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第472話 この岬、洞窟があるんだ……

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あけましておめでとうございます。2024年も応援の程、よろしく願いします。







 湯田さんの運転する車に揺られ、俺達は1時間程かけて海沿いの岬という物件に到着する。岬と聞き俺達が最初に想像していたのはドラマなどで見る、少量の草木が生い茂るゴツゴツとした岩場が広がる光景。もしくは草原が広がっていたり、灯台がそびえたつ観光地みたいなヤツだな。 

 だがしかし、俺達の目の前に広がる物件は想像とは少し違ったモノだった。


「凄く森、って感じの場所ですね。本当に海があるんですか? いやまぁ、潮の匂いがするのであるんでしょうけど……」

「ははっ。この辺は少し木々が生い茂っているが、ココを抜けた先は間違いなく海に突き当たっているよ」


 俺達の目の前に広がっている光景は、一言で説明すると森、だった。人の手で手入れされている気配はなく、乱雑に生い茂る木々と背高く伸びた長草により全体的に鬱蒼とした雰囲気が漂っている森。

 とてもでは無いが、この先に本当に海が広がっているのか疑問に思うほどの光景だ。


「まぁ、この景色を前に言っても説得力はないか。実際に見て貰った方が早いな」


 湯田さんはそう言うと車から降り、所々穴が開き錆びたフェンスに設置された入り口に近付き、桐谷不動産で取り換えたのだろう新しめのカギを外しにかかる。

 そして少々苦戦したものの、湯田さんは無事にカギを外し嫌な音を響かせつつ錆びついたフェンスの入り口を解放した。


「このフェンスから先が、今回紹介する物件だよ。このフェンスは前のオーナーさんが設置されたモノなので、大分年季が入ってますがバリケードとしての役割は怪しいが境界線代わりには使えるかな。もしあれだったら、コチラでフェンスの交換は手配出来るよ……有料になるけど」

「……まぁ人が入り込む事もそう無いでしょうし、このままで良いんじゃないんですかね? 俺達がココを借りる事になって、何か不都合がありそうなときにはお願いするかもしれませんが」

「そうだろうね。まぁ私有地の看板を設置しておけば、真面な考えを持つ人なら立ち入らないだろう。動物は分からないが、放置しても大丈夫だと思うよ」


 車に戻って来た湯田さんは苦笑を浮かべながら設置されているフェンスの説明をしつつ、乗ってきた車をフェンスの内側……敷地の中に移動させ少し切り開かれた場所に駐車した。

 ここは、その前オーナーが駐車スペースにと切り開いたのかもしれないな。下草が生えまくっているが、車の2,3台は止められそうなスペースがあるしさ。


「それじゃぁ皆、ここから先は徒歩での移動になるから」

「「「了解」」」


 長い間手が入る事もなく整備されていないだけあり、車から一歩降りると伸び放題の下草が足に絡まりついてくる。

 そして湯田さんを先頭に、俺達は海岸線を目指し森の中へと足を進めて行く。その途上で湯田さんは、この物件に関する説明をしてくれる。


「ココには元々、海の見えるリゾートホテル……が作られる予定だった」

「それが今では、この有様ですか。計画が中止されたのには、何か理由が?」

「ああ。工事を始める前の地盤調査の段階で、リゾートホテルを作る上では致命的なモノが発見されたんだ」

「発見?」


 裕二の問いに湯田さんは少し言い辛そうな表情を浮かべつつ、眉を顰めながら発見したという物を口にした。


「試掘の結果、ホテルを建てる予定の地下に大規模な空洞の存在が確認されたんだよ。海食洞、海の波により岩壁が抉られ出来た洞窟がこの岬の下に存在するんだ」

「……洞窟ですか?」

「試掘の結果を鑑みて船からこの岬の海岸線を調べたところ、小船がギリギリ入れる程度の穴を発見。波が穏やかなタイミングで穴にダイバーが侵入を試みた結果、この洞窟はかなり広範囲に広がっており大規模な洞窟だという事が確認されたんだ。そしてこの洞窟の存在のせいで、当初の計画のままホテルを建造することが不可能になり開発計画変更を余儀なくされたんだが……計画変更の最中にリゾート開発を計画していた会社がバブル崩壊のあおりを受け資金繰りが悪化した末に倒産。リゾート開発計画は白紙となり、ココは長年放置されて忘れ去られた土地になったんだよ」


 湯田さんは残念気な表情を浮かべつつ、遣る瀬無さが満ちた小さな溜息を漏らした。


「そんな事が……」

「お陰でココは、縁起の悪い曰く付きの土地になったんだ。この土地の開発に手を出すと潰れるぞ、ってね」

「バブル崩壊というタイミングもあったんでしょうが、確かに開発に手を出した会社が倒産としたとなれば、次の人は手を出し辛くなりますよね。その上、下に大洞窟があるとなれば大規模開発は……」

「難しいだろうね。もし大規模な開発を行うとしたら、洞窟が壊れ土地が陥没を起こさない様に埋め立てるなり補強をするなりするしかない。でもそうすると、コストが通常のリゾート開発と比べてもの凄い事になる。そんなコストをかけてまでここをリゾート開発するメリットがあるのかと聞かれると……」


 湯田さんは何とも言えない表情を浮かべつつ、言葉を濁しながら結論を口にする事は無かった。

 まぁ注ぎ込んだ投資に似合う利益を回収できるか怪しい物件みたいだしな。万一洞窟が崩壊し地盤崩落でも起きてしまえば、目も当てられない結末にいきつくしかない。そんな高リスクな物件、まぁ安易に手を出す輩はまずいないだろうな。



 



 伸び放題になっている下草を払いつつ、鬱蒼とした木々の間を10分ほど歩いた先にそれは姿を見せる。水平線が見渡す限り広がる青々とした海、打ち付ける白波で彩られた断崖絶壁と言える海岸線。

 流石リゾート開発候補地になるだけあり、海を臨む眺望は抜群だ。


「コレは中々いい景色ですね、湯田さん。リゾート候補地に選ばれるだけの事はあります」

「ココから見える眺望に関しては、自分も文句のつけようがないいい場所だと思うよ。天気が良ければ夕暮れ時なんかは水平線に沈む太陽に比例し刻々と変化する空の色、太陽が沈んだ事で辺りが暗くなると共に輝き出す星々……といった、かなりロマンチックな景色が見れるからね」

「それは……計画通り開発が順調に進んでいたのなら、結構なリゾート施設になっていたかもしれませんね」

「そうだね……そうだったらウチも大儲けしてたんだろうな」


 残念そうな表情を浮かべる湯田さんの反応に俺達は一瞬頭を傾げたが、直ぐに残念がる理由に思い至り何とも言えない表情を浮かべつつ苦笑を漏らした。

 もしかするとこの物件に限らず、この辺り一帯の土地を桐谷不動産で押さえていたのかもしれないな、と。リゾート開発が成功していれば周囲の地価も上昇し、桐谷不動産は大儲けをしていたかもしれない。


「そうですか……残念でしたね」

「ああ、社長もココにリゾートホテルが出来れば周辺の土地も栄えて地価が上がると考えていたそうで、ココに来るまでの道沿いの土地も確保していたそうだ。お陰で……結構な大赤字案件になったと嘆いてたな」

「ははっ……」


 地価の安い片田舎をリゾート開発し大儲けしようとしていたのに、集客の要になるはずだった施設が計画倒れに終わり、計画成功を見越して確保しておいた土地が無価値になったら……まぁ大損害だろうな。郊外の元々地価の安い土地とはいえ、商売目的でそれなりの広さの土地を確保したら億単位は掛かってた計画だったろうし。

 寧ろそれほどの損失を出したのに、会社を潰さなかった桐谷さんの手腕って凄いな。リゾート開発をしていたという開発会社はつぶれたっていうのに……。


「まぁそんな訳で、これだけの眺望を誇っていても後を継いでココのリゾート開発をしようという会社は皆無。故に、この土地は長年にわたって誰の手も入ることなく放置される事になった、といった感じだね。無論、管理の為に定期的にココの様子は見に来ていたけど」

「まぁ、利益を出せないかもとなったら、どこも手を出さないでしょうからね。ココに来るまでの道のりも、特に人を呼び寄せられそうな感じの場所はありませんでしたし……」

「それもあってココをリゾートとして開発し、新たな消費地を作るといった構想だったんだよ。それなのに、計画の根幹になるはずだったリゾートホテルが計画倒れになっちゃったんでね……」


 もしかしてそのリゾートホテル開発計画って、町ぐるみの開発計画だったのかもしれないな。働く場所と消費地が出来れば、自然と人口も増えて地域経済も活性化する。そういった実例を、自分達もダンジョンが出来たおかげで過疎っていた地域が一気に小さな地方都市化しようとしている、という形で目にしているからな。

 町ぐるみでそういった動きがあったとしても、不思議ではないか。


「そして、そんな曰くつきの土地を俺達が借りる、ですか?」

「君達の土地の利用目的からすると、大規模な建造物は建てないだろうから地下に空洞が空いていたとしてもさほど影響は出ない筈だからね。それに空洞と言っても、物置小屋を建てた程度で崩れるほど脆くはないよ、基本は硬い岩だしさ」

「確かに俺達の利用目的からすると、洞窟の存在自体に問題はなさそうですね。ですが万が一、洞窟が崩落して地形が変わった場合はどうすれば良いんですか? 修復なんてできませんよ?」

「崩れたら崩れたとしか言えないね。元々長年放置されていた土地だし、故意に大規模崩壊させたとかでなければ賃貸契約終了後に原状回復を求めないつもりだよ。ココは、そういう条件に該当しない物件だから紹介してるんだしさ」

 

 故意……というのが、どの程度までの被害や行動が該当するのかはちゃんと確認しておかないとな。探索者目線でいうと、練習中に使うスキルによっては、湯田さんがいう大規模崩壊も行えない事は無いだろうから。

 まぁ逆にスキルの練度次第では、その大規模崩落を修復する事も出来るかもしれないけどな。


「それが聞けて安心です。態々借りている土地を壊す気はありませんが、熟練度を上げたスキルがどの程度の事まで可能なのかは把握しきれていないので万が一というのはありますから」

「確かに……今日の検証で見せた皆さんの能力に、話に聞くスキルの効果が混じればその可能性も無くはないか」


 人力による大規模地形変更が可能か不可能かで言えば可能と言える俺達、探索者という存在に湯田さんは若干心配げな表情を浮かべる。普通なら一蹴できる心配が過ぎる与太話の類だが、発言者が発言者なだけに微妙な現実感が伴っていたからな。

 なので裕二は不安気な表情を浮かべる湯田さんに、ハッキリとした口調で自分達のスタンスを宣言する。


「念のために言いますけど、ココに限らず俺達はお借りする土地を無闇に壊す気はありません。スキルの練習で多少土地の形が変わるかもしれませんが、土砂崩れなんかの2次災害を引き起こすような変化は起こさないつもりです。更に万一の事態が起きてしまったら、2次災害が起きる前に専門家に相談するなどの事後処理に努めます」

「……そう言って貰えると、コチラとしても安心できるよ。やらかした後にバレないだろうと事態を隠蔽したり放置した結果、大惨事を招いたという事例はいくらでもあるからね」

「ええ、そういった事態は俺達も避けたいですからね。万一を起こした際は、是非対処方法について相談させていただきます」


 素人があれこれ考えるより、まずは専門家に相談して素早く対処する方が良いだろうからな。最低限の処置さえ素早く行っておけば、次の手を打つまでの時間は稼げるしさ。手間がかかるにしろ、お金が掛かるにしろ考える余裕を作るというのは大事だ。

 焦った末に後になって冷静に考えると大分頓珍漢な事をしていた、というのは良くある。


「それじゃぁ、この物件を一通り案内させて貰いますね。といっても、大部分が草木に覆われていてあまり見る所は無いけど……」

「ああ、そうだ湯田さん。さっき話に出て来た洞窟って、俺達も確認する事はできますか? 上に建物を建てられないほどという洞窟が、どの程度の広さの洞窟なのか見てみたいです」

「あっそれ、俺も見てみたいです」

「私も見てみたいわ」


 裕二の洞窟を確認してみたいという発言に、俺と柊さんも軽く手を上げながら賛同する。岬という立地だけでもロマンなのに、大洞窟迄あるとかロマンあふれているな。

 その地下の大洞窟というものしだいでは、借りる土地をココに決めても良いんじゃないかと思えてくる。


「ああ……分かった。それじゃ洞窟の入り口に案内するよ。といっても、洞窟の中に入るのは準備不足で無理だけど」


 湯田さん曰く、昔洞窟内の調査の為に作られた入り口と昇降設備があるそうだ。ただし、昇降設備の老朽化が激しく準備も無く洞窟内へ降りるのは無理との事。まぁ、長年放置されていたというし老朽化していて当然か。

 俺達は湯田さんに案内され、不安と期待が入り混じる表情を浮かべながら洞窟への入り口に向かって移動を始めた。
















秘密基地の定番は地下ですよね……。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 修練場……彼らのレベルで震脚などしたら、一部分とは言え陥没崩壊しそうな気が…… [一言] 毎回楽しみにしております。 今後も長く連載が続きますように。
[一言] 洞窟は観光名所になりますね ダンジョンじゃないけど天然記念物に指定されたら国や自治体の干渉がありそう
[良い点] 豊かな森ときれいな海、しかも洞窟付き とってもロマンある物件ですね 訓練抜きにピクニックに行きたくなります リスクあることは話し、堅実に話し合う 信頼感ある商取引で、読んていて気持ちがい…
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