第478話 練習場計画を開示してみる
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ファミレスでデザートまで堪能し休息と今後の為のお願いをすませた後、俺達は駅前で帰路へ就く前の最後の雑談をかわす。裕二には今回の契約の件について重蔵さんへ相談する為、重蔵さんの予定を確認して貰うようにお願いした。柊さんにはご両親に店舗経営者の視点から、今回の岬物件にレストランなどを作った場合の集客力等についてそれとなく聞いてみて貰う事にした。なぜ柊さんにそんなお願いをしたのかというと、岬物件が練習場として以外の付加価値を不動産会社視点以外で、どれくらい持っているのかを確認するための物だ。一般人的視点で練習場以外の価値を提示出来ないと、両親に今回の件を話す際に購入する事を止められるだろうからな。
傍から見ると俺達が購入しようとしている岬物件は、周囲に何も無いだだっ広い地下洞窟がある雑木林が生い繁る海岸線沿いの僻地だ。一般的に考えれば、立地が悪く潰しも効きにくい転売が難しそうな土地となれば、態々高いお金を出してまで買う必要があるとは思わないだろう。少なくとも、敷地整備の手を入れれば他者に転売できるかもと思われる程度の可能性は感じさせないとな。
「それじゃあ2人とも、今日はお疲れさま。さっきのお願いの方よろしくね」
「おう、お疲れ。任せとけ、爺さんの予定については聞いたら連絡入れるよ」
「お疲れ様。九重君のお願いの方は、ちゃんと両親に聞いておくわ。返事は今日じゃなくても良いわよね?」
「うん、2人ともよろしく頼むね」
一言二言別れの挨拶を交わすと、俺達は軽く手を振りつつ各々家路へとついた。
いやぁ、今日は中々濃密な1日だったな。午前中に検証会をした後、午後の内見で条件に合う良い物件を紹介して貰えたし……ダンジョン探索と比べても良い意味で充実した1日だったよ。
「さてと……何かお土産を買って帰るかな。良い物件が見つかった以上、父さんや母さんにも軽く話をしておかないといけないだろうし」
賃貸契約を結ぼうと思える物件が見つかった以上、未成年である俺としては保護者である両親には話を通しておかないといけないからな。正式な不動産屋との賃貸契約である以上、未成年である俺達では保護者の同意というか承諾が必要になる。あるいは誰か大人に代理で契約をしてもらう必要があるからな。
そんな事態に発展しているのに、詳細を語るのかは別にしても何の話も通していないというのは流石にね? 最低限、こういった意図で賃貸あるいは購入計画を進めていると話しておいた方が良いだろうな。
「……ケーキでも買って帰るか。とはいえ、どの店で買えばいいんだ?」
思い立ったは良いが普段買わない品なので、どの店で買えばいいのか分からないので、俺はスマホで最寄りの評判が良いお店を調べ始めた。コレで母さんと美佳を味方に付けられるか分からないけど、何もしないより父さんを含め説得も上手く行く……と良いな。
ケーキの詰め合わせをお土産に購入した俺は、日暮れ前に自宅へと帰り着いた。家の中では夕飯の準備が進んでいるらしく、濃厚なカレーの香りが漂ってきていた。
そうか、今日の夕飯はカレーか……。
「ただいま」
「おかえりー、お兄ちゃん」
何気なく玄関を開けながら声を掛けると、ちょうど階段を下りてこようとしていた美佳と遭遇する。
「ただいま、もう帰って来てたんだ?」
「うん。明日は麻美ちゃん達と買い物に行く予定だから、今日は沙織ちゃんと軽く潜ってきただけだよ」
「そっか……まぁケガしない程度に頑張れよ」
「うん。お兄ちゃんの方は無事に終わったの? 出かける前に、何か珍しい頼み事をされたって言ってたけど……」
美佳の問いかけに俺は一瞬、何と答えを返したらいいのかと悩んだ。岩山にトンネル作ってきたよ……と言うのもな。
とりあえず、無難な答えを返しておくか。
「ああ、何とか無事に終わったよ。お願いしてきた向こうさんも、満足してくれたんじゃないかな?」
「ふーん」
「おいおい、聞いてきたくせに微妙に興味なさそうな返事だな」
「お願いの内容を知らないからね、無事に終わったっていうのならそれでいいよ」
本当に興味はないらしい。まぁコッチもあまり深掘りされても困るし、少し釈然としないけど話が流れるなら良いか。
俺は小さく溜息をつきつつ玄関を上がり、お土産を持ってリビングへと向かう。
「ただいま」
「お帰りなさい、もうすぐご飯出来るからまってね」
リビングへ入ると、キッチンで夕飯を作っている母さんが顔を向け返事をしてくれた。
「了解。あっ、それとコレお土産。夕飯の後にでも皆に出してよ」
「あら珍しいわね、貴方がお土産を買ってくるなんて……」
「ちょっと母さん達に話しておきたい話があるから、その時のお茶請け用だよ」
「そう、分かったわ。じゃ食後に出すわね」
俺はお土産のケーキが入った箱を、話と聞き少し怪訝な表情を浮かべる母さんに手渡した。
そんなやり取りをしていると、俺の後に続いてリビングに入ってきた美佳が目敏く俺が渡したお土産に興味を持ち話しかけてくる。
「ねぇねぇお兄ちゃん、それって何が入ってるの? お菓子お菓子?」
「駅の近くのお店で買ってきたケーキだよ、茶請けにと思ってな」
「ケーキ! やった!」
「あくまでも茶請けに、だからな。一応探索者関係の話だから、お前にも関わる話なんだぞ?」
お土産の中身がケーキだと聞き、美佳は嬉しそうに笑みを浮かべていたが、俺の話の内容を聞き少し真剣みを帯びた表情を浮かべた。
「ああ、うん、分かった。ちゃんと聞く」
「おいおい、そんなに身構えるなって。探索者として、ちょっとした買い物についての話だから」
「買い物? お兄ちゃん、何か装備品を変えるの?」
「装備? ああ、いや、装備品じゃないよ。ちょっとした高額の品を買おうかって皆で計画してるから、その話だけでも先に話をしておこうかなってさ。何の説明も無しに子供が急に大金を動かすとなると、母さん達も困るだろうからね」
美佳は俺の簡単な説明を聞き少し困惑と納得が入り混じった表情を浮かべ、逆に母さんは少し不安と困惑が入り混じった表情を浮かべていた。
「前もって相談が必要な買い物って……あなた達、一体何を買おうとしてるのよ?」
「夕飯の後に話すよ、話自体は簡単なんだけど少し長引きそうだしね」
「そう、分かったわ」
「じゃあ俺は部屋に荷物を置いてくるから、このケーキ冷蔵庫にお願いね」
母さんにケーキの保管を頼んだ後、俺はリビングを出て部屋へと一旦荷物を置きに向かった。
部屋での片付けを済ませ再びリビングへ降りると、リビングのテーブルには母さんが夕飯を並べ始めており、父さんと美佳がソファーに座ってテレビを見ていた。
あれっ、父さんいたんだ。
「ただいま、父さん。家にいたんだ」
「ん? ああ大樹か、お帰り。さっきはトイレに行ってたんだよ」
「そうなんだ。あっそうそう父さん、ちょっと話があるから夕飯後に時間良いかな?」
「あっ、それはさっき母さんに聞いたよ。何か探索者関係の話だとかなんとか」
一応母さん経由で、話があるという情報は父さんにも伝わってるらしい。
「うん。ちょっと皆で大きな買い物をしようって計画があってさ、父さん達に何の相談も無しに進めるのはちょっと拙いかなって。そんな話」
「親に相談が必要な買い物? お前達、一体何を買う気だ?」
「夕飯の後に話すよ、少し長引くかもしれないしね。茶請け菓子にケーキ買ってきてるからさ」
「そうか……」
俺の話を聞き、父さんは何とも言えない表情を浮かべていた。まぁ子供が高いモノを買う時に親に相談して……というのは良くあることだが、探索者という子供であっても実力があれば並みの社会人以上の収入を得る事の出来る仕事をしている者が高い買い物というのだ。相談してまで一体何を買う気だ?と心配になるのは当たり前の反応だろう。
さらに言えば、並み以上の探索者であると認識している息子が、態々親に相談するような高い買い物を計画していると言えば、どんなものを買う気だと父さんも気が気じゃ無いだろうな。
「皆、ご飯の用意が出来たわよ。テーブルにつきなさい」
「「はーい」」
「ああ」
母さんの呼び声に俺達3人は返事をしつつ、それぞれの席へと着く。
夕食のメニューは家の外にも漂っていた香りそのままに、カレーライス。因みに付け合わせは、サラダとインスタントのオニオンスープとシンプルな組み合わせだった。
「「「「いただきます」」」」
こうして家族そろっての夕食が始まったのだが、食後にちょっと面倒そうな相談があるという事もあり、いつもに比べ少し静かな夕食となった。
そして夕食の片付けも終わり、お土産のケーキとコーヒーがテーブルの上に置かれ話し合いが始まる。
「さてと、まずは話を聞く時間を取ってくれてありがとう」
「子供に相談がしたい事があると言われて、無視する様な事はしないさ。それで、探索者として大きな買い物をする計画があるという事らしいが、どういう計画なんだ?」
「そうだね、軽く経緯を説明するよ」
俺は専用練習場購入計画を両親と美佳に説明する。
そして一通り計画を説明し終えると、両親と美佳は緊張を解きほぐす様に大きな溜息を吐き出した。
「……何というか、相変わらずスケールが大きい事をしてるねお兄ちゃん達って。ダンジョン外で練習する場所が欲しいからって、土地を買おうとするなんて」
「仕方がないだろ? 協会が用意している攻撃系のスキルの練習ができる公的な練習場は、今も予約が殺到してまともに使えないんだからさ。それにスキル使用許可が下りてない練習場や公共の場で練習の為とはいえ、攻撃系のスキルを使いでもしたら法律違反で犯罪者になるんだぞ?」
俺の指摘に美佳も練習所事情を思い出したらしく、苦虫を嚙み潰したような渋い表情を浮かべていた。
「まぁそうだけど……それならダンジョン内で練習……は無理だね」
「何時モンスターが襲ってくるか分からない状況でじゃ、幾ら低レベルのモンスターしか出て来ない上層だとしてもオチオチ練習なんて出来ないって。その上、上層は少し前に比べて人が減ったとはいえ、まだまだ人口密度が高いからな。もしそんな状況の上層で練習していて攻撃スキルによる流れ弾が発生した場合、レベルが低くまともな装備が整っていない初心者に当たりでもしたら……」
「大怪我を負う可能性があるかもしれないね」
「一応、直ぐに回復薬を使えば怪我自体はどうにかなるだろうけど……そういう問題じゃないからな」
最悪、欠損さえ治せる上級回復薬を使えば致命傷でも回復はするだろうが、色々な意味で論外である。怪我が治れば問題なし、となるはずもないからな。ダンジョン内の出来事といえど、過失傷害は普通に犯罪だ。DPに引き渡され事情聴取をされた後、警察行きかな?
そうアレだ、前に俺達が捕まえた遊興費欲しさに他の探索者を襲っていた連中。アレの同類には成りたくない。
「そうだよね。そうなると、お兄ちゃん達が計画しているように自分達で土地を買って、スキル使用許可を取った練習場を作るっていうのはありなのかも……」
「良い攻撃スキルを習得していても、いざと言う時に練習不足でまともに使えない、ってのは避けたいからな。スキルは使用回数を重ねて熟練度が上がるから、練習量が熟練度に直結する。それなのに練習場所が限られている現状はな……」
そんな俺と美佳の探索者視点から見た練習場計画の話を横で聞いていた父さんが、困惑と戸惑いの表情を浮かべながら重苦し気に口を開く。
「その、何だ? 父さんはそっちの業界の話は良く分からないから、練習場の必要性の是非については口を挟む気は無い。無いんだが、土地を買うとなれば相当なお金が必要になるはずだ。そのお金はどうする気なんだ?」
父さんの質問は、もっともな疑問だろう。母さんも真剣な表情を浮かべながら、父さんの質問に同意するように何度も縦に力強く振られている。
探索者業界に詳しくなくとも、お金の問題は共通して理解できる問題だからな。
「お金については心配しなくて大丈夫だよ。前にダンジョン探索をした時に凄いレアドロップアイテムを手に入れたから、それを換金したお陰で臨時収入を得たからね。練習場購入計画が出てきたのも、この臨時収入があったからだよ」
「臨時収入……まぁ資金面に問題がないのなら良いんだが、土地を買う気になる臨時収入か」
「ねぇねぇお兄ちゃん、その臨時収入って幾らなの? それに凄いレアドロップアイテムって何なの?」
資金面に問題が無いと聞き、父さんと母さんは少し安堵したような表情を浮かべたが、今度は逆に土地購入に問題がでない臨時収入とは?といった表情を浮かべていた。
そして遠慮無く微妙な質問を美佳が投げかけてくると、父さんと母さんも興味があるといった眼差しを投げてくる。……まぁその内教える気だったし、今伝えておくか。
「何がドロップしたのかは言えないけど、金額だけは教えておくよ。どうせ確定申告の時にバレるしね」
俺は軽く3人の顔を見渡した後、小さく息を吸い込んでから換金額を口にした。
「5000万円って査定が付いたんだよ」
俺の口にした金額を耳にし、3人は驚きの表情を浮かべながら口を大きく開けていた。




