第479話 俺達の探索者収入は……
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俺の衝撃の告白?を受けた3人は、皆一様に驚愕の表情を顔に貼り付け言葉も出ない様子で固まっていた。付けっぱなしにしていたテレビの音だけがリビングに響き、誰も身じろぎ一つできないでいる。
いやまぁ、確かに衝撃的なことかも知れないけど……そこまで驚く事かな?
「あー、その大丈夫? 取りあえずさぁ、コーヒーでも飲んで落ち着いたら?」
「あっ、ああ」
「そっ、そうね」
「うっ、うん」
3人はぎこちないゆっくりとした動きでコーヒーを啜り始めたが、そんな上の空の様子では当然のように……。
「「「熱っ!?」」」
口に含んだコーヒーカップの中に吹き出し、熱そうに口元を押さえていた。
うん、まぁそうなるよな……大丈夫か?
「3人とも落ち着いて、ほらティッシュ」
「「「あっ、ありがとう」」」
3人は俺の渡したティッシュで口元を拭い一息ついたことで、漸く冷静さを取り戻したようだ。どうやら口の中に負った火傷の痛みで、正気に戻ったらしい。
そして少し待って、話し合いは再開する。
「それで大樹、さっき言っていたダンジョンで5000万を得たってのは本当なのか?」
「うん、本当だよ。何のドロップアイテムで得たかは言えないけど、怪しいお金では無いから安心して」
「「「……本当に?」」」
俺は真っ当なお金だから安心してくれと笑みを浮かべながら断言したが、やはり3人からするとかなり怪しいお金なんじゃ無いかと心配そうな眼差しを向けられた。まぁいきなり5000万円もダンジョン探索で手に入れたと言われたら、俺でも怪しいと思う状況だから無理も無いか。
なので、守秘義務に抵触しない範囲で5000万を得た経緯を説明することにした。
「金額が金額だけに怪しいって思うのは無理も無いけど、本当の事だよ。と言ってもコレだけじゃ皆も納得出来ないだろうから、少しだけ詳しく説明するけど守秘義務があるから突っ込んだ質問は無しで頼むよ。当然、ココで聞いた話を他人に話すのもなしでね。違約金が……とかって話になると面倒だからね」
俺は予防線を張ってから、5000万円を得た時の状況とダンジョン協会とのやり取りを詳細を濁しつつ3人に説明する事にした。
「このドロップを得た時にいたのは何時もパーティを組んでいる3人、俺と裕二と柊さんだよ。美佳達は一緒に行動してないから、聞いても何も知らないからね」
「うん、私も初耳だよ。お兄ちゃん達がそんなお宝アイテムをゲットしてただなんて……」
「まぁ積極的に教える類いのものじゃ無いし、守秘義務の関係もあったからな。まぁそういう訳で、このドロップアイテムに関しては美佳は無関係だと先に言っておくよ」
「そうか……分かった」
美佳は俺がドロップアイテムの件を黙っていたのが不満だったのか、すこし拗ねたような表情を浮かべていた。いや、流石に守秘義務を課せられる系のアイテムの話は出来ないって。
そしてそんな美佳の反応に父さんと母さんは、この件に関して美佳が関わっていない事に納得したような表情を浮かべていた。
「話を戻すけど、俺達がダンジョン探索を普段通りにやっていた時、とあるドロップアイテムを得たんだ。まぁコレが、5000万円って高額に化けたドロップアイテムだね。それからなんやかんやあって、ダンジョン協会と連絡を取って対処していた時に、このドロップアイテムを提出したんだ」
「おいおい、なんやかんやって……説明になってないぞ?」
「まぁそこは守秘義務に関する部分だと思って、追及はしないでよ。それで提出したアイテムを鑑定して貰った結果、ちょっと表に出せない系のアイテムだったわけ。ああ、表に出せないといっても危険っていう意味じゃ無くて、利便性が高すぎて現状では管理しきれない可能性があって表に出せない系ね」
「……それは」
俺の説明に父さんと母さんは驚きと困惑が混じったような表情を浮かべ、美佳は興味津々と言った表情を浮かべながら俺の話に耳を傾けていた。
いや、そんな顔を向けても教えないからな?
「それで、そのドロップアイテムの扱いに関してなんやかんや話し合った後、ドロップアイテムは協会の方が高額で引き取るので、俺達はドロップアイテムについて口を噤むように求めてきたってわけだね」
「……つまり5000万円っていうお金は、お前達がそのドロップアイテムの事を口外しないようにする為の口止め料という事か?」
「そう。いずれそのドロップアイテムの存在が広く認知され協会に公認されるようになれば解除されるかも知れないけど、現状では管理問題があるから現物の引き取りと守秘義務を課せられたって感じだね」
「そうか……」
重要な部分を誤魔化した説明とはなったが、5000万円というお金がどういった類いのお金であるかは理解して貰えたと思う。怪しいお金では無いが、コレといった理由が無ければ身内にも公言はしにくいお金であると。
そして父さんと母さんはこの件を俺が黙っていた事に納得した様な表情を浮かべているのに対し、美佳は興味津々と言いたげな表情を浮かべながら質問を投げ掛けてくる。
「ねぇねぇお兄ちゃん、そのドロップアイテムって私も手に入れられるかな?」
「さぁ、どうだろうな? 運が良ければとしか言えないけど、狙って手に入れられる様な物じゃ無いと思うぞ。俺達が手に入れられたのも偶然だし、そこそこ長い間ダンジョンに潜ってるけど手に入ったのはこの1度限りだからな」
「そっか……」
「一応言っておくけど、態々手に入れようとして危ない真似はするなよ? 無茶をした結果、怪我を……ってなったら意味が無いからな?」
高額ドロップアイテムに目が眩んで、美佳が無茶をしないように念押しをしておく。まぁ今の美佳達なら、無理にレアドロップを狙わなくても十分に稼げる能力はあるだろうからな。
それは美佳自身も認識しているらしく、苦笑いを浮かべつつ軽く頷いていた。
「うん、それは勿論だよ。まぁ無理して探そうとは思わないけど、そういったドロップアイテムが手に入るかも知れないってのは夢があるよねー」
「まぁ、手に入ったら運が良かった程度に思っておくのが良いぞ。今回俺達が手に入れたのと同じモノで無くとも、当たりは有るだろうからな」
「そうだね」
俺の説得?に美佳は納得するように頷き同意していたが、今度は父さんと母さんが目を白黒させながら動揺したような声で話し掛けてくる。
そんな父さんと母さんの反応に俺と美佳は少し首を傾けつつ、動揺を落ち着かせるように父さんと母さんの話を聞く。
「大樹、それに美佳も……随分と平然とした様子で凄い事を話してるな。大樹が手に入れたのは、5万や50万じゃ無く5000万円にもなるんだぞ?」
「そうよ2人とも、なんでそんなに平然と談笑していられるのよ?」
「「……」」
俺と美佳は一瞬、父さんと母さんが投げ掛けてきた質問の意味が一瞬分からず首を傾げてしまったが、直ぐに質問の意味に思い至る。
どうやら俺達は2人は、金銭感覚が大分探索者よりの思考に傾いていたらしい。
俺と美佳は父さんと母さんに上手くやってる標準的な探索者の収入や、協会のHPにて公開されているドロップアイテムの標準的な換金一覧表を見せつつ、探索者がどの位稼げているモノなのかを説明する。
一応父さんと母さんもテレビや雑誌などで紹介されている探索者特集を目にしているので、探索者の大体の収入は把握していたらしいが、あくまでもそれは初心者から初心者卒業間近の探索者が得る収入であった。
「なるほど、どうやら私達は探索者業について少し知らなさ過ぎたらしいな」
「そうね。テレビや雑誌で最近ドロップアイテムの買取額が下がってると言ってたけど、2人の説明を聞いてる限りそれは一部のモノが中心だったみたいね」
「うん、まぁ。実際に買取額自体は低くなってるけど、それは人が集まりやすい階層のドロップ品が中心だね。やっぱり人数が居る分、協会に納品される数も多くなるしさ」
「私達も今までより下の階層を中心に探索する様になってからは、あまり買取額が下がってるって感じはしなくなったかな。そこそこの額で買い取って貰えてるよ」
俺と美佳の説明に父さんと母さんは少し複雑そうな表情を浮かべつつ、俺と美佳が見せた先程の反応に一応納得したような表情を浮かべていた。
そして少し頭を押さえるような素振りを見せつつ、父さんが聞きにくそうな表情を浮かべつつ話を切り出す。
「なぁ大樹、美佳。こういう事は本来、本人が言い出すまで聞かない方が良いんだろうが、今この場で聞いておいた方が良いと思うから聞いておく。お前達……今年に入ってから探索者業で幾ら稼いだんだ?」
「「……」」
父さんの問い掛けに、俺と美佳は何とも言えない表情を浮かべつつ顔を見合わせる。母さんも俺達がどう答えるのか、真っ直ぐに視線を向けてきていた。
どうせ何れ話さないといけない事なので、この場で言っても良いのだが……流石に行き成りすぎて心の準備が出来ていない。だが、こうやって真剣に父さんと母さんと向き合って話し合っている以上、答えないわけにもいかないかと俺も腹を括り、不安と心配の入り交じった表情を浮かべる美佳に軽く頷いてから口を開く。
「そうだね。詳細は省くけど、現段階でこの5000万円を加えずに1000万円は超えてるよ。それに年末まで時間が残っている以上、まだ増えると思う」
「私も……この調子でダンジョン探索を続けたら、年末までに1000万円は超えると思う」
俺と美佳の探索者収入の告白に、父さんと母さんは一瞬驚愕の表情を浮かべ硬直した後、重い重い溜息を吐き出し無言のまま天井を仰いだ。
どうやら俺達が得ていた探索者収入は、父さんと母さんには衝撃的すぎたらしい。
「「……」」
「「……」」
何とも言えない雰囲気がリビングに漂う中、俺と美佳もどうすれば良いのか分からず身動ぎ一つせず、父さんと母さんの反応を待つしか出来なかった。
そしてタップリ1分ほど沈黙が続いた後、心底疲れた様な様子で父さんが漸く口を開く。
「そうか、お前達は探索者になってそんなに稼いでいたのか……父さん、全然知らなかったよ」
「ああ、うん。俺達の場合、他の探索者と比べて大分運が良かったからね。父さんも知ってるだろ?裕二の実家が道場を開いてるの」
俺はコレだけ探索者業が上手くいって稼げているのは、重蔵さんの指導のお陰だと説明して平均を大きく超えるレベルの件を煙に巻くことにした。
まぁ実際、重蔵さんのお陰でレベルアップで得た力に振り回される事を回避出来たので、全くの嘘というわけでも無いしな。
「ああ、広瀬君の家がやってる家業のことだろ? 彼に自己紹介して貰った時に聞いたよ」
「その伝手で、俺達が探索者を始めた時に、道場主である裕二のお爺さんに色々指導して貰えたんだ。他の探索者達がレベルアップで得た力を使い熟せていなかった時に、ちゃんとした指導者の指導の元で得た力の使い方を身に付けていったお陰でスタートダッシュを決められたのが、コレだけの収入を得られた大きな理由だと思う」
「私もお兄ちゃん達の紹介で指導して貰ったお陰で、他の子達に比べて上手く立ち回れたんだよ。お陰で初心者を早々に抜け出せたんだから……」
「そう言えば、探索者がこぞって武術系のカルチャースクールに通い出したって話を聞いたことあるな。そういう理由だったのか……」
俺達が探索者の平均を超えて稼げた理由の説明に、父さんと母さんは一応納得したような表情を浮かべていた。まぁ本当に納得しているかは分からないが、一応納得しやすい理由は伝えたので飲み込んで貰うしかない。
とはいえ、流石に事が事だけにそう簡単に飲み込むことは出来ないらしく、父さんと母さんは疲れを癒やすようにケーキを口にしコーヒーで流し込む作業を暫く無言で続けた。
テーブルの上からケーキが無くなり、おかわりのコーヒーがつぎ直された後、漸く父さんと母さんも落ち着けたのか元の話に流れを戻すことができた。
夕食後に話し始めて30分以上の前置きを経て、漸く本題に入れるらしい。
「それで、練習場を求めて土地を買う計画がという話だったな。その計画はどの程度進んでいるんだ?」
「今の所、自分達が練習場に求める条件をだして、重蔵さんが知り合いの不動産屋さんを紹介してくれたから、その不動産屋さんと候補地を見て回ってるよ」
「もう物件の下見をしてるのか……」
「うん。でも実際に条件を出した物件を見ていると、やっぱりアレが欲しいコレが欲しいって要望が一杯出て来て、中々話が進まない感じだよ。でも……」
俺は一旦言葉を切り軽く3人の顔を見回した後、ハッキリと告げる。
「良い感じの物件が見付かったから、その物件を買わないか?って感じで話が進んでるよ」
そこまで話が進んでいたとは思ってなかった3人は、俺の言葉を耳にし目を丸くし驚愕といった表情を浮かべた。




