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第454話 ゴブリンで期待されても

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 移動行列の流れにのり7階層に移動し始めた俺達は、さほど時間をかけずに7階層へと移動できた。1階層分の移動だけの上、レッドボアを探し奥へと進んでいたので階層移動の時間を短縮できた形だな。

 そして7階層に到着した俺達は、再び移動行列の流れから外れる。


「さて、と。7階層に到着した訳だが、このまますぐにダンジョン探索に出発するか? それとも、一旦休憩を挟んでからにするか……」


 先程レッドボアとの戦いを終えたばかりの美佳と沙織ちゃんに、俺はこれからの行動について意見を聞く。俺達3人は只歩いて移動しただけなので殆ど消耗していないが、レッドボアと戦った美佳と沙織ちゃんは少し消耗しているだろうからな。

 今日の探索は特に先を急いでいる訳では無いので、疲れたのなら小まめに休憩を取るのは問題ない。

 

「このまま先に進んで大丈夫だよ」

「特に消耗はしてませんので、このまま進んで大丈夫です」


 俺の問いかけに、美佳と沙織ちゃんは問題ないとばかりの笑みを浮かべながら先へ進む事を選択した。まぁ特に怪我をしたわけでもなかったし、肩慣らし程度の戦闘でそう大きな消耗もしないか。

 そんなわけで、俺達は引き続き7階層の探索へと足を進める。


「そういえば2人は夏休み中の探索で、どれくらいゴブリンと戦ったんだ?」

 

 俺達は周囲を警戒しつつ、7階層の奥へと足を進めて行く。その道中、俺は美佳と沙織ちゃんにゴブリンとの戦歴を確認する。

 美佳と沙織ちゃんは俺の問いかけに一瞬お互いの顔を見合わせた後、少し考えるようなそぶりを見せつつ口を開く。


「そうだね……夏休み中には大体100体以上とは戦ってきたかな?」

「だいたい1度に戦うのは3,4体でしたけど、10体近くのゴブリンと一度に戦った事も何回かありました」

「その数だと、ゴブリンとの戦闘経験としては十分そうだね。それはそれとして10体近くのゴブリンとも何度か戦ったって事は、モンスタートラップ部屋に近い状況だった感じかな?」


 3桁のゴブリンと戦っていれば戦闘経験としてはひとまず十分だと思うが、10体近くのゴブリン集団と遭遇するのは稀である。夏休み期間中という限られた期間で何度も遭遇しようと思えば、故意にそういった集団と遭遇出来る場所に行くしかない。

 つまり、罠として用意されている多数のモンスターが沸く場所に、とかである。


「うん。お兄ちゃんに連れていって貰った、あの部屋に近い状況だったかな? まぁ数自体はあそこより少なかったけど、初めて遭遇した時は少し驚いたけど」

「あっでも、通路の先に居るとわかってたから準備を整えてから奇襲で倒しました」


 美佳は少し自慢気に答え、沙織ちゃんは少し気まずげな表情で言いわ……説明をしてくれた。確かに事前に敵の情報を把握した上で作戦を練り準備を整え奇襲を仕掛けたのなら、二人の技量からするとまず怪我をする事なく倒す事が出来るか。

 そういえばトラップ部屋に行った時も部屋に出たゴブリンの数自体には驚いてたみたいだけど、複数の敵との戦闘自体はスムーズと言えばスムーズだったよな。


「ああ大丈夫だよ沙織ちゃん、別に怒ってるわけじゃないから。相手の状況を把握した上で大丈夫だと判断したのなら、特に言う事は無いよ」


 責めてるように感じたらしい沙織ちゃんを安心させるように、俺は笑みを浮かべつつ問題ないと伝えた。


「二人とも経験値的には十分と考えて大丈夫そうだね」

「そうみたいだな。それだけの数と戦っているのなら、今さらゴブリンを相手にして委縮する様な事もなさそうだ。安心したよ」

「ええ。ゴブリンを倒せなくてつまずく人もそこそこいるから心配だったけど、2人は大丈夫そうね」


 探索者の中には人型のモンスターを倒せず、探索者を辞めるか7階層以前に留まる者が一定数出ているからな。美佳と沙織ちゃんもそうなる可能性もあったので、裕二と柊さんは心配だったらしい。

 最初の1,2体は大丈夫だったけど、10,20体と続くと無理だという者もいるからな。100体以上倒せているのなら、そっちの方の心配もしなくて大丈夫そうだ。


「うん。夏休み中にいっぱい戦ったから、ゴブリンの相手はもう手慣れたものって感じだよ」

「数にもよりますけど、ケガを負う事なく倒せます」

「それなら、もう二人ともゴブリンとの戦闘は危なげなくやれそうだな」


 美佳と沙織ちゃんのゴブリンとの戦歴を確認し、俺達はゴブリン相手ならそう怪我を負う事も無いだろうなと思った。実際に先程のレッドボア戦を思えば、実力的には問題ないだろう。

 そして雑談をしつつ歩いていると、薄暗い通路の奥で蠢く人影を発見した。






 人影を見つけた俺達は一旦足を止め、通路の奥を確認する。

 

「探索者……じゃないな、アレは」

「そうだな。ライトを使ってる感じもないし、動き方がモンスターっぽい、多分ゴブリンだろうよ」

「そうね……3体かしら?」


 通路の奥に見えた人影、おそらくゴブリンだろうと俺達は判断した。3体のゴブリン達はまだ俺達に気づいていないのか、コチラに近付いてくる気配は見られない。好都合と言えば好都合ではあるが、何時コチラに気づいて襲い掛かってくるか分からないので注意が必要である。

 そして相手がまだコチラに気づいていないという事は、奇襲をかけるチャンスであり作戦会議を開く余裕があるという事である。


「じゃぁアレはゴブリンだと仮定して、この後どう動くか決めよう。美佳達はさっきのレッドボアとの戦いで肩慣らしはすんでるから、今度は俺達が倒すか? 丁度数も3体だから、一人1体ずつ担当できるしさ」

「そうだな、俺達も準備運動がてらに戦っておいた方が良いか」

「そうね……美佳ちゃんと沙織ちゃんはどう思う? 私達が相手にしても良いかしら? それとも貴方達が戦う?」


 俺と裕二は肩慣らしがてらに相手にしようと意見し、柊さんも賛成はしているが美佳と沙織ちゃんの意見も確認していた。

 すると美佳と沙織ちゃんは軽く頭を左右に振って、柊さんの問いかけに返事をする。


「お兄ちゃん達がやって良いよ、私達はさっきので肩慣らしはすんでるから」

「私も大丈夫です、次に遭遇した時に私達が戦いたいと思います」

「そう」


 美佳と沙織ちゃんが辞退した事で、今回のゴブリン達は俺達が相手をする事に決まった。まぁ美佳達も100体以上のゴブリンと戦ってきたというし、今更先を争って戦う事は無いよな。

 一階層ごとに美佳達の戦いぶりを確認しながら進む予定なので、美佳達がゴブリンと戦う姿を見るのは次の機会で良いか。


「了解、それじゃぁ今回は俺達が戦うよ。美佳と沙織ちゃんは後方から敵が来ないか警戒しててくれ」

「分かった。お兄ちゃんたちの戦いぶり、見せてもらうね」

「ははっ、期待して貰って悪いが、ゴブリン相手じゃ見せる様なモノは無いと思うぞ?」


 これが10体以上いるとかなら話は別だが3体、しかも1人1体担当では間合いを詰めてゴブリンの首を刎ね飛ばして終わりである。正直、技術的に見せるモノは無いと思うな。

 まぁワザと苦戦する必要も無いので仕方がないとは思うが、美佳の期待には沿えないだろうな。


「さて、敵を前にして何時までも話してても仕方ない。サッサと片付けてしまおう」

「そうだな……ライトを当てるぞ」


 裕二はそう言うと、手持ちのライトを通路の奥で蠢く人影に向ける。するとライトの明かりに照らし出され、通路の奥にゴブリンの姿が浮き上がった。

 うん、こっちに気づいたな。


「相手は間違い無くゴブリンだね、それも3体」

「そうだな。じゃぁ割り振りだけど、右端のヤツを大樹、中央のを俺、左端のを柊さんで良いか?」

「ええ、良いわよ」

「了解、右端だね」


 照らし出された相手を確認し、俺達は素早く担当するゴブリンを決める。正面にいるヤツを相手にするだけなんだけどな。

 そして俺達に気づいたゴブリンも、俺達に向かって威嚇する様に騒ぎ出す。


「じゃぁ、サッサと倒しちゃおう」

「そうだな」

「ええ」


 という訳で、俺達3人は相手が何らかの動きを見せる前に、武器を構えながら一気にゴブリンとの間合いを詰め始める。ゴブリンが間合いを詰めてくるより、俺達が間合いを詰める方が早いからな。

 そして俺達はそれぞれが担当するゴブリンとの間合いを瞬く間に詰め、俺達の動きに驚いたような表情を浮かべ迎撃対応が遅れたゴブリンに攻撃を仕掛ける。


「シッ!」

「フッ!」

「ハッ!」

「「「ギッ!?」」」


 俺達の口から短い呼吸音と共に繰り出されたそれぞれの武器は、ゴブリンが何らかの行動をとる前にその身に到達する。ゴブリン達に出来たのは、僅かに困惑と驚愕の入り混じった叫びを漏らす程度だ。

 そして俺と裕二が振るった刃は寸分の狂いも無くゴブリンの首を両断し、驚きの表情を浮かべたままの頭が刎ね飛ばされた。柊さんが繰り出した槍はゴブリンの胸の中心を深く貫き、背中まで貫通する大穴を開けている。


「……ふぅ、良し」


 ゴブリン達を切り伏せた後、死骸が粒子化し始めるのを待って俺達は警戒をといた。

 今の戦いは、美佳達の期待には応えられない鎧袖一触、そう言っても過言ではない戦闘だったな。

 

「お疲れ様、あっさり決着がついたね?」

「お疲れ様です、皆さん見事な早業でしたよ」


 後方から増援が来ないか警戒していた美佳と沙織ちゃんが、ゴブリンとの戦闘が終わった事を察し近付いてきた。美佳は若干詰まらなげな表情を浮かべているが、沙織ちゃんは対照的に尊敬の表情を浮かべている。

 やっぱり見せ場が無かったことが、美佳としては不満だったのかな?

 

「美佳、だから見せる様なモノは無いぞと言ってたじゃないか?」

「そこはほら、期待に応えてくれるかな……って」

「そう言われてもな……頭だけじゃなくバラバラにすれば良かったのか?」


 出来なくはないが、流石にモンスターを必要も無いのに何分割にも解体はしたくない。 

 すると俺の返事を聞いた美佳は嫌そうな表情を浮かべながら、胸の前で両手を使ってバッテン印を作った。

 

「そんな猟奇的な倒し方は見たくないよ! ほら、魔法とかでド派手に、ね?」

「ああ、そっちか」

 

 どうやら美佳としては、魔法を使ったド派手な倒し方を見たかったらしい。

 良かった。猟奇的な倒し方を希望されていなくて、もしそっちを希望されていたらどうしようかと……。


「期待に応えられなくて悪いな、そうならそう言ってくれればやったのに……」

「ああ、うん、そうだね……」


 美佳は恥ずかしそうな表情を浮かべながら、俺から顔を逸らしていた。別に魔法を見たいのなら見たいといえばいいのに、そんな恥ずかしがる要望でもないしさ。

 そして沙織ちゃんはそんな美佳の隣で、俺達のやり取りを楽しそうな笑みを浮かべ眺めていた。


「ん? 粒子化が終わったみたいだな」

「あっ凄い、3つも落ちてるね」


 粒子化を終えたゴブリンの跡には、3つのドロップアイテムが転がっていた。2つはお馴染みのコアクリスタルだが、もう一つのドロップアイテムが問題だった。

 ドロップしたアイテムは小瓶、多分初級回復薬である。


「回復薬、かな? これは当たりだな」

「回復薬は買い取り額もあまり値崩れしてないから、結構な儲けになるね」

「回復薬なら、今回の交通費ぐらいにはなるね?」


 喜びの声を上げる美佳達の姿を横目に、俺はドロップアイテムを回収していく。コッソリ鑑定解析スキルを使って、ドロップ品が回復薬であることを確認し、最低限の収入を得られたことに小さく安堵の笑みを浮かべる。今回の探索は美佳達との合同なので、普段の探索で得る様な収入にはならないと思ってはいた。なので、こうして赤字にならない最低限の収入を得られたことにホッとする。

 最悪の場合、ドロップアイテムが全てコアクリスタルという事態もあり得たからな。そうなっていたら、同行を申し出た美佳達が居た堪れなくなっていた可能性もあった。


「良し、回収完了っと。さぁ探索の続きといこうか?」


 ドロップアイテムを回収し終えた俺は、皆に出発の声を掛ける。今のゴブリン戦程度では誰も大した消耗になっていないので、このまま休憩を挟まずとも探索の続行は可能だ。

 そして回復薬のドロップで幸先が良くなった俺達は、引き続き7階層の探索へと足を進める。次の戦闘は美佳達に任せるので、そこそこ纏まった数のゴブリンが出てくれた方が2人の成長を観察しやすいんだけどな……。
















ゴブリン相手に魔法は……切る方が早いですからね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 367話(夏休みが明けて9月最初の週末のダンジョン探索時)に下のように言ってたんですが、矛盾しちゃってませんかね? > 「今日は美佳達に合わせて10階層辺りまで潜る予定だけど、二人とも…
[一言] そういえば物理で十分だからほとんど魔法使ってないような?たいして深くまで潜らないならば温存しないでリクエストに応えて派手にババンやコントロール練習兼ねて変なのとかやるにはいいのかもしれないな…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 眺めるのにはド派手な方が良いけど、オーバーキルも度が過ぎると…ね。
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