第428話 占いは程々に
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疎らな拍手と共に、戸惑いのざわめきが観客席に満ちていた。恐らく観客の心境としては、あれ?これ、文化祭の劇だよね?警察やダンジョン協会の注意喚起啓蒙劇だったっけ?だろう。
タイトルからしてもっと高校生のお祭り劇らしい、ドッタンバッタンのアクション劇を想像していただろうからな。そんな中、開けてみればコレである。戸惑いの声が上がるのも仕方が無いと言うモノだ。
「……まぁ、これから探索者になろうって人には為になる劇だったかな?」
アクション部分は探索者の身体能力を見せつける形でそれなりに見応えあったし、話の流れとしてもありきたりな主人公達が格好良く敵を倒して……系で無かったので、子供向け全開って感じでも無かった。啓蒙系劇かな?という感じはあったが、まぁまぁ面白かった方だろう。
そして客席にざわめきが残る中、緞帳が下りたステージの上に司会役の生徒が上がった。
「皆様、どうでしたでしょうか? 私達の劇、探索者戦記はお楽しみいただけたでしょうか?」
司会者の問いに返事をするように、客席から盛大に拍手が鳴り響いた。正直に言うと、啓蒙劇感があって微妙かなと思っていたが、周りの拍手に流され俺も小さくだが拍手をしておいた。
面白かったとも言えないが、面白くなかったというわけでも無いからな。
「今回の劇を見られた皆様の中には、想像していたモノとは違ったと思われた方もいらっしゃると思います。戦記と言うタイトルが付いているので、探索者が華々しく戦い勝利を収めると」
ああやっぱり、演じた側もその辺は気にしていたんだな。司会者役の子が軽く客席を見回すと、多くのお客が同意しているのかヤッパリと言った表情を浮かべながら軽く頷いていた。
「その通りだと思います。私達も最初はそう思っていましたが、私達が文化祭で探索者を題材にした劇をやると決まった時、外部から監修というシナリオ協力を受けた事で今回の劇が生まれました」
外部からの監修……やっぱり学校サイドや探索者協会とかが介入してきたのか? 探索者になる高校生が思ったより増えすぎたから、探索者になる前に危険性を認知してよく考えようって感じで。高校の文化祭なら、翌年に入学する予定の中学生とかが学校見学がてらに観に来る事もあるだろうから、啓蒙目的ならありかも知れないな。
他にも、まだ探索者資格を習得していない学生に対するアピールと……。
「主人公達が活躍し華々しく勝利とはなりませんが、実際に探索者をしている生徒に話を聞いて見ると、大袈裟ではあるがあり得なくも無いという返答を得て、このシナリオで今回の劇を演じる事にしました」
ダンジョンからモンスターが出てくるかどうかは現時点では不明であるが、自分達では勝てない敵と遭遇するというシチュエーションは無くは無いからな。自分達の力を過信して引き時を見誤れば、劇のような救援が来ずに……という可能性は低くは無い。
確かに啓蒙目的で外部機関がシナリオ監修に参加、というのも話から無くは無いな。特に学校の場合、在校生に万が一が起きれば何故資格取得を禁止にしなかった……等と責任問題に発展しかねない。
「今回の劇は皆様が想像していたモノとは違ったモノだったかも知れませんが、自信を持って皆様にお見せ出来る劇だったと思います。本日はお忙しい中、ご観覧に来て下さりありがとうございました」
そこまで言って司会役の子が頭を下げお辞儀をすると、観客席から盛大な拍手を送られた。
うん、まぁストーリーはさておき、役者達の演技は確りしてたし、殺陣も迫力があって見応えがあった。演劇としての出来は、中々良かったと思う。
「さて、次はどこに行くかな……」
取りあえず劇は終わったみたいなので、次の出し物を見に行く事にするかな。
俺は退席していくお客さん達の流れに乗って、体育館を後にした。
体育館を出た俺は、ある程度ほとぼりも冷めただろうと校舎に戻り、3年生の教室が並ぶ階層へと足を向けた。3年生の教室も、1・2年生に負けず華やかに装飾が施されている。
3年生は受験勉強もあるので、余り意欲的に参加しないかもと思っていたのだが、どうやら勘違いだったらしい。寧ろ中ダレしている感がある2年生よりも、精力的に参加している印象を受ける。
「……受験勉強で出来たストレスを発散してるのかな?」
教室を飾る装飾には、ドコか溜め込んだ不満を吐き出したハッチャケ感というモノを感じる。デザインコンセプトや色彩がどうのこうのというより、やれる事を全力で全部やったといった感じだ。
あの扉に飾られた無駄に精緻に作られた段ボール製の鹿の頭のレリーフとか、文化祭レベルには過剰なクオリティーだろ。一瞬、本物かと思ったぞ。
「小物作りが趣味だったのかな……まぁ良いっか、取りあえず一通り見て回ろう」
3年生の出し物を廊下から見て回ることにした。自由時間の残り時間的にも、多くは入れないだろうからな。
そして扉の隙間から中の様子を覗き込みつつ、3年のクラスの前を端から端まで見て回った。
「みんな、気合いが入ってたな……」
3年生の出し物は1年生の出し物に負けず気合いの入った出来だったが、1年生とは違い勢い任せな雰囲気では無く落ち着いた感じが出ていた。年季が違うというか、初々しさが消えているというか……店作りに手慣れた感がある。
まぁ、3回目ともなれば手慣れるのも当たり前だよな。
「でもまぁ基本的に、3年生の出し物は手間が掛からない系のモノばかりだったな」
幾ら受験勉強で溜め込んだストレス発散の場に丁度良いとはいえ、時間は有限だからな。余り時間がとられる出し物にして、出展準備で受験勉強の時間が大幅に削られるような事態になれば本末転倒だ。
だからか、3年生の出し物は準備が簡単な手間の掛からないモノが多かった。
「さて、どこに入るか……」
一通り見て回った後、俺はどのクラスに入るか悩む。親しい先輩でもいれば様子見がてらにその教室の出し物に行くのもありだが、残念なことにそこまで親しいと言える先輩はいない。部活にでも入っていれば、その繋がりでというのもあったのだろうが、帰宅部の後に新部活を作った側だからな。その手の繋がりも無い。いっその事、このままスルーして文化系部の集まる棟の方に行った方が良いかもな?
と、そんなことを考えていると、何時の間にか近付いてきていた店の魔女っぽい衣装?コスプレ?姿の女性の先輩に声を掛けられる。
「ねぇ、君? もしかしてドコのお店に入るのか悩んでる?」
「えっ? ああ、はい。色々あるので、ドコが良いかなって……」
「じゃぁ、まだどこに行くかは決めてないのよね? それならウチに来ない? 今ならお客さん少ないから、直ぐに順番が回って来るわよ?」
「ああ、はい」
「決まりね。コッチよ」
突然のお誘いに戸惑っている内に、俺は客引きの先輩にキャッチされてしまった。思わず頷いてしまったが、何のドコに連れて行かれるんだ?
そして俺の戸惑いが収まる前に、先輩は目的地の教室に俺を連れ込む。
「皆、お客さん連れて来たよ」
何かこの先輩の声から副音声が聞こえたような気がするんだけど、気のせいかな?
「御苦労様。ようこそ、占いの館へ」
「ささっ、コチラへどうぞ。今、コッチ空いてますよ」
「良く来たな、さぁ自らの運命を選ぶが良い!」
「俺、良く当たるって噂だよ?」
どうやら俺が引き込まれたクラスは、占い屋敷のお店だったらしい。
恐らく占いに対応したと思わしき衣装を身に纏った店員の先輩達が、次の獲物が来たぜ!とばかりに各々売り文句を投げ掛けてくる。
「ええっと、ココ占いのお店なんですか?」
「そうだよ。色んな種類の占い方法があるから、コレだと思うのを自分で選んでね」
「占い……あの、占いには余り詳しくないので、どれが良いとかってのが良く分からないんですけど……?」
俺が知ってる占いと言えば、朝のニュースでやってる星座や誕生月の占い程度だ。後、お御籤。
自分が好きな所と言われても、知らないモノは選ぶに選べない。
「アア、そうだね。それじゃぁ、何か悩み事って無い? 聞いてから、良さそうなのをオススメするよ」
「悩み事ですか……ああそれじゃぁ、近く大きな買い物をしようとしてるんですが、それが良いか悪いか、とかって大丈夫ですか?」
「買い物系の悩み事だね? それじゃぁ……トランプ占いとかどうかな? 初心者にも割と理解しやすい占い方だと思うよ」
「トランプ占いですか……じゃぁそれで」
良いかどうかも良く分からないので、取りあえず先輩にオススメされた占い方を採用する。
「じゃぁ、あそこの席に行って。トランプ占いはあの子が担当だから」
「はい、ありがとうございます」
「コッチこそありがとう、強引に誘ったのにウチに来てくれて。じゃぁ、私はまたお客を見付けに行くね」
「はい、頑張って下さい」
手を振り教室を出て行く魔女衣装の先輩を見送った後、俺はオススメされた占いをする席へと向かう。オススメされた席に座っている男の先輩は、トランプを使って占うという事もあってマジシャンぽい衣装を身に纏っていた。シルクハットに燕尾服風の衣装だ。
俺は軽く頭を下げ会釈しながら、席に着く。
「いらっしゃい。何となく話は聞こえてたよ、買い物に関する占いだね?」
「はい。よろしくお願いします」
「じゃぁ先ずは、占い方の説明から始めようか?」
そう言うと先輩は、今から行う占いに関する説明を始めた。占い方の種類は、モンテカルロと言うそうだ。まずはシャッフルしたカードの束から、縦横5枚ずつ25枚並べるそうだ。因みに余りは山札らしい。そうして並べたカードの縦横斜めで、隣り合った数が合うカードをペアとして取り除いていくらしく。カードを取り除き空いた隙間には左上からカードを移動させつめていき、隙間をつめて下の列が空いたら山札からカードを隙間に置いていくそうだ。
最終的に、場からカードがなくなるか山札がなくなれば願いは叶うとのこと。
「占いの説明としては、そんな感じだね。何となく分かったかな?」
「ええ、何となく」
「じゃぁ何事もやってみないとだし、始めようか?」
「はい。お願いします」
「じゃぁシャッフルするから、良い所で止めてね」
そう言うと、先輩は慣れた手付きでカードシャッフルを始めた。先輩は俺に見せつけるようにシャッフルの速度を上げ、カードが擦れ合う音が高速で鳴り響く。俺は10秒ほど先輩のシャッフルパフォーマンスを見た後、ストップの声を掛けた。
余り早くストップを掛けると、せっかくパフォーマンスしてくれてる先輩に悪いからな。
「じゃぁ並べていくよ」
「はい」
先輩はリズミカルに初期カードを縦横に5枚ずつ並べていく。
「ココからはユックリ目にペアを作りながら、カードを取り除いていくね。場のカードが全部無くなるか、山札が尽きれば君の願いは叶う。今回の君のお願いからすると、その買い物は良い買い物って事だね」
「分かりました、お願いします」
俺が頷いたのを見て、先輩はユックリとした手付きだが手際よくカードのペアを作って取り除いていく。次々にカードのペアが取り除かれていく姿にドキドキしつつ、俺は占いの如何を固唾を飲んで見守る。
そして、1分少々掛けて出た結果は……。
「何か、ゴメン……」
「あっ、いえ。占いは占いですから……」
「でも、ね?」
俺と先輩の視線の先、机の上にはかなりの数のカードが残されていた。これは、その買い物はやめておけってお告げかな?
先輩も頭を傾げ戸惑いつつ、表情を顰めながている。
「ココまでカードが残るっていうのも珍しいな……深入りするのもアレだけどさ、願い事の内容を変えてみない? 例えば……購入予算を上げるとかさ? ほら良く言うだろ、安物買いの銭失い。もしかして、予算を上げたらさ?」
「そうですね……じゃぁ、予算を上げた場合の占いもお願いします。流石に、この結果だと気掛りというか……」
「そうだよね。うん、今度こそ良い結果を出そう」
というわけで、購入予算を上げて再挑戦である。今度こそ良い結果をお願いします!
数分後、数度目の占いの結果を俺と先輩は机の上を凝視していた。
「無くなりましたね……」
「無くなったな……」
机の上には一枚のカードも残っていなかった、俺の願い事は叶うと占われたと言う事だ。予算を倍々で上げた結果、元の10倍で漸くカードが全て無くなった。
つまり、5000万掛ければ良い買い物が出来るという事である。5000万……ダンジョン発見で得た口止め料を全部購入費にぶち込めという事ですね。




