第429話 イメージ改善って如何すれば……
お気に入り34890超、PV91160000超、ジャンル別日刊85位、応援ありがとうございます。
コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。
小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。
遅くなりましたが、PVが9000万回を突破しました。応援ありがとうございます。
まさかの占い結果に、俺と占ってくれた先輩は顔を見合わせたまま、何とも言えない表情を浮かべ合っていた。確かに低予算での買い物は安物買いの銭失いになるかも知れないからと、予算を徐々に上げていったが……まさか元の10倍も上げないといけないとは。
「その、なんだ? こんな事を言うのはどうかと思うんだけど君、何を買うつもりなんだい?」
「ははっ、ちょっとピンキリまで幅がある大きな物、ですかね?」
先輩の質問に山を買いますとはストレートに言えないので、俺の回答は濁した物言いになってしまった。まぁ例えストレートに答えたとしても、先輩も反応に困るだろうけどな。
そんな感じで答えを濁す俺に、先輩も少々バツの悪そうな表情を浮かべながら、短くそうかとだけ返してきた。不躾に深入りしすぎたと思ったのかも知れないな。
「まぁ何だ? 何を買うにしてもそこそこ予算は掛けた方が良いみたいだぞ、この占いの結果を見る限りはな」
「そうみたいですね。コレだけダメ出しが続くとなると、少し予算については検討してみます」
「そうか。ただ、あくまでも占いは占いだからな? ドコまで結果を受け取るかは本人次第だが、占いの結果が絶対って訳じゃない。行動の参考の一つにするのは良いと思うが、如何するかはよく考えて行動してくれ」
「はい、ありがとうございました」
俺は軽く頭を下げ占いをしてくれた先輩に礼をした後、カードが一枚も無くなった机を少し眺めてから席から立つ。一つの参考にとは言われたが、こうまで露骨な結果が出たとなると、一考の余地はあるかな。
俺達が出した条件に沿ってるとはいえ、今まで紹介された物件って難物ばかりでロクな物じゃなかったからな。交通の便が悪すぎたり、廃鉱やダンジョンがあったりとかさ……。
「予算か……後で二人にも相談してみるか」
コレまでの物件の内見で、予算増額の必要性は何となく感じていたが、コレは本格的に検討した方が良いかもしれないな。幸か不幸か購入予算に充てられる資金の当てはあるので、増額すること自体に問題無い。
寧ろ占い通り10倍とはいかずとも、いくらかは増額した方が良いだろうな。
「さてと、次は2年の出し物を見て回るかな?」
俺は占いの館を後にし、3年の教室がある階層から退散する。
俺は階段を降り、2年の教室がある階へと戻ってきた。一応、自分の在学する学年なので他のクラスが
どんな出し物をしているかはある程度把握出来ている。放課後とかに他の教室の前を通ると、準備作業の声が良く聞こえてたからな。
軽く自分のクラスの出し物の様子を見た後、俺は他のクラスの出し物を眺めながらブラつく。
「活気はあるんだけど、ドコか寂しい感じがするな……」
他の学年の出し物と同様にお客さんが沢山入り、店員の生徒も元気よく接客しているのだが、ドコかもの寂しい感じがする。何と言うか……熱量?が他の学年に比べ足りていない感じだ。初めての文化祭、最後の文化祭と奮起する1、3年と比べたら、まぁそんな物なのかも知れないけどさ。
そして教室の中を覗きながら歩いていると、見知った顔の生徒に声を掛けられる。
「ん? おお、九重。久しぶり、出店回ってる最中か?」
「ん? ああ田中か、久しぶり。今フリーの時間だから、色々見て回ってるんだよ」
俺に声を掛けてきたのは、客引き係をしてるらしい田中君。去年まで同じクラスだったヤツだ。クラス替えで、別のクラスになってからは余り交流が持てなかった男子生徒である。
とは言え、1年は一緒のクラスで勉強した仲だ。顔を合わせたら、普通に話すくらいはするけどな。
「そうなんだ。じゃぁウチの出し物も見ていくか? 今なら空いてるぞ」
「そうなのか。で、お前の所は何やってんだ?」
「ウチか? ウチはハンドメイド工作だな。簡単な小物をつくって、そのままプレゼントって感じだ」
「物作り系か……時間掛かりそうだな」
ハンドメイドとなると、そこそこ時間が掛かりそうな出し物だね。結構色々と見て回っているので、自由時間もそう残り多くもないし……。
そんな感じで悩んでいると、田中君が俺に助け船を出してくれる。
「小物作りと言っても、やる事は簡単なキーホルダー作りだぞ? 一番簡単なヤツだと、コッチで用意した加工した木片に色を付けて、金具と紐を通すだけって感じのヤツだ」
「確かにそれなら、余り時間は掛からなそうだな」
「まぁ文化祭来校の記念品、って所だな」
田中君の話を聞く限り、それほど時間は掛からなそうなので、このままお呼ばれする事にした。
教室に入ると幾つかのコーナーが設営されているのが見え、制作物ごとに分かれているようだ。
なので、俺は素直に田中君にどこへ行けば良いのか聞いてみる。
「で、ドコで作れば良いんだ?」
「ああ、向こうの机がキーホルダーコーナーだ。今、話を通すから少し待ってくれ」
田中君は教室の右後ろの机に素早く移動し、担当者らしい女子生徒に話を通しにいく。どうやらアソコがキーホルダーコーナーらしい。
そして1分も待たずに話は終わったらしく、田中君は俺に手招きをする。
「九重、話は通ったぞ」
「ありがとう」
「おう、じゃ頑張れよ」
田中はそう言うと、再び教室の前で客引きを再開しにいった。
そして俺は軽く頭を下げ会釈しながら、キーホルダー制作コーナー担当の子に挨拶をする。
「よろしくお願いします」
「田中君から聞いてるわ、自由時間が余り残ってないようね。じゃぁ早速、説明を始めるわね?」
「よろしく」
と言うわけで、挨拶もそこそこにキーホルダー作成の説明が始まった。
女の子は机の下の箱から、数種類の木片を取り出し俺に見せてくれる。
「まずは、この中から一つ選んで貰うわ」
「木片に書かれたシルエットからするとイルカにカメ、鳥とパンダ、犬と馬かな?」
「ええ、そうよ。基本的な物を選んで貰ったらサインペンで彩色、表面に保護フィルムを貼ってから金具と紐を付けて完成って流れね。割と簡単に出来るから、彩色次第で個性が出るわよ」
「彩色か……シンプルなだけにセンスが問われるね」
俺は説明を聞きつつ、木片を確認していく。木片自体は大きめの消しゴムサイズでシンプルな長方形であり、それぞれ動物のシルエットはペンなどで書かれているのではなく焼き印のようだ。
そして俺が不思議そうに焼き印の後をなぞっていると、女の子が焼き印の正体を教えてくれた。
「ああ、それ? それはレーザー刻印されてるわ。近くのホームセンターーの工作コーナーに、レーザー刻印機の貸し出しがあったから」
「レーザー刻印……手間が掛かってるね」
「そうでも無いわよ? 一度設定してしまえば自動で刻印してくれるから、量産するのは簡単だったわ」
「なるほど」
偶にDIY系のテレビなどで出てくるが、身近にそういう事が出来る場所があったんだな。ウチのクラスも喫茶店をやってるから、こういう風に加工した看板とか出してたらもう少しポイ雰囲気が出てたかも知れない。
俺は木片に描かれた焼き跡をなぞりつつ、少し残念気な表情を浮かべた。
「じゃぁ好きな物を選んで」
「そうだね……ココは無難に犬かな?」
「犬で良いのね?」
「うん」
俺が犬のシルエットが刻印された木片を手に取ると、女の子は他の木片を片付けた。まぁ、出しっぱなしだと邪魔だろうからな。
そして木片を片付け終わると、女の子は次にサインペンが入った箱と彩色サンプルらしい紙を取り出した。
「コッチがサインペンで、コッチがキーホルダーの彩色例よ」
「へー、色々と個性的な彩色ばかりだね」
「それは態と派手目に彩色してるわ。こういった個性的な彩色をしても大丈夫ですよ、ってね。ある程度派手な見本がないと皆、中々思い切った彩色って出来ないから……」
「分からないでもないね、その気持ち。好きなようにって言われても、如何しても常識的には……って考えちゃうから」
作例には迷彩色なイルカや黒と黄色の警戒色犬など、よくぞそんな彩色を……と思ってしまうような作例の写真が色々と掲載されていた。
確かにコレを見た後だと、どんな彩色をしても良いかと思えてくる。
「ああそれと、裏側には記念の文字が刻印されてるから、彩色するのは表面だけでお願い」
「裏面の文字?」
文字が入っていると女の子に言われ、俺は木片を裏返しに内容を確認する。すると確かにそこには、第○○回文化祭2年5組制作と刻印されていた。
「なるほど、コレならいつドコで作ったのか一目瞭然だね」
「一応記念品って括りだから、ドコで作った物なのかは残して置いた方が良いかなって」
「確かに作ってからある程度時間が経ったら、あれっ?って思うようになるだろうからね。文字として残しておくのは良い事かな」
「ええ、じゃぁ始めましょう」
俺は数あるサインペンの中から白ペンを持ち、すばやく彩色を始めた。色々と作例は見たが、やっぱりオーソドックスな彩色が無難だろうな。余りヘンテコな彩色をすると、記念品とはいえ家に帰ったら捨てる未来しか見えない。
ある程度の期間飾っておく為にも、オーソドックスな彩色が良いだろう。
「あら? 作例みたいな冒険はしないの?」
「無難な彩色が一番だよ。頑張って個性的な彩色をしても、俺には皆が感心するようなセンスは無いからね」
等と会話を交わしつつ、俺は物の5分もせずに彩色を終えた。
彩色のイメージは、赤い首輪を付けた白犬だ。
「無難な彩色ね……面白みに欠けるわ」
「無難で良いんだよ。それで、この後は?」
「彩色面を保護する為に、保護フィルムを貼るのよ。素材が木片だからニス塗りでも良いんでしょうけど、来店してくれたお客さんにニスが乾燥するまで待って下さいとは言えないから」
「確かにニス塗りだと、乾くのに時間が掛かりすぎるね」
生乾きのニスでベトベトする木製キーホルダー……うん、文化祭の最中では持ち歩きたくない代物だ。
「でしょ? だから代用品として、保護フィルムを貼るのよ。という訳ではい、コレ。サイズは木片に合わせてカットしてあるから、角を合わせて貼るだけで良いわ」
「カット済みなんだ、ありがとう」
女の子に差し出された保護フィルム片を受け取りつつ、俺は軽く表情を憂鬱げに顰める。苦手なんだよな、保護フィルム貼り。スマホの保護フィルムを貼る時も、何度も貼り直して結局気泡だらけにするからな。
俺は慎重にキーホルダーと保護フィルムの角を合わせながら、保護フィルムをキーホルダーの表面に貼り付けた。ふぅ、今日一番の神経を使った気がするな。
「良し、貼れたよ」
「じゃあ最後に金具をねじ込んで、紐を通せば完成よ」
先が輪になったねじ込み式フックとヒモ、それとペンチが渡される。
俺はペンチと金具類を受け取った後、キーホルダーの上側面に金具をペンチを使ってねじ込んでいく。探索者の身体能力ゆえか、金具のねじ込みも大した苦労もなく数秒で終わり、ヒモを通しキーホルダーは完成した。
「ふう、完成っと」
「お疲れ様。中々良い出来じゃない?」
「面白みに欠けると言われた気がするんだけど?」
「なんのことかしら、気のせいじゃない?」
中々良い性格をしてるなぁ。
そして完成したキーホルダーの品評をしつつ、暫し雑談をしていると女の子は小さく溜息を漏らした。急に如何した?
「如何したの?」
「いえ、田中君に聞いてた通り穏やかな人だなって」
「……どういう事?」
「アナタって、体育祭であんな活躍をした人よ? アナタの為人を知らない者からすると、かなり緊張するわ。短気な人だったらどうしよう、とかね?」
どうやら俺達、同級生からの危険人物扱いされていたらしい。
まぁ確かに体育祭でのアレは後藤君らへの牽制目的という事もあり、攻撃的で派手めな構成になってたからな。探索者視点で見ても警戒対象に思うだろうし、素人目からすると怖い人と思われても仕方が無い。
「その割には、結構からかってきてなかった? さっきもさ」
「アレでも、アナタの反応を見つつ探り探りよ。でも、貴方達が体育祭でアレをするまで悪い噂は聞かなかったし、元クラスメイトだって言う田中君も大丈夫だと言ってたから、多少からかっても大丈夫だろうとは思ってたけどね」
「ははっ」
取りあえず、危険人物指定は取り除かれたようだ。でも、この反応からすると他にも俺達に対して警戒している人は少なくは無いだろうな。特に、普段関わりの無い1,3年とか。
牽制と言う意味では完全に目的を達しているのだが、退学騒ぎで既に問題が解決している以上、何処かのタイミングで誤解を解くように動いた方がいいかもしれないな。




