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第469話 スキルの有用性を知ってもらおう

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 裕二の説明に呆気に取られていた桐谷さんと湯田さんは、小さく深呼吸をし一口お茶を飲んで心を落ち着かせていた。まぁスキルありとはいえ、場合によっては探索者の多くが似た様な事が可能だと聞けば動揺するのも無理は無いよな。

 シャベル片手に猛烈な勢いでトンネルを掘る集団か……そこら中の山々が穴だらけになりそうな光景である。


「探索者という存在は、我々が持っている常識を軽く超えて来るな……」

「探索者というより、モンスターを倒す事で力を人に付与するダンジョンが、ですね。探索者と一般人との違いは、ダンジョンでモンスターを倒したか倒していないかですから」

「モンスターを倒せれば、誰でも常識を超える超人に成れる、か……ほんの1,2年前には考えられなかった世界だ」

「そうですね。でも変わってしまった以上、少しずつでも変わってしまった世界に適応するしかないですよ。嘆いてばかりでいては、置いて行かれることになりますから」


 まだダンジョンが出現してからさほど時間は経っていないが、確実に世界はダンジョンありきの世界に変わりつつある。ダンジョンから探索者が持ち帰る希少なアイテムは、これまでの社会構造を変化させてでも活用しようとするほどに魅力的だった。既に大規模な市場が形成されており、これから先も拡大していく成長市場だろう。

 そしてこういった時代の流れ(ブーム)というのは、一度動き出すと中々止まらない上に加速する事はあっても減速する事はあまりない。減速するのはたいてい、流れに陰りや終わりが見えた頃だしな。


「そう、ですね。確かに常識外れと愚痴を漏らすのは簡単ですが、私は会社を経営し社員を養う身。常識が変わるというのなら、それが悪いモノでないのなら少しずつでも慣れていかなければいけませんね」

「まだ変わり始めたばかりですし、探索者はそんなモノなんだ程度で良いとは思いますけどね。慣れようと急ぎ過ぎて、逆に変な常識を覚えたらことですよ」

「ははっ、そうですね。意固地になって学ばないのはいけませんが、急ぎ過ぎてもことを仕損じますか。今まではテレビの向こう側の話という感じでしたが、こうして仕事に直結する問題となっては少しずつでも学んでいくしかありませんね」


 桐谷さんは小さく溜息を漏らしつつ、少し黄昏た様な表情を浮かべて天井を仰ぎ見ていた。必要な事とはいえ常識を変えるというのは大変だろうからな、これから先の苦労が慮れる。

 しかも時代の変化に乗り遅れたら会社を傾け社員を路頭に迷わせるかもしれないという立場にいる桐谷さんからすると、そのプレッシャーはいかほどのものだろうか……。


「自分達の立場からは頑張って下さいとしか言えませんが、探索者関係で聞きたいことがあったらいつでも相談してください。出来る限りお力に成れたらと思っています」

「ありがとうございます。その時があれば、御相談させて頂きます」


 専門分野で分からない事があるのなら、その本職に聞くのが一番手っ取り早いからな。桐谷さん達的には仕事の事で未成年である俺達に頼るのは釈然としない部分もあるだろうが、本当に助言が必要な時には相談の声を掛けて貰いたいものだ。






 反省会から少し話を脱線し、探索者が持つスキルについて桐谷さん達に説明する事にした。今回の検証会は場所と許可取りの問題でスキル不使用で行ったが、実際に探索者が土木工事をするときは許可取りをしているだろうからな。

 どういったスキルがあるのか、それを軽く把握しているだけでも探索者を開拓に採用しようとするなら話は違ってくる。


「現在ダンジョンから産出されたスキルについては、ダンジョン協会の公式ホームページで基本的な解説が公開されているので、詳しく知りたいときはそちらを確認してください。コレから俺達が説明するのは、今回の検証会で俺達が有用そうだなと思ったスキルに関してです。無論、俺達も協会で公開されている全てのスキルを把握している訳では無いので、俺達が知っている範囲で説明させて貰いますね」

「了解だ。詳しい部分は自分達でも調べておかないといけないだろうから、今日の所は君達の所感で聞かせて貰えれば十分だよ」

「ありがとうございます」


 自分達が知る範囲でという前提条件の了承が取れたので、裕二は開拓に有用そうなスキルについて説明を始める。 


「熟練度が影響しますけど、まずは荷運びに関して使えそうなスキルは【身体能力強化】【重量軽減】【念動力】あたりですね」

「字面を聞くだけで、何となく効果は想像できるが……どのような効果が?」

「【身体能力強化】は文字通り身体能力を強化します。このスキル保有者はレベル以上の身体能力を発揮できるので、全般的に使い勝手が良いと思います。初心者が使っても、4,5レベル上の動きが出来ると思います。例えばそうですね……ベンチプレス100㎏が130㎏か140㎏になる感じですかね?」

「それは……強化幅としては十分ですね。純粋に身体能力が上がるのは、面倒な効果があるスキルを考慮するより使い勝手が良い」


 身体能力の向上は、作業能力の強化に直結するからな。特に山間部など重機が入れづらい場所では、身体能力が高い作業者というのは使い勝手が良い。

 そしてスキルを使えば初心者でも作業の主力になると聞き、桐谷さんも興味津々と言った様子だ。


「ええ。次に【重量軽減】ですが、コレはスキルを使う対象の重量を軽減するというモノです。といっても、流石に重さを0には出来ません。スキル使用中に、重さが3割減といった所ですね」

「3割減らせるなら、軽減効果としては十分ですよ。重くなれば重くなるほど、効果が高いという事ですよね?」

「あっ、いえ。このスキルには少々デメリットがあって、スキル使用中は重さは確かに3割軽減しますが、対象の重さに比例して探索者がスキルを使用する時に使うエネルギーを消耗します。スキル保有者の体重を基準に効果対象の重さが基準を超えていた場合、エネルギーの消費が急増し効果発動時間が短くなったり発動できなかったりします。数秒の短時間だけスキルを使って、基準を大きく超える重量物をトラックの荷台に乗せる……何て使い方ならいけるかもしれませんね」

「なるほど、そう都合よくはいきませんね。ですが、使い方次第では、応用の幅が広そうなスキルですね」

 

 理想通りとはいかなかったが、それでも応用の幅が広そうなスキルの存在に桐谷さんは色々と活用法の構想が掻き立てられているようだ。とはいえ、基準重量を超えて長時間使用するには難しいスキルだが、基準重量以下のモノに対してはスキル使用者のEP保有量に依存するが長期間の使用も可能なスキルなので使いどころは多いと思う。

 まぁ【空間収納】を持つ俺達は、このスキルを使った事ないけど。 


「使い方次第、ですけどね。それと次のスキルも似た感じのモノなんですが、【念動力】といいます。このスキルは効果対象をスキル使用者の意志に従って、ある程度離れた場所からでも動かせるというスキルです。射程は……大体5mくらいですかね?」

「離れた所にあるモノを動かせる……皆がイメージしやすいオーソドックスな超能力だね。このスキルにも制限が?」

「はい。先程のスキルと同じ様に、スキル使用者の体重が基準重量になります。加えてスキル使用者と効果対象との距離が離れるに比例し、操作可能重量が減少していきます。大体最大射程で使うと、基準重量は10分の1位ですね。スキルを使った人の体重が50㎏なら、最大射程では5㎏のモノが動かせるって感じです」

「制限があっても、ちょっと離れた所のモノを取りたいといった時には特に便利だね。特に縦方向に移動しないといけない場合、簡単な移動なら問題ないけど屋根の上だの崖上だのといった時には特に」


 桐谷さんの感想に、俺は大きく頷く。このスキルは俺も大変お世話になっており、桐谷さんが言う様に縦移動を必要とされる場面で大いに役に立ってくれるスキルだ。

 このスキルが無かったら、今でも伸縮棒と粘着テープで引き出しダンジョンのアイテム回収をしてただろうからな。


「ええ。今回の検証で使った山中など起伏の激しい場所での開拓を考えると、縦方向への物資移動が容易になるこのスキルは有用だと思います」

「【身体能力強化】【重量軽減】【念動力】……確かにどれも君が言うように、開拓に有効活用できるスキルだ。仮に探索者のレベルが低くとも、有用なスキルを持っていれば少しのレベル差など引っ繰り返せるかもしれない」

「モンスターとの戦闘では、その少しのレベル差が大きな違いになるんですが、戦闘以外でならスキルで少しのレベル差を埋めるのも難しくないと思います。戦闘に比べれば、瞬間的な判断や反応が必要な場面は少ないでしょうから」

「……探索者ではない私では判断できないが、熟練の探索者である君達がいうのならそうなんだろうね。探索者の身体能力だけでなく、スキルについても良く調べておく事にしよう」


 スキルの有用性を認識した桐谷さんは、湯田さんに協会が公表しているスキルの詳細を調べておくようにと指示を出していた。

 まぁ俺達が知っている範囲だけで、ココまで有用な物が出てくれば他にはどんなスキルがあるんだ?と興味が湧くのも無理はない。






 軽くお茶で喉を潤してから、裕二は次のスキルについて話を進める。いよいよ、桐谷さん達が一番興味を引くであろうスキルの説明だ。


「次に崖、トンネル掘削で使えそうなスキルについて話しますね。有用そうだと思うのは、【土魔法】【風魔法】【洗浄】スキルですね」

「!? 魔法という言葉には興味がそそられるね」

「やっぱり桐谷さんも、魔法は気になりますか? 探索者にも一般人にも知名度があって、一番興味が引かれるスキルですから無理もないですね……」

「それはそうだよ。探索者が使うスキルと聞いて、一番に思い浮かぶのは魔法だからね。一時期は魔法スキルを保有する探索者が、テレビに引っ張りだこになって色々な番組に出演していたしさ」


 派手な演出が可能なので、分かりやすい形で探索者の凄さを見せられるスキルだからな、魔法は。とは言え、民間にダンジョンが解放された初期の頃の話なので、魔法スキル持ちの探索者とはいえレベル不足熟練度不足で今にして思えばかなりショッパイ魔法しか使っていなかった。

 まぁそのショッパイ魔法でも、一般人から見れば何もない所から火が出て水が出た風が吹いたと、想像していた魔法が現実のものとして使える世界になったんだと、かなりのインパクトを世間に与えた。魔法を使いたいが為だけに、探索者になったという探索者も少なくないだろうな。


「まぁある程度の予備知識があるのなら、魔法スキルについて説明しやすいですね。【土魔法】は字面の通り、土を操る魔法です。この手の土木作業をするのなら、かなり有用なスキルだと思いますよ」

「土を操る魔法……報告の時にいっていた一瞬でトンネルを作れるってヤツかな?」

「ええ。スキル使用者の力量次第ですが、魔法だけでもトンネルを作る事は可能だと思います。まぁエネルギーの消耗が激しいでしょうから直接魔法でトンネルを掘るより、他の探索者が掘ったトンネルの壁面を補強したり成形した方が効率が良いと思いますけどね。特に初心者や中堅なりたてレベルの探索者だと、直接魔法での掘削は難しいと思います」

「なるほど。そのレベルの探索者だと直接掘削作業をして貰うより、作業補助に回ってもらう方が良いという事か……」


 まぁ作業補助と言っても、壁面の補強と成形は重要な作業だと思うけどね。俺達が今回掘削したトンネルは壁面に何の補強も入ってないので、安全性ではかなり疑問符が残る仕上がりだった。土魔法を使えるのなら、今回掘削したトンネルも壁面の土砂をアーチ状に圧縮成形し、かなりの強度を持たせられたんだろうけどな。

 それと、魔法のみでトンネル掘削が可能なレベルの探索者は、現状だと民間トップクラスの探索者でないと無理だろうな。数年先なら分からないけど、今の平均的なレベルの探索者だと数m掘ったところでEPが0になるんじゃないかな? 壁面の圧縮補強なら十数mなら持ちそうだけど。


「数年先は分かりませんが、現状で探索者の採用を行うならその方が良いと思います」

「という事は、その辺の見極めは探索者業界の推移を見守りながらって感じにした方が良さそうだね……」

「こういう言い方はアレですが、ダンジョンに潜ってモンスターを倒さないと探索者はレベルが上がりませんからね。探索者を辞めて一般企業に就職した元探索者だと、よほどの向上心が無いと……」

「まぁそうなるだろうね。それを考えると人材確保に出遅れるのは痛いが、採用は慎重を期した方が良いかもしれないな」 


 もしくは自社で探索者を育てるプログラムを採用するか、だな。

 不明瞭な中でも他社に先行し動くか、出遅れを覚悟して推移を見守るか……経営者としての桐谷さんの腕の見せ所だ。
















ダンジョン外でも有用なスキルは多そうです……使用許可が下りれば出すけど。


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挿絵(By みてみん)

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[一言] そういや3人は協会の元でステータスを鑑定してもらったことはないんかな? まあ大樹の鑑定解析があるから必要ないんだろうけど、 協会側からしたらチームNES3人の詳しいレベルを知りたいだろうし…
[良い点] 新情報に驚くものの、柔軟に知識吸収&判断していくの凄いです 主人公の超能力活用が戦闘ではなく、引き出しダンジョンの文具の代わりで笑いました 地味ですが便利ですね
[気になる点] そういえば、この三人の今持ってるスキルとかレベルってどうなっているんでしょうね? 一度ズラズラ〜っと書き並べて欲しいです。
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