第440話 時期悪く人手不足らしい
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南城生徒会長の提案に、俺達は何とも言えない表情を浮かべながら見つめ合う。文化祭の時に配付した資料はあくまでも、学生が学校の部活動で調べ纏めた資料を文化祭で配っただけであった。
念の為に配布したプリントの下の方には、情報の解釈違いで間違った掲載内容があるかも知れません、といった文言も入れておいたしさ。
「「「「……」」」」
年末に慌てない為の啓蒙活動という意味では賛同しても良いのだが、自分達の解釈違いで誤った情報を生徒に与えないかな?といった懸念が脳裏を過ぎる。
基本的に法律関係の文章は難解なので、解釈違いをする可能性が高いからな。正確な所は資格を持つ専門の人に聞いて貰いたいというのが本音だ、税理士さんとかにさ。
「ええっと、協力するのは吝かでは無いんですが、全校生徒向けに配布するには情報の正確性に欠けると言いますか……」
「ええ、貴方達の言いたいことも分かります。確かにこの手の話は間違いでは無くても、文面の読み方によって解釈違いが起きやすい事柄ですからね。専門の知識も無い学生が曖昧な知識で、広く情報を拡散させるべきでは無い分野の話だとは思います。ですが、正確な情報源に注意を誘導させるのは悪いことでは無いと思いますよ。この情報化社会の今、調べようと思えばスマホ一つで公的機関が発する1次情報にアクセスするのはそう難しいことではありませんからね」
「……確かにそうですね。知らなければ情報を調べようともしないでしょうが、身に迫った忠告をされればちょっと調べて見ようかなという気が出てくる人は居るでしょうね。ちょっとスマホを操作するだけで、情報自体は出てくるんですから。その先の対応をするかどうかまでは、どうこう言えませんけど」
「少なくとも、知っていれば何かしらかの行動はとれるはずです」
南城生徒会長が言う様に、存在を知らなければ詳しく調べる切っ掛けも得られないからな。今回の場合、情報の正確性はある程度確保出来ていれば、生徒に税金の存在を知ってもらう事を重視した方が良い。
俺達は軽く顔を見合わせ軽く頷いた後、裕二が代表して南城生徒会長に返事をだす。
「分かりました、協力させて貰います」
「そうですか、協力していただける様で良かった。予備知識を調べる所から始めると、ウチだけでは流石に手が足りませんので助かります」
「概要を把握するだけならそれほど時間は掛からないとは思いますけど、人に教えるような文章を作ろうと思えばそれなりに下準備がいりますからね」
「ええ、少なくとも記載されている内容を理解出来る程度の知識は必要ですからね。配る本人も良く理解していないモノを、全校生徒に配るのは流石に気が引けます」
「確かに」
配る方が内容を理解して無いものを貰っても、受け取った方も困るだろうしな。
とはいえ、一先ず生徒会からのお願い話は纏まった。
「では、早速プリントの原案を作って頂けますか? 内容としては文化祭で配られたもので良いと思いますが、幾つか追加して頂きたいモノが……」
「追加というのは、ダンジョン協会や税務署辺りの公式ページのアドレスとかですか?」
「はい。一次情報源にアクセス出来るよう、公式ページに誘導するような形にして頂けると助かります。先程も言いましたが、私達では正確性を担保しきれませんからね」
「分かりました。正確性が怪しいので詳細な具体例を避けつつ、探索者に関わる税金の存在を知らせる形にしてみます」
南城生徒会長から配布プリントの原案要望を聞き、俺達は紙面の構成を考える。裕二が言う様に、下手に具体例を挙げるより、税金の存在を知らせ自分で調べる方向に誘導する方が良いだろうな。
後になって、あのプリントには書かれてなかったとか間違ってたじゃ無いかと言われても困る。役所の公式ページのアドレスとか、偶に新聞で見る無料税務相談会の情報を載せておく方が無難だろうな。探索者に関わる税金の存在は教えたんだから、後は自分で詳しく調べて貰いたい。
「では、その形でお願いします。原案の作成には、どれくらい掛かりますか?」
「手書きでよろしければ、コレから作成出来ますよ? 文化祭で基本は出来ていますし、少し内容を変えれば大丈夫だと思いますので」
「では、お願い出来ますか? 生徒に配る前に、学校側にも確認をして頂きたいので」
「分かりました。では早急に」
微妙にやり取りが事務的な感じになってるが、まぁ原案作成に必要な要点の意思疎通が出来てるから良いか。変に湾曲した言い回しをして、認識がずれて原案の作り直しをするよりは。
そして一通り注意点を確認した後、南城生徒会長は席を立った。
「それではお手数ですが、よろしくお願いします」
「はい。コレなら1時間ほどで作成出来ると思いますので、完成したら生徒会室の方に持って行きますね」
「分かりました、お待ちしてます」
南城生徒会長は俺達に向かって軽く会釈をした後、部室を後にした。
南城生徒会長が部室を出た後、俺達は顔を見合わせながら大きな溜息を漏らした。
気軽な感じだったけど、大仕事を任されちゃったな。
「さてと、いきなり大仕事を任せられちゃったね?」
「そうだな、全校生徒向けの文章の原案か……」
「私達の活動が評価して貰えた、って事なんでしょうけどね……」
文化祭の盛況ぶりは予想外だったし、終わった後にもこんな仕事が回ってくるだなんてな。ホント、お茶濁しのつもりで作った資料がココまで話を大きくするなんて思ってもみなかったよ。
そして裕二は視線を橋本先生に向け、今回の依頼の件について問い掛ける。
「それはそうと先生。先生としては、俺達がこの件を受けても良かったんですか? 学校全体に関わる、結構大きな話だったんですが……」
「問題無いわ。寧ろ今回の文化祭でアナタ達が配ったプリント、学校の方にも話が回ってきてたのよ」
「学校の方に話が回ってきた? えっと、それはどういう事なんでしょうか?」
裕二の疑問に、橋本先生は少し疲れた表情を浮かべながら理由を話してくれた。
文化祭が終了した後から学校には、ある件での問い合わせが何件も来たそうだ。曰く、俺達が配付した資料の内容は本当なのか?と言った確認の内容だったらしい。
「電話対応を担当していた先生は、最初何のことだか分からなかったそうよ。ウチの部が文化祭で何をしているのかって事は、把握してなかったみたいだしね。でも、似たような問い合わせが何度も続くから、担当の先生から私に話が回ってきたの。こういった問い合わせが来ていますが、何か知りませんか?ってね」
「そんな事になってたんですか」
「なってたのよ。で、私が貴方達から貰ってたプリントを提供したんだけど、話がそこで終わらなくなったの。最終的には就業時間前の職員会議で議題に上がって、学生探索者の税金問題を解決するには、って話になったのよ」
「……」
文化祭が終わった後に、そんな大事になってたんだな。
俺達が何とも言えない顔をしていると、橋本先生は少し呆れた様な表情を浮かべた。
「貴方達、アレだけ大盛況だったのよ? 内容が内容なんだから、それなりに反響があって当然でしょ?」
「ああ、まぁそうですよね。ウチに来てくれていたお客さんって、ウチの生徒の保護者さんばかりだった感じでしたから」
「貴方達の配った資料を持ち帰った人が気になって調べるのは当然よ、何せ放置していたら面倒くさいことになるんだから。確認の電話くらいしたくなるわ」
「ははっ、そこは税務署にでも問い合わせて欲しかったですね……」
何で学校に確認の電話を掛けてくるんだ? あの内容だと、学校より会社か税務署辺りだろうに……。
「本当にそう思うわ。でも、こうして問題が浮き彫りになった以上、学校としても何かしらかの手を打たないといけないのよ」
「それで、俺達と生徒会ですか?」
「ええ。文化祭実行委員会経由で話を聞いた生徒会が、今後に起こるかも知れない懸念を解消する為に貴方達と共同で事に当たる、って形でね。本当は私達が動くべきなんでしょうけど、この問題より先に解決しないといけないことが起きてしまって……」
橋本先生は苦虫をかみつぶしたような表情を浮かべながら、今回の件の内情を説明してくれた。
「それって、例の飲酒問題ですか?」
「ええ。警察沙汰にこそならなかったけど、学校からすると問題解決の優先度としてはコチラが上なのよ」
「まぁ、そうでしょうね。飲酒問題の方は早急に対応しないといけない問題ですけど、コッチの問題は言っても数ヶ月間の時間的余裕がありますからね」
「流石に一クラス分の処分ともなると、学校側も手が足りないのよ。その上、中間考査も近いからテスト問題の作成なんかもあるしね……」
問題自体は認識しているが、現状は動くに動けない。なので学校が正式に対策に動き出す前に、予防的措置として生徒会主体で学生が自主的に啓蒙活動に動いた、という形にしたという事か。
間近に迫る中間考査や飲酒問題が起きなければ、俺達にお声が掛かること無く学校がこの問題に動いていたのかもな。
「確かに、それだけ立て込んでいたら先生達も手が足りなくなりますね。何と言うか、問題が発覚した時期が悪かったと言うか……」
「せめて飲酒問題が無ければ、ある程度コチラで対応出来たんでしょうけど……」
「盛大にやらかしましたからね」
「ええ。毎年の事だから学校側もある程度想定はしていたけど、まさかココまで大規模にやらかすとは思っていなかったわ」
例年では存在していなかった学生探索者という存在が、問題を大きくして発覚させる事態になったからな。今までなら学生が酔って暴れたとしても、簡単に仲間内で取り押さえられ内々で片がつき飲酒が学校に発覚するなんて事は無かったんだろう。
それが今年は……うん。
「兎も角、学校側としては手が回らない所を生徒会が補佐してくれる今回の件は両手を挙げて歓迎してるわ。ただし、全校生徒に配布するモノだから、事前に内容のチェックはさせて貰うけど」
「学校側が認可しているというのなら、コチラとしては特に異論はありません」
「そう言って貰えると助かるわ」
学校側が今回の件を認識しておらず、文化祭実行委員会経由で把握した生徒会が勝手に行っているという訳で無いのなら問題無いだろう。先走った結果、とはならないだろうからな。
しかしこういう話になると、南城生徒会長が提案した生徒会が前面に出てウチは名前だけ協力者として記載するというのは良かったのかも。中々面倒な事になっているので、矢面には立ちたくない案件だからな。
「じゃぁ、早速原案を作るとするか」
「そうだね。1時間位で出来るって約束したしね」
「そうね。といっても啓蒙目的のプリントなら、そう凝った作りにはしなくて良いと思うわ。下手に文字をぎっしり詰め込むと、それだけで読む気力が無くなるって人もいるわよ」
確かに、柊さんの指摘は尤もだな。文化祭で配ったプリントはウチに来てくれた興味がある人向けに作っているので、少し文章量が多いからいらない部分は削った方が良いかもしれない。
ただし、イラストはいらないだろうが、見だしの文字を大きくしたり重要な文言を目立たせるくらいはして置いた方が良いだろうな。初見でインパクトを与え、プリントの内容に目を通すようにした方が良い。
「じゃぁ私、ダンジョン協会のHPに税金関係の話が掲載されてるか調べるね」
「それなら私は、税務署のHPを調べて見ます」
「私は……国税庁のHPを見てみます」
「それじゃぁ私は、その他の公的機関のHPを漁ってみますね」
美佳達は俺達が原案の文面を考え始めたのを見て、スマホで税金関係を扱う公的機関のHPを調べ始めた。今回配布するプリントは、公開されている正確な一次情報源にアクセスして貰うのが目的だからな。どこの公的機関のHPを見れば良いのかを紹介する為にも、HPの確認は必須だ。
自分達で言い出した1時間という納期を守る為、俺達は作業を分担し手際よく原案を作成していく。
「それじゃぁ皆、頑張ろう」
そして最終的に完成した原案を橋本先生にチェックして貰った後、俺達は約束通り完成した配布プリントの原案を生徒会室に届ける。原案を受け取った南城生徒会長から作成協力に感謝され、プリントの方は生徒会でチェック後に学校側へ提出し、早ければ明日の帰りのHRで配布されるだろうと聞いた。
コレで文化祭関連の面倒事も終わりになると良いんだけどな……。




