第436話 文化祭終了
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俺と重盛の会話を切っ掛けに、一時の間教室の中がにわかに活気づいた。まぁ、悪い意味での賑わい方なんだけどな。俺と重盛が話題にしていた探索者に関連する税金の話に、探索者をやっているクラスメイト達が食いついたのが原因だ。
皆一様に微妙に焦ったような表情を浮かべ、ウチの部の展示内容について細かく聞いてきた。
「……といった感じの内容で、今回の文化祭でウチの部は展示していたんだよ」
「「「……」」」
俺と重盛を囲んでいたクラスメイト達は話を聞き、色々と心当たりがあったらしく引き攣った表情を浮かべていた。中には空中で指を細かく動かし、今まで得たと思わしき換金額を勘定をしている仕草をしている者もいる。
いやー皆、順調に稼いでいたみたいだね。
「……皆、大丈夫?」
俺は立ち尽くすクラスメイト達の姿を心配して声を掛けるが、難しい表情で俯いたり天を仰いだりしたままで反応が鈍い。
流石にこのまま放置することは出来ないので、取り敢えず簡単なアドバイスをしておくとしよう。
「えっと、そのさ? 幸か不幸かまだ年末までは時間はあるし、取りあえず親に相談してみると良いよ。一人で対処出来る事ではないんだし、どう処理するかは相談してから動いた方が良いんじゃないかな?」
「……そうだな、取りあえず親と相談してみるよ」
「いきなり話に割り込んで悪かったな、九重に重盛。話が聞けて助かったよ。知らないまま年を越えていたら、大変な事になってた」
まだ困惑から抜け出し切れていない様子だが、取りあえずの落ち着きは取り戻せたようだ。一応の解決策を提示していたので、解決不可能な問題ではないと気付いたのが大きいだろうな。
まぁ解決の過程で、何で黙っていたんだと怒られるかも知れないけど……。
「えっと、さ。その九重君、お願いがあるんだけど……」
「ん、何?」
「その部の展示で配ったっていうプリント、余ってないかな? 余ってるようなら私も欲しいんだけど……」
俺達を囲んでいた内の一人である女の子が控え目な様子で、ウチの部で配っていたプリントの残りが無いか尋ねてきた。確かに探索者関係の税金について纏めたアレがあれば、家族で話し合うにしてもわりと簡単になるだろうからな。
幸か不幸か配りきれてない物がまだ何枚か残っていたので、それを渡すこと自体に問題は無い。問題があるとすると……。
「ああそれ、俺も欲しい」
「俺も俺も」
周りで囲んでいたクラスメイト全員が、自分も欲しいと主張し始めたことだろう。流石に、全員に配れるほどには残ってはいない。
なので……。
「余ってるのは何枚かあるけど、流石に全員分はないね。だから原本分を渡すから、自分達でコピーして貰えるかな?」
「ああ、良いぞ。貰えるだけでも助かるから、コピーはコッチでやるよ」
「じゃぁ、まだ時間あるしとってくるよ」
話が纏まった所で俺は重盛に断りを入れ、部室に置いてきた配布プリントの残りをとりに教室を後にした。やる事が無く暇を持て余していた所だったので、丁度良い時間潰しになるな。
俺が部室でプリントを回収し教室へ戻って来る頃には、殆どの片付けが終了し普段の教室へと戻っていた。まぁ、そこまで派手に飾り付けなどをしていたわけではないので、片付けにもそう時間は掛からなかったようだ。
そして俺が戻ってきたのに気付くと、配布プリントを欲していた探索者をやっているクラスメイト達が集まってくる。
「お待たせ、プリント持ってきたよ」
「お疲れ様、助かったよ九重」
「先に言ってたけど、人数分はないから要る人はコピーしてくれよ」
「了解、ありがとな」
一言断りを入れてから、俺は残っていた数枚の配布プリントをクラスメイト達に渡す。プリントを渡されたクラスメイト達は、早速とばかりに数人毎に分かれてプリントの内容を読み始めた。
そして一喜一憂しながらプリントを読み進めるクラスメイト達を尻目に、俺は片付けを終え雑談をしていた重盛と裕二に話し掛ける。
「お疲れ。さっきは中座して悪かったな重盛」
「ん? ああ、九重か。全然別に問題無いぞ、流石にあんな人数にお願いされたら断り辛いだろうしな」
「お疲れ大樹、部室までプリントを取りに行ってたんだってな?」
「ああ。ウチの部の展示内容を教えたら、余り物でも良いからってお願いされてな」
空いてる席の椅子に腰を下ろしながら、俺は裕二と重盛の雑談に混じる。
もう少し片付けの時間が残ってるので、後は雑談で時間潰しだな。
「それはそうと九重。広瀬から聞いたけど、お前等のところの部活の展示に、凄い数のお客が来たんだってな? 本当か?」
「ん? ああ、それは本当だよ。まさかまさかの大好評……いやホント、なんであんなにお客が来たんだ? なぁ裕二?」
「知らないって。俺ももう少しユックリとした店番が出来るつもりだったのに、まさかの休憩無しでお客の相手をしないといけなくなるとは思っても見なかったよ」
「おいおい、どれだけ来たんだ? 広瀬の話を聞くに相当来てたみたいだけど、まさか九重の時もなのか?」
俺と裕二が溜息をつきながらどれだけ苦労したのか愚痴を漏らしていると、重盛は心配げな表情を浮かべながら説明を求めてきた。
それにしても、どれ位来たのかって……。
「だいたい300人くらい、か?」
「多分、そんなもんじゃないか? 用意していた配布プリントが、殆ど無くなってたしな」
「……おいおい、マジでそんなに人が来たのか?」
「どういう訳か、行列がいつまでも続いてたからな……」
重盛は具体的な来客人数を聞き、信じられないといった表情を浮かべていた。実際に対応していた俺達にだって、信じられない数だし無理はないよな。
俺と裕二はそんな重盛の反応に、思わず顔を合わせ苦笑いを浮かべた。
「マジでお前等、何を展示してたんだよ? 探索者関係の資料を展示したって言ってたけど、それだけでそんなに人が集まるものなのか? 何か特別な宣伝でもしたとか……」
「特に宣伝とかはしてなかったんだけどな。精々、学校の文化祭の案内パンフレットに小さな紹介が載ったぐらいだ」
「学内の掲示板にも、アピールポスターとかも貼ってなかったぞ」
「おいおい、それでそんな人数が集まるかよ……」
今回の文化祭において、俺達は部の展示については宣伝らしい宣伝は一切していない。元々が、活動実態があるよと示す為のお茶濁し企画だったからな。お客が0というのは流石に困るが、10人か20人も見に来てくれれば十分といったつもりだった。
それにお客の来店が少なければ、暇な空き時間に交代で近くの部の出し物の見物に行こうかという思惑もあったのだが、まさかの大人気でそんな思惑もご破算になってしまったんだけど。
「それが集まったんだよ。ウチの展示はいわゆる食べ物系じゃなかったから、食材がなくなりましたので閉店ですって手も使えなくて全部のお客に対応しなきゃならなくなったんだ」
「何処かで打ち切れれば良かったんだけど、部室の前に並ぶ行列を見ると簡単に閉店ですとは言えないしな」
「ああ、そうなんだ……」
何とも言えない表情を浮かべる重盛を相手に、俺と裕二の口から止め処なく愚痴が漏れる。来客数が少なかった所からすると贅沢な悩みなんだろうが、実際に想定外の大人数の相手をした身としては愚痴の一つや二つは漏らしたい。
「それに迷惑な客も来たからな、二重の意味で疲れたよ」
「ああ、流石にアレは非常識な行動だよな。最終的には、校外につまみ出されてたみたいだし……」
そんな大忙しのところに来る厄介客は、本当に参るよ。大きな騒ぎにならないように対応出来たけど、ああいうのって事前に対応出来ない物なのかな?
そんな俺達の愚痴に反応し、重盛は何かに気付いた様に声を上げる。
「そういえば文化祭が始まって暫くした頃、何か校門の辺りで教員と外来客が言い争ってたって噂を聞いたな。あれって、お前等のところに来てた厄介客なのか?」
「……多分、そうじゃ無いか? まぁウチに限ったことじゃないと思うけど、可能性は高いと思う」
「そういえば柊さんが、ウチに来た迷惑客が教員に連れて行かれたって言ってたな……」
大騒ぎになってこそいないが、確り迷惑客に関する噂は回ってたらしい。まぁ教員に強制退場させられる外来客が、噂にならないって事は無いか。
そして、そんな話をしている内に何時の間にか片付け時間は終わったらしい。
「おーいお前等、一旦片付けの手を止めて席に着け。終業のHRをやるぞ、片付けの続きはHRが終わってからだ」
開きっぱなしになっていた教室の前方扉から先生が入ってきて、教壇近くから俺達に声を掛けてきた。
生徒達が席に着いたことを確認し、先生が俺達に向かって声を掛ける。
「さて、先ずは皆お疲れ様。無事に文化祭を終えることが出来て何よりだ。出店の方も特に大きな混乱もなかったし、片付けの方も一通り終わってるみたいだな」
先生は軽く俺達と教室内を見渡してから、軽く安堵の表情を浮かべながら感想を口にした。ウチのクラスの出し物は、混乱が起きづらい部類だし派手に飾り付けした方じゃなかったからな。
「朝にも言ったが今年はダンジョンが開放されてから初めての文化祭だった。例年に比べて珍しい……ダンジョン関係の出し物をする所も沢山有ったが、大きな混乱が出なかったのは本当に良かったと思う。まぁ少しトラブルも起きたが、大きなトラブルには至らずに済んだからな」
その少々のトラブルの中に、俺の関わったのが幾つあるのかなとふと思ってしまった。少なくとも、2つほどトラブルに心当たりがある。2つ目のトラブルは兎も角、1つめのトラブルの方は無事に解決したのか少々気にはなるが、もう関わることはない可能性の方が高いだろうな。
そんな事を俺が考えている内に、先生の話は続く。
「さて、文化祭は終わったがまだまだ片付けが残っている。来週からは何時も通りに授業があるので、いつまでもお祭り騒ぎを続けるわけにもいかないぞ。一応ウチのクラスはほぼほぼ終わっているようだが、学校全体で見るとまだまだ片付けは終わっていないからな」
文化祭は学校全体を使ってのイベントだからな、一応程度に用意されている1時間程度の片付け時間で終わるようなものでは無い。ウチのように簡単な所もあれば、気合いが入りまくって片付けが大変なところも有るだろうからな。
校門の入場口ゲートとかも片付けるそうだが、アレは明日回収業者が来てから片付けるとか言ってたっけ。
「コレから他のところの片付けに行く者は、余り遅くならないように注意しろよ。一応、明日の午前中にも片付けの時間は確保されてるからな。それと文化祭の打ち上げと称してどんちゃん騒ぎをするのは構わないが、周りの迷惑にならない事を心掛けるように。例年、騒ぎ加減を間違って学校に苦情が寄せられる事が多々ある。特に最悪なのは、仲間内だけだと調子に乗って飲酒などし騒動を起こした場合だ。当然のことながら飲酒等を発見した場合、関係者全員停学および退学などの措置が検討される」
先生が厳しい表情と眼差しで、俺達に釘を刺すように流し見る。
「せっかく楽しく終わることが出来た文化祭だ。打ち上げのどんちゃん騒ぎも楽しい思い出の一つだろうが、節度を持って楽しむように。先生も、近隣住民にお前達のことで通報された上、駆けつけて説教などしたくないからな」
先生は一瞬、ドコか悲しげな眼差しを浮かべていた。もしかしたら昔、実際に打ち上げで失敗した生徒に説教をした事があるのかもな。
確かにせっかく楽しい思い出の出来た文化祭というイベントだ、最後まで楽しい思い出であって欲しいものだ。
「さて、この後も片付け等で忙しい者もいるだろうから、いつまでも話していても仕方が無い。そろそろHRも終わりとしよう。先生の方からは他に、コレと言った連絡事項はない。誰か、皆に連絡しておきたいという事はあるか?」
そう言う先生は教室の中を流し見し、誰も手を上げたりしないので軽く頷き日直に号令を促す。
「それじゃぁ終わりとしよう、日直」
「起立、礼」
「「「ありがとうございました!」」」
全員で軽く頭を下げながら挨拶をすると、先生も軽く挨拶を返して教室を後にした。コレで文化祭も全て終わり、かな? 色々と大変なこともあったけど、終わってみると中々楽しいイベントだった。
後は部室を片付けてから皆でお疲れ様会……軽い打ち上げを予定していたけど、先生の忠告もあるし程々にして置いた方が良いだろうな。俺は裕二と柊さんに視線で合図を送りながら、そんなことを思った。




