第455話 連携に問題はなさそうだ
お気に入り35840超、PV99610000超、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
ゴブリンを探し7階層の散策を続けるが、中々次のゴブリンと遭遇しない時間が続く。やっぱり、モンスターのリポップ数に対して、階層にいる探索者の数が多いんだろうな。
タイミングが合えばすぐに遭遇出来るが、タイミングがずれると中々遭遇しないという状況は未だ改善されていない問題である。
「いないね、ゴブリン」
「そうだな。そこそこ歩き回ってるけど、中々遭遇しないな」
中々ゴブリンと遭遇しないので、思わず愚痴が漏れてしまう。出来るだけモンスターを無視して先の階層へ進むだけの時はありがたい状況なのだが、モンスターと戦う事を目的にしている今は思わず気がはやってしまう状況だ。
そうそう、愚痴こそ漏らしてるが一応周辺警戒は怠っていないぞ。
「どうする? このまま7階層を歩きまわるべきか、見切りをつけて次の階層へ進むべきか……」
「そうだな。一度は戦っておいた方が良いかなとは思うけど、このまま歩き回っても時間が掛かりそうだしな……」
「話を聞く限り、二人ともゴブリンとの戦闘経験は十分みたいだし……」
ゴブリンと中々遭遇できない状況に、俺達はこの先の行動をどうしようかと頭を悩ませる。美佳達のゴブリン戦の出来を確認するのを優先するのならこのまま7階層を探索すべきなのだろうが、夏休み期間の成長を確認するという意味合いでは、十分に経験を積んでいるというゴブリン戦に拘らずに時間を有効活用すべく先の階層へ進む方が良いだろう。
どっちを選んでも間違いではないだけに、中々悩ましい選択肢である。なので……。
「美佳と沙織ちゃん的には、このままゴブリンを探して一度戦った方が良いかな?」
どうしたいかを、本人達に確認してみる。
俺に話を振られた二人は顔を見合わせた後、少し悩ましげな表情を浮かべながら口を開く。
「一度戦っておいた方が良いとは思うけど、このままゴブリンを探し回って時間を潰すより先に進んだ方が良いのかな? ゴブリンとは夏休みの間にいっぱい戦ったし」
「私も美佳ちゃんと同じ考えですね。確かに確認の意味で1度は戦っておいた方が良いとは思いますけど、このまま当ても無くダンジョンを歩き回って時間を浪費するより、せめて後何分と時間を区切って探索した方が良いと思います」
美佳と沙織ちゃんも先の階層へ進むという方針には賛成だが、出来れば一度は戦っておいた方が良いという考えらしい。確かにこのまま無作為にゴブリン探しを続けるより、捜索時間を区切って探した方が良さそうだな。
まぁゴブリンを探してそこそこ奥まで来たので、下への階段の方へ向かって歩いていれば遭遇出来るかもしれない。少し遠回りしつつ階段の方へ向かえば、それなりに捜索時間も稼げるだろう。
「そっか、それじゃぁ基本的に2人はコレから次の階層へ向かうって方針には賛成って考えて良いかな?」
「うん、まぁ基本的には」
「それなら少し遠回りしながら下の階層へ続く階段まで行くか。もしかしたら道中で、ゴブリンと遭遇するかもしれないからな」
「うん、了解」
という訳で、これからの行動方針が決まった。基本的に下の階層へ続く階段へ向かいつつ、道中でゴブリンと遭遇したら美佳達が戦うといったものだ。少し遠回り気味で向かうので、階段までは大体20分ぐらいかかるかな?
そして方針も決まった事で俺達は、闇雲に探し歩いていた時とは違い、どことなくスッキリとした表情を浮かべながら階段へ向かって足を進めていく。
既に俺達の気持ちは8階層へ向いており、遭遇すればまぁ良いかな程度の認識だったのに、階段へ足が向いてすぐゴブリンと遭遇した。
それも、1体だけで通路の先の角から出現したゴブリンと。1体で来るのなら、せめて奇襲を仕掛けて来いよ。何故相手の方が数が多い状況で、正面から堂々と名のりを上げるように立ち向かってくるんだ?
「どうする? 予定だと、遭遇したら美佳と沙織ちゃんが戦うって話だったけど……」
「1体だけで来られると対応に困るよな、せめて2体出てきてくれればそれぞれ分かれて戦って貰ったんだけどさ」
「そうね……ねぇ、美佳ちゃん沙織ちゃん? どっちがアレの相手をする? 1人で相手をしても良いけど、いっそ安全性を取って2人で挟み撃ちにしても良いわよ?」
既に8階層へ思いをはせている所に不意の単独遭遇でどう対処すべきか俺と裕二が悩んでいる間に、冷めた眼差しの柊さんが安全性の確保と言いつつ時短の為に袋叩きを提案している。
こうして扱いに困るがゴブリンと遭遇した以上は倒すしかないので、先を急ぎたい俺達としては手早く倒すのが最善かな。絵面がアレな事にはなるが。
「どうしようか沙織ちゃん? 1人で相手にしても良いけど……」
「美佳ちゃん、今回は一緒にやろう? 1人でも相手は出来るけど、雪乃さんが言うように挟み撃ちにしてから先に進んだ方が良いと思うな」
「うーん、沙織ちゃんが良いのなら私はそれで良いけど……良いの?」
「うん。この先の階層でもゴブリンとは遭遇すると思うし、今回は単独遭遇だし倒しちゃった方が良いよ」
どうやら2人で戦うという事で話が纏まったらしい。俺達に2人で戦うと伝えると、それぞれ武器を構えゴブリンを挟み込むよう左右に分かれ突撃の準備を始めた。ゴブリンを中心に、右側に美佳で左側に沙織ちゃんという形だ。
そして……。
「行くよ、沙織ちゃん!」
「うん!」
短く合図を交わすと、二人はほぼ同時に突撃を開始しゴブリンとの間合いを一気に詰めていく。ゴブリンも美佳達が攻撃の意志を見せた事で威嚇の声を上げながら迎撃の準備をしていたが、同じタイミングで挟み込むように間合いを詰めてくる2人のどちらを攻撃すべきか迷うような仕草を一瞬見せる。
そしてそのゴブリンの短い動揺は、挟み撃ちという状況においては致命的だった。
「ヤッ!」
「エイッ!」
戸惑うゴブリンの反応を確認しつつ、2人から繰り出される槍による攻撃。ゴブリンは槍による攻撃を避けようと大きく左に動いたが、沙織ちゃんが逃げるゴブリンに向かって更に一歩踏み込み軌道修正した槍を繰り出す。その際、美佳は沙織ちゃんの追撃の邪魔にならない様に急制動を掛けつつ素早くサイドステップを行い距離を開ける。そのまま美佳が突撃を続けると、ゴブリンに向かって更に踏み込んだ沙織ちゃんと衝突するからな。瞬時に状況を判断した、適切な対応と言える。
そして沙織ちゃんが繰り出した槍は、攻撃を避けようとしたゴブリンの胸の中心を貫いた。
「ギャッ!?」
胸を槍で貫かれたゴブリンは短い悲鳴を上げた後、傷口を抑えよろめきながら1歩後ろに足を動かしてから膝から力を失う様に仰向けに倒れた。細かく痙攣をおこしているが、立ち上がる様子も無いので致命傷だな。
そして攻撃を終えた沙織ちゃんは素早く槍を引き抜いた後、倒れたゴブリンから距離を開けゴブリンの様子を窺っていた。美佳もゴブリンから少し距離を開けた場所で待機しつつ、何時でも追撃に動ける体勢を保っている。
「「……」」
警戒を続け十数秒後、ゴブリンが粒子化を始めた事を確認し戦闘が終了した。
そして美佳と沙織ちゃんは小さく息を吐き、戦闘態勢を解除する。
「「ふぅ……」」
「お疲れ様、2人とも見事な連携攻撃だったよ」
「沙織ちゃんが追撃した方が良いと状況を見て、攻撃の邪魔にならない様に美佳ちゃんが素早く退避したのは良い判断だったな」
「互いに相手の意図を読んで、言葉を交わすことなく適した行動をとれた連携が凄かったわ」
俺達3人は小さく拍手をしながら、美佳と沙織ちゃんの連携に絶賛の声を上げる。夏休み中の探索の成果か、随分と2人の連携練度が上がっていたようだ。
今の戦闘状況だと、上手く連携が取れていなかったら追撃時に互いが接触していたか、互いに攻撃を遠慮し大きな隙を作っている様な場面だったからな。
「ははっ、なんだかこうやって素直に褒められると少し気恥ずかしいね。でも、ありがとう」
「ありがとうございます」
「打ち合わせもせずにこんな連携がとれるのなら、連携行動については本当に大丈夫そうだね」
「そうだな。連携関係であと見るとするならば、多数の敵と戦う際に今の連携を保てるのか?って事だろうな」
「まぁレッドボアとの戦いを見ていると、ある程度の数の敵がきても対応できるとは思うけどね」
前回モンスタートラップ部屋に行った時も、2人は連携が取れた攻撃をしていたからな。柊さんが言う様に十数体のモンスター……ゴブリンクラスのモンスターが相手なら問題なく連携を維持しつつ戦う事が出来るだろう。
ただし、あくまでもゴブリンクラスのモンスターが相手だった場合だけどな。オーククラスのモンスターが十体近く出た場合は、流石に美佳達では撤退するしかないだろう。
「おっ、粒子化が終わったみたいだな」
「あっ、何か落ちてるね」
粒子化を終えたゴブリン跡地には、ドロップアイテムが出現していた。
少し嬉し気な表情を浮かべながら美佳は近づき、出現したドロップアイテムを拾い上げ俺達に見える様にかざして見せる。
「見て見て沙織ちゃん、回復薬?が出たよ!」
「えっ、美佳ちゃんホント!? やった、コレで今日の交通費が出たね!」
美佳は出現した回復薬らしき瓶を掲げながら、沙織ちゃんと一緒に喜びの声を上げていた。3度の戦闘で回復薬が2つも出たのは、今日の探索は中々幸先が良いらしい。それぞれ1本ずつ手に入れたので、互いに最低限の収入、交通費が稼げただけでもこの後のダンジョン探索では心に余裕が持てる。
最低限の収入を得なければ……という焦る要素が無くなるのは、ダンジョン探索では大きい。精神的な余裕が無いと、焦りから集中力が落ちて大切な事を見落としたりして大変な事になったりするからな。コレが買い取り価格の安いコアクリスタルばかりドロップしていたりすると、交通費を稼ぐだけで何十回とモンスターと戦わないといけなくなる。精神的な焦りと肉体的な疲労が重なった場合、まぁ良い事は無いだろうな。
「さて、それじゃぁこれで一応ゴブリンと戦うという目的は達成した事だし、そろそろ先に進むとしよう」
「そうだな。幸い最低限の収入は得られたことだし、焦る必要もなくなったからじっくりと探索を進めて行くとしよう」
「そうね。収入面で焦る必要はなくなったけど、探索に費やせる時間は有限ですものね」
「「はい」」
ドロップアイテムの回収を終えた俺達は、目的も達し態々遠回りする必要もなくなったので最短経路で8階層への階段を目指し足を進めた。
ゴブリンとの戦闘後、さほど時間をかけずに8階層へと俺達は到達した。7階層で目的としていたゴブリンとの戦闘の他、最低限の収入も得た事で余裕が出来た俺達は、いったん8階層の広場で休憩を取る事にした。疲労と言う意味ではまだ休憩は必要ないんだけどな。
移動行列を避ける為に広場の隅に移動し、俺達は持ってきていたレジャーシートを広げ腰を下ろした。
「とりあえず、順調に8階層までは下りて来る事が出来たな」
「順調といえば順調だが、思ったよりモンスター探索で時間を食ってるからペースを上げた方が良いかもな」
「そうね。どこまで潜るかによって変わってくるけど、帰りの時間を考えると少しペースを上げた方が良いかもしれないわ」
ダンジョンに入って既に2時間半ほどが経過しており、10階層以降での探索を考えると裕二と柊さんが言う様に少しペースアップをした方が良いのは確かだ。階層移動行列の人数も減って来たので、10階層まで移動に専念すれば1時間と掛からずに移動出来ると思う。
ただし本当に移動だけなので、途中でのダンジョン探索が出来なくなり、美佳達の夏休みでの成果を見るという目的を考えると……どうだろうな。
「美佳達的にはどうだ? 今以上に探索のペースを上げても大丈夫そうか?」
「うん。今日はそんなに戦闘もしてないから、探索のペースを上げるのは大丈夫だよ」
「私も大丈夫です」
とりあえず二人としては、探索ペースを上げるのは大丈夫らしい。
そうなってくると、どこの階層まで到達するのを今日の探索目標に置くかによるな。一応現時点における到達目標階層は、夏休みの成果を見る意味で10階層に設定している。
「そっか、それじゃぁこの後は少しペースを上げるとしようか。ペースが厳しかったら、ちゃんと言ってくれよ」
「「はい」」
という訳で、休憩後の探索は少しペースを上げて行う事が決まった。10階層まで潜った後は、残り時間と相談しつつって感じだな。




