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第458話 時間が来たので帰還開始

お気に入り35910超、PV100310000超、応援ありがとうございます。


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 美佳と沙織ちゃんに剥ぎ取りナイフの説明を終えた俺達は、次の獲物を探しにダンジョン内の探索を再開した。5階層辺りまでよりマシとはいえ、数を稼ぐ為には積極的に捜し歩くしかないからな。

 そして11階層を目指しつつ、出来るだけ人がいなさそうな辺りを中心に探し回った結果、そこそこの数のオークと遭遇する。


「これでオーク肉は10個目っと……今の相場っていくらだっけ?」

「ここ最近はオーク肉を換金してないからな……まぁ安く見積もっても、1万円は超えてるんじゃないか?」

「二人とも、流石にもっといってるわよ。スーパーに並んでるお肉で100グラム千円近くするんだから、卸値とは言ってもこの塊一つで3,4千円はするわ」


 という事は、この10個のオーク肉で3,4万はするって事か。1時間ほどで3,4万の稼ぎなら、まぁ良い方だろう。流石にスキルスクロールやマジックアイテムを得た時程の金額では無いが、コンスタントにコレだけ稼げれば探索者一本でも生計は成り立つだろうな。

 現に美佳と沙織ちゃんも俺達の話を聞き、少し驚いた表情を浮かべながら目を丸くしている。


「オークの肉って、そんな額で取引されるんだ。確かにスーパーとかに置いてるやつも、最近安くなってきたとはいえ、結構なお値段するもんね」

「ボア肉とかもそこそこのお値段で買い取って貰えてましたけど、オーク肉ともなるとお値段が違いますね。確かにお肉をこの額で買い取ってもらえるのなら、剝ぎ取りナイフを活用すればコンスタントに稼げます。使えば確実に食品アイテムがドロップするとなれば、安定した収入を得たい探索者には垂涎の品ですよ」


 通常ドロップではドロップ品はランダムで出現し出るかどうかにも当たりハズレがあるのに対し、剝ぎ取りナイフを使えば食品アイテムにドロップが固定されるが確実にドロップ品を得られるというのは大きい。余り危険を冒さずにコンスタントに稼ぎたい探索者からすれば、スキルスクロールやマジックアイテムなどの高額アイテムが出ないというのは大したデメリットにはならない。

 とは言え、こんな階層まで潜ってこれる実力を持つ奴が、コンスタントに稼げるからといって先の階層に進む事を止めるかと言えば、まぁ無理というものだな。特に若い世代の探索者は。 

 

「そうなんだけど、主に俺達のような学生探索者がそれで満足すると思う? 大体の探索者は先に、もっと先にって感じで更にダンジョン奥深くに進む感じだね。早い段階で実力を付けた探索者は特に」

「そうだな。大体安定した収入をコンスタントに……って考える探索者の大半は、ある程度年齢がいってる人や家庭持ちの人だな。そういう人達は給料が安くても、バックアップがしっかりしたダンジョン系企業所属の探索者になってるぞ」

「さっき話した企業の剝ぎ取りナイフの買取に応じている探索者は、大抵が学生探索者だって聞いてるわ。探索者専業で個人事業主をやってる人は、2本目が手に入ったら買い取りに応じてるけど1本だけだと絶対に売らないそうよ。まぁ最低限の収入を確保できる手段だものね、当然と言えば当然の反応よね」


 レベルやスキルと言う超常的な力を得た若い世代の探索者からすると、安全マージンを十分以上にとってコンスタントにお金を稼ぐという退屈に見える探索スタイルより、未知やより高額換金できるアイテムを求め、より先へ進む事を選ぶ探索スタイルを採用しているモノが多い。いわゆる若年層の者が良く夢を見る、その業界の天辺を取るって奴だな。

 その結果、ある程度年齢のいった探索者が企業所属等の立場で需要の高いドロップ品を安定的に市場へ供給し、学生探索者や若年層の個人事業主系の探索者が階層攻略を進めるといった感じになっている。


「そっか……確かに安定した収入っていうのは魅力的だけど、ずっと同じ階層で同じモンスターとってのはちょっと遠慮したいかな。自分がどこまでやれるのか、って試したいって気持ちも分かるし」

「そうだね。私も何れはそうなるかもとは思うけど、今はまだ……って気持ちも分かるかも」


 若干不満げな表情を浮かべてはいるが、美佳も沙織ちゃんもどこか納得したような表情を浮かべている。

 

「さて、そろそろ11階層に続く階段に出るけど、美佳と沙織ちゃん的にはこのまま進んでも大丈夫かな? 11階層からはオークも複数体の群れで出てくるのが基本になるから、少し対処が難しくなると思うけど……」

「うーん、大丈夫かな? 流石に4体も5体もオークが出てくると厳しいかもしれないけど、2,3体なら沙織ちゃんと2人でも対処できると思うよ」

「私も大丈夫だと思います。まだ少しオークの動きに慣れてないので、あまり多くのオークに囲まれたら厳しいと思います」

「そっか。じゃぁ今回は相手が2,3体の群れだったら2人に任せて、それ以上だったら俺達が対処するって感じが良いかな? 帰り始めるまでもう1時間もないし、2人は出来るだけ複数体のオークの群れと戦う経験を積んだ方が良いだろうしね」


 帰還開始までの時間制限がある以上、出来るだけ効率的に探索を進める必要があるからな。

 そんな考えを理解し、美佳と沙織ちゃんは軽く頷きこの提案を了承する。


「良し、じゃぁ先に進もう」

「うん」

「はい」


 そして5分程進むと見えた11階層の階段を、俺達は下った。






 帰還開始まで時間いっぱい11階層の探索を行った結果、俺達は更に20個のオーク肉のドロップを確保した。やっぱり複数体同時に出現してくれると、ドロップアイテムの確保も捗るな。


「良し、予定の時間も来た事だし探索は終わり。帰るとしようか?」

「「はぁい!」」


 探索終了時間を知らせるタイマーが鳴ったので、帰還開始を告げると美佳も沙織ちゃんも名残惜し気に残念そうな表情を浮かべる事も無く、ほくほく顔を浮かべていた。

 まぁこれだけオーク肉を確保できていれば、他のドロップ品と合わせて今日の探索の収入は10万円を超えるだろうからな。スキルスクロールやマジックアイテム等レア物を確保した時ほどではないが、ほくほく顔になるのも無理は無いだろう。レア物なしでドロップアイテム換金が10万円を超えるというのは、新人探索者にとって一つの壁だからな。コンスタントにレア物なしで10万円を超える換金を得られる様になったら、新人卒業と言って良いだろう。今のダンジョンの混み具合とダンジョンドロップ品の普及の影響で、レア物なしで10万円を超える換金額を得るのは、それなりの実力が無いと厳しいからな。


「基本は最短距離を移動行列に乗って一直線に地上を目指すけど……途中休憩は挟んだ方が良いかな?」

「一直線に帰ると言っても、移動行列に乗って2,3時間は歩きっぱなしになるからな。4,5階で一度挟んだ方が良いかもしれないぞ」

「そこまで急いで帰る必要もないしね、一度ぐらい休憩を挟んでも大丈夫よ」

「私も休憩を取れるなら休憩を挟んでもらった方が、気分転換になるからうれしいかな。移動行列って自分のペースで移動できないから、あまり長い時間歩くのって少し苦痛なんだよね」

「私も急いでいないのなら、休憩は挟んでもらった方が嬉しいです。長時間の移動行列での移動というのは少し苦手で……」


 やっぱり移動時間が移動時間なので、一度は休憩を挟むという意見が強い。何時間も自分達のペースで移動できないというのは、特に帰り道などの疲労がたまり疲れた時に苛立ちがつのり易いからな。移動行列を使った場合、移動中の安全性は高まるがストレスがたまる。

 今回はそこまで急いでいないので、休憩を挟むことにした方が良いだろう。


「じゃぁ階段前広場の空き具合を見て、4か5階で一度短い休憩を挟もう。それで良いかな?」

「「「「賛成」」」」


 最短距離を通りつつ、1度休憩を挟んでから帰る事が決まった。まぁ休憩と言っても気分転換の為の休憩なので、そう時間的なロスもないだろう。

 ともかく、方針も決まったので俺達はまずは11階層の階段前広場を目指し帰路に就く。


「それで、今日の探索は美佳と沙織ちゃん的にどうだった?」


 帰り道の雑談として、美佳と沙織ちゃんに今日の探索しての話を聞く事にした。勿論、周辺の警戒は続けながら。


「うーん、戦闘面に関しては普段通りかな? お兄ちゃん達が一緒だったから後詰がある分、気が少し楽だったよ。勿論、気が楽とは言っても、気は抜いてなかったからね?」

「私も美佳ちゃんと同じ意見ですね」

「なるほど。じゃぁ戦闘面に関しては、普段通りの実力を出せていたって考えて良さそうだね」


 確かに今日の探索で見せて貰った美佳達の戦闘は、危なげなく見事なモノだった。まだ経験が少ないというオーク戦は別にして、その他に出てくるモンスターとの戦闘は丁寧に一つ一つ情報を集め分析し対策を施しているのが見て取れる動きだ。無茶な攻撃には打って出ずに、地味とも言える堅実で手堅い戦い方。

 ベテランと呼べる中堅探索者から見ても、この二人が探索者になってまだ半年も経っていないとは思えないだろうな。


「確かに戦闘面では、オーク戦を除いて見事って感じだったな」

「ええ。私もそう思ったわ、2人とも夏休み中に一杯頑張ったのね」

「まぁオーク戦は本人達が言う様に、まだまだ経験不足って感じだけど時間があれば解決できるだろうな」

「そうね。最後の4体で出て来た群れと戦った時も、少し連携が乱れたけど戦闘自体に問題はなかったわ。2人共戦闘能力は十分にあるから、後は大型の人型モンスターと戦う事に慣れれば連携を乱さずに戦えるようになるはずよ」


 裕二と柊さんも戦闘面では問題ないと判断したらしく、どこか安堵と満足さが混じった表情を浮かべつつ美佳と沙織ちゃんを誉めていた。俺達からすると、愛弟子の成長を目の当たりにしたって感じになるからな。

 美佳と沙織ちゃんも二人の評価に嬉しそうな表情を浮かべつつ、少し不安げな表情を浮かべつつとある疑問を投げかけてくる。

 

「ありがとうございます。それはそうと私達も剝ぎ取りナイフを持ちたいと思ったんですけど、ドロップ以外で入手って可能なんですか? 話を聞いてる限り、ダンジョン企業が積極的に押さえにいってるみたいだから、私達だとドロップ以外では入手しづらいと思うんですけど……」

「その件か……確かに今の状況だと入手は難しいかもな。協会としても剝ぎ取りナイフは、個人で持っているより企業勢に回してダンジョン産のお肉等を安定供給してもらう方が……と考えているかもしれない。何かしらかの伝手を持っていないと、買取依頼を出した人に話を持っていってくれるかどうか」

「やっぱり、そうですか……」

「もう少し時間が経って、企業の方の需要がある程度満たされたら、市場の方にも出回るようになると思うけどな」


 現状で剝ぎ取りナイフを買うという選択は、個人間のやり取り以外では何かしらかの伝手が無いと難しいだろうな。買える様になるのと自分でドロップさせるの、どっちの方が早く入手できるか……。

 美佳と沙織ちゃんは裕二の困ったような表情を浮かべながらかたる話に、陰鬱とした雰囲気を纏いつつ溜息を漏らしていた。


「ああでも、自力で剝ぎ取りナイフをドロップしようとするなら結局ドロップするまでは使えないし、確率的に剝ぎ取りナイフをドロップさせる頃にはもっと単価の高いドロップ品を得られるようになってるはずだ。何か狙いの食品系アイテムが無い限り、無理に剝ぎ取りナイフを手に入れる必要はないと思うよ」

「そうね、そうよ。私達もこの剥ぎ取りナイフを手に入れたのはダンジョンに潜って数ヶ月後、かなりの数のモンスターを倒した頃だったもの。2人の実力なら、剝ぎ取りナイフを使わなくても稼げるようになっているわ」

「俺も裕二と柊さんの意見に賛成だ。それに食品アイテムって、意外と嵩張るし重いんだぞ? 食品だから運搬時の保管状態にも気を回さないといけないから、専門で取り扱う気概で臨まないとかなり面倒なんだぞ? 例えば低温のクーラーボックスで保管し運搬するにしても、氷なりバッテリーなり冷媒が必要になる上にクーラーボックス自体が嵩張るからな。他にも運搬の負担をどうするのかや、戦闘時の役割分担はとか、いろいろと問題が出てくる」


 食品系アイテムを取り扱う上での色々な問題点を挙げていくと、先程まで残念がっていた表情を浮かべていた美佳と沙織ちゃんも、食品系アイテムを取り扱うのは結構面倒である事に気づき、何とも言えない表情を浮かべていた。

 そして最終的に美佳と沙織ちゃんは、普段通りに探索を続けつつ手に入ったら1本は自分達の手元に残しておくと決めていた。最低限の収入確保や長期滞在時のダンジョン内での確実な食糧調達といった事に使えるので、その選択が無難だろうな。
















必要な時に無く、必要があまりなくなった時に手に入るモノってありますよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 柊さんの場合は初期は自分家で使う分の肉を入手って目的もあったからね ミノ肉を自分達で食べるって位で、そこで安定して狩れるなら 収入面では意味無いだろうし ゲームの二週目の序盤の便利グッツ程…
[気になる点] オークの肉は市販のお肉より高級品じゃ無かったですか?  オーク1頭から何グラムドロップするんでしょうか?
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 自分たちがどこまで行けるか試してみたい。 そう言って夢破れる者、中には命を落とす者も幾らでもいそうです。 ここは進むべきだとか言って、その結果として仲間が命を…
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