第481話 練習場購入計画了承……?
お気に入り36480超、PV106460000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
俺の自信ありげな発言と態度に、少々呆気に取られたような表情を浮かべている父さんと母さんに、開拓検証実験の顛末を少し話す事にした。まだ何の実績も無い机上の空論を語るより、実際に試してみて分かった結果を示した方がまだ納得出来るだろうからな。
といっても、コッチも手掘りでトンネル開通という結構な空論感があるけど。
「それと、今言った解決策が使えなかったとしても、多少時間は掛かるけど自分達である程度は対処出来るから心配はないよ。別にホテルや高層ビルなんかの大規模建築をするって訳じゃ無いからね」
「探索者関係に関することには父さん達からは何とも言えないが、そう簡単にできるようなことには思えないぞ? 地下洞窟がどれくらいの大きさなのか具体的には分からないが、一口に穴をどうにかすると言っても相当な手間が掛かるはずだ。穴を埋めるにしても、埋める為の土砂の確保や運搬、実際の施工と個人でやるには……」
「確かに大変な事だと思うよ。偶にテレビなんかで災害現場の復旧工事とかやってるシーンが流れるけど、アレには多数の重機に作業員が動員されてたからね。しかも終わるまでに数日……何ヶ月もかかることだってザラにあるみたいだし。でも何の根拠も無く出来ると言ってるわけじゃ無いよ、今日は色々と探索者の力が開拓に生かせるのかって検証をしてきたから、それの結果を鑑みた上で大丈夫だって感じてるんだ」
「開拓の……検証?」
首を傾げ怪訝な表情を浮かべる父さんに、俺は今日の検証でやったことを軽く説明していく。
「うん。ちょっと不動産屋さんと交渉して、物件を格安で提供して貰う代わりに探索者の能力の調査に協力する事になったんだ。ほら、さっき美佳が言ったように探索者の運動能力なら、一般的に険しいとされるような場所でも難なくクリア出来るじゃ無い? 不動産屋さんからすると今後増えていくだろう探索者相手の仕事の時、どういった基準で物件を紹介すれば良いかの基準作りがしたいんだってさ。良く物件情報にある駅から徒歩何分とかの情報も、あくまでも一般人の足の速さを基準にしてるしね。探索者の足だと多分、半分以下の時間しかかからないよ」
「なるほど。確かにそういった基準を決める情報は、不動産屋からすると是非とも欲しいだろうな。賃貸物件を貸す時なんかも、駅から徒歩5分と徒歩10分じゃ結構家賃とかが変わってくるだろうし。もしかしたら今まで商品価値の低かった物件とかも、探索者相手になら化けるかも知れない。そう考えると……確かに大樹達に紹介する物件を割引しても、情報を集める機会は欲しいと考えるか」
「まぁそんな訳で俺達と不動産屋さんの利害が一致した結果、検証をする事になったんだよ。で、その検証をやってきたことで色々と分かって来たんだよ。探索者の能力が、土地開拓にかなり有用だって事がさ。例えば山間地における荷物の運搬能力とか、穴やトンネルの掘削能力とか」
「……トンネルの掘削?」
父さんは意味が分からないと言いたげに首を傾げ、隣で話を聞いていた母さんも疑問符を頭に浮かべていた。
まぁいきなりトンネルの掘削と言われても、何のことだ?ってなるよな。
「検証の時に、岩山を一定時間でどれくらい掘れるのか、ってヤツをやったんだよ。ほら、開拓する為の物資を運ぶ輸送路を作る時、どうしても避けられない場所に道を通さないといけないってなった時に、手掘りでどれくらい掘れるのかってのを見てみたいって事になってさ。まぁ結果としては思ったより順調に掘り進められて、岩山をくりぬいてトンネルを開通させちゃったんだよね」
「はぁ?」
「えっ?」
「おお。お兄ちゃん達くらいになると、そんなことも出来るんだ……」
父さんと母さんは意味が分からないと呆けた表情を浮かべ、美佳は流石だとばかりに感嘆の表情を浮かべていた。とんでも話に疑問を浮かべずに受け入れるという事は、美佳にとってトンネル開通も俺達ならやれないことは無いと思われてたってことだよな。まぁ俺達も、その考えを後押し出来るような実績を見せてた気もするけどさ……。
そして父さんと母さんが再起動するのを待ってから、検証については切り上げ、話を続ける事にした。
「まぁそんなわけだから、時間は掛かるかも知れないけど地下の洞窟については自分達で対処出来るから、特に問題視しなくて良いと思うよ」
「そ、そうか……まぁ探索者関係について無知な父さん達には、そういうものだと思うしか無いな」
「そうね……でも、出来るからと言って無理はしないのよ。その手の工事中に起きる事故の話なんかは、昔も今も良く聞くんだから」
「もちろん。やるにしても確りと下調べをした上で、専門家の意見も聞いてからやるよ。素人が安易に手を出したら、当然のようにプロに任せるより事故が起きる確率は高いだろうからね」
作業中に生き埋めとか、洒落にならないからな。地下洞窟の埋め立てや整備、拡張をやるにしても、専門家の意見を聞いて安全な作業手順を決めてからでないと怖すぎる。色々と秘密にしたいこともあるので作業自体は見せないかもしれないが、意見を聞かないという事では無い。
幾ら驚異的な身体能力や特殊技能があったとしても、素人が聞きかじった程度で行うのは無理だろうからな。
岬物件の説明を一旦終え、俺達は冷めたコーヒーで喉を潤わせつつ一息吐いていた。怒濤の暴露話?だったので、父さんも母さんも一時休憩を欲していたからだ。
まぁ息子がいきなり土地を買いたいだの、数千万円の収入があるだの心の準備を整える前に話し出せばそうなるよな。
「大樹……出来ればこういった話は、小まめに分けて話してくれると助かる。1度に聞くには、中々しんどいぞ?」
「そうよ大樹。お母さんも、この十数分で凄く疲れたわ……」
「ははっ、ゴメン。何か言い出すタイミングが中々無くって話しそびれたというか、気拙いというか……」
俺は苦笑を浮かべつつ、父さんと母さんに向かって軽く頭を下げ謝罪の言葉を口にする。
何れバレることとはいえ、子供が親の年収を超える稼ぎを出してます……とは中々言い出しにくいんだよな。特に俺はまだ高校生という学生の身だし、成人して独立していればまだ気持ち的に重しが少なく言い出せたんだろうな。
「でもさ、お兄ちゃん。今説明して貰った岬の物件? あの物件って多少問題?は有っても相当な広さの土地みたいだし、結構な値段するんじゃ無いの? 詳細はまだ決まって無くても、大体の値段は分かってるんじゃないの?」
「ん? ああ、諸々の諸経費込みで大体4500万から5000万円って言ってたな。多少は値引きはしてくれるって話だ」
「「えっ!?」」
俺と美佳の話を聞き、一息吐き掛けていた父さんと母さんから驚きの大声が上がった。
突然の大声に俺と美佳は驚き一瞬体を震わせた後、少し迷惑げな表情を父さんと母さんに向けた。
「ちょっと待て大樹! あの岬の物件、5000万円もするだと! そんな物を買ったら、お前達が臨時収入で稼いだというお金が全部なくなるぞ! 仮に物件は買えたとしても、その後の開拓費や固定資産税や諸々で赤字になる! 流石に金額ギリギリ一杯の物件を買うのは止めておけ!」
「そうよ大樹! 貴方達が必要だからと買おうとしているのは理解したから余り口出しをする気は無いけど、流石にその金額の物件は止めておきなさい。説明を聞いたら転売も難しそうな物件みたいだし、継続的に維持管理出来るような物件じゃ無いと危ないわよ」
父さんと母さんは焦った表情を浮かべながら、俺に岬の物件を買うのは止めておけと説得を始めた。先程まではそこまで反対していなかったのに、突然何でだと一瞬意味が分からず混乱したが、ある事を言い忘れていた事を思い出し慌てて父さんと母さんに弁解する。
「ああっ! ちょっと待って、父さん母さん。ゴメン、言い忘れていたというか言い間違えていた。臨時収入で5000万円貰ったって言ったけど、正確には俺達3人が5000万円ずつ貰ったんだ」
「「……」」
「凄っ! 本当に何を手に入れたのか、心底気になるよ……」
父さんと母さんは俺の弁解を聞き、目を見開き声も出せずに驚愕の表情を浮かべていた。
そして美佳は、そんな両親の姿とは対称的に呆れと感嘆の入り交じった声を上げていた。
「「はぁ……」」
暫く固まって沈黙した後、父さんと母さんは大きな溜息を吐きながらテーブルに突っ伏した。
「「大丈夫?」」
「少し、時間をくれ」
「私も、ちょっと待っててちょうだい」
父さんと母さんは力の無い返事をしてきた後、暫く頭痛を堪えるように頭に手を当てていた。
そして衝撃から復帰した後、父さんは少し厳しい眼差しを俺に向けてくる。
「大樹、5000万円ずつ貰ったんだな?」
「うん、1人5000万円ずつ貰ったよ」
「そうか、聞き間違えじゃないんだな。という事は、3人で1億5000万円という事か……いやホント、お前達は一体何を見つけたんだ?」
「ああ、ゴメン。流石にそれを口にするのはアウトだと思うから勘弁して。まぁ金額に見合うくらいの品、と考えてよ。価値もリスクもね?」
俺は右手の人差し指を口に当てながら、教えられないよと眼差しと表情で伝えた。父さんと母さんも何か言いたそうな顔をしていたが、俺の向ける態度から教えて貰えないと察し苦い表情を浮かべながら飲み込んでいた。
まぁ普通に考えて高校生の子供が1億5000万円も貰うような秘密のアイテムだ、どんなヤバいモノなのかと心配なのだろう。
「……分かった、詳しくは聞かない。この話はココまでだ。母さんも良いね?」
「ええ、私もこれ以上は聞かないわ。でも、大丈夫なのよね?」
「うん。表立って口に出来ない品だけど、犯罪性があるとかじゃ無く管理体制に問題がでてくるってだけだから。もの自体は既に協会の方に引き渡してるから、俺達が口にしなければ問題無いよ。それと、美佳もこの件はココ以外で口に出すなよな」
「分かった」
何とも言えなさそうな表情を浮かべながら、父さんと母さんは軽く頷いていた。美佳も俺の態度に流石にヤバい件だと察し、真剣な表情を浮かべながら頷く。
「……話を戻そう。大樹、3人で共同出資という形で購入するという事なら、費用負担は3等分という事で考えて良いんだな?」
「うん。今の所、そういった形で話が進んでいるよ。ただ、土地の所有権をどうするのかとか色々話し合わないと行けない事が残ってるんだけどね」
「確かに費用問題は無さそうだが、その辺を詰める必要もあるだろうな。法人化は考えてないのか?」
「その辺も、要検討って感じだね。購入前提ではあるけど最初は賃貸で考えてるから、その猶予期間に法人化を進めて……ってのもありかもね」
パーティチームを法人化し、練習場を会社の持ち物としてしまうのもありといえばありだ。まぁこの先ずっと3人共探索者をやっていくかどうかって問題もあるから、その辺も話し合いをしないといけないかな。
「そうだな。まぁ仮に法人化するとしても色々と準備があるだろうから直ぐにというのは難しいだろう。方法の一つとして考えておいても良いと思うぞ」
「そうだね。今度皆と話す時に、話題に上げてみるよ」
父さんの助言に、俺は軽く頷き返事をする。法人化か……何れはとは思うが、取りあえず高校の間はこのままかな。ダンジョンで企業系探索者パーティーを色々見てると、安定した利益を確保する為に同じ階層で淡々とドロップアイテムを集めるってやり方は、俺達のスタイルからすると少し違うかな?と感じる時がある。
確かに下地を整え安全性と補給路を確保した上で、安定した収入を確保するというやり方は一つのスタイルとして良いとは思うが……。
「そうだな。まぁ確りと予備費を残した上で、練習場の土地を購入するというのなら良いとは思うが……無理はするなよ?」
「うん。流石に俺達も借金を作ってまで無理に練習場購入計画を進める気は無いから、無理と思った時はきっぱり諦めるよ」
消極的な感じで練習場購入計画を認めてくれた父さんの横で、母さんも渋々といった様子で頷いているので理解はして貰えたと受け取って良いだろうな。
「ねぇねぇお兄ちゃん。もしお兄ちゃん達が練習場を作ったらさ、私達も練習をしに行っても良いかな?」
「ん? ああ良いと思うぞ。裕二や柊さんも、嫌とは言わないと思うしな。但し、練習場を使いたいと言うのなら、練習場を作る時には手伝いに来いよ? 流石に何も手伝っていないのに貸してくれ……ってなるとモヤッとするしさ」
「うん、その時は手伝いに行くよ」
俺と美佳が軽い感じで練習場について話し合っていると、父さんと母さんも先程の会話で溜まった毒気を抜かれたような表情を浮かべながら、俺と美佳のやり取りを眺めていた。




