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第425話 祭りは屋台飯こそ醍醐味

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 お店を出ると、原西さんが少し離れた場所で待っていた。流石に騒ぎを起こしたお店の前では、ずっといられないよな。このまま逃げようかと一瞬思いもしたが、確り俺の姿を捉え小さく手招きをしているので逃げるわけにもいかなそうだ。

 俺は表情を変えないまま軽く息を吐きつつ、少々重い足取りで原西さんにユックリと近づいていく。


「お待たせしました」

「いや、コチラこそすまなかったね。騒ぎを起こした直後に出すような話題じゃ無かった。俺のせいで、君まで店を出る事になってしまって……」

「ああ、いえ。気にしないで下さい」


 原西さんは軽く頭を下げ、不躾な真似をしてしまったと謝罪してきた。確かにアソコで体育祭の話を話題に出されてなかったら、店を出るまでバレなかったかもしれないな。

 まぁ何人かは口にこそ出していなかったけど、体育祭の話題が出た時に納得顔を浮かべていたのも居たから時間の問題だったかもだけどさ。


「それでお話とは?」

「ああ。先程も少し話に出したんだが、君達がどのような鍛練を積んだか気になってね。コレでも探索者として、それなりに鍛えてはいるつもりだったんだが……君達の演武?を見たら自分が井の中の蛙だったと気付いてしまったよ。レベルによる補助だけでは、アレは無理だ」

「そうですか。……俺達としては一般的なことしかしてないつもりです。探索者になった時の俺は、武術に関してズブの素人でしたからね。流石にそんな状態ではどんな武器を使うにしても最悪、自分の得物で自傷しかねないと思って近くの道場で武術を習うことにしました。原西さんの周りにも、そんな方は居ませんでしたか?」


 俺の言葉に原西さんは顎に手を当て、何かを思い出すように少し考え込んだ後口を開く。


「……そういえば居たな。俺達のように探索者資格制度が作られ真っ先にダンジョンに飛び込んだ組以外に、色々下準備をしてる奴らが。あの時は早い者勝ちなのにって雰囲気が蔓延ってたから、アイツらの事を何をちんたらしてるんだと思ってたけど……結局はどれだけ事前に準備を確りしたかの差って事か」

「多分、そうだと思います。こう言っては何ですが、レベルを上げてから武術なんかを習い始めるより、レベル上げ前に確りと人の体が出せる限界を知ってるかどうかが重要なんじゃ無いかと。レベルが上がると素人……一般人でも超人的な動きが出来るようになります。でも動きが出来るだけで、使いこなせてるわけじゃ無い。武術という効率的な人体操作技術が無くとも、レベルを上げればそれ以上の動きが出来ますからね。力押しが利くので、必要があると感じなければ誰も動作の効率化なんてしませんから。でも後になって効率的な人体操作技術(武術)が必要と感じた時から始めても、少し囓るだけでも効率が上がるので中途半端な所で止めている人は動きに粗が目立ちます」

「……ははっ、耳に痛いね。確かに君達の演武を見た後だと、いかに自分達が適当な動きをしていたのか自覚させられたよ。俺達もダンジョンの探索を進めていく内に、手強いモンスターが増えて武術が必要と思って習い始めたけど……少し習っただけでそれまで苦戦していたモンスターを簡単に倒せるようになったから止めた口だね」

「最初の方のモンスターでしたら、レベル任せで我武者羅に武器を振るっても倒せますからね。少し奥まで進んで出てくる手強いモンスターだとしても、確かな立ち振る舞いとチームワークが確りしていれば、苦戦はすれど倒せないことは無いと思います。でも……」

 

 躊躇し言葉尻を濁す俺の態度から察し、原西さんは苦笑を浮かべながら軽く頷きながらその言葉を発する。


「良く分かるな、大体君の想像通りだよ。俺達のチームはその辺で躓いてて、それを突破する切っ掛けが欲しくてさ。アイツの兄貴が怪我をした原因も元を正せばその辺が問題で、数を増やせばって考えて連携行動が未熟なまま加えた結果があれだ。だからあの演武の映像に出てるのが岸の学校の生徒だって話を聞いて、話をしてみたくなって今回岸の誘いに便乗したって感じなんだ。まさかこんな騒動になるとは思っても見なかったけどな」

「なるほど……俺から言える事があるとすれば、個々の動きを磨いて連携を万全に、としか言えませんね。もう一度武術を習い直すとか、ですかね?」

「やっぱり、強くなるのに近道は無いって事か……」

「幸い探索者はレベルの恩恵で体力面も強化されます。素振りなんかの繰り返し動作練習するには、適してる状況だと思います。素振りなんかの基礎練は疲れで型が狂うと、変な癖が付いて修正が大変ですからね。ある程度のレベル上げをした探索者なら、効率的に基礎固めが出来ると思います」


 実際、俺達もレベルの恩恵任せでかなり濃密な基礎固めをしたからな。基礎が確りしていれば、仲間との連携も迷い無く取れる。基礎が固まっておらず相手がどう動くか分からないと、連携など中途半端にしか出来ないからな。前衛が右の敵に行くと思ったら左に行った結果、後衛と同じ敵に攻撃してフレンドリーファイヤーになったとかさ?

 たぶん岸君のお兄さん?の怪我も、基礎固めが中途半端だった上に連携訓練不足の岸君を加えたのが不味かったんだろうな。最低限、岸君の基礎固めが終わっていたら起きなかった事故だろう。


「基礎固めか……確かに基本に立ち返って鍛え直す事が、遠回りに見えて一番の近道かも知れないな」

「少なくとも、ダンジョン探索において無駄にはならないと思います。基礎が出来ていてこその、応用ですから」

「……ああ、その通りだ」


 原西さんは腹を割って俺と愚痴ったお陰か、目の奥に宿っていた焦燥している様な雰囲気が消えていた。進まない探索に岸君のお兄さんの件もあり、かなり焦っていたようだ。

 上手くいかない所に打開策として人員増加をしたら、練度不足で……だもんな。大事に至らなかったとはいえ、焦りの一つもするだろう。


「……すまないね、時間をとらせてしまって。俺はこれから岸のヤツを探しに行くとするよ」

「そうですか……何かのお力になれたのなら、幸いです」

「君と話せて良かったよ。それと、面倒事に巻き込んでしまい本当に申し訳なかった」

「いえ。ですが、今日は皆が楽しみにしていた文化祭です。この後は、騒ぎが起きないように気を付けて下さい」


 俺は少し目を細め真剣な表情を浮かべ、原西さんに釘を刺しておいた。彼等の事情は分からなくも無いが、それを他人にぶつけ発散させようというのは筋違いだからな。一度騒ぎを起こした後だから大丈夫だとは思うけど、情緒不安定な岸君の手綱は確りと握っていて貰わないと。

 そんな俺の忠告に原西さんは小さく息を飲んだ後、表情を少し強ばらせながら無言で力強く頷いた。


「勿論だ。岸のヤツにも、確り言い聞かせておくよ」

「お願いしますね」


 そして岸君を探しに行くと足早に離れていく原西さんを見送った後、俺も1年生クラスの階を後にする。流石にアレだけ騒ぎを起こした後だと、ここら辺を回るのは気が引けるからな。

 さて、次はどこに行こうかな……。  






 2年生や3年生のクラスを見て回ろうかと思ったが、騒ぎを起こした直後なので少しほとぼりを冷ましてからと思い、俺は中庭の出店街を回って体育館に行く事にした。

 小さなトラブルならそこかしこで起きているので、少し時間が経てばほとぼりも冷めるだろう。


「……やっぱり食べ物系が多いな」


 屋外という事もあり、中庭には沢山の出店が並んでいた。主に飲食系の出店、定番の焼きそばやたこ焼き、クレープや綿菓子などの出店が並んでいる。文化祭の出し物という事もあり、ドコの出店もかなり格安価格で提供されていた。

 

「お腹の空く匂いが漂ってるな、ココ」


 匂いで客をつる考えなのか、焼き物系が多いので実にお腹が空く空間が出来上がっていた。時間的にそろそろお昼時なので、自由時間の生徒や来校客の多くが出店に並んでいる。

 特に人気そうなのは、やはり焼きそばなどの手軽に食べられる主食系の出店だな。


「鉄板焼きの焼きそばか……あれ美味そうだな」


 ドコから入手したのか知らないが、縁日の屋台で見るような本格的な鉄板焼きセットで焼きそばが焼かれていた。コテでかき混ぜられる具材と麺に真っ黒なソースが注がれ、熱せられた鉄板で蒸気を上げながら具材と麺が色づいていく姿は一種の芸術だ。何より、鉄板で熱せられたソースがまき散らす香りは、空腹を感じる身には猛烈な食欲を訴えてくる。屋台の周囲で順番を待つお客も、焼きそばが醸し出す香ばしい香りに夢うつつな表情を浮かべていた。

 アソコの出店は、焼きそばにして正解だったな。  


「コッチも美味そうだな」


 焼きそばの誘惑を振り切り他の店にも目を向けてみると、そこでも魅力的な料理が出来上がっていた。大きめのバーベキューコンロの上で、炭火で焼かれる串付きフランクフルトだ。丸々としたフランクフルトが、香ばしい香りを立てながらコンロの上で焼かれている。表面の皮に入れられた切れ目から肉汁が泡を立て沸騰しながら漏れ出し、漏れ落ちた肉汁が炭火に焼かれる網の上のフランクフルトを燻製していく。切れ目の縁を黒く焦がし色付く姿は、皮の表面のパリパリ感を感じさせる光景だ。

 そして焼き上がったフランクフルトを受け取った客が、ケチャップとマスタードを付け表情を綻ばせ頬張る姿は実に美味そうだ。まぁ熱々の肉汁で火傷しそうになって居る姿は、ご愛敬だな。


「アレも購入候補だな」


 生唾を飲みながら品定めをしつつ、俺は他の屋台に目を向ける。

 次の屋台で出されているのは、うどんのお店だ。基本のかけうどんにトッピングを施すスタイルみたいで、数種類のトッピングが用意されている。


「麺は既製の袋麺みたいだけど、スープの鰹ダシの香りが良いな。もしかして、ココで作ったのか? トッピングの天ぷらやかき揚げも、揚げてるみたいだし……」


 出店の奥から油が跳ねる音が聞こえるので、トッピングの天ぷらは作りたてが提供されているようだ。中々本格的なお店の様である。袋麺を温めるだけなので、直ぐに提供されるというのもポイント高いな。 

 

「麺2倍の大盛りもありか……うん、ココ良いな」


 うどんに後ろ髪引かれつつ、次のお店を見て回る。

 次のお店は……うん、この手のイベントではコレは定番だな。次のお店の提供するメニューは、カレーライスだ。しかも自家配合のスパイシーカレーだそうだ。出店の関係者に、カレーマニアが居たのか? スパイスの配合って……本格的すぎるだろう。


「御飯もサフランライスって、誰かの監修が入ってないか?」


 文化祭には不釣り合い……完成度が高すぎる一品のような気がする。ただ味の方は間違い無さそうで、カレーを食べたお客は最初の1口こそ辛そうな反応を示しているが、2口目から夢中になって掻き込んでいる姿から見て取れた。

 普通のお店でそれなりの値段で出す様な品じゃ無いかな、アレ?


「次は……デザートか」


 次の屋台で出されているモノはクレープ、デザート系の屋台だ。


「デザート系か……でも、甘いのはな」

 

 出店では店員がクレープを器用に薄く焼き上げて、注文にあるトッピングを施しお客に渡していく。豪快に生クリームや果物が盛り付けられているので、かなりお買い得だ。採算取れてるのだろうか? 食後のデザートという事なら良いが、量が量だからな。他のと兼ね合いを見て保留だな。

 そして中庭の飲食系出店を一通り見て回った結果、俺は昼食メニューを決めた。

 

「そんなに時間も無いし、主食はうどんだな。サイドメニューはフランクフルトで」


 結局、提供が早そうなうどんとフランクフルトを食べる事にした。

 俺は早速うどんの出店に向かい、かき揚げうどんを注文する。幸いすいていたという事もあり、注文して1分掛からずで出てくるのは中々の早さである。


「次はフランクフルト……作り置きが焼けてないみたいだな。先にうどんを食べるか、伸びるし」


 簡易的だが中庭には飲食スペースが用意されており、空いてる席を見付けうどんを食べる事にした。立ったまま食べても良いのだが、せっかく席も空いてるしな。






 お昼を食べ終わった後、俺は体育館の出し物を見に行く事にした。今の時間から、ステージを使って発表をするのは演劇部らしい。オリジナルの劇を披露するみたいなので、興味がある生徒や外来客が集まっていた。

 

「オリジナルか……どんな劇なんだろうな」


 俺は楽しみ半分冷やかし半分と言った心持ちで、暗幕が張られ少し薄暗い体育館の中へと足を踏み入れた。 

 















屋台飯って、無闇矢鱈に美味しそうに見えますよね?


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 昔食べたサフランライスが忘れられなくて 自分で作ろうと思ったが サフランが凄く高くて断念した。 ほんと高過ぎ 金と同じ値段か?と思う位高くて泣いた。
[一言] こうやって各種道場が栄えるのであった……壊される道場も多そうw
[一言] 今回言及しなかったけど、レベル上がった後で訓練するには場所も問題になりますよね。 前回までの話で散々やってたように。 でも、このパーティだと山を買ったりするような財力の余裕は無さそうだからな…
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