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幕間六拾六話 文化祭実行委員会の奮闘記 その2

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 教頭先生たちに無許可スカウトマン問題を任せた後、私達は軽く後始末をしてから元の会議室に戻ってきていた。スカウトマンの件は、大人のお話合いが必要になる問題なので、私達の出る幕はない。

 そして会議室に戻って来た私達にも、一休みしてからというほどの暇はない。


「お帰りなさい星野委員長。いま通報があった別件で、数名がトラブル対処に出動中です」

「お疲れ様です。それで、通報のあったトラブルの内容は何ですか?」

「通報内容を聞いた限りでは、そう大きな問題ではありません。お客さんの取り合いで口論になっていたというモノや、中庭の出店間で物資置き場の縄張り争いなどです。トラブル対処に出動した実行委員の報告では、争いそのものは既に収拾し後始末をしている所だそうです」

「ご苦労様です。トラブルは小さい内に対処するのが吉ですので、この調子でこの後もよろしくお願いします」


 文化祭開催直後という事もあり、細々としたトラブルが方々で発生していた。基本的に生徒間の些細な言い合い等で終わる事が多く、先程のスカウトマン問題の様な先生に出張ってもらう様な大きなトラブルは起きていない。 

 寧ろ、あのスカウトマン達の行動が非常識なのよ。


「星野委員長、またトラブル発生で。今度は体育館の出し物をしている演劇部の方です。初回の開演準備が間に合わず時間をズラそうとしたらしいのですが、上手く遅延の説明が出来ず来てくれたお客さん達が混乱を発生させているみたいです」

「それは……演劇部の方で対処出来そう?」

「外来のお客さんの数が多いらしく、人手が足りないみたいです」


 中野君の報告で、演劇部でトラブルが発生した事を知る。外来のお客さんは在校生と違って滞在時間も限られているだろうから、開演時間がズレると予定が狂うと焦っているのかもしれないわね。体育館を使っての演劇部の出し物は文化祭の目玉の一つで楽しみにしている人も多く、他のステージイベントとの時間の兼ね合いもあり、大幅に時間がズレると後々のイベントにもズレが生じるという困った事態が発生する。

 まぁ規模が大きくなればなるほど、なかなか時間通りにとはいかないモノね。


「演劇部の話では準備遅延自体は30分ほどで解消できるらしいんですが……」

「それでは実行委員会の方からも人手を貸して、混乱の収拾に取り掛かりましょう。今動ける実行委員は、何人いますか?」

「3人ほど動かせます。他のトラブルが起きた際の事を考慮すると、対処に専念させられるのは3人が限界ですね」

「説明の手伝いなら3人で十分でしょう、直ぐに演劇部のトラブル処理に派遣してください」

「了解です、直ぐに人を選び派遣します」


 この手の問題なら、人を派遣すれば簡単に対処できるので楽である。単純に人手があれば解決できる問題だから。

 しかし、人を派遣すれば解決とはいかない面倒な問題というのも突然発生する。


「星野委員長、ちょっと面倒なトラブルの通報です」

「面倒?」

「1年生の射的屋で、クレーマーの生徒が暴れる寸前だそうです。かなり興奮した状態らしく、何時暴れ出すか分かったものじゃない、との事です。しかも最悪な事に、そのクレーマー……」


 中野君は顔を顰め若干天を仰ぐような仕草をしてから、苦々しい口調で告げる。


「本人の語る話を聞く限り、探索者らしいです」

「探索者か……」


 私もクレーマーの素性を聞き、中野君と同様に顔を顰める。探索者、例年の文化祭では無かった警戒すべきトラブル要素の一つだ。資格さえ取得すれば学生でもダンジョン探索が出来るという事もあり、学生探索者の数は増加の一途をたどっており、ウチの学校でも多数の生徒が探索者をやっている。

 そして今回の文化祭における懸念事項の一つであった、探索者学生によるトラブルがついに起きてしまったという事だ。


「私達が仲介せずに、トラブルの方は解決できそうですか? クレーマーの人が興奮しているのなら、下手に第三者が口出しすると更に煽る事になり暴れ出すかもしれませんし」

「それは、中々に難しい事かと。解決できるのでしたら、こうしてウチに通報は来ていないでしょうからね。寧ろ第三者が介入した方が、クレーマーも落ち着きを取り戻すかと」

「そうね、実行委員が介入しましょう。このまま放置しても事態が良くなる事は無さそうだものね」

「はい。念の為、派遣するメンバーは2,3年生で探索者をやっているモノから選びます。万一の場合、探索者をやっている者でなければ、抑えられないでしょうから」

 

 中野君の主張は尤もだろう。万が一探索者クレーマーが暴れ出した場合、被害を最小限にしつつ取り押さえるには探索者を当てるしかない。コレが2年生や3年生の教室で起きていた場合、周囲の探索者をやっている生徒が総掛りでクレーマーを抑えられる可能性もあったが、1年生では活動時間的に経験もレベルも低く対処しきれない可能性の方が高いだろう。

 そうなると、実行委員会に所属している探索者をやっている2,3年生の者を派遣するのが無難な対応だ。


「お願いするわね。万が一の事態が起きる前に、この問題は収拾を付けたいわ。ケガ人が出てしまったら、校内だけの問題で済ませられなくなるかもしれないもの」

「では私も実行委員会の責任者として同行します。いち実行委員だけで対応するより、副委員長も出張ってくる問題を起こしたと思わせる方がクレーマーの生徒も頭が冷えるでしょう」

「そうね。でも逆に自暴自棄になって、暴れ出す可能性もあるわよ?」


 この手の輩は自分が悪いのに、正論を言われると逆上して暴れ出す可能性がままある。大人しくしてくれるのがベストだが、今回のクレーマーが逆上しないと言い切れないのは歯がゆい状況だ。


「このまま放置していても、暴れ出す可能性はあります。少しでも冷静さを取り戻す可能性が高い対処をする方が良いかと」

「それもそうね。じゃぁ中野君、よろしくお願い」

「はい」


 中野君は少し緊張気味に返事をした後、実行委員の中からレベルの高い探索者生徒を選抜し、1年生の教室で問題を起こしたという探索者クレーマーの元へと向かった。

 私は会議室を後にする中野君達の背中を見送りつつ、何事もなく無事に帰って来てくれたらいいのだけどと祈るだけだ。






暫くして、中野君達が会議室へと戻って来た。同行者として、襟章からすると2年生の生徒と大学生らしき外来客を連れて。クレーマー本人らしき2年生の彼は憔悴した表情を浮かべ落ち込んでおり、保護者っぽい大学生も気まずげな表情を浮かべている。

 

「戻りました、星野委員長。一先ず問題は解決し、今回の騒動を起こした生徒に同行をお願いしてきました」

「お疲れ様です、中野副委員長。それで、そちらの方は?」

「彼の保護者枠の方だそうです。彼が今回の騒動を起こすに至った原因を知っており、その説明の為にと同行してもらいました」

「そうですか」


 つまりトラブルを起こした彼の情状酌量を求め、保護者が説明に来たという事かな? 中野君の反応を見るに、怪我人が出るなどの大事に発展する前に事態は収まったようなので、そう厳しい対応にはならないと思う。

 そもそも実行委員会に出来るのは、問題を起こした者への忠告迄だ。問題を起こした生徒への停学措置や外来客への退校要請は、教員が担当すべき領分である。


「では、お二方に少しお話を伺いたいと思いますがよろしいでしょうか?」

「……はい」

「はい」


 私の問いかけにクレーマー生徒は神妙気な声で、保護者枠の大学生は申し訳なさが滲む声で返事をしてきた。冷静さは取り戻したらしく、自分が起こしたことに罪悪感を覚え反省はしているらしい。

 そしていくつか質問を繰り返し、クレーマーになった彼の話を聴き溜息が漏れそうになる。


「そうですか……大体の事情は把握しました。私が言うのもなんですが、不満が溜まっているからとそれを人に当たり散らすのは間違っていますよ? 今回は口論だけで何事も無く事態は収拾しましたが、万が一乱闘になりケガ人が出ていればタダでは済ませられませんでした。学校側からの対応だけでなく、最悪は警察沙汰にまで発展していたでしょう」 

「「……」」

「それに探索者としてそれ相応の力を持っているのでしたら、それをもっと自覚してください。一般生徒と探索者生徒が争いになった場合、間違いなく探索者生徒が競り勝ち一般生徒は大怪我を負ってしまいます。保健室での治療などでは無く、救急車を呼んでの即入院コースですよ?」

「「……」」


 彼等も自身の持つ力には自覚があるらしく、私の話に気まずげに視線を逸らしていた。まぁ普段からダンジョンでモンスター相手に暴れているのなら、自分の持つ力がどれほどなのかは当然把握してるか。

 とはいえ、そんな顔をするのなら最初っからこんなトラブルは起こさないで欲しい。


「私の方からは、以上です。ただ今回は起きた騒ぎが騒ぎですので、学校側から何かしらの対応があるかもしれません。今聞いた話は実行委員会の方から学校の方に伝えておきますが、学校側からも話を聞きたいと要請が来るかもしれませんので、その際は素直に要請に応え話をして下さい」

「……はい、分かりました」

「よろしくお願いします」

「では、退出していただいて結構です。それと気分はあまり乗らないでしょうが折角の文化祭です、この後も楽しんでください」

 

 今の精神状態では文化祭を楽しむ余裕は無いだろうなと思いつつ、会議室を退出していく彼等2人の背中を私は見送る。大きなトラブルに発展こそしなくて良かったが、何となく後味が悪かったかな。 

 




 

 文化祭も中盤、お昼時になりあちらこちらで食事をとる生徒や外来客の姿が見えるようになってきた。中庭で行われている食べ物系の出店には長蛇の列が出来ており、文化祭一番と言っていい程の騒がしさである。

 しかも、焼き鳥や焼きそば等といったソースやタレの焦げた香りがココまで漂ってくるのでお腹がすいてしかたがない。


「お腹……減ったわね」

「そうですね。ソロソロお昼時ですし、交代で食事をとりましょうか?」

「そうしましょう。休憩中にトラブルが起きても対応できるように、2交代で休憩しましょうか」

「全員一斉にでは、トラブル対処が後手に回りますからね。その方が良いでしょう」

「じゃぁまずは……」

 

 昼休憩を取ろうと私と中野君が振り分けを考えていると慌てた様子の女子生徒が飛び込んできた。息が荒いので、相当急いできたらしい。


「すみません、助けてください。中庭の飲食スペースで揉め事が起きていて!」

「はぁ……まずは落ち着いて詳しい状況を教えてちょうだい? 話を聞いてからじゃないと私達も動くに動けないから」


 生徒が関連する揉め事なら私達の領分だが、外来客が起こした問題だと教員にも出張ってもらう必要がある。

 そして走り込んできた女子生徒は息を整え、状況説明を始めた。


「なるほど、生徒同士の場所取りが揉め事の原因なのね?」

「はい。同じ場所を巡って10人ほどのグループ同士が睨みあってる状況で……自分達の方が先に確保していたんだとかって感じで」

「この混雑状況だと、10人ほどのグループだと一緒に食事をする場所を確保するだけで大変でしょうね。確かに争いのネタにはなるわ」

「はい。今の所はどちらも手を出さなさそうな感じなんですが、一触即発といった感じで……」


 それはそれで周りに凄い迷惑ね。折角お祭り気分で楽しく食事をしようとしているのに、直ぐ傍でそんな雰囲気の集団がいたのでは食べるに食べられない。

 影響が他に波及する前に、早めに解決した方がよさそうね。


「分かりました、ウチの方で対処します。通報ありがとうございます」

「よろしくお願いします!」

 

 ウチが対処すると聞き、通報してきた女子生徒は安堵した表情を浮かべた。

 

「中野君。私達が問題の対処に行ってくるから、中野君達は先にお昼休憩をとっておいて」

「良いんですか、自分が行きますよ?」

「いいえ、先に食べておいて。さっきは中野君が行ってくれたんだし、今度は私が行ってくるわ」

「そうですか……では、お願いします」


 と言う訳で、今回のトラブルは私が対応する事になった。しかし、どうやってこの混雑状況下で10名ほどが一度に食事をとれる代替場所を確保するか私は頭を悩ませる。一応学食が飲食スぺースとして開放されているが、既に満席になっている可能性は高い。そうなると、どこか野外でとなるが……どこか良い所あったかな?

 そんな事を考えつつ話に聞いた問題の現場に向かうと、そこには驚くような光景が広がっていた。


「……あれ?」


 10人程のグループ同士による揉め事と聞いていたのだが、その揉め事が起きている気配がないのだ。話に聞いていた現場では、皆仲良くといった感じで普通に食事をとっている。

 揉め事はどうしたという疑問を抑えつつ現場近くで食事をとっていた生徒に話を聞くと、どうにも揉め事自体が起きていたのは確かだが既に解決したらしい。どういう流れでそうなったかは知らないそうだが、何時しか揉めていた両グループは意気投合し一緒に食事をし始めたとの事。そして目の前で仲良く食べている者達が、そのグループの者達らしい。


「そう……ありがとう、教えてくれて」 


 話を聞き終えた私は無駄足だったかなぁと肩を落としつつ、無事に解決できて何よりだと安堵しながら会議室へと戻っていった。

 どうせこうなるのなら最初っから仲良く食べてよ、と内心で愚痴を漏らしつつ。
















イベント事って規模が大きくなればなるほど、雑多なトラブルが増えていきますよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] イベント関連で昔読んだ本から。 某広告代理店に葬儀を取り仕切って欲しいと依頼が。 その広告代理店が一番力を入れたのがトイレの確保だったそうです。 学校によりま…
[良い点] お昼ご飯食べられないほどのトラブル対応、ほんと大変です 楽しい文化祭の裏側もみれて、よみごたえあります。 また、弓矢のトラブル、ちゃんと忠告&釘をさせて凄いです 些細なケンカでも、パワー…
[一言] 主人公達の部活の所に大勢のお客さんが集まっているのならその分トラブルが起きる可能性が高そうだな。 探索者により喧嘩や事故で相手が大怪我を負ってしまうケースは数多にありそうで これは事前に回…
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