど、それを有効に使う為の勉強が私達には足りていなかったって痛感しているわ」
改めて説明すると、俺達は自分達の計画の甘さに思わず溜息を漏らしてしまう。紹介して貰う物件についての条件を出すのは良いが内見に行く度に変更し、臨時収入を得たことで購入予算の大幅引き上げ、購入から賃貸への変更……うん、流石に見通しが甘かったな。
「まぁまぁ。足りない分は足で頑張ってるんだし、きっとお兄ちゃん達が求める物件は見付かるよ」
「土地を買うのって、難しいんですね……」
「そうだね。といっても私達は、土地を買う様なお金なんて無いけど……」
「ははっ、そうだよね……」
落ち込む俺達に、美佳達4人は何ともいえない乾いた笑みを浮かべつつそれぞれ感想を述べた。
まぁこんな悩みを抱え込む高校生なんて数少ないだろうから、そりゃぁ苦笑は浮かべられても共感は出来ないよな。
沙織ちゃん達に話せる範囲で一通り練習場購入計画を説明した後、軽く口止めをお願いしておくことにした。まぁ俺達が土地を買おうとしているなどといっても、他の生徒からすれば只の冗談か笑い話にしかならないだろうが、信じる層というのは必ずいるからな。
文化祭の件で俺達というかウチの部は少々悪目立ち?しているので、この段階で新しい燃料を投下し騒がれたくはない。
「まぁそんな訳だから、俺達の練習場購入計画は秘密にしといて欲しいんだけど……」
「もちろん良いですよ、誰にも喋りません」
「私も了解です、まぁ喋っても信じてはくれなさそうですけど……」
「そうかな? 先輩達のコレまでの実績?を考えると、信じる子は結構出てきそうだけど……ああ、もちろん私も喋りませんよ」
「ははっ、まぁよろしく頼むよ」
少々不安感が残るモノの、まぁ大丈夫だろうと3人を信じこの話を終える。
そして先程3人で話したことを美佳達に提案してみることにした。
「さてと、それじゃぁ話題を少し変えようか。ウチの部のコレからの方針についてなんだけど、さっきの話も少し関わるからね」
「? さっきの話が関わるの?」
「まぁね。先日の文化祭で俺達の発表はかなり好評……予想外の盛り上がりを見せたのは覚えてるよな?」
「うん。当日はお客さんが大勢来たせいで対応はかなり大変だったし、文化祭が終わった後も探索者をやってる子を中心に色々質問されて苦労したよ」
「学校がウチの部の発表資料のコピーを配布してくれたお陰で落ち着きましたけど、まだ何人かの人に相談を持ちかけられたりします」
俺達の所もそうだったが、美佳達の所も文化祭が終わってからも中々大変らしい。まぁ探索者をやってる学生には直接関わりがある部分だっただけに、反響が反響だったからな。
安堵するモノ、絶叫するモノ、絶望の表情を浮かべる者とまぁ十人十色といった有様だったし。
「うんうん。まぁ色々あったけど、文化祭の発表自体は大成功だといいきって問題無い程度には好評だったってわけだ」
「好評……だったのかな?」
「好評なの。まぁそんな訳で、ウチの部は新設ながら順調に実績を積み重ねている訳なのだが……実績がコレ一つという訳にはいかない訳だ」
「まぁ、そうだよね。じゃぁ、今後はどうするの? 一応、11月には簿記検定試験があるけど……」
「そうですよ。先輩達はその結果を部の実績にする、そういってましたよね?」
俺と美佳の会話に館林さんが割って入り、少し慌てた感じで質問を投げ掛けてくる。
館林さんがいうように、当初の目標としては簿記検定合格を部の実績にしようとしていたのだが……文化祭の件で設立したての部としてはある程度実績を上げることは達成した感もあるんだよな。
「そうなんだけど……さっき話した練習場購入計画の経験がウチの部の活動にもに使えそうだなって気付いてね」
「練習場計画がウチの部に使えそう、ですか? 土地を買うような生徒はまず居ないと思うんですが……」
首を傾げる館林さんに、俺は頷きながら肯定の意思をつたえる。
「うん、確かに土地を買うって生徒はまずいないと思うけど……一人暮らし用の部屋を借りたいと思う生徒はそれなりにいると思わないかな? 特に数ヶ月後の3年生とかにさ?」
「「「「あっ!」」」」
「そう、進学や就職を機に実家を出て、一人暮らしを始めたいと考える3年生は多く出ると思うんだよね……」
俺の問い掛けに、館林さん達4人は驚きの表情を浮かべていた。
「初めての部屋探しともなれば、先ず経験無いだろうから学生はドコから手を付けて良いのか分からず、右往左往すると思うんだよ。そんな所に、ウチの部が不動産の賃貸契約に関する情報を出したらどうかな? 文化祭ほどではないだろうけど、それなりに生徒達の関心を引くことが出来ると思うんだけど……」
「確かに、進学したら一人暮らしを……と考える生徒は多いと思います。でも実際に一人暮らしをするには?と考えたらどう動いたらと迷うと思います」
「そうだね。しかも今年の3年生は、去年から夏休み辺りまで探索者をやってた生徒も多くいただろうから、それなりのお金は持っているだろうから……」
「いい部屋を借りたい家具を揃えたいと、一人暮らしに夢を膨らませるかもしれませんね。確かに、先輩達の経験を流用した上、生徒の関心も引けそうな話ですね」
館林さんは説明を聞き、俺の提案する新しいテーマに対する納得を見せる。
「生徒の関心を引き確かな反響もある……コレは部の実績とカウントしても良いと思うんだよ」
「確かに活動実績という意味では、発信する情報が生徒の役にも立っていますし十分ですよね」
「だろ? 簿記検定自体は当初の予定通り進めるとして、貢献という意味ではこういうテーマで研究した成果を発表……ってのは学校としても部の実績として認め易いと思うんだ」
俺の話を聞き館林さん達4人はアイコンタクトでやり取りをした後、小さく頷きながら提案に条件付きながら同意してくれた。
「簿記検定試験に支障が無い範囲で……というのなら問題無いと思います」
「私もそれが良いと思う。せっかく試験に向けて勉強してきたのに、他に注力したから試験に落ちたってのは嫌だしさ」
「私も美佳ちゃんの意見に賛成です。せっかく勉強してきたので、出来れば合格したいですし……」
「私も皆と同じです」
4人とも反対では無いが、簿記検定の方に注力したいとのこと。まぁどちらを優先するのかと問われたら、資格試験の方だよな。
「勿論それで良いと思う。せっかく勉強してきたんだし、受けるのなら合格したいと思うのは当然だからね。それにコッチは年内に纏めて発表出来れば、十分に間に合うだろうし急ぐ必要は無いよ」
俺がそういうと、4人は嬉しそうに安堵した表情を浮かべた。
どうやら部の新方針は受け入れて貰えたようだ。




