第456話 お昼休憩を取りつつ
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8階層広場での休憩を終えた後、準備運動を終えた俺達は本格的にダンジョン探索を進める。少々駆け足気味に探索ペースを上げ、道中で出会うモンスター達を次々に倒していく。
そして事前に確認していた通り、美佳と沙織ちゃんは危なげなく遭遇するモンスター達を見事な連携をもって倒していった。
「良し、10階層に到着だ。2人共お疲れ様、ココまでの戦闘では特に言う事なしだね。この調子なら、10階層での探索も問題なさそうだよ」
1時間半程かけ10階層まで到達した俺達は、階段前の広場で遅めの昼食をとる事にする。前回の休憩から探索ペースを速めたので、戦闘を挟んでいたが1階層1時間と掛からず進む事が出来た。
因みに戦闘回数は10回ほどで、モンスターも30体以上倒す事が出来たかな。
「ありがとう。今回は人が少なかったから、運良く連続で戦えたね。何時もなら、人が多いから遭遇率が低いんだけど」
「お疲れ様です、そう評価して貰えると嬉しいです」
ダンジョンを歩き回りモンスターと連続で戦っているので2人は少し疲れた雰囲気を醸しだしているが、夏休みの努力の成果を誉められ嬉しそうな表情を浮かべていた。
「大樹から話は聞いていたけど、2人ともモンスターとの戦い方が凄く上手くなってたぞ」
「ここまでの階層に出るモンスターが相手なら、油断さえしなければ今の二人の敵ではないわね」
俺の横では裕二と柊さんも、二人の戦いぶりには感心したと言わんばかりの表情を浮かべている。
2人が知ってる美佳と沙織ちゃんの探索者としての姿は、まだ探索者を始めたばかりの夏休み前のものだからな。それが僅かな期間で、いっぱしの探索者としてやっていけている姿は驚きだろう。
「さて、話は一旦ここまでにしてお昼にしよう。どこか弁当を広げられそうな場所は……」
そう思って広場の中を見渡してみるが、少し遅いとはいえお昼時という事もあって、広場の壁際では複数のパーティーがお弁当を広げていて中々良さそうな場所が見つからない。広場の中央部付近は移動行列と小休憩で探索へ向かう準備をしているパーティーがいるので、食事や大休憩で長時間留まる様なパーティーは壁際付近に移動するのがマナーである。
そして広場を時計まわりに半周程移動すると、10階層の奥へと進む通路の傍にある壁際の場所が空いていた。階層の奥へ進む通路の傍は、通路の奥からモンスターが出てくるかもしれないリスクがあるので不人気ポイントである。それ故に、多少混雑していても空いている場所ではあるが。
「壁際の場所は、あそこしか空いて無さそうだな」
「反対側の方も見てみるか? 昼飯ぐらい、多少ゆっくりした気持ちで食べたいしな」
「そうだね。そう時間が掛かる事でもないし、反対側も見てみようか」
俺達の実力的には、10階層で出てくるようなモンスターが食事中に飛び出してきても簡単に対処は可能だが、ダンジョン内とはいえ食事ぐらいゆっくりと食べたい。この辺の階層なら広場で休憩している探索者パーティーも多いし、まだまだ人数がいる移動行列も出来ているので、場所さえ選べば仮にモンスターが広場の中に飛び込んて来ても、他の探索者達が素早く対処してくれる。ダンジョン内なので気こそ抜けないが、休める時はユックリとしたいというのが人情というものだ。
そして反対側の壁際を見て回ると、ちょうど休憩を終え探索の続きに出ていこうとしているパーティーの姿があったので、その人達と入れ替わるようにして俺達がその場所を確保した。因みに確保した場所は、9階層へ続く階段と奥へ向かう通路のほぼ中間地点だ。ここならユックリ出来るだろう。
「ちょうど良い所が空いてよかった」
「そうだな、タイミングが良かったよ」
「そうね。他の場所はまだ空きそうに無さそうだし、ココが空いてよかったわ」
俺達はレジャーシートを広げつつ、ちょうど良い場所を確保できたことに安堵の息を漏らす。
そして俺達は広げたレジャーシートに腰を下ろし、背負っていた荷物を下ろし漸く一息つく事が出来た。
「皆、お疲れ様」
「お疲れ」
「お疲れ様」
「「お疲れ様です」」
「とりあえず前半戦は無事に終了できてよかった、後半戦もお昼を食べてから頑張ろう」
俺は皆に軽くねぎらいの挨拶をしながら、ココからは一旦休憩だと宣言する。多少仰々しい感じにはなるが、気持ちの切り替えをする為にもこうやって言葉に出した方が切り替えやすいしな。
その証拠に皆、気は抜いていないが俺の言葉と同時に表情から少し力が抜けた事が見て取れる。
「それじゃぁ、食べようか」
そう言って俺は偽装用に持ってきているバックパック、今回は美佳達が同行しているので本当に使っているものだが……その中を漁り、ダンジョンに来る前にコンビニで購入したお昼を取り出す。
因みに購入したのは、後片付けが簡単な定番のコンビニおにぎりだ。日帰りで後片付けの事を考えたら、おにぎりかパンしかないよな。
俺達はお昼を食べながら、後半戦の予定について確認をしていた。
因みにそれぞれのお昼のメニューは俺と美佳と裕二がおにぎりで、柊さんと沙織ちゃんはパンである。
「思ってたより早く来れたけど、帰り道の時間を考えると探索に割けるのはあと2時間って所かな?」
「まぁ今までの感じからすると、時間的にそんな所だな」
「そうね。特に無理をする必要が無いのなら、余り遅くまで探索は続けなくて良いと思うわ。美佳ちゃんと沙織ちゃん的には、もう少し探索時間を伸ばした方が良いかしら?」
余裕を持った帰還計画の話を柊さんが振ると、美佳と沙織ちゃんは少し考えこんだ後、顔を見合わせ軽く言葉を交わし頷きあう。
「私達も、その予定で良いよ」
「私も同じです、赤字にならない程度にドロップアイテムも集まってますし」
美佳と沙織ちゃんも、提案された帰還計画で問題ないらしい。
まぁ今回の探索の目的は、二人の夏休みでの成果を確認するというものなので、最低限の収入を得ているのでこのまま撤退してもあまり問題ない状況だからな。
「分かった。じゃぁお昼休憩をしてから2時間程探索をしたら、帰り始めるって事にしよう。裕二と柊さんもそれで良いよね?」
「ああ、それで問題ないぞ」
「私も問題ないわ」
全員の合意が得られたので、後半戦は2時間程探索を行ってから地上へ帰る事に決まった。
また移動行列に乗って帰る事になるので、戦闘無しだとしてもココからなら地上までは2,3時間って所だな。なので後半戦は合計で5時間程の行程になる予定だ。
「良し。じゃぁこの後の予定も決まった事だし、休憩時間はユックリするとしようか」
「そうだな。まぁモンスターが襲撃してきたとかの緊急事態でもないのなら、食後は少しゆっくりしたいよな」
「そうだね。満腹迄食べてるって訳じゃないけど、食後に直ぐってのはちょっと遠慮したいよ」
色んな状況を想定すると、ダンジョン内で満腹迄食べるって事はある程度経験を積んだ探索者ならまずやらない事だ。満腹迄ご飯を食べたあと直ぐに戦闘を行った場合、戦闘状況にもよるだろうが吐くからな。最悪の場合、戦闘中に吐く様な事態にでもなれば大きな隙を作って大怪我を負う可能性が高い。そうでなくとも腹部に強い打撃を受けた場合、腹八分などの場合より吐く確率や内臓に損傷を負う可能性が高まる。
少人数パーティーの場合、他の探索者パーティーが周囲に多数存在する低階層帯の階段前広場などの、ある程度の安全を確保出来ないダンジョン内で空腹を凌ぐ為に食事をとる場合は、少量の食料を小まめに回数多く摂取する方がいいだろうな。無論、食事中でも撃退出来たり、腹ごなしが出来るまでモンスターの攻撃を受ける事が無い実力を持っているのなら話も変わってくるけど。
「そう言えば二人とも、夏休み中は10階層まで潜ってたのよね? オークとも戦ったの?」
「あっ、はい。夏休みの最後の方に少し戦いました」
「まずはゴブリンを相手に人型のモンスターと戦うのに慣れようとしたので、オークとの戦闘経験はあまりないです」
「そう、一応倒した経験はあるのね」
柊さんが美佳と沙織ちゃんに、これから戦うオークとの戦闘経験を確認していた。一応二人には10階層辺りまで潜っても大丈夫だと伝えていたが、ゴブリンとの戦闘経験を考えれば夏休み期間中はゴブリンとの戦闘をメインにして戦っていたのだと読み取れるからな。
俺達もゴブリンを相手に戦った最初の頃は、人型モンスターを倒すのに慣れずに結構長い時間かけて人型モンスター相手に戦えるように慣らしていったからな。美佳達にも最初の頃は無理をせずに、ゴブリン相手に人型モンスターと戦う事に慣れた方が良いと助言をしていた。その助言を聞いた上で、数百体のゴブリンとの戦闘経験があるという事は、夏休み期間のかなりの時間をゴブリンとの戦闘に充てていたという事になる。
「少しとはいえ戦闘経験があるのなら、オークも二人だけで相手をして貰っても大丈夫そうね。勿論、難しそうだったら私達も手を出すから安心して」
「あっはい、ありがとうございます。でも前に戦った感じなら、私と沙織ちゃんの二人でも対処できると思います」
「流石に10体のオークが一度に出てくるとかだと難しいと思いますが2,3体……いえ、4,5体までなら私と美佳ちゃんだけでも対応できると思います」
「4,5体まで対応できそうなのなら、10階層のオーク相手なら問題ないわね。10体近く出てくるような状況は、もっと下の階層に行かないとまず遭遇しないもの。まぁモンスタートラップ部屋に入ったりしたら、もう少し上の階層でも遭遇するかもしれないけどね」
柊さんは頬に手を当て少し思い出すような仕草をしつつ、10階層に出現するオークは任せても大丈夫だと結論を出した。まぁ10階層に出るオークは、一度には多くても3,4体程度だったはずだからな。1度に4,5体迄なら相手に出来るというのなら、美佳と沙織ちゃんに任せても大丈夫だろう。
そんな3人の話を流し聞きしながら、俺と裕二は食後の休憩を満喫していた。
30分程時間を待って食後の休憩を終え、俺達は再びダンジョン探索を再開しようとしていた。レジャーシートやおにぎりのゴミなどを片付け、休憩の為に外した装備を着け忘れていないか点検していく。
広場を見渡してみると、俺達の他にも壁際で休憩を取っていた多くの探索者パーティーの姿はすでになく、俺達の様に慌てて壁際の場所を確保しようとしているパーティーはいなかった。まぁお昼時を過ぎてるからな。
「良し皆、忘れ物は無いな? 外していた装備品は、ちゃんと身に着けたか?」
「おう、大丈夫だぞ」
「問題ないわ」
「大丈夫!」
「忘れ物はないです」
「じゃぁ、ダンジョン探索再開といこうか。まずは10階層の探索をしつつ、制限時間内でいける所まで進む感じで」
全員の準備が調った事を確認し、ダンジョン探索再開を宣言した。
そして奥へと続く通路に向かいながら、この後の行動予定について美佳と沙織ちゃんに話しかける。
「最初に遭遇したオークは美佳と沙織ちゃんに任せるから、まずは戦ってみてくれ。数が多く厳しそうな感じだったら、俺達が交代するから無理をしないように」
「了解」
「分かりました」
柊さんとの話を聞いていたら任せても大丈夫そうだが、オークとの戦闘経験は少なそうなのでまずは美佳と沙織ちゃんに戦って貰って様子を見る方針だ。戦闘経験が少ないという事は、まだオークとの戦闘パターンの最適化が出来ていないという事だからな。
油断はしないだろうが意表を突かれ、思わぬケガを負うかもしれないので俺達も注意しておこう。まぁ戦闘能力的には、オークが相手でも無理なく美佳と沙織ちゃんが勝てるだろうけどな。
「裕二、柊さん、そういう事だから俺達はまずはバックアップに回る感じで」
「了解。今まで見た感じだと、オーク相手なら二人だけでも問題ないとは思うけどな。油断は出来ないが、まぁ大丈夫だろう」
「了解よ。それはそうと一つ試したいというか、2人に教えておきたい事があるんだけど……良いかしら?」
柊さんが美佳と沙織ちゃんに教えたい事があると言いつつ、腰に着けた装備品に手を当て許可を求めてくる。腰に着けている装備品を触っているという事は……成る程、柊さんが美佳と沙織ちゃんに教えておきたいというのはアレの事か。
そういえば美佳からドロップアイテムとしてアレを手に入れたという話は聞いた事が無かったので、まだアレは入手していないんだろう。確かに2人のこれからの探索者活動を思えば、選択肢として知っておいた方が良い事だろうな。
「良いよ、実際に見せた方が良いだろうしね」
「俺も良いぞ」
「じゃぁ決まりね。美佳ちゃん沙織ちゃん、オークとの戦闘では少し手を出させてもらうわね」
「あっ、はい」
「分かりました」
何の事か良く分からないと少し首を傾げつつ、美佳と沙織ちゃんは柊さんの提案を了承した。




