第430話 ターゲット層と違うお客
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楽しい会話を挟みながら行った記念小物製作も無事に終わり、俺は田中君に声を掛けてから2年5組を後にした。色々と問題が見付かった出店訪問となったが、知らなければ改善のしようも無かったことなので、良いタイミングで知れたと思っておこう。
そうで無ければ、思わぬ風評被害?の拡散を知って落ち込むだけだしな。
「さてと、そろそろ良い時間だし部室の方に行ってみるかな。追加分の配布プリントを刷るにしても、残りがどれくらいか現状は確認しておかないといけないしな」
午前中に結構な勢いでもっていかれたとしても、勢いが減ってたら無駄に多く刷って紙が勿体ないからな。残り枚数を確認してから、コピーしに行った方が良いだろう。
と言うわけで、2年の教室が集まる階を後にし部室へと向かう。
「年一の発表の場という事もあって、コッチもお客さんが大勢で賑やかだな……」
文化系部が集まる校舎棟へ足を踏み入れると、中々の賑わい具合に驚く。ドコの部の部屋にも人が多く集まっており、中には行列を作っている所もある。
行列が出来るほど人気って、一体どんな出し物をしてるのか興味を引かれるな。
「ドコの部も、気合い入っているな」
文化祭は文化系部にとって数少ない発表の場なので、ドコの部も外観の飾り付けにも気合いが入ってるのが一目で分かる。1年生の教室の出店ほど派手な所はないが、統一したテーマ性で飾り付けられた外観は、見る人に派手で賑やかと言う印象ではなく、華美と言った印象を与えるクオリティの高さだ。
一言で表すなら、センスが良い飾り付けである。
「っと駄目だ駄目だ、まずは自分の所を確認してからだな」
行列する程ってどんなのだろうと、ちょっと中を覗いてみるかなという誘惑に駆られたが、そこまで自由時間が残っているわけでもないので、先ずはやる事をやってから残り時間で見て回る方が良いと思い返す。
俺は誘惑を振り切り、自分の所へと少し足早気味で向かう事にする。何せ誘惑が多いからな、ココ。
「あれ? 何か、外来客の数が増えていってるような……」
階段を上り部室へ向かっていると、何となく周囲の客層が変わり始めているように感じた。1階や2階の辺りは生徒の方が外来客より多い印象だったのだが、階が上がるにつれて客層の比率が外来客多めになってきているように感じるのだ。
それも、何か難しげに眉を顰めている生徒の親御さんと言っても良い年代の客が。
「……なんか、嫌な予感がするな」
少々足取りが重くなりつつ、俺は目的地である部室へと向かう。部室が近付くにつれて、段々と客層の比率が外来客が多く……殆ど外来客になっていった。
そして若干の居心地の悪さを感じつつ漸く部室へ辿り着くと、そこには予想外の光景が広がっていた。
「なんで、ウチの所に行列が出来てるんだ? しかも、外来客ばっかり……」
俺の目の前に広がっていた光景、それは外来客で行列が出来るほどの賑わいを見せる部室の姿だった。
ウチの部、行列が出来るような展示していたっけ?
「……」
予想外の光景に思わず思考が停止し、暫し茫然自失とした眼差しで俺は行列の出来た部室を眺めた。
暫し唖然としていると、大賑わい?の部室の中から見知った顔が姿を見せる。
そして俺の姿を見付け、ドコか安堵したような声色の声で話掛けてきた。
「あっ、九重先輩!」
「あっ、館林さん。何か、凄いことになってるね……」
「そうなんですよ! 急にお客さんが沢山来るようになっちゃって……」
館林さんは俺に近寄って来つつ、部室がこうなった経緯を簡単に説明してくれる。
何でも柊さん達と担当を交代してから暫くはそれほどでもなかったそうなのだが、午後になってから急に沢山の外来客のお客さんが押し寄せて来るようになったのだそうだ。詳しい理由は分からないそうなのだが、柊さん達が担当していた午前中に来店したお客さん経由で知り合いに噂が回ったそうで、生徒の保護者を中心にウチの部を訪れる様になったそうだ。
「多くのお客さんは、九重先輩が作った展示資料がお目当てみたいです。配布用に用意していたプリントも、途中で追加分を刷ったんですけどもう残りが少ないんです」
「えっ、もう追加分を刷ってたの? しかも、それがもう無いって……」
「そうなんです。だから今から再追加分を刷りに行こうとしていて」
俺は本当に、何が起こっているのか訳が分からなくなり始めた。一応午前中の様子は柊さんに聞いていたので、ある程度纏まった数追加分として刷って持って行こうという話をしていたのだが、現実はそれを超えていたらしい。
既に追加コピーして補充したのに、更に追加する必要があるのか……。
「じゃぁその追加コピー、俺が行ってくるよ。元々柊さんからある程度話を聞いていたから、追加コピーして持って行くつもりだったからね。今来たのも、コピーする前にどれくらいコピーすれば良いか確認しようと思ってだしさ」
「えっ、良いんですか?」
「勿論。それで、どれくらい刷ってきた方が良いかな? 外の行列を見ると、100部ぐらいは用意した方が良いとは思うけど……」
「もう少し多い方が良いかもしれません。私達が追加分をコピーした時も、多めと思って100部コピーしたんですけど……足りませんでしたし」
追加で100部か……つまり事前に用意していた分も含めて、コレまで200部近くが配布されたって事か。えっ、出回り過ぎじゃない? 何でそんなに人気なの、マジで。
正直に言って、ちょっと税金関係の話を見て回ればすぐに出てくる話を纏めただけなんだよ? こんなに行列を作ってまで手に入れるような物じゃないんだけどな……。
「そっか……じゃぁ、もしかしたらこのまま行列が出来続けるかも知れないと思って、多めに用意した方が良いかもしれないね」
「そうですね……」
俺と館林さんは部室へと続く行列を目にし、今だ最後尾に新しいお客さんが並んでいく光景に、まだまだ無くなりそうに無いことを悟った。どういう噂話が出まわってるのかは知らないけど、ドコからこんなにお客さんが湧いて出てくるんだろう、本当に。
「……100、150部ぐらい刷ってきた方が良いかもしれないね」
「そうですね。偶に知り合いに配布する用に2部3部と複数枚貰いたいって言うお客さんもいましたから、それぐらいあった方が良いかもしれませんね」
「一人一枚って、最初に限定してれば良かったかも知れないね……」
「そうすると、並ぶお客さんがもっと増えていたも知れませんね」
今並んでいるお客さん以上の行列か……それは勘弁して貰いたいかな。今だって、10人以上入場待ちしてるんだしさ。大人気ってのは良いんだけど、コレはちょっと勘弁して貰いたい。
無駄に長い行列など、他の部からすると良い迷惑なだけだしな。
「まぁ、何だ。取りあえず配布プリントを刷ってくるよ。枚数が枚数だから、少し時間が掛かるかも知れないから」
「分かりました。よろしくお願いします」
「多分大丈夫だとは思うけど、もし交代時間に間に合わなかったら美佳のヤツに伝言を頼むね」
「はい」
というわけで、俺は館林さんからコピー用の原本を受け取った後、館林さんが部室に戻るのを見送ってからその場を後にする。
さて、枚数が枚数だから、コピーし終わるのにどれくらい掛かるかな?
文化祭の賑わいを眺めながら、俺は職員室へ向かう。学生が自由に使えるコピー機は、校内ではココにしか置いていないからな。
「うん、ヤッパリこの辺にはあまり人が来てないな」
職員室や事務室などが集まる場所なので、文化祭期間中とは言え外来客などは殆ど見受けられない。まぁこんなお祭り騒ぎをしているのに、特に用事が無ければ態々ココに来る物好きもそうそういないか。
そして人気の無い廊下を通り、俺は職員室へと到着した。
「……何となく気配はするから、見回りに出ている先生以外に何人かの先生は残ってるみたいだな」
まぁ学校が文化祭というイベントをやっているからといって、日常的な事務作業という物がなくなる事はないだろうからな、当然か。
俺は軽く深呼吸をして気持ちを整えてから、軽く職員室の扉をノックする。特に悪い事をして呼び出されているわけでもないのに、何故か緊張するんだよな職員室って。
「失礼します。コピー機借りに来ました」
中からOKの返答が聞こえたので、小さく断りを入れてから職員室の中に足を踏み入れる。
予想通り職員室の中はかなりガランとしており、数名の先生が机で事務作業をしているだけだった。
「コピー機なら空いてるから自由に使って良いよ」
「ありがとうございます」
入り口の近くの席に座って事務仕事をしていた男の先生に許可を貰い、俺はコピー機が置いてある進路資料コーナーへと向かう。進路相談がやりやすいようにと、職員室の一部をパーテーションで区切って併設されているコーナーだ。
だがまぁ、相談内容がまる聞こえになるから嫌だという意見があり、独立した部屋を用意した方が良いのではと良く議論されている。
「ええっと、モノクロが1枚10円でカラーが1枚30円か……両面コピーでも金額が同じなのはありがたいな」
今回は150枚コピーするので、料金は1500円だな。
俺は財布からコピー代を取り出し、コピー機の横に設置してあるコピー代入れの缶箱に投入する。コンビニのコピー機のように沢山の小銭を投入しなくて済むのは助かるけど、コピー代を誤魔化すヤツとか出そうな方式だよな。
「さて、時間も余りないしサクサク終わらせるか」
集金方法について詮無きことを考えつつ、俺は手早く配布プリントの原本の両面をスキャンしていく。
そして両面コピーを150枚と素早く設定し、早速コピーを開始する。
「スタートっと」
最初の一枚が出てくるまでには少し時間が掛かったが、2枚目からはかなりの速度でコピーされた紙が出てくる。コレなら途中で紙が切れるかインクがなくなりでもしない限り、5分もかからずにコピーは終わりそうである。
そして予想通り、コピーは5分もかからず終了した。業務用ってコピーが早いな、ホント。
「良し、取りあえずコピーミスも無さそうだな」
コピーミスがないか確認の為、コピーし終えたプリントに軽く目を通してみる。特に変な滲みや白紙などもないので、コピーは成功のようだ。
「……一応まだ自由時間はあるけど、先にプリントだけでも届けて置いた方が良いだろうな」
当初の予定では、追加分のコピーを終えたら他の部が出している出店を回ってから、交代時間に間に合うように自分の部へ行くつもりだった。しかし先程見た部の状況を考えると、先にコピーを終えたプリントを届けて置いた方が良いだろうな。
一応並んでいた皆さんは大人なので、配布プリントがなくなっても暴れると言う様な行動には出ないと思うが、変なトラブルが起きないように事前に動いておく方が良い。というわけで、先ずはこのコピーを終えたプリントを届けるとしよう。
「失礼しました」
俺はコピーした配布プリントを小脇に抱え、軽く一礼しながら職員室を後にした。それなりに長い時間コピー機を動かしていたので帰り際の挨拶をした際には怪訝気な表情を浮かべた先生に見られたが、まぁちゃんとコピー代も入れているので問題は無いだろう。
コピーしたプリントを持って部室まで帰ってくると、短くなってるかもと思っていた行列が更に長くなっていた。これ、20人ぐらい並んでるのかな? ……何で?
「更に増えたな……」
一瞬、回れ右をして交代時間まで目の前の現実から逃げようかと思ったが、流石にそれは出来ないと思い意を決して部室へと入っていく。
「いらっしゃい……って、大樹か」
「よっ、裕二。大繁盛してるな」
「まさかの展開だよ。なんでウチの部に、こんなに人が来るんだろうな?」
「俺もそう思うよ。それよりはい、コレ」
微妙に疲れた表情を浮かべる裕二に、俺はコピーしてきた配布プリントの束を渡す。コレだけあれば足りるだろう、多分。
「ありがとうな、まだ自由時間だったのに」
「いや、流石にこの盛況ぶりは予想外だったしな」
「本当にな。在校生向けの展示のつもりだったのに、何でか外来客……生徒の親御さん達にぶっ刺さったみたいだ」
「……皆、家族で税金系の話をしてなかったのかな。探索者って、運が良ければ一発で大金の収入が有ったりするんだしさ」
まぁ確かに、学生で税金関係に気が回るのは少数派だとは思うけどさ。ダンジョン探索で大きな収入を得た時、親とかに相談したりしなかったのかな?
ちょっと違うかも知れないけど、学生なら万単位の宝くじを当てたら親に相談しそうだけど。
「この状況を見るに、しなかったんだろうな。自分で働いて得た収入なんだから、全部自分で使って良いんだってさ。間違っては無いとは思うけど、一応は扶養家族って扱いなんだから保護者に相談はしておかないとな」
「そうだね。まぁ一番良いのは資格取得講習の時に、学生向けにその辺の話を軽くしておいて欲しいかな? 最初に言っておけば、ある程度解消出来る話だしね」
「その通りだな」
大忙しの原因に愚痴を漏らしつつ、裕二は補充したプリントをお客さんに配布していく。
この調子でお客さんが来続けるとなると、俺が担当する時にも配布プリントを追加コピーしないといけないかも知れないな。




