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第473話 賃貸最有力物件

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 湯田さんに案内され森の中を歩くこと数分、コンクリートで作られた古びた扉付きの直方体が姿を現した。扉には“危険 立ち入り禁止”という文言が書かれた錆びついたプレートが取り付けられている。

 うん、趣があるというかオドロオドロしさのある雰囲気の扉だな。


「ココが調査の際に作られた、地下洞窟へ降りる為の階段だよ。ただし、作られてから長年放置されているので、老朽化が激しく安全性については……」

「まぁ扉の感じを見るに、定期的な設備の手入れなんてしてないみたいですね」

「ああ、洞窟の調査が終了してから誰も入る事も無くなったので、それ以来わざわざ降りる用事もなかったからね。年に数回、不審者が立ち入っていないか確認する為に扉を開くぐらいかな?」

「確かに誰かが洞窟の中に入り込んで万が一、があると困りますからね」


 開発中のリゾート施設の地下にある洞窟で不審な遺体を発見、とでもなったら一大事だからな。リゾート開発計画はつぶれてしまったけど、そんな不祥事が起きていたらリゾート施設ではなく怪談現場になってしまう。

 

「幸い、これまでその手の事故は一度として起きてないよ」

「それは良かった。借りた後に洞窟で不審な死体が発見された……とかってなったら困りますからね」

「ははっ、それはウチとしても困る。たとえ不法侵入者が被害者だとしても、物件の管理責任を問われるからね。シッカリ封鎖していれば……とかさ」

「ここ、所々穴が開いてるような古びたフェンスが設置されているだけですからね」


 管理されているようで、微妙に管理されていないからな。まぁ敷地の境界を示す、長大なフェンスの再設置などいくらかかるか分かったものでは無い。管理を任されているとはいえ、特に何事も無いのなら新品に変える事など無いだろうからな。

 そんな話をしながら湯田さんは古ぼけた扉に近付き、扉に設置されたカギの開錠に取り掛かった。


「ああ。とはいえ、ココが私有地であるという事は主張しているし、そもそも人が寄り付かない場所だからね。入るといっても、せいぜい野生動物が入り込むくらいかな?」

「野生動物……ですか。まぁコレだけ自然あふれる場所なら、そうでしょうね」

「一応リゾート開発計画が動いていた時にこの辺りを調べた時の記録では、大型の野生動物はいなかったみたいだよ。まぁ調査当時から大分時間が経ってるし、生態系が変化してる可能性はあるけどさ」

「そうですか。でもまぁ一応フェンスもありますし、中に大型野生動物はいないと思いますよ」

「だと良いんだけどね……良し開いた」

 

 扉のカギを外した湯田さんは、錆で少し開きにくくなった扉を甲高く少し不快な音をたてつつ開いた。すると、扉が開くと同時に中から少し冷たく湿度が高い空気が溢れる様に出てくる。

 うん、どうやら本当にこの扉は地下洞窟に通じているらしい。


「この扉の先が洞窟内部だけど、先程も言ったように下に降りる階段は老朽化が激しく安全性が保障できない」

「……まぁ、確かにこの老朽化具合だと、使用可能だとはとても言えませんね」


 俺達の目先にある階段は、工事現場でよく見る金属の単管とステップを組み合わせて造られた簡単な作りの物だ。しかもこの金属製の階段には錆が至る所に浮き、腐食がより進行している部分には大穴が開いていた。

 確かにこの階段を使って下に降りろと言われたら、何時崩れ落ちるか分からないので御免被りたいな。

 

「ついでだ……ちょっと見ててくれ」 


 そういうと湯田さんは手を伸ばし階段の柱、単管パイプに手を当て軽く揺らす。

 すると……。


「うわぁ、コレはちょっと……」


 階段は金属製なのに、湯田さんの手の動きに合わせ不快な軋む音をたてながら大きく揺れはじめた。しかも、何かが壊れる様な小さな破裂音も時折聞こえてくるので、より崩壊するかもと危機感を煽られる。

 うん、とてもでは無いけど、この階段を使おうとは思わないな。


「こんな有様なので、とてもでは無いけど使えないかな」

「ですね。ココまで老朽化が進むと、一度壊して撤去した方が良いですよ」

「そうなんだけど……使う予定の無い設備だからね。扉を誰も入れない様に封じて閉鎖しておけば、放置していても問題ないだろうって」

「……まぁ確かに、使う予定が無いのならそうなんでしょうね」


 あまりの階段の老朽化具合に俺達が顔を顰めながら撤去を進言すると、湯田さんは困ったような表情を浮かべながら必要性と予算の都合上難しいと返事をしてくる。

 確かに使う予定がある設備なら撤去なり交換なりするんだろうけど、何年も使っていない、使う予定が無い設備だからな……。


「まぁ……まぁそういう訳で、階段がこんな状態なので下に降りる事は出来ません。もし降りるのなら、それなりの準備をしてからでないと……」

「湯田さん……下まで何メートルくらいあります?」

「えっ?」

「薄暗いので正確な所は分かりませんけど、目算だと5mくらいだと思うんですが」


 裕二は湯田さんの隣から扉の中を覗き込みつつ、階段の下まで何メートルあるか尋ねる。

 湯田さんは一瞬裕二の問いの意味を理解できないような表情を浮かべていたが、俺達が何をやっているのかを思い出し少し考えを巡らせる様に数瞬の間をあけてから答えを口にした。


「以前確認した資料では確か……5mちょっとだったかと」

「5m……それ位なら問題ないですね」

「……念の為に確認しておくけど、問題ないというのは飛び降りるのには、って事かな?」

「上り下りに問題ない、ですね」


 裕二の返答に湯田さんは一瞬遠い眼差しをしたが、直ぐに持ち直し忠告を口にする。


「そのなんだ、広瀬君? 君が言うのなら上り下りが問題にならないというのは納得するとして、今回は何の道具も持ってきていないから、ライト何かは持ってきてないよ? 流石に君達でも、暗くて足元が確認できない洞窟に飛び込むのは……」

「確かに着地する場所が確認できないというのは問題ですね……でも、湯田さんが少し黙っていてくれるのなら簡単に解決できる問題です」


 裕二の含みを持たせた返事に、湯田さんは何かを察したように少し沈黙してから慎重に俺達の反応を探るように口を開く。


「それは探索者特有の技能……スキルを使うという事かな? でもダンジョン外で探索者がスキルを使うのには、ダンジョン協会や国の許可がいるのでは?」

「魔法なんかの攻撃性のあるスキルはダンジョン外だと、訓練場などの許可が下りた場所でしか使えませんが、攻撃性の無いスキルの使用についてはグレーゾーンですね。スキルには自分の意志で使うアクティブ系、習得と同時に常時発動状態になるパッシブ系があるので、全てのスキルはダンジョン外で使用禁止と一律的に規制する事は出来ませんから。もっとも、スキルなど探索者特有の技能を使って犯罪行為を犯した場合は、通常の刑法より重い処分がされるらしいです。簡単に言えば、物や人に被害を出したり犯罪行為に使う様な悪用はするなよ、ですね」

「なるほど……そういう理由があるのなら、スキルの全てが使用禁止にされている訳では無いという話には納得出来るね。じゃぁ、今から君達が使うというスキルは……」

「【ライト】という、ダンジョン内で明かりを確保する為に使う魔法ですね。ダンジョン内での光源の一つとして、中々使い勝手が良いですよ」


 そう言うと裕二は湯田さんに見せる様に【ライト】使って見せ、扉の中に移動させ洞窟の中を照らす。

 すると……。


「うわぁ……こうして照らしてみると、階段の老朽化の具合が良く分かりますね。これは流石に放置し続けるのは拙いですよ。何時崩れ落ちてもおかしくありませんって」


 単管パイプを組み合わせ作られた階段は、扉から入る明かりで見える範囲だけでも酷い老朽化具合だったが、【ライト】の明かりで階段全体が照らし出されたことで老朽化具合の酷さが鮮明になる。

 4本ある支柱こそかろうじて無事?といえる外観を保っているが、単管と単管を固定する金具の腐食が酷く、殆どの金具が錆まみれになっている上、幾つかの金具は腐食が進み単管から外れ地面に崩れ落ちていた。そのせいで幾つかの単管と単管は繋がっておらず、先程の様に湯田さんが軽く揺らすだけで階段全体が揺れる原因に繋がっていたらしい。要するに、だ。


「この階段?はもう使い物になりませんよ。誰かがこの階段を下りようと一歩でも体重を掛けたら、確実に崩壊して大怪我ですって」

「そうだね、流石にココまで老朽化が進んでるとは思ってなかったよ。コレは社長に報告しておかないと……最悪この入り口自体埋めちゃった方が良いかもしれないな」


 予想より深刻な階段の老朽化具合に、湯田さんは入り口自体の埋め立てを口にする。まぁ一般人が階段があると思って踏み込んだら、階段が崩壊して5m下の地面にたたき落された、となったら間違いなく重傷を負うだろうから、階段を再建しないのなら埋め立てるというのは確実な対処法の一つだろうな。

 





 そして老朽化した階段の対処は後程桐谷さんを交えてという事にして、俺達は地下洞窟内へと降りてみる事にした。少し階段が邪魔だが、まぁ降りられない事は無い。

 流石に自力で上り下りできない湯田さんは上で待つ事になり、洞窟内部の探索は俺達3人だけで行う事にした。ただし湯田さんとの約束で、調査時間は15分だけ、入り口が見える範囲だけで行う等と決められた。


「それじゃぁ湯田さん、下の洞窟を見てきますね」

「気を付けてくれよ。自分も昔の調査資料を朧気に見たことがあるだけで、実際にこの中に降りた事はないんだ。内部がどうなっているのか分からないから、制限時間になったら声を掛けるから直ぐにココに戻って来てくれ」

「了解です。俺達も碌な装備も無いのに、無理をして洞窟の奥に進む気はありません。リゾート開発が中止になる原因になったという地下の大洞窟がどんなものなのか、それを自分の目で確認してみたいだけですから」

「少しだけ覗いて、すぐに戻ってきます」

「今日は探索じゃなく、見学ですからね」


 心配げな表情を浮かべる湯田さんに、俺達は小さく笑みを浮かべながら大丈夫だと返事をする。まぁダンジョンの様に、モンスターが出て来る事やトラップが仕込まれている訳では無いので、無装備だからとそうそう危ない目に遭う事も無いだろう。無論、整備もされていない洞窟自体が危ないので警戒を薄めて良いという話では無いけどな。

 そして俺達は湯田さんに一言断りを入れてから、足元を確認してから洞窟内部へと飛び降りる。


「「「じゃぁ湯田さん、ちょっと行ってきます」」」

「怪我をしない様に十分に気を付けて!」


 軽い足音と共に洞窟内に着地をした俺達は、上の方から心配気にうかがう湯田さんに軽く手を振ってから洞窟内部へと足を進める。洞窟内部の通路は思ったより広く、表面がランダムに隆起しており歩きにくくはあったが、問題なく洞窟の奥へと進む事が出来た。


「こう言ったらなんだけど、洞窟らしい洞窟だね。土魔法で少し表面を整えれば、普通の通路として使えるんじゃないかな?」

「光源なんかの設置もしないといけないだろうけど、通路としてなら十分使えそうだな」

「湿気対策もしておいた方が良いんじゃないかしら、海沿いの洞窟だからかもしれないけど肌に空気がまとわりつく感じがするわ。もう少し湿度が低い方が過ごしやすいでしょうね」


 【ライト】で煌々と照らされた洞窟内を進みつつ、俺達は口々に如何に洞窟内を過ごしやすくするかの改善案を口にしていた。

 なぜなら今回紹介されたこの物件、俺達的にはかなり気に入ったからだ。


「ココなら誰にも知られずに、色々と人目を避けたいスキル何かの練習が出来そうだね」 

「そうだな。俺達が態々人里離れた土地を探していたのだって、訓練している姿を人に見られたくないってのが主な理由だからな。だから辺鄙な場所を紹介して貰っていたんだけど……」

「地下なら入り口さえしっかりと封じておけば、無関係な人に覗き見される事も無いモノね。ついでにドローンなんかを使った、上空からの覗き見も」


 俺達が一番気にしていた人目を避けたいという点を、この物件ならすべてクリアできるからだ。周囲の土地に人気が無いというのも良く、交通の便も土地の入り口まで道が多少痛んではいるものの整備されている。ホームセンターなどの資材を購入できる店も配達可能圏内にあるらしいので、練習場の開拓物資の調達の面でも問題ないのだ。

 なので今回紹介して貰ったこの物件は、賃貸最有力物件と言える。


「そろそろ湯田さんが言ってた、地下の大空洞に出るはずだけど……っ!?」


 階段スペースを降り洞窟内を歩くこと数分、俺達は広い空洞に到達した。
















上空からの監視の目を潜り抜けるには、海中か地下しかないですよね……。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] あ、でも次を見つけると3個目でしたね 諺では「三度目の正直」とか「二度あることは三度ある」とか言うから、展開的にはもう一つ見つける世間的にはもう二つ見つける展開はお話としてありかと(笑…
[一言] 古びた宝箱的なモノを見つけて、フタを開けたら2個目の開閉型ダンジョンを確認して、湯田さんに何も聞か無いでもらって、現物を協会へ輸送ルートとか、なったりして(笑)
[一言] なるほど・・・二つ目のダンジョンを発見するのじゃな?・・・('ω')なるほど・・・
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