第435話 人気者?になる
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星野文化祭実行委員長の宣言を受け文化祭も終わり、清掃と片付けの時間に入った。校舎のあちらこちらからねぎらいの言葉と物を移動させる音が響きはじめ、文化祭が終わった事を俺は実感する。
たった1日のイベントではあるが、長かったようで短かったなぁ。
「お兄ちゃんボーっとしてないで片付けしてよ」
「ん? ああ、悪い悪い」
どうやら感慨にふけって片付けの手が止まっていたらしく、美佳に注意されてしまった。俺は軽く頭を下げ謝りながら、片付けの続きをする。壁に貼り付けていた展示物を剥がし、展示場所に出していた折り畳みテーブルや椅子を片付ける。コレは借りものなので、後日返却するものだ。
そして10分程かけ、俺と美佳は大体の片付けをすませる。小さな部の展示なので簡単に片付いたが、コレが特別教室なんかを使ってる大きな部の展示だったら、もっと時間が掛かっていただろうな。
「良し、とりあえずはこれで良いだろう。後はみんなと相談しつつ、どれを捨てるか仕分けをするとしよう」
「そうだね。適当に捨てた後に、やっぱりあれは残しておきたかったのにとか言われたら困るし」
「文化祭の記念品になるからな、聞いてから捨てるのが無難だろう」
折角苦労して作った資料たちだ、自分にとって必要のないものだとしても、文化祭の思い出として残したいと感じる者もいるだろうからな。
そもそも、共同製作物なので一人の判断で勝手に捨てるのは拙いだろう。
「そうだね、じゃぁココの片付けは終わりで良い?」
「ああ、お疲れ様」
展示物用に臨時設置していたテーブルや椅子の片付けも終わり、普段の部屋模様に戻った事でひとまず片付けは終了となった。後の細かい片付けは、皆で相談しつつだな。
俺は軽く背を伸ばし体を解しつつ、同じように背を伸ばす美佳に話しかける。
「それにしても、当初考えていたよりお客さんが来て大変だったな」
「最終的に、だいたい300人近く来たのかな?」
「用意した配布プリントの数的に、そんなもんだろうな。いやホント、何でウチにこんなに人が来るんだよ。他にも見どころ一杯あっただろうに……」
「ホントにそうだよね、変なのも来たしさ……」
ああ、居たな。変なの。柊さんの話を聞いていたので、来るかもとは思っていたけどあれは無いよな。せめて学校側に許可を貰ってから、アポ取って来いよ。
アレだけで、スカウトの話をしてきても即座に断る理由になるぞ。
「まぁそれはそうとして、中々充実した文化祭になったよ。初めはお茶濁しで済ませるつもりだったのにさ」
「ははっ、そういえばそうだったね。余りの忙しさに忘れちゃってたよ」
「ぽつぽつお客さんがくればいいと思ってたのに、まさかの大行列店。何が起きるか本当分からないものだよな」
当初の予定では、如何にして暇な時間を潰すかって議論をしてたくらいお客が来ないと思っていたんだけどな。内容が内容だし、そこまで興味を持ってくれるお客さんはいないだろうってさ。
それに実際、暇潰し用の道具としてトランプとかを持ってきてたけど結局使う機会は無かった。そんな暇なかったよ、忙しくて。
「そうだね。じゃぁ片付けも終わったし、私クラスの方に行くね」
「ああ、俺もクラスの片付けを手伝いに行くよ。まだ向こうは終わってないだろうしな」
「ウチは出し物が出し物だったから、片付けには少し時間が掛かるかも」
「カラクリ屋敷だったな、準備も大変だけど片付けも大変だろうよ」
製作物が多いと、片付ける物も多くなるからな。特に部活で作ったものを展示していたのなら兎も角、文化祭の為だけに作ったというモノは基本ゴミにしかならない。実際学校の方でも指定の場所に文化祭のゴミを集めて、業者に回収してもらう手はずになっている。
確かうわさ話で聞いた限りだと、去年の文化祭ゴミは大型トラック2台分になったとか言ってたかな?
「うん。でも探索者やってる子も多いから、ごみを集積所に運ぶのは少し楽みたい。話を聞いてると、去年は手の込んだ出し物をしてる所は片付けが結構大変だったみたいだけど」
「確かに去年の文化祭をやってた頃は、まだダンジョンが民間開放される前だから探索者自体が居なかったんだよな。俺達も文化祭の片付けで苦労した覚えがある」
基本的に女子が細々とした片付けを担当して、男子がゴミの運搬係をしてたからな。そこまで重くは無いけど、造花などの装飾品がかさばって持ち運びしづらかったのを覚えている。
今年はその反省か、ウチのクラスの出店は大分質素な感じの飾りつけになっていた。
「皆で一生懸命作ったものだから惜しいって気はするけど、教室においてて何になるってモノでもないしね。全部廃棄するって事になってるよ」
「確かに、使わないものを何時までも残してはおけないよな」
「そうそう、だから全部捨てようって決まったんだ。という訳で、私行くね」
「ああ、気を付けてな。それと放課後、一度部室の方に皆で来てくれ。ここの分の仕分けもしたいしな」
美佳は俺の言葉に軽く頷き了解の意を示した後、軽く手を振りながら部室を出て行った。さて、美佳も行った事だし俺もクラスの方に行くか。
ああでも、その前にやる事をやってからだな。
俺は両隣りの部室に顔を出し、今回の文化祭で思わぬご迷惑をおかけしましたと謝罪して回った。一応、交代前に一度ご挨拶に伺ってはいるが、まさか文化祭が終わる寸前まで行列が残るとは思ってもみなかったからな。今後の良好な御近所づきあい?の為にも、形式的とは言えども謝罪して回ったという事実は大切な事だ。あなた方の事を無視したわけではありませんよ、というポーズの為にも。
誰だって、迷惑掛けられたのに謝罪の一つにも来ない隣人なんてゴメンだろうからな。
「良かった良かった、怒ってなくて。あの行列が目の前に出来ていたら、結構目についてただろうにな……」
今回の件はおこぼれと言うか波及効果と言うかは分からないが、お隣さんは両部共にウチに来たお客さんが一定数流れ込んでそれなりに繁盛していたらしい。おかげで、変な嫉妬を受ける事なく良好なお隣さん関係を維持できそうである。
俺は安堵の息を吐きつつ、自分のクラスめざし校舎内を移動していた。
「祭りの後だっていうのに、まだまだ祭りの最中って感じの賑やかさだな」
あちらこちらから響く楽しげな生徒たちの声やそこそこ激しい展示物を壊す物音で、実に賑やかな片付け時間である。廃棄物を集積所に運ぶ生徒、手洗い場で洗い物をする生徒、中庭でテントを片付ける生徒等々、みんな忙し気に校内を走り回っている。
俺はそんな生徒達の動きを観察しつつ、少し早歩き気味に自分のクラスへの道を急ぐ。
「うーん、コッチは大分静かというか、何というか……」
自分の教室がある校舎の2年生の階に辿り着くと、他の学年の階と違って一回りも二回りも賑やかしさが小さかった。片付けをする物音は至る所から響いては居るのだが、ドコか淡々とした雰囲気で片付けが進んでいるといった感じだ。手際よくと言えば聞こえは良いのだろうが、他の学年と比べドコか作業的な感じで片付けが進んでいるようだ。
俺は少々気まずげな心境になりつつ、淡々と片付けの進む他の教室の前を通って自分のクラスの前へと辿り着く。
「……良し」
俺は意を決し片付けの物音だけが聞こえてくる教室の扉に手を掛け、少し声を張りつつ中へと足を踏み入れる。余り話し声が聞こえてこないので、もう片付けは終わってるのかなと急に不安になるが、ココまで来たら気にしても仕方が無い。
「お疲れ様~」
扉を開けながら俺が声を掛けると、中で片付けをしていたクラスメイト達の視線が俺に集まる。遅れてきたことを非難するような眼差しはないが、ドコか感心しているといったものを感じさせる眼差しだ。
あれだ、もう戻ってきたんだ……といった感じの眼差しである。
「お疲れ様、九重君。もう部活の方は良いの?」
「えっ、ああ東さんか。うん、取りあえずの片付けは終わったよ。後は細々と仕訳をする片付けになるから、放課後に部員全員でやる予定だよ」
「そうなんだ」
俺に声を掛けてきたのは、扉の近くに居たウチのクラスの文化祭実行委員の東さんだ。片付けの指示役をやってるみたいで、全体の動きが見やすい扉の近くに陣取っていたらしい。
なので、ただ突っ立ってるのもアレなので東さんに聞いてみることにした。
「東さん、俺は何を片付けたら良いのかな?」
「うーん、その、急いできて貰ったのに悪いんだけど、もう大体の片付けは終わっちゃってて……」
東さんのその言葉を聞き、教室の中を見回してみると確かに手の空いてる感じのクラスメイトの数が多いように感じた。手持ち無沙汰といった感じで、ドコか居心地が悪そうでもある。
多分俺と同じく、部活の展示の方から先抜けして片付けに戻ってきた連中だろう。
「ほらウチのクラスって、そんなに大袈裟な装飾とかはしてなかったじゃない? 片付けと言っても動かした椅子やテーブルを元に戻したり、使った紙コップなんかを纏めて捨てるだけで終わりだから……」
「思っていたよりも、そんなに人手はいらないって感じかな?」
「う、うん。せっかく戻ってきて貰ったのに悪いんだけど、特に片付けるのはないから待機して貰って良いよ」
こうして俺は、教室に帰ってきた途端に即戦力外通告を受ける事となった。まぁ戦力外と言うより、過剰人員によって仕事がないだけなんだろうけど。
うーん、どうしよう?
「待機か……分かった。今更後から来たヤツが出しゃばって作業の手が止まるより、今やってる人が作業を進めた方が早く片付けは終わりそうだしね。でも、何かやれることがあったらいつでも声を掛けてよ。ゴミ捨てとかでも何でも良いからさ」
「うん、分かった。ゴメンね、せっかく早く戻ってきてくれたのに」
「いや。人員不足で片付けの手が足らないって事態よりはマシなんだし、気にしないでよ」
「ありがとう、そう言って貰えると助かるわ」
「じゃぁ俺は、あっちの方に居るから」
俺は東さんに軽く会釈をしてから、手隙の暇人が集まる一角へと向かった。幸か不幸か良く見知ったヤツが居るので、暇潰しは出来そうだ。
「お疲れ、相席させて貰うよ」
「ん? ああ九重も余剰になったのか」
俺が声を掛けると見知ったヤツ、暇そうに椅子に座って窓の外を眺めていた重盛のヤツが返事を返してきた。どうやら重盛のヤツも、戻ってきたは良いが余剰になった口だったらしく、やる気というものが完全に消えた目をしている。
俺は重盛の前の椅子に腰を下ろし、時間潰しの雑談を始めた。
「で、如何だった文化祭は? 楽しめたか?」
「まぁ、そこそこって感じだな。色々見て回ったけど、2年のところ以外は結構盛り上がってた感じだったぞ」
「お前もそう思ったか? ヤッパリ2年生の出し物は、少し気合いというか熱意が少なかったよな」
「完成度自体は高かったと思うぞ。ただ九重が言うように、他の学年と比べて少し熱量が足りないって感じだったな」
俺が思っていた事は、ヤッパリ重盛も感じてたらしい。片付けの風景を比べても、他の学年はまだまだ熱冷めやらぬといった感じなのに、2年生は特に騒ぐ事もなく淡々と片付けてるからな。熱量こそ足りなくは感じたが、文化祭への参加自体が消極的というわけでもなかったので悪い訳でもないので難しい問題だ。
といった感じで重盛と文化祭についての感想を話題に喋っていると、遂にその質問が投げ掛けられてきた。
「それはそうと九重、噂話で聞いたんだがお前のところの部活、大行列が出来るほどに大人気だったらしいな?」
「大人気というか……何だろうな? 並んでいたのが保護者とか外来の大人ばかりだったから、役所の相談会の行列みたいな感じになってたんだよ」
「はっ、役所の相談会? それで大行列が出来るなんて、いったいお前等は何の展示してたんだ?」
「何のって……部の活動に沿ったダンジョン関連の内容だな。主に探索者の収入と後処理について、といった感じか?」
俺達の話に一部の生徒が興味深げな眼差しを送ってきたが、話し掛けてくるわけでもないので今は無視しておく。
「探索者の収入ってのはドロップ品のことだろうけど、後処理ってのは? 探索者って、何かする必要があるのか?」
「探索者というか、働いて収入がある者なら誰もがする必要がある事、だな。要するに税金についての話だよ。学生でも探索者としての収入が多くなると、税金関連の手続きをしないといけないぞって話だ。ほら、偶に聞くだろ? 扶養控除の金額が……とかって話」
「偶に聞くな、パートをするなら扶養の範囲内で、とかって話だろ」
話が深掘りされるに従って、向けられていた眼差しの数が急に増えたような気がするが無視だ無視。
「そうそれ。探索者……特に学生探索者だと、大体のヤツは親の扶養に入ったままの状態だ。でも探索者としての稼ぎは、場合によっては簡単に親の扶養の範囲を超える事になる。なのに親の扶養に入ったまま範囲を越えた場合、ちゃんとした手続きをしてなかったら……面倒な事になる事間違いなしだ。最悪、収入の虚偽申告で追徴課税が罰則として発生する事もあり得る。とまぁ、そんな話を資料として纏めて展示してたら、何でか大人が一杯集まって……って、どうした皆?」
何時の間にか俺と重盛の座っている椅子の周りに、驚愕といった表情を顔に貼り付けたクラスメイト達が取り囲んでいた。そして俺達を取り囲むクラスメイト達の顔ぶれの多くは、探索者をしてる連中……もしかして君ら、税金関連の話を親としてなかった口なの?




