第462話 何時の間にか広まっていたらしい
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自販機コーナーのイートインで小腹を満たした俺達は、ダンジョンから最寄り駅直通のシャトルバスを使って下の町に移動した。ダンジョンでやる事が終わった以上、他には特に何もない所に居ても暇潰しをしようにも出来ないからな。少し前までは田んぼや畑の広がるばかりの片田舎だった町も、ダンジョン特需のお陰で最近は色々なお店が相次いで出店し賑やかになってきている。
タイミングが合わず中途半端に電車が来るまで時間があるので、暇潰しをするのならこちらを散策する方が良い。
「大体40分ぐらい待ち時間があるから、少しこの辺を散策してみよう。最近は探索者向けのお店とかが開店してるから、ちょうどいい暇潰しにはなると思うよ」
「そうだな。この辺も大分開発が進んで、最初来た頃より大分お店が増えたからな」
「そうね。最初の頃はコンビニとか、小さめの商店ぐらいしかなかったわ。それを思うとダンジョンが出来たとはいえ、良くここまで早々と発展したわね」
建設ラッシュが続く元片田舎の風景を俺達3人は感慨深げな眼差しで眺めつつ、美佳と沙織ちゃんはそんな俺達の姿に戸惑いと好奇心が混じった眼差しを向けていた。昔の長閑な田園風景と建設ラッシュが続く今の姿を知っていれば、美佳達も俺達と同じ感想を持つと思うんだけどな。
町単位で僅かな期間で刻々と新たな姿に変わりゆく景色、中々見られるような光景ではないからな。
「ココって、そんなに変わったの? 私達は普段ココに通わないから、変わったなぁとは思うけどお兄ちゃん達ほどには感動しないんだけど……」
「そうだな……テレビとかの旅番組でローカル鉄道の窓越しに田園風景とか映し出されるだろ? ココも少し前まではあの状態だったんだよ。それがいつの間にか立派な道が出来て、道の両サイドには真新しい商店や住宅が立ち並ぶようになったんだ。最初の状態を知っている奴なら、良くアレがこうなったなって感心するしかないよ」
「そっか……」
と言っても、かなり短期間で周辺環境が急激に変化しているので、元来の住民とダンジョン関係者を中心にした住民とで時々いざこざが起きているといった話を聞くけどな。昔からこの町に住んでいた住民からすると、急に外から人間が大量に入ってきたという事だからな。
しかも移住者の多くは田舎の生活に憧れて……といった町の生活に溶け込む形での移住では無く、ダンジョンで活動する事を主眼に生活拠点として寝泊まりできれば良いと考える移住者が多い。生活パターンどころか根本的な考えが違う両者では、そりが合わなくて当然だ。
「とはいっても、俺達の場合は生活拠点が町の外にあるからただ感心してるだけで良いけど、実際に町で暮らしている人からすると感心しているだけじゃすまないんだろうけどな」
「そういえば、急激に人口が増えすぎてゴミ回収何かの公共サービスが追い付いていないって聞いたな。その辺を増強させる計画はあるらしいけど、計画より人口増加率の方が高いから修正修正ばかりで後手後手に回ってるとか。まぁ、十年単位で増える人数を1年と掛からずに超えたらしい状況じゃな」
「今は元々の住民と新入居者がほぼ同数……まだ元住民の方が少し多い感じらしいけど、もう直ぐ逆転するかもって聞いたわね。この辺にもアパートやマンションが続々と建てられるらしいし、1年と掛からないんじゃないかしら? それと郊外型のショッピングモールとかも建つ計画があるとかないとかって話も聞くし、探索者以外の新入居者も増えるかもしれないわね」
ダンジョンが出現した当初、どういう性質を持っているか良く分からないダンジョンが近くにある周辺の地価が一気に下落した時期がある。凶悪なモンスターが出現して近隣の住民が襲われる危険性が高い、等といったデマが出回った結果なんだけどな。お陰で不安を覚えた周辺住民が引っ越したり、価値が暴落しきる前にと土地を手放したりする事例が全国で起きた。
その時に、目ざとく将来性を見込みダンジョン周辺の土地を言葉巧みに買い漁った不動産業者もおり、現在のダンジョン周辺の土地の急速な開発に寄与している。この手の開発で一番問題になるのは、土地の買収問題だからな。いくらアパートやマンションの建築計画や出店計画が持ち上がったとしても、土地の持ち主が買収に合意しない限り計画が動き出す事は無い。何十年も前から計画されてるのに、遅々として進まない鉄道路線や高速道路の用地買収が良い例だろう。逆に言えば、土地の買収がスムーズにいけば一気に進むけどな。
「そんな状況になってるんだ……」
「元々建物が密集している町中にあるダンジョン周辺は別にして、ここの様に周りが田畑ばかりで開発の余地がある場所だと特にな。ダンジョンという儲かる産業があって、探索者と言う高所得者が多数いる発展性十分な場所となれば、それなりに余裕と先見性がある業者なら参入するさ。そして多くの商店なんかが建って経済圏が確立すれば、今度はそこで働く為に探索者でない住民も増える」
「人が集まれば仕事が出来て、仕事が出来れば人が集まるって奴ですね。その根幹がダンジョン……って事ですか」
「元々この辺は1次産業……農業や林業が主要産業だったらしいからね。新しい地場産業が出来たと思えば……周辺環境の急変と住民トラブルの増加を考えるとどうなんだろう?」
メリットが生まれればデメリットも生まれる、当然と言えば当然ではある。とはいっても、メリットがデメリットを上回れば多くの人は不満を飲み込むが、納得できず反発する人も少なからず出てくるからな。
はてさて、新旧住民が協力しココもうまい具合に発展できると良いんだけどね。
町を見て回ってみると、僅かな期間で色々と探索者向けのお店が増えていた。まぁダンジョンがきっかけで発展を始めた街なので、探索者向けのお店が増えるというのは自然と言えば自然な流れである。
「なかなか面白そうなお店が増えたね」
「そうだな。アレは武器屋というか……道具屋か?」
「……そうみたいね」
古典的な雀罠っぽい感じのデフォルメされたロゴが書かれた看板を掲げるお店には、ダンジョンに設置されているトラップを解除する為に使うモノから、モンスター相手に使うらしき罠の数々が展示されていた。
トラップ解除用はともかく、モンスターに使う罠とは一体どんなものなんだろう?
「罠……どんなのが置いてあるんだろう?」
「モンスター相手に使えるんですかね……」
「二人とも興味があるのなら覗いてみる? 電車の時間があるから、あまり長居は出来ないけど」
美佳と沙織ちゃんが興味津々と言った表情を浮かべながらお店を眺めていたので、俺は中を覗いてみるかと誘ってみる。俺も興味はあるので、2人が中を覗いてみたいといえば否と言う気はない。
ちらりと裕二と柊さんに視線を向けてみると、2人も興味あり気な表情を浮かべているので否とは言わない筈だ。そして……。
「うん。どんな商品があるのか興味あるし、ちょっと覗いてみようよ」
「あたしも見てみたいです」
「それじゃぁ入ってみようか」
と言う訳で、俺達は電車の待ち時間をこの店を見学して潰す事にした。
俺達は時計で残り時間を確認した後、お店の入り口を潜る。
「いらっしゃい」
入店を知らせる軽いメロディー音と同時に、ガラスケースの奥に立つ少しいかつい感じの男性店員さんに声を掛けられる。
「お客さん達若いね、学生さん? その恰好からすると、ダンジョン帰りかな?」
「えっ? ああ、はい」
「学生さんだと販売できない商品も一部あるけど、探索者カードを提示してくれれば学生さんでも特例で買えるモノもあるから気軽に声を掛けてくれ。あと使い方が分からない商品があったら声を掛けてくれ、どういった使い方をするのか説明するからさ」
「分かりました、ありがとうございます」
俺達が学生だと気付いた店員さんに、商品を購入の際の注意事項を説明された。確かに取り扱っている商品が商品なだけに、年齢制限や無資格者への販売規制がされる商品が置いてあっても不思議では無いお店だな。事前に説明されていた方が、いざ購入といった段階で買えないと言われるよりはマシだろう。
俺達は店員さんの注意に一瞬、呆気にとられた表情を浮かべたが気を取り直し店内を見て回る事にした。
「色々と置いてあるね。コレは伸縮式のトラップ検知棒かな? この短さで、3メートルまで伸びるんだ。何段伸縮式なんだ」
「こっちは頭を出さずに通路の先を確認するミラーだな。折り畳み展開式だし、大分小さいから携帯性はかなり良さそうだ」
「こっちは各種ライトが置いてあるわね。ヘッドライトから手持ち式にランタン式のLEDライトから、ケミカルライトや提灯ロウソクまであるわ」
既に持っている品も多いが、これだけ置いてあると流石に目を引く。今の所買い替える予定はないが、買い替え時の参考にはなる。
そして美佳達も、興味津々の眼差しで商品を見て回っていた。
「これ、催涙スプレーって奴だよね? モンスターに効くのかな?」
「この説明文を見ると、ハウンドドッグやホーンラビットなんかには効いてるみたい。実際に試してるから、効果は保証するって」
「そっかー。でもこのスプレー、1本でこの値段と容量だと採算が取れないよ。それこそ1本使い切る前にレアドロップでも出ないと……」
「そうだよね。ダンジョン初心者がモンスターと戦うのに慣れるまで使う分には良いかもしれないけど、継続的に稼ごうと思ったらこれを使い続けるのは採算性が悪すぎるね。寧ろ赤字になるよ。それより、こっちの方が良いんじゃないかな? 設置式のトリモチトラップだって、見た目がゴキブリホイホイみたいな感じだけど」
美佳達が見ているのはモンスター相手にも使えるとうたう強力な催涙スプレーらしいが、それなりの御値段がするらしく採算性が悪いらしい。アレを使うのなら、お手製の唐辛子水鉄砲を使った方が良さそうだな。ある程度下の階層にいくと使えないが、ダンジョン初心者がモンスターとの戦いに慣れるまでは十分に使えるからな。
「ん? 裕二、コレって……」
「エアー式手動散紛機?」
俺と裕二の目に留まったのは、上部に容器の付いた手押しポンプ式小型水鉄砲の様なモノだった。
「おや、ソレに興味がるのかな?」
俺と裕二がとある商品を手に持って相談していると、店員さんが商品説明の声を掛けてきた。
「えっ、あっはい。ココに並んでる物にしては少し毛色が違うので、どう使うモノなんですか?」
「ああソレはね、スライムに対処する際に使う道具だよ。少し前までスライムって言うのは、倒す為に使った武器が劣化するって厄介者扱いされていたモンスターだったんだけど、探索者協会が広めた簡単にスライムを倒す方法ってのがあってね。その商品は、その方法を簡単に実行できる様にした道具さ」
「えっと、そのスライムを簡単に倒せるという方法って言うのは……」
「簡単にいうと、スライムに塩を一定量掛けると倒せるといったものだよ」
どうやら、塩がスライムに特効するというのがバレたらしい。まぁ俺達も積極的に隠していた訳では無いので、知られたからといってどうというモノでもないんだけどな。
「ある程度経験を積んだ探索者達はスライムの性質の厄介さから動きの遅いスライムを無視してダンジョンの奥に進むようになって久しいから、最近はあまりスライムが討伐されなくなっていたらしくてね。そこに目を付けた協会が、簡単に倒せる方法が広まれば初心者救済の一環になると考えたのだろうさ。君達も知っての通り、最近コアクリスタルなんかのドロップアイテムは昔に比べてかなり安く買い取られてるだろ? 探索者を始めたばかりの探索者が、最低限の収入を得られる様にってな」
「確かに簡単にスライムが倒せる方法があるのなら、初心者でも数を熟せれば交通費ぐらいは稼げるでしょうからね。運が良ければレアドロップ品も手に入れられるでしょうから、お金を貯めて装備を整えたり、スキルを身に付けたりできると思います」
「そうだろ? だからこそ、その方法を効率良くおこなう品がそれだ。塩が安価に手に入るとはいえ、数を熟すのならそれなりの出費になる。無駄な出費を押さえるためにも適切な量を、ってな」
そして店員さんに散紛機銃の使い方を聞くと、なるほどと俺と裕二は納得した。確かにこの散紛機を使うなら毎度毎度適量の塩をスライムに吹きかける事が出来る。説明された散紛機の構造は、前にテレビで見た某チェーン店の塩振り機と同じく容器を逆さまにすると一定量の塩が発射チャンバーに注がれ、手押しポンプで圧縮されたエアーで塩を撃ち出すといったものだ。
便利な道具の登場に感心しつつ、俺達は時間いっぱいまでお店の商品を見て回った。