第432話 取材を申し込まれるも
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一抹の不安をいだきつつ、俺は美術部の展覧会?見学を終え散策の続きをする。ドコの部も気合いが入っているようで、大掛かりな出し物を披露している所も多々あった。
例えばチラリと覗いた書道部など、偶にテレビなどで見る特大紙への1文字書きを客の目の前でやっている。
「今年の一字が『探』、ね」
書道部が描いた今年の1文字として選ばれたのが『探』。どこぞの寺で年末に発表された、去年を表す文字が『迷』だった。迷宮や世間の混迷を表す1字との事で、発表された時のニュースを見た時は納得した覚えが有る。
それを考えると書道部が書いた『探』は、探索者の事を表してるんだろうな。世間の出来事は勿論だが、ウチの学校でも色々探索者関係でヤラカシがあったからな。今年1年のウチの学校を表す文字として、確かに『探』は妥当な文字だろう。
「良い意味でも、悪い意味でも探索者の行動は目立つからな」
学生探索者が増えた結果、後藤君達の一件は勿論のこと、部活関連では運動系の部活は事実上の活動停止状態になったり問題は出ている。逆に学生探索者が増えたお陰で、同じ学生探索者という仲間意識が芽生え、学年間クラス間を越えた生徒同士の交流も盛んに行われるようになっていた。
一緒にダンジョン探索に行った帰りに、チーム仲間の後輩に先輩が見栄を張って飯を奢るとか普通に見られる光景だ。
「さて、次に行くか」
一通り見終えると、俺は足早に次の部へと移動する。美術部での思わぬ足止めで、余り時間が無いからな。
そして俺は次々に部屋の外から軽く中を覗き込み内容を確認しながら、自分達の部室まで移動していく。
「皆、確りした内容の発表をしてるな。俺達なんて、半分お茶濁し企画だったのに」
見て回った他の部の発表内容と比べ、ウチの部の発表内容のやっつけ感と言ったら何とも言えない。それなのに、客の入りは俺達の部の方が多いときた。何とも申し訳ないと言った感情が、出店を見て回るに従い沸々と湧き上がってくる。
「自作の漫画やゲームとか、作るのにどれだけ時間が掛かってるんだ?」
他にも、創作料理のレシピを公開していた料理部や、自主制作の短編映画を披露している映研等々……一朝一夕では出来ない活動の成果を披露していた。
まぁ元々、牽制目的ででっち上げた出来たばかりのウチの部では無理なことだとは思うが、もう少し頑張った方が良かったかも知れない。
「まぁ、今更愚痴っても仕方が無い事だな」
少々心残りではあるが、今更言っても仕方が無い事なので切り替えるしかない。今回のことを反省して、悔いが残らないように来年頑張るとしよう。
「さて、そろそろ時間的に次で最後かな……」
交代時間まで残り10分を切っているので、引き継ぎなどを考えると次の部の見学で最後だろう。
となると、余り時間掛からなそうな展示をしてる部を……アソコにするか。
俺は目に止まったその部に、足を踏み入れた。
俺が最後の出店と思い足を踏み入れた部、それは新聞部だ。その名の通り、学校で起きた出来事に関するニュースを集め新聞を作り、昇降口近くの掲示板に貼り出すという活動をしている。
普段は多くの生徒がスルーするので余り知名度は高くないが、ウチの学校専門の新聞という事もあり、校内でそこそこ話題になった噂などは一通り取り扱っている……らしい。俺は余り見たことが無いので、聞いた話でしかないけどな。
「……なるほど、今年に入って発行された物を全部展示してるって感じなのか」
お客がいなくガランとしている新聞部の壁や何個も立てられたパーテーションには、コレまで新聞部が制作し発行したと思われる新聞が幾つも貼り出されていた。発行日と号数を確認すると、大体1週間おきに発行されていたらしい。
そして初めてじっくりと学校新聞を見るのだが、手書きじゃなくパソコンで作ってるらしい。そう言ったフォーマットがあるのか、普通の大手新聞社の物の様な出来映えの作りをしている。
「……コレが掲示板に貼ってあっても、普通の新聞の切り出しと思って素通りするかも知れないな」
俺は貼り出されている新聞を一瞥し、思わず声が漏れる。
コレはアレだ。余りにも普通の出来すぎて、どこかの部や生徒が活躍したので新聞記事になりましたよと貼り出されてると勘違いされる系の新聞だ。多くの生徒にスルーされるのは、無駄に完成度が高すぎて業務の一環で貼り出されている物と勘違いされるのだろう。
「あの、すみません。少し良いですか?」
「? はい、何です?」
「ウチの新聞について、何か御意見があったみたいですが……」
俺の漏らした声が聞こえたのか、一人の女子生徒が俺に声を掛けてきた。話の流れからするに、どうやら新聞部所属の生徒の様だ。
少し視線に険の色が浮かんでいるので、俺の漏らした言葉に少し不服があるらしい。
「えっと、すみません。意見というか……」
「何か感じるモノがあったんですよね? 出来れば、教えて貰えると今後の為に助かるのですが……」
言葉は丁寧だが険の色が浮かぶ目に、文句があるなら早く言えと言われているように感じる。
「……ふぅ、では率直に。この新聞、完成度が高すぎて少し地味です。無駄を省いた理路整然とした完成度も大切ですが、もう少し無駄というか独自色を出した方が皆の目に止まりやすくなるんじゃないかな?と」
「……地味、ですか」
「はい。完成度が高いのは良いと思うんですが、コレでは普通の新聞と見分けがつきにくいので多くの生徒には忌避……貼られてるのは知ってるけど立ち止まってまでは見なくてもいいやと認識されるんじゃないかなと。そうですね、例えるなら学校の事務室の前に置かれてるチラシに誰も注意を向けないことに似てるんじゃないんですかね? 必要な人は手に取ってみますけど、必要じゃ無い人は目を向けさえしないって感じです」
「……なるほど」
女子生徒の目から険の色は取れたが、今度は悲しげな眼差しを展示されている新聞に向ける。
そして暫く沈黙が流れた後、女子生徒が口を開く。
「頑張りすぎ……いや、見本を意識しすぎていたのかもしれないな」
「あの、すみません。好き勝手に言っちゃって」
女子生徒の落ち込む姿に申し訳無さが湧いてくる、言い過ぎたかもと。
「ああ、いや。気にしないで下さい。コッチから意見を求めただけですので」
「ああ、でも。本当に新聞の完成度は高いと思いますよ。文字の大きさや写真のレイアウト何かも、凄く見やすいですし……」
「それは、見本が良いからよ。でもその結果として、見て貰いたい人達に見て貰えない物になっていたなんて……」
「ははっ……」
肩を落とし落ち込む女子生徒に、俺は何の声を掛け何と慰めて良いのやら。
そして女子生徒は気持ちを切り替える様に軽く頭を振った後、真っ直ぐ俺の顔を見て口を開く。
「貴重な御意見ありがとう。なんでウチの部の新聞の知名度があがらないのか悩んでいたけど、何となく理由が分かったわ」
「そう言って貰えると助かる」
「それはそうと、こんな有名人がお客として来るとは思っても見なかったわ、九重君」
「!?」
自己紹介をした覚えはないのだが、なんでこの新聞部の女子生徒は俺の名前を知ってるんだ?
俺はついつい警戒し、目を細めて女子生徒を見てしまう。そんな俺の反応に、女子生徒は軽く笑みを浮かべつつ、俺の名前を知っていた理由を話してくれる。
「そんなに警戒しないで、貴方達は体育祭であんな凄技を披露したのよ? そんなアナタ達のことを、新聞部がネタとして調べないわけがないでしょ?」
「……ああ、なるほど。そう言う事か」
確かに女子生徒が言うように、アレだけ派手なことをしたのだ。校内の出来事を記事にする新聞部が、俺達のことを調べないわけ無いか。
それを証明するように、女子生徒は俺をある新聞の前に案内する。
「コレよ、体育祭を扱った記事になるわ。記事面は小さいけど、確りココにアナタ達の活躍?も記事にして載せてるのよ」
「どれどれ……って、エラく俺達の事を褒めてますね」
「それだけ印象的だったって事よ。私も流行に乗って探索者資格を取ってダンジョンに行ったけど、ある程度潜って直ぐに止めたわ。モンスター相手の大立ち回りなんて、私には向いてないって思ったわね。でも、レベルアップすると身体能力に補正が入るって聞いてからは、記者志望だから体作りの為に偶に行くけど本格的な探索はしてないわ。だからこそ、貴方達が魅せたアレがどれくらい凄いことなのかは理解してるわ。あの身体能力を得る為に、どれだけ努力したんだろうってね」
「ははっ、そうですね。まぁ、それなりには頑張ってます」
多分、民間としてはトップクラスに頑張っていると思う。
「それに貴方達が体育祭で頑張ってくれたお陰で、1年生で起きていた問題が収まったという成果もあったしね。アナタ達のお陰で、ウチの部の1年生の子も助かったって言ってたの」
「あっ、そうなんですか。ウチの部の1年生も、体育祭が終わってから跳ねっ返りの連中が大人しくなったって言ってましたよ。ただ、最終的に残念な結果になってしまいましたけど……」
「ああ、例の集団中退の件ね。あれには、流石に私達も驚いたわ。ウチでも記事にしようかと思ったけど、流石に不謹慎かと思って企画が流れたわ」
「確かに騒ぎにはなりましたけど、紙面で取り扱うのは難しいネタでしょうね……」
多数の生徒が中退した事を記事のネタにしたとしても、どう言う内容を書けば良いのかって話になるだろうからな。まさか中退する生徒の名前を一人一人羅列する訳にもいかないし、中退理由を聞いて回るわけにも行かないだろう。
そうなると結局、多数の生徒が夏休み明けに一斉に中退したとしか書けなくなる。それなら初めから記事にしない方がマシという物だ。下手な書き方をすると、知名度が低い校内新聞とはいえ、方々から非難の声が上がるだろうからな。
「まぁそう言う訳で、アナタ達のことは少し調べさせて貰っているので名前を知っていたという訳です。まぁ調べて無くても、体育祭後には話のネタの1つとして貴方達の事は出てたので、知ってる人は知ってると思いますよ。顔と名前が一致するかは分かりませんけど」
「そう言う事なら納得です、確かに知ってる人は知ってるでしょうからね」
1年生の出店を回ってる時にも、何となく顔は知ってるけど名前はという反応はされてたしな。
どんな噂が出まわっていたのか気にはなるが、気にしないでおこう。
「それで話は変わるけど、ウチの取材を受けてみない? 貴方達の特集を組んでみたいの。トップクラスの学生探索者の素顔、みたいにね。アナタ達なら体育祭で凄技を披露してるから、トップクラスと銘打っても非難されないでしょうしね」
「特集ですか……」
「夏休みが間に入って若干薄れた感もあるけど、アナタ達に対する妙な噂も残ってるもの。それを打ち消すのにも、この取材は役に立つと思うわ」
「……」
確かに正確な1次情報を広められ妙な噂を打ち消せるってのはメリットだとは思うが、トップクラスの学生探索者呼ばわりされると、変な嫉妬を買って面倒な輩に絡まれる可能性が出てくる。探索者をやる学生って、大なり小なり自分の強さに自信を持ってるだろうからな。アレだけ強いモンスターを倒した俺達って凄ぇ、って感じでさ。明確な大会などで強さを競って決めたわけではないのに、そんな強い自分達を差し置いてトップクラスを名乗るとは!と考える輩は一定数いると思った方が良い。
俺達が体育祭でやったあの演武、それなりに武術を使える20階層以下に潜れる探索者なら出来なくは無いだろうからな。夏休みという強化期間?を超えた学生探索者なら、一定数の者が出来る様になっていても可笑しくはない。コレが体育祭直後なら演武の衝撃もあって、ドコからも文句は出てこなかったんだろうけど。つまり……。
「すみませんが、取材はお断りさせて貰います。確かに噂は打ち消せるでしょうが、逆に変なやつらが来そうで……」
「そっか……残念だけど了解するよ。本人達が嫌と言ってるのに、無理矢理取材は出来ないからね」
「すみません、期待に応えられなくて」
「いやいや、コッチもダメ元でのお願いだったから。中々取材を受けてくれる子っていないからさ」
断られ慣れてるのか、女子生徒は残念ではあるが仕方が無いという表情を浮かべていた。
まぁ普通、中々うんとは言ってくれないだろうな。とは言え、そろそろ時間だな。
「そうですか。それとすみません、そろそろ約束の時間なので……」
「ああ、長々と引き留めて悪かったわね。色々と参考になったわ。また時間がある時にでも意見を聞かせに来てくれると助かるかな」
「ははっ、機会と時間があれば来させて貰いますよ」
「その時は歓迎するよ」
そんな遣り取りを新聞部の女子生徒とした後、俺は部屋を後にした。
さぁて裕二達も待ってるだろうし、今度は自分の部のお客さんの相手を頑張るとしよう。




