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第442話 誤解は解けた、か?

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「お待たせしました」


 小脇に資料の束を持って戻ってきた湯田さんは、俺達の前に麦茶の入ったグラスを置いていく。

 そして配り終えた湯田さんは、俺達の正面のソファーに腰を下ろした。


「広瀬さんとは文化祭の時に顔を合わせましたが、九重さんと柊さんとはお久しぶりになりますね」

「「お久しぶりです。文化祭に来て頂けたようで、ありがとうございます」」

「いえいえ。せっかく教えて頂いてましたし、久しぶりに学生の頃を思い出せて良い気分転換になりましたよ。それにしても、皆さんが出展していたブースは随分と繁盛していましたね?」


 軽い挨拶がてらに、湯田さんは文化祭を見に来た時の話題を持ち出し話し掛けてくる。残念ながら俺と柊さんは顔を合わせる事はなかったが、裕二から湯田さんが見に来てくれていたという話は聞いている。


「ははっ、そうなんですよ。元々、お茶濁しのつもりでそこそこまったり出来る様な感じの企画でやっていたんですけど、予想外と言うか想定外と言うか……」

「まさかお客さんが途切れること無く来るようになるとは思っても見ませんでした」

「ははっ、確かにあの数は凄かったですからね。自分もあの行列を見て思わず、えっ!?って思いましたから」


 柊さんが担当している時は、そこまで噂が広まってなかったらしく厄介なお客はきたものの、長蛇の列と言うほどの行列は出来ていなかった。逆に、噂がそこそこ回ったタイミングで交代した裕二は、想定外の大盛況に苦慮してたって話だ。俺の時は一応裕二達がある程度体勢を整えてくれていたので、大変ではあったけど何とかお客を捌くこと自体は出来たんだけどさ。

 ホント、まさかまさかの事態だったよ。


「本当にそうなんですよね。お陰で文化祭が終わった後にも、お仕事が回って来ましたから」

「お仕事? ああ。あの発表内容だと、他の探索者をやってる生徒さんも知っていた方が良い話でしょうからね」

「ええ。生徒会からの協力依頼で、全校生徒向けの啓蒙プリントなんてモノを作りました。素人が大人数向けに、そう簡単に手を出して良い分野とは思いませんが、気付く切っ掛けを作ることはした方が良いでしょうから」

「そうですね。自分も税金なんてモノをキチンと意識し始めたのは、社会に出てからでしたから。高校……学生の間ではあまり意識しませんでしたから」


 湯田さんは軽く頷きながら、分かると言いたげな表情を浮かべていた。

 なんでも湯田さんは初任給の明細を貰った時に、給料から天引きされている税金や保険料を見て実感したそうだ。求人情報誌に載っている額面上の給料額より、手取り額は8割程度になると思った方が良いよとのこと。色々引かれるモノが多いらしい。

 

「そうですよね、学生が直接関わりそうな税金なんて消費税ぐらいです」

「ですね。その分、大人が気付いて助言すべきなんでしょうが……」

「子供のお小遣い稼ぎ、といった程度の認識でしか無かった人が予想以上に多かったんでしょうね」

「その結果が、貴方方のブースでの混乱の原因といった所でしょうね」


 ダンジョンでドロップするアイテム類の売値は、ある程度はテレビなどで話題になっている。とはいえ、多くの人にとってそこまで親身になって考えるようなモノでは無かったというのが問題だったんだろうな。まさか自分の子供が、控除範囲の上限を超える程稼いでいるなんて思いもしなかっただろうしさ。その上、稼いでいる子供にしても、態々ダンジョン探索で得た収入を毎回親に報告するヤツも少ないだろうしな。

 現に俺達だって探索者として得た詳しい収入については、ロクに親にも報告していない。特に、個人事業主として独立してからは、親も基本的にノータッチだ。


「おやおや、随分と盛り上がってるね」


 湯田さんと話し込んでいるウチに時間が経ったらしく、少し疲れた様な表情を浮かべた桐谷さんが部屋に入ってきた。






 桐谷さんが部屋に来たことで、湯田さんとの世間話は自然と終了した。桐谷さんは湯田さんの隣に腰を下ろすと、軽く頭を下げながら挨拶をする。


「お久しぶりですね皆さん、半月振りぐらいですかね?」

「はい、そのくらいになりますかね。ここ暫くは、色々と大変でしたし」

「ははっ、確かに色々と大変でしたからね」


 桐谷さんは裕二の言葉に苦笑いを浮かべながら、疲れた様な表情を浮かべる。

 うん。俺達の方は協会との口止め交渉で話は取りあえず終わったが、桐谷さんの方は関係各所への手続きやら交渉やらで大変だっただろうからな。面倒なモノを見付けてしまって、本当に申し訳ない。


「それで、あの件は無事に終わりましたか?」

「急ぎの仕事は一段落は付いた、といった感じですね。まだまだ片付けなければいけない問題はありますが、ココからの仕事は時間がいる仕事ばかりです。この件で、皆さんにご迷惑は掛からないと思いますよ」

「そうですか、一段落付けたのなら良かったのですが……」


 官庁相手の手続き系は終わっており、不動産屋としての仕事が残っている、といった感じなのかな? 確かに地主さんや周辺住民への説明なんかは、理解を得る為に時間が掛かるだろう。


「まぁアレの公開も暫くは無いとの話なので、のんびり片付けるつもりですよ」

「のんびり、ですか」

「ええ、のんびりと確り」


 それはつまり、今回見付けたダンジョン周辺の土地に関しては、桐谷不動産の方で漏れなく利権を確保するという事かな? まぁ突如湧いて出た美味しい話なんだしな、苦労した分の利益は確保したいのだろうしさ。

 裕二と桐谷さんの間に何とも言えない雰囲気が流れるが、それも直ぐに消え失せる。 


「さて、あの件の話に関してはこの辺にして、本題の方の話を進めましょうか?」

「はい、お願いします」

「何でも、少し購入予算の上限を変えたいとの事で……」


 桐谷さんは少し怪訝気な表情を浮かべながら、俺達に条件変更の内容を確かめてきた。

 まぁ探索者をやっているとは言え俺達のような学生が、いきなり購入額を上げる等と言い出したら不思議に思うだろうな。今提示している購入額だって、学生としてみればかなりの額だ。それを更に上げようとすれば、こう言った表情にもなるだろう。


「はい。幾つかの内見を回らせて貰った事で考えていたことなんですが、少々予定外の臨時収入が得られましたので、思い切って上げてみようかという話になりまして……」

「臨時収入、ですか」

「ええ、臨時収入です。探索者関係での」


 裕二が少し含みを揉めた言い回しをすると、桐谷さんも臨時収入(口止め料)の意味を理解しているらしく納得とも取れる表情を浮かべる。

 まぁ桐谷さんからすると、購入額が上がる=会社の利益も上がるだからな。購入額が上がる分には、問題無いだろう。


「分かりました、それではお考え中のご予算をお聞きしても良いでしょうか?」

「ええと、その前に幾つか参考資料を見せて頂いても良いでしょうか? 購入予算自体を上げることは決まっているのですが、どの程度の予算でどの程度の物件があるのかが判らなくて……」

「ああ、確かにそうですね。では、幾つか価格別にオススメの資料をお持ちしますので、参考になさって下さい。湯田君、幾つか資料を持ってきてくれるかな?」

「はい。どの程度の予算の物件までお持ちしましょうか?」


 桐谷さんの指示を受け立ち上がった湯田さんが、俺達に資料の購入費について話を振ってくる。

 俺達は軽く顔を見合わせ、小声で相談する。


「どうする? 1千万単位で持ってきて貰う?」

「5百万単位で倍々に増やしていく方が良くないか?」

「そうね、それで5千万くらいまでで持ってきて貰いましょうか?」


 一先ず話が纏まったので、価格条件を湯田さんに伝える。

 予算額を聞いた湯田さんと桐谷さんは、一瞬驚いた様な表情を浮かべたが、直ぐに平素な表情に戻した。額自体は聞き覚えはあるのだろうけど、俺達のような学生から出るとは思わなかった額だから驚いたって感じだな。


「分かりました。では、その予算の方で資料を用意してきますので、少々お待ち下さい」

「お願いします」

「では、失礼します」


 湯田さんは足早にお店を後にし、上の事務所へと移動していった。

 そしてお店に残った俺達と桐谷さんは湯田さんが戻ってくるまでに、コレまでに回った内見物件について話をする事にした。


「実際に物件を見てみると、色々と自分達の考え足り無さに気付きますね」

「コチラが要望した条件は満たしてありますが、実際に行ってみると色々と難点が目に付きましたね」

「物件までの山道は問題無いのですが、最寄りの場所まで行くのが思っていたより大変でした。免許が取れる年齢になれば問題も緩和されるんでしょうが、今の私達では少し負担が大きいですね」


 俺達は桐谷さんに、コレまでで思ったことを口にする。自分達が出した条件に沿った物件ではあるが、流石に移動が大変すぎるモノばかりだった。やはり自由に使える足が、自転車や公共交通機関だけというのが辛い。

 その気になれば自転車でバイク並の速度を出す事も出来るが、そもそも自転車の作りがそのような事をすること前提に出来ていないので最悪1回乗っただけで大破しかねない。実際、そこそこの力を込めるとフレームから軋む音が聞こえたからな。


「皆さんがご要望された条件の物件は、基本的に人里離れた山奥ですからね。公共交通機関は余り通らない場所や遠く離れた場所ばかりですよ。皆さんの年齢からすると、車移動も出来ないので移動手段の少なさはやはりネックになるでしょうね」

「ええ。湯田さんに連れられ内見に行って、一番に感じたのはそこでした。山中の移動の方は、行ってみれば力任せに解決出来る問題なんですが……」

「湯田君が持ち帰ってきた記録映像を見る限り、探索者をやってる方にはそうなんでしょうね」

「アレを見られたんですか? それは少し恥ずかしいですね、何か変なこと言ってませんでしたか?」


 桐谷さんが言う記録映像というのは、あの崖をフリーフォールした時のヤツかな? アレは流石に一般的な探索者では辛いと思うけど、アレを探索者基準と考えるのは拙いんじゃ……。

 俺は一言言って置いた方が良いんじゃないかと思い、裕二に誤解を解くようにと視線を送る。すると裕二も心得ているらしく、苦笑を浮かべつつ桐谷さんに話し掛けた。


「ですが桐谷さん、流石に俺達みたいに山中を移動出来る探索者は少ないと思いますよ? 特に探索者を始めて日が浅い初心者辺りは、ベテランスポーツ選手辺りの身体能力で考えていた方が良いですね」

「君達のような動きは難しい、と考えた方が良いのかな?」

「はい。探索者はダンジョンでモンスターを倒すことによってレベルが上がり、その恩恵として身体能力が強化されていきます。探索者になって日が浅いという事は、その恩恵を受ける機会が少なく総じて身体能力も高くはありません。ですので自分達が内見で行った山林を苦も無く移動出来るようになるのは、中堅レベル帯の探索者からだと思います」

「中堅レベル……具体的にはどの程度かな?」


 桐谷さんの質問に、俺達は頭を悩ませる。山林移動を主眼に置けば、戦闘力はこの際無視出来るので……中堅レベル……少人数パーティ勢で言えば20階層辺りまで潜れる位かな? 企業勢で言えば、ダンジョン内で中長期的な拠点を構えられる会社辺りだろうか?

 俺達は小声で相談し、一つの結論を出す。 


「そうですね。一概には言えませんが、少人数パーティで20階層、企業勢ではダンジョン内で拠点の構築が可能かどうか、ですかね。その辺りまで行ける探索者なら、レベルの恩恵による身体能力強化は十分だと思います」

「……そのクラスの探索者というのは、それなりに人数は居るものなのかね?」

「自分達が良く通っているダンジョンでしたら、それなりの数は居ますね。ただ、自分達のような学生探索者は少なめです。そこまで行ける探索者は、企業系や個人事業主系の成人年齢の探索者が大半ですね」

「ありがとう。貴重な現役探索者の意見だ、参考にさせて貰うよ」


 裕二の返事を聞き、桐谷さんは少し難しげな、しかしドコか安堵したような表情を浮かべていた。まぁ記録映像を見て、俺達の動きが探索者の基準だという誤解は解けたのだろう。難しい表情を浮かべたのは、俺達と同じように練習場として山林を購入してくれそうな層の人数分布を考えてのことだろうな。まぁ学生メインで考えなければ、それなりに居ると思うけど。

 そして暫く話していると、俺達が要望した資料の束を抱えた湯田さんが戻ってきた。
















とりあえず平均的な探索者の関する誤解は解けた、かな?


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挿絵(By みてみん)

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