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第424話 横から口を挟んだ結果

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 俺の発言に一瞬、店の中の時間が止まったかのように静寂が広がった。まぁかなり白熱と言うか、暴走気味のやり取りがあった所に水を差す形で割り込んだからな。そこに割り込んだ俺に、周囲から驚きと不安に満ちた眼差しを向けられる。お客からは首を突っ込む何て信じられないといった眼差し、店員からはアレにチョッカイ掛けるなんてと心配気な眼差しで。

 因みに岸君からは、驚きと余計な真似をと忌々し気な眼差しが向けられている。


「ええっと君、その話は本当なのかな?」


 最初にこの静寂の中口を開いたのは、戸惑いの表情を浮かべた原西さんだった。俺は原西さんの問いかけに軽く頷きつつ、申し訳なさげな表情を浮かべながら答える。


「ええ、多分。その弓の模様には見覚えがあります。壊した時に店員さんが処分するって言ってましたけど、もしかしたら何かの手違いで紛れ込んだんじゃないかなと……」

「なるほど」


 俺の説明に原西さんは納得した……事態収拾には好都合だと言いたげな表情を浮かべた。まぁ確かに、手違いで処分品を渡してしまったという不手際はあれど、意図的に不良品を渡したのではないという事に出来るからな。互いに不手際を起こしてしまったので今回の件はお相子、といった事にして収拾をつける事も出来る。原西さんにしても店側にしても、拗れ掛けている事態に明確な白黒をつけるより、双方に瑕疵があったからと有耶無耶に出来るのは、これ以上の遺恨を残さない為には好都合だ。

 まぁ、この騒動の原因であるただ一人を除いては、な。


「ふざけるな! いきなり横から口を挟んだかと思えば、言うに事欠いて弓が壊れたのはこいつ等の仕業じゃないだと!? そんな見え透いた嘘が、俺に通じるとでも思ってるのか!」 

「いや、嘘と言われてもな……あの弓を俺が不注意で壊したのは事実だし、誤って壊れた弓を渡してしまったのは店側の不手際だと思う。だが、敢えて店側を庇う様な嘘は言ってないぞ?」

「だったら、何でお前がいきなり口を挟むんだ! おかしいだろうが!?」

「いや、流石に俺がやった事が原因で、話が拗れていくのを黙って見ているってのは心苦しくてな……余計な世話だろうが口を挟ませて貰ったんだよ」


 岸君は俺が店側を庇う様に口を挟んだ事が気に入らなかったらしく、かなり恨みがましい表情と鋭い眼差しで俺を睨みつけてきていた。保護者?の原西さんがいる手前、いきなり掴みかかってくる様な事は無かったが、一瞬手と足が俺に掴みかかろうと動きだしそうになったのは見逃さなかったけどな。原西さんがこの場に居なかったら多分、俺は胸ぐらを掴まれて絡まれてただろう剣幕である。

 そして俺が口を挟んだ事で周囲のお客達は、岸君が主張する様に店員がわざと不良品を渡したのではないと納得したように眼差しから不信感が消え始めていた。


「!?」

「もう良いだろ、岸? そこまでにしておけ」

「原西さん!?」

「お前だって、もう分かっているんだろ? 確かに弓矢の精度は褒められたものではないが、彼等はお前が言う様な不正などしていない。騒ぎを起こしてしまって引っ込みがつかないんだろうが、これ以上彼らに迷惑をかけるな」


 原西さんは興奮する岸君に、諭すように優し気な表情で話しかける。岸君は一瞬気まずい表情を浮かべ息を飲み黙り込んだが、直ぐに険しい眼差しを原西さんに向け意を決したような表情を浮かべながら口を開く。


「は、原西先輩までそんな事を言うんですか! 絶対に、こいつ等はインチキをしてるんですよ! そうじゃなきゃ、俺がこんなゲームを失敗するはずがない! 俺だって、ダンジョンでは弓矢を使ってるんですよ! そんな俺が、俺が……」

「岸……」


 今にも泣きだしそうな表情で悲痛な叫びをあげる岸君に、原西さんは痛ましげな表情と眼差しを向ける。どうやら彼等には、何やら込み入った事情があるらしい。とはいえ、そっちの事情を持ち出し、ココの店員さん達にぶつけ迷惑をかけるのは筋違いってモノだ。

 現に店員さんや俺を含むお客達の目には、呆れや非難といった色が少しずつ混じりだしていた。


「とりあえず、ここは俺が片を付けるから、お前は先に帰ってろ」

「……はい。すみません」


 暫くして愚痴を吐き出しきった岸君は、原西さんに諭され、先程までの狂態が嘘の様に意気消沈した様子で、軽く店員さん達や俺達お客に頭を下げた後、重い足取りでお店から去っていった。 ……って、え? 騒ぎを起こした本人が、ちゃんとした謝罪も無く本当に帰るの? 

 俺を含め店の中にいた店員やお客は、彼らのやり取りを見ていた呆気にとられたまま見送ってしまった。






 岸君が立ち去った後、お店の中には何とも言えない空気が漂っていた。アレだけ大騒ぎしていたのに、有耶無耶のままに終わってしまったからだろうか? 遺恨を残さない為にも白黒つける必要は無かったとは思うが、こういう何とも言えない終わり方は想定外だった。こう、スッキリしないと言うか、消化不良と言うか……。

 

「皆さん、お騒がせしてすみませんでした」


 俺達が唖然と岸君が出て行った扉を眺めていると、お店の中に原西さんの謝罪の声が響く。慌てて声がした方に視線を向けると、そこには腰から体を折って深々と頭を下げる原西さんの姿があった。

 そして10秒ほど原西さんは頭を下げ続けた後、申し訳なさそうな表情を浮かべながら顔を上げる。


「本当に申し訳ありません。騒ぎを起こした身でありながら、この様な形になってしまい」

「あっ、いえ。不正が有った等と言う誤解が解けたのでしたら、コチラとしては特に何も……」

「本来でしたらアイツにもキチンと謝罪をさせるべきなのですが、申し訳ない。少々……いえ、かなり精神的に不安定な状況でして」

「ええ、そうみたいですね……」


 申し訳なさそうな表情を浮かべながら原西さんは謝罪……弁解し、店員の女の子は戸惑いの表情を浮かべながらも軽く頷きながら同意する。岸君が晒した狂態はココにいる全員が見ていた事なので、原西さんが言う様に現状ではまともな謝罪は難しかっただろうな。お店サイドとしても、お店に非が無い事を証明する為にも騒動を起こした本人に謝罪をして貰いたいだろうが、あの状態の岸君に謝罪を強要したら誤解を解く以上に悪評が立ちかねない。

 岸君が追い詰められた表情を浮かべ色々と内心を暴露したせいで、かなり気になる単語が複数飛び交ってたからな。ココにいる者達の殆どは、暴走した岸君の大体の心情を理解していた。


「アイツも性根は悪い奴ではないんだが、最近色々あって少々気が立っていたというか……」


 詳しくは分からないが岸君が暴露した話では何でも、原西さんや大学生の兄さん達で作るチームに最近探索者資格を取ったばかりの岸君が臨時参加し、ダンジョン探索にいったらしい。その探索の最中に臨時参加した岸君が連携ミスを犯し、前衛を担っていた実のお兄さんにフレンドリーファイヤーを起こしてしまったとの事だ。幸い他のチームメイトが直ぐにフォローに入った事で大事には至らなかったそうだが、お兄さんの怪我は回復薬を使う怪我だったらしい。他のチームメイト達も乱戦でのフレンドリーファイヤーは偶にある事だと岸君を慰めていたそうだが、実の兄に自分が誤って怪我させたという事実は本人の心の傷として残ったようだ。

 しかも、岸君が使っていた武器は原西さんを真似して弓矢だったとの事。そのせいで、この店でもゲーム失敗がダンジョンでの失敗と重なったようで、あれほどの暴走を起こしてしまったらしい。兄へのフレンドリーファイヤーは乱戦中の偶然では無く、自分の弓矢の腕がへぼだったせいでの必然だったのだと。


「何となくアナタ方の事情は察せましたが、だからといってウチに八つ当りの様な事をされては……」

「ええ、勿論。何かあったからといって、人に当たって良いとはなりませんからね。アイツには確り反省させておくので、今回の件は本当に申し訳ありませんでした!」

「いえ……そこまで謝られなくても大丈夫ですよ。彼が再度この様な事を起こされないように、気を付けて下さい」


 再び原西さんは深々と頭を下げながら、謝罪の言葉を口にした。店員の女の子も外来客にこうまで真摯な態度で謝られると、更に追求することは難しいようで、仕方ないと言いたげな表情で他の店員達に視線を向けた後、原西さんの謝罪を受け入れていた。

 コレで今回の件は手打ち、って事になるんだろうな。


「ありがとうございます。アイツには重々言い聞かせておきます」

「お願いします」


 コレで今回の話は終わりだと思い、俺は途中だったゲームの続きをと思っていたがそうはならなかった。原西さんが女の子に謝罪をした後、俺に話し掛けてきたからだ。


「すまない、君にも迷惑を掛けたね」

「あっ、いえ。コチラこそ、横から口を挟むような真似をしてすみません。俺がやった事が原因で、話が拗れそうだったので……」

「いや、君が名乗り出てきてくれたお陰で、アイツが更にバカをやる前に止めることが出来た。本当にありがとう」

「いえいえ、お気になさらないで下さい」


 原西さんは俺に向かって軽く頭を下げながら、お礼の言葉を口にした。確かにあの場で俺が介入してなかったら、更に岸君はヒートアップして今より酷い状況になって居たかも知れないな。 

 なので俺は素直に原西さんのお礼の言葉を受け取り、軽く会釈を返し原西さんの前を後にしようとした……のだが。


「それと、すまないのだが少し聞いても良いかな?」

「? 何ですか?」

「もしかしてなんだが君、体育祭の部活紹介で大立ち回りをやったっていう一人かな?」

「! えっ、ええっと、大立ち回りというのは?」


 あっ、やばいバレたか? あの時の俺達は別に顔は隠していなかったので、そんなに時間も経ってないので気付く人は気付くか。あの時の演武?の映像がネットに流れてて、結構な反響があったって聞くし……それを見た人なのかな? もしくは、岸君経由で俺達の大立ち回りの話を耳にしたのかも。

 まぁそれは兎も角、ココで新たな騒ぎにならないように気を付けないと……。


「体育祭での模範演武?をしてたそうじゃないか。探索者視点で見ても、かなりの手練れの演武だったと聞いてるよ。話を聞いてネットにアップされていた動画も見たけど、俺の目から見ても確かに手練れと評されるだけの動きだった」

「はっ、はぁ……確かにアレをやった一人ではありますけど、そんなに評価して貰えるとは思っても見なかったです」

「謙遜すること無いよ、アレは確かな研鑽の上で成り立つモノだった。動きだけならレベルを上げた探索者なら似たような物は出来るだろうけど、アソコまで完成度の高い魅せる演武はそうそう出来ないや。中途半端に武術を囓ってる程度の俺では、アレは無理だね」


 ベタ褒めである。原西さんは照れ臭そうに視線を逸らす俺に、正面から称賛の言葉を贈ってきた。演武を正当に評価してくれるのが嬉しい反面、目的が迷惑勧誘対策だったことに申し訳なさが猛烈に沸き立ってくる。純粋に部のアピール目的で演武をしていれば、素直に受け止められていたんだろうか?

 そしてついでに、俺と原西さんの話を聞いていた店員さん及び学生客が俺の素性に気付いたらしく、驚きの表情を浮かべながら注目していた。うん、この状況は不味いな。このままだと、俺が新たな騒動の火種になりかねない。


「そう言って貰えると嬉しいですね」

「コレでも少しは腕に自信があったんだけどね、君達がどのような鍛練を積んでいるのか気になるよ」

「ああ、えっと、そうですね。でも、ちょっとその前に場所を変えませんか? これ以上ココで話をしていると、お店の迷惑になりそうですし……」

「! ああ、そうだね。話はココを出てからの方が良いかもしれないな」


 やっと周りの反応に気付いたのか、原西さんは一瞬バツが悪そうな表情を浮かべた後、俺と店員さん達に軽く会釈をしてからお店を後にした。

 こうなると俺も後に続かないと行けない流れなので、俺のゲームを担当してくれていた店員さんに途中で止める事へのお詫びとお礼を言う。


「そういう訳だから、ゲームの途中で悪いけど抜けさせて貰うね?」

「えっ、あっはい。あっ景品は……」

「途中で抜けるから、景品はいらないや。ゴメンね、騒がせちゃって……」

「いえ。えっと、その、お話頑張って下さい」

「ははっ、うん。頑張るよ、ありがとう」


 担当してくれた店員の女の子は、信じられないと言いたげな表情と驚きの眼差しを向けてきていた。まぁ只の先輩だと思って対応してきた客が、一時期学校を騒がせた有名人だったとなれば驚きの声の一つでもあげたいだろうからな。俺は店員さん達に軽く会釈をした後、お店を後にした。

 話がしたいと原西さんは言っていたが、面倒な話にならないと良いんだけど……。















事情はあれど、八つ当たりはいけませんよね八つ当たりは……。


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挿絵(By みてみん)

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[一言] 性格が悪く腕も悪く口が達者で責任転換と憂さ晴らしでいちゃもん付けて正論か
[気になる点] 詳しくは分からないが「岸君」が暴露した話では何でも、原西さんや大学生の兄さん達で作るチームに 「」内の人名、文の流れから言って「原西さん」なのでは?
[気になる点] 演劇ですか。 自分たちのことが、あるあるですね。 [一言] 更新ありがとうございます。
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