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第452話 ダンジョン情勢も変化するものである

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 入場列は思ったよりもスムーズに進み、予想より早く俺達に入場順が回ってきた。夏休みデビュー組と思わしき新人パーティーは少々もたついていたが、俺達は5人とも入場手続きは手慣れたものなので素早く探索者カードを読み取り機にかざし通過していく。

 何となく、通勤ラッシュ時間帯の駅改札を思わせる光景だよな。それだけ探索者という存在も、一般的になってきた証拠なのかもしれない。


「さて、いよいよダンジョン内に入るけど準備は?」

「問題なし」

「私も問題ないわ」

「大丈夫だよ」

「大丈夫です」


 返事をしてくれた裕二と柊さんは普段と変わらず無駄な力みのないリラックスした様子で、美佳と沙織ちゃんは少し表情が強張って緊張しているようだが、動き自体に問題はなさそうだ。美佳達が緊張しているのは、俺達が同行しているからかな?

 そんな感じで俺達はダンジョン探索モードに意識を切り替え、ダンジョン内へと足を踏み入れた。 


「まぁ、入り口近くはこんなものだよな」

「階層移動のメイン通りだからな。下の階層へ行くパーティーは皆、用事が無い階層は最短距離を移動したいからこうなるさ」

「ある意味、安全と言えば安全なんだけどね」


 ダンジョンへ入ってすぐ、俺達は恒例の階層移動の大行列に飲み込まれていた。ある程度移動するパーティー間の間は空いているが、基本的に前と後ろを別のパーティーに挟まれている。

 最初の頃は圧迫感を覚えて神経が少々苛立っていた事もあったが、今では何時もの事として気にせずにいられる慣れたものだ。 


「でも、正直に言って邪魔だよねこの列。下の階層に行こうとしたら、無駄に移動時間が掛かるしさ」

「まぁ、そうだな。でも、この移動行列もデメリットだけって訳でもないぞ? 新人パーティーからすると多数のモンスターに襲われピンチになったとしても、助けを求められる集団が確実にいる通路があるって事だからな。退路を把握していれば厳重注意とお説教は確実だが、死んだり大怪我を負う前に安全を確保できる。人の獲物を横殴りするのは探索者のマナー的にご法度だが、助けを求められたら助けられる力があるパーティーは加勢してくれる」


 美佳の漏らした愚痴に、俺は苦笑を浮かべつつフォローを入れる。美佳が思っている事は、多くの中堅以上の探索者なら誰もが思っている事だからな。

 しかし、通路に行列ができる上層階限定とはいえ、ダンジョン内でもイザという時の逃げ場があるというのは新人探索者パーティーにとっては重要なメリットだ。新人パーティーにすれば、多少の移動時間が増えるだけで保険が得られるんだからな。


「経験不足や自分の力を把握できていない新人パーティーからすれば移動行列はメリットかもしれないけど、ある程度以上の経験を積んでレベルを上げた探索者パーティーのメリットにならなくない?」

「いいや? 深層から戻ってくるパーティーにしても、行列に紛れれば帰りの上層移動の時にある程度の安全性が確保できるからな。特に疲労困憊している場合や怪我をしている場合なんかは、余計な戦闘を避けられるというメリットもある。周りの探索者達が倒してくれるのなら、態々自分達の手で倒したくなんかないからな。深層に潜れるようなパーティからすると、上層のモンスターがドロップするアイテムはスキルスクロールなんかの一部の例外を除いて、嵩張る上に単価が安いモノでしかない。特に帰り道の場合、深層でドロップした単価の高いアイテムを戦闘に支障が無いギリギリまで持ってる状態だろうしな」

「……確かにそう言われてみると、中堅以上の探索者パーティーにとっても移動行列にメリットがあるように思えるね」

「まぁ、帰り道で感じるメリットなんだけどな。行き道だけで考えると、移動行列は単なる渋滞でしかない。目標の階層へ移動するだけなのに、戦闘も出来ずに何倍もの時間だけが掛かるしさ」


 移動に掛かる時間の半分……例えば1時間分だけでも戦闘に回せるのなら、20階層以降に潜れる様な中堅探索者パーティーだと10万円近くは稼ぐ事が出来るんじゃないかな? 更に運よくスキルスクロールなどのレアドロップ品を手に入れられたのなら、100万円を超える稼ぎになるだろう。

 そう考えると中堅探索者パーティーの時給って、少なく見積もっても数万円レベルだよな。ダンジョン内を新幹線や飛行機移動の様に、お金を出せば短時間で移動できるようになれば利用者は後を絶たないだろう。移動に多少のお金が掛かったとしても、直ぐに元は取れるんだしさ。


「そう聞くと、やっぱりメリットはあっても邪魔って思っちゃうね」

「まぁ仕方ないさ、人間そんなものだよ。メリットを自分の肌で感じない限り、幾ら利を説かれても不平不満が漏れるもんさ」


 何とも言えない表情を浮かべる美佳に、俺は軽く頭を横に振りつつ肩を竦めた。

 全くもって、難儀な事だ。理解は出来るが納得できない、っといった感じなんだろうな。頭では正論だという事は分かっているが、モヤっとした感情が残ったのだろう。


「それより二人とも、あまり話し込み過ぎて遅れないようにな。遅れて前とあまり間を空けすぎると、後ろから文句言われるぞ。早く行け!ってな」

「ああ、悪いな裕二。気を付けるよ」

「気を付けます!」


 話に集中して少し皆と歩みが遅れていた俺と美佳は、裕二の指摘を受け少し駆け足気味に皆との間を詰める。そこまで気になるほど間が空いていたわけでは無いが、こんな環境なので些細な事をきっかけにトラブルに発展しかねないので気を付けるに越したことはない。行楽シーズンの渋滞にはまってイライラするドライバーの心理、って感じかな? 普段なら気にも掛からない間なのに、何故か目につき文句が零れるやつ。

 そんなこんなしつつ、俺達は移動行列の流れに乗ってダンジョンの奥へと足を進めていく。






 階段を下り5階層を通り過ぎると、移動行列の人波も少し減り移動速度が上がっていく。夏休みデビュー組の新人パーティーだと、まだココまでは来れないだろうからな。

 5階層以降まで潜るとなると、新人探索者卒業間近といったパーティー以上だろう。


「美佳、この辺で1度肩慣らししておくか?」

「うーん、まだいいかな? 減ってはきたけどこの人混み具合からすると、モンスターと遭遇するだけでも時間が掛かりそうだし」

「まぁ、そうだな。でも、下へ行くとモンスターも手強くなるぞ? 大丈夫なのか?」

「うん。ゴブリン、7階層に行く前には1度戦っておくよ」


 俺が手強いモンスターが出てくる前に準備運動がてらに手頃なモンスターで1度戦っておくかと提案すると、美佳は軽く頭を横に振りつつ移動行列の混み具合を見て、もう一つ階層を下りてから肩慣らしをすると口にした。

 確かに混み具合を考えると、もう下の階層の方が人口密度は低いかもしれないが……。


「美佳。7階層の前にとなると、6階層でって事になるが……寧ろここより混むかもしれないぞ?」 

「ゴブリンリタイア組の事だよね? たぶん大丈夫だよ。もっと下に行けるパーティーは嫌がって活動を避けるから、寧ろ人口密度は低めだよ」

「そうか?」

「お兄ちゃん達だって、この辺の階層は移動経路って事でスルーするんでしょ? 他のパーティーの人達も中堅どころのパーティーは避けてるから、浅い所を少し探索する分には意外と穴場なんだよ6階層って」


 最近は、そうなってるのか? 俺達がこの辺で活動していたころは、ゴブリンが討伐出来ずにリタイアした探索者パーティーが多くたむろし、モンスターの取り合いが激化してまともな探索は出来なかったんだけどな。

 特に一部の探索者は悔し気に表情を歪め殺気立った眼差しを向けて来るから、何とも言えない居心地の悪さを感じ避けていた。ゴブリン討伐にトラウマを抱える事なく実力があるのなら、無理にそんな6階層を探索する必要なんてないからな。その結果、美佳の言う穴場化につながったんだろう。


「そんな事になってたんだな、全然知らなかったよ。裕二や柊さんは、今の話耳にした事ある?」

「いや、俺も初耳だ。今の6階層て、そんな事になってたんだな」

「私は美佳ちゃん達から少し聞いた事があるわ、と言っても6階層で戦ったって程度だけど。居心地悪くないのかな?と思っていたけど、そんな事になっていたのね……」


 俺達3人は、美佳の語る6階層の現状に驚きの表情を浮かべる。普段は単なる通り道として通過するだけだったので、そんな変化が起きているとは知らなかったな。

 そんな俺達の反応に、美佳と沙織ちゃんは意外そうな表情を浮かべていた。


「お兄ちゃん達、知らなかったの? 知ってると思ってたんだけど……」

「皆さんなら、何でも知ってるって言っても不思議じゃないって感じですからね」

「ははっ、流石に何でもは知らないよ。今みたいに直接自分達のあずかり知らないところで起きた出来事に関しては、興味を持って調べるか誰かから聞かないとね。今回の場合は、メインの活動階層から離れた単なる通り道と思っていた階層での出来事だし、あと昔の印象に引きずられて固定観念化しちゃってたな」

「そうだな。メインの活動階層では無いが、少し今との違いを調べておいた方が良いかもしれない。今では、同じ階層でも情勢の変化が激しいだろうしな」 

「そうね。ある程度は把握してるけど、私達が知ってるこの辺の階層の情報は半年近く前の情報だもの。変わっているのは当たり前よね」


 最近色々とイベント続きで忙しかったとはいえ、もう少し足元に注意を払っておくべきだったな。自分達の至らなさを反省しつつ、もう少しダンジョン情勢についての情報収集にも力を注ごうと決心する。

 仮に俺達が知ったかぶりして誤情報を流した結果、それを信じた相手が大怪我したとなったら後悔してもし足りなくなるからな。そんな状況を少しの手間で回避できるのなら、手間を惜しむべきではないと思う。

 

「まぁこの話はダンジョンを出た後にもう一度するとして、そういう状況というのなら特に反論する事は無いかな。6階層に降りたら1度、肩慣らしのつもりで戦ってみるとしよう。美佳に沙織ちゃん、それで良いかな?」

「うん」

「はい」


 という事で、6階層に降りたら1度モンスターとの戦闘を行い肩慣らしをするという事に決まった。






 ダンジョンに入って1時間ほど移動し、俺達は6階層に到着する。到着した俺達は移動行列の流れから外れ、6階層の奥へと肩慣らしの相手を探しに向かう事にした。あくまでも肩慣らしの為の一時離脱なので、早々にモンスターを見つけて先へと進みたいしな。 

 

「確かにこうやってじっくり辺りを見回してみると、昔の様な張り詰めた雰囲気が無くなってるな。美佳達が言う様に、浅い所を探して回るだけならあんまり精神的な負担は感じなくて済みそうだ」

「ああ。だけど奥の方に行くと、ゴブリンリタイア組が陣取ってるらしいぞ。恨みがましい目で見られたいわけじゃないし、余り奥まで行き過ぎないように気を付けないとな」

「そうね。肩慣らしの軽い戦闘が目的なんだし、態々接触する必要はないわ。パッと探して、パッと戦って、パッと撤退しましょう」


 久しぶりに降り立った6階層の醸し出す雰囲気の変化に俺達3人は少し驚きつつも、軽く頭や肩を回しながら体をほぐしていく。

 

「そうだね……美佳と沙織ちゃんも準備は良いかな?」

「うん、大丈夫だよ!」

「私も大丈夫です!」


 俺の掛けた確認の声に美佳と沙織ちゃんは、やる気に満ちた笑みを浮かべつつ元気よく返事をしてくる。2人とも、気合十分といった面持ちだ。


「それじゃぁ先に進もうか。いくら人が減ったとはいえ、上の階層でモンスターと遭遇するのは難事だからね。立ち止まっていたら時間がもったいないしさ」


 美佳と沙織ちゃんが適度な緊張感を保ちつつ、何時でも武器を繰り出せるように維持している姿を確認し、俺達3人は軽く感嘆しつつ2人の成長に安堵の笑みを浮かべる。これだけ出来るのなら、そうそうケガをする事は無いなと。

 この二人の姿が見られただけでも、今回のダンジョン探索は成功だなと思いながらダンジョンの奥へと歩き始める。


「止まれ、通路前方から人のモノではない歩行音が聞こえる。この音の感じ……複数体でこっちに向かってきているな」

「どうやらモンスターがこちらに向かってきてる様だな。皆、迎撃準備を」



 裕二の警告と俺の迎撃指示に、柊さん達3人は己の得物を通路前方に向け構えた。美佳と沙織ちゃんの2人には過剰な緊張も無く、自然体に見える姿で堂に入った構えをしている。

 そして6階層の探索を始め10分ほどし、俺達はレッドボアの群れと遭遇した。
















時間が経つと自分が知っていた頃とは色々と変わっている、っていうのは良くあることですよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 主人公グループ3人の場合壁けってババババと移動できるからそのうち上位グループは皆そうやって移動するようになったら面白いことになりそう……でも階層間の道って蹴れるほど縦に広いのかしら
[良い点] ダンジョン渋滞も悪い面だけではなく、良かったです [一言] たった半年で激変して面白いです 妹さん達 教わったことだけでなく、自分達で観察し判断してい活躍するので凄いです
[良い点] まだまだ過渡期。探索者も増えるが、ダンジョンも増える? [一言] 更新ありがとうございます。
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