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第422話 撃退した筈なんだけど……

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 実演込みでクレーマー?の撃退に成功したお店の中は、クレーマー騒動が起きる前まで以上の賑わいを見せている。クレーマー相手に一歩も引かない店員の勇敢さを称える客もいれば、最高難易度のゲームもクリア出来ると証明されたので自分もと奮起する客、彼女に良い所を見せようとする男子生徒を囃し立てる客や店員……兎も角、最高潮のお祭り騒ぎと言える賑わいっぷりを見せていた。

 そんな中、俺も女子生徒に促され受付でゲームの説明を受けている。


「ゲームの難易度は4つあります。それぞれ初級・中級・上級・超級です。使う弓矢はどのゲームでも同じですが、難易度によって的までの距離と大きさが変わっていきます。プレイヤーはそれぞれ5本の弓矢を放ち、3つ以上の的に当てることが出来ればゲームクリアになり景品が貰えます。また、弓矢を全部外したとしても参加賞が貰えますので失敗を恐れず頑張って下さい」

「ははっ、ありがとう。それで、オススメの難易度ってのはあるのかな?」

「オススメですか? えっと、中級難易度のゲームが比較的多くの人が挑戦してますね。中級は的までの距離が凡そ3mで、的はCDサイズになります。あちらの方が挑戦中のゲームが中級ですね」


 女の子は教室の一角でゲーム中の男子生徒を指差しながら、アレが中級だと説明する。指の先には、慎重に狙いを定め矢を放とうとしている男子生徒の姿があった。


「アレか……」

「中級は大体、2人に1人が成功しています」

「なるほど。軽く遊ぶのなら良いかもな、中級が良さそうだな」 

「そうですね。あと空き状況にも依りますけど、中級クリア後に上級・超級に挑戦するって方も居ました」


 確かに段階を経て難易度を上げるってのもありだよな……空いていればだけど。俺はチラリと視線を教室の外に向けて見ると、そこには先程の騒ぎを切っ掛けに興味本位で中を覗いていた俺と同じく、店員に引き込まれゲームに参加しようとしている者達の姿。

 うん、客が客を呼ぶような流れが出来てそうだな。この分だと、時間が経つと人で一杯になって何度も挑戦を……ってのは出来なくなりそうだ。


「因みに、上級はどんな感じなの?」

「上級は距離が少し離れて5m程になります。また的も500mlペットボトルの底くらいの大きさになりますので、成功者も7、8人に1人程度になります」

「一気に難易度が上がったって感じだね……」

「その分、景品が少し豪華になってますよ」


 そう言って、女の子は景品コーナーを指差す。上級の景品コーナーには、お菓子の詰め合わせの中袋が置かれていた。中級の景品である小袋に比べれば、確かに少し豪華になっている。

 とはいえ、既に籠盛お菓子を手に入れたからな……だがまぁ、多い分にはそう文句も言われないだろう。


「そっか……じゃぁ上級に挑戦するよ」

「良いんですか、難しいですよ?」

「まぁ、物は試しって言うしね。上級で」

「分かりました。では順番が空き次第係の者が案内しますので、少しお待ち下さい」


 俺は受付をすませ、待機場所になっている空きスペースへと移動する。上級に申し込んでいるのは俺以外にもう1人いるそうなので、今ゲームをやっている奴を含めれば2人終わるのを待たないといけない。まぁ急いでなにかしないといけない事も無いので、のんびり待つとしよう。

 それに、丁度良い暇潰しの道具もあるしな。


「何々、上手な弓矢の使い方?」


 ダンボールの立て看板に書かれた弓矢の説明書を読みながら、一緒に置いてある弓を手に持ち使い方を確かめていく。説明書によると先ずは、矢の柄の窪みに弓の弦を引っかけ引っ張るとある……基本からだな。そして次に説明されているのは、狙いの付け方についてだ。矢を引いた弓を的に向け、出来るだけ的と矢と狙いを付ける目が一直線になる様にするとの事。本式の弓とは狙いの付け方が違うらしいが、店員手作りの精度が怪しい弓矢ではこっちの方が当たりやすいらしい。

 数を熟せば感覚的に扱えるようになるだろうが、確かに初めて弓矢に触るような客ならコッチのやり方の方が良いだろうな。


「あっ、ヤバっ」


 説明書に沿って軽く弓を引いてみると、引く力が強すぎたのか弓から小さいものの嫌な音が鳴った。どうやら想像以上に脆いらしい、慎重に扱わないと容易に壊してしまいそうだ。俺は嫌な音がした弓を引くのを止め、近くの店員に弓を壊したかも知れないと報告しておく。音が鳴っただけなので壊れていないかも知れないが、このまま放置しておいて後の人が怪我をしたとかってなったら悪いからな。

 因みに、素直に謝ったら簡単に許された。何でも探索者をやってるクラスの生徒が制作時に試した時も、似たようなことが何度も起こったそうで、簡素な作りで予備を沢山に作っておいたとのことだ。


「でも、気を付けて下さいね? 罅ぐらいなら良いですけど、弦を張ってるので弓が折れたら破片が飛び散りますから」

「はい、すみません。気を付けます」


 確かに弓の破片が飛び散ったら、俺もだけど周りも怪我をする可能性があるからな。

 俺は軽く頭を下げながら、破損報告対応をしてくれた案内係の店員に謝罪した。


「ああそれと順番ですが、次ですのでもう少しお待ち下さい」

「了解です」


 そう言われチラリと視線を向けてみると、破損報告対応している間に順番待ちをしていた人が弓を構え立っていた。まだ矢は放ってないようなので、今から始めるらしい。

 そして俺は余計な事はせず、ゲーム中の人達を観察することにした。また弓を壊したら申し訳ないからな。






 前のお客が全ての矢を打ち終えたので、遂に俺の番が回ってくる。前のお客は惜しくも、5本中2本が当たるに終わっていた。

 成功者は7、8人中に1人と言っていたので、やっぱり難しいらしい。


「お待たせしました、次の方どうぞ」

「よろしくお願いします」


 案内係の店員さんに案内され、俺は弓と矢が置いてあるテーブルに向かう。先程説明されていた通り、矢は5本用意されていた。

 そして俺がテーブルの前に立つと、ゲーム担当の店員が説明を始める。


「それではルールを確認します。お客様が選ばれた難易度は、上級で間違いありませんね?」

「はい」

「上級では5m離れたココから、的に向かって矢を放って貰います。放って貰う矢の数は5本、内3本が当たればゲームクリアとなり景品が渡されます。何か質問はありますか?」

「ゲームを始める前に、試し矢とかは無いの?」


 先に1度矢を打てれば、ある程度弓矢の傾向は把握出来るからな。試し矢が認められれば、5本中5本の命中も目指せる。

 しかし、そんな思惑は店員が頭を横に振った事で否定された。


「残念ですが、試し矢はありません。探索者をやっている方だと、先に1度試し矢をするだけで全弾命中させられる方が多くいましたので……」

「ああ、なるほど。了解です」


 確かに公平性を思えば、試し矢は無いか。只でさえ探索者はレベルアップ補正で器用さが増しているしな。


「他に質問が無いでしょうか? 無いようでしたらゲームを始めさせて頂きたいと思いますが……」

「大丈夫です、お願いします」

「では始めます。念の為に申し上げておきますが、弓につがえた矢は決して人に向けないで下さい」

「分かってますよ、危ないですからね」


 最後の注意を終えた店員さんは脇に避け、いよいよゲームが始まった。

 俺はテーブルの上に置かれた弓と矢を手に取り、説明書に書かれていた通りに矢をセットし的に向かって構える。先程の反省を生かし、俺はある程度弓がしなる程度で弦を引くのを止めた。的まではそう遠い距離でも無いので、前の挑戦者を見るに思いっきり引かなくても届きそうだったからな。

 

「すぅ……」


 的にある程度狙いを定めると、俺は軽く息を吸い込み息を止める。矢を放つ瞬間まで呼吸をし続けていると、せっかく正確な狙いを付けても呼吸で狙いがブレるからな。

 そして呼吸を止め、1、2秒の間を置いてから弦を引く手を離し矢を放つ。


「ああ、惜しい。外れです」


 僅かに的の右横を抜けた矢を見て、係の店員さんの口から溜息が漏れる。

 この矢、生徒の手作りという事もあり、かなりブレが酷い。重心が狂っているのもあるが、何より矢羽根の作りが悪い。微妙に大きさが揃っていない上、何度も使い回しているせいか折り目や一部欠損が目立つ。コレ、最初の想定より難易度が増してないか? 距離が伸びれば伸びるほど、ブレが酷くなっていくぞ。あの子、良くこんな矢で連続的当てをやったな。


「まだまだ、最初の1本目が外れるのは想定済みだよ」

「本当ですか?」

「本当本当、最初の1本目は試し矢だよ。今ので大体の感触を掴んだから、次は当てられるから」

「そうなんですか……じゃぁ次は期待しますね」


 売り言葉に買い言葉、別に喧嘩というわけでは無いが……コレは後に引けなくなったかな。

 先程も言ったがこの矢、手作りのせいで精度が悪い。次に手に取った矢も、先程の矢と同様に矢羽根が曲がっており、狙い通りに真っ直ぐに飛ぶとは思えない矢だ。


「すぅ……」


 俺は静かに矢を弓につがえ、5m先の的に向かって狙いを定める。先程放った矢で、大体の傾向は掴めた。的の中心を射貫けと言われたら難しいが、的に当てるだけなら何とかなりそうである。

 そして俺は呼吸を止め、狙いの最終調整をした後……矢を放った。 


「あっ!」


 俺の放った矢は的のギリギリ端を掠めるように飛び、ギリギリではあるが的を弾き飛ばした。外れたと思ったらしい店員は驚きの声を上げたが、ギリギリ端でも命中は命中だ。

 有言実行、何とか俺は宣言通り的を射貫く事が出来た。


「ふぅ……どうだ? 命中しただろ?」

「ええ、そうですね。でも、命中は命中でもギリギリですよ? 格好を付けたんですから、もう少しこう……」

「ああ、うん。言いたいことは分かるけど、命中は命中だ。次は真ん中を射貫いてやるさ」

「はぁ、そうですか……」


 店員のジト目に、俺は眼を逸らし次の矢に手を伸ばす。微妙に格好が付かないのは分かっているので、次こそは真ん中を射貫かないと……。

 しかし本当に精度が悪いな、この矢。コレなんて、シャフトが微妙に曲がってるぞ? 誰か踏んだだろ、コレ。


「すぅ……」


 3度目ともなれば、流石に慣れる。今度の矢はシャフトも曲がっていているが、まぁ誤差の範囲だ。元々矢の精度には期待は持ってなかったからな。

 俺は狙いを付け、静かに手を離し矢を放った。


「おお、今度はしっかり命中しましたね!」

「どうだ、出来るって言っただろ? コレは景品はいただきだな」

「いやいや、クリアまでまだ一本残ってますから。全部終わるまで分かりませんよ。ココから全部外した人も居ましたからね……」

「残念だけど、その期待には応えられないな。次でクリアだ」


 俺はノリが良い店員と掛け合いをしながら、次の矢へと手を伸ばす。こういう学年関係ない掛け合いも、文化祭での楽しみの一つだな。

 だがこの後、俺は次の矢を放つことは出来なかった。






 俺が第4射目をつがえようとした時、店の入り口の方から大きな怒鳴り声が響いた。その声に矢を放とうとしていたお客さんは驚き明後日の方に放ち、景品を貰おうとしていたお客は受け取りそこね取りこぼし、順番待ちをしていたお客は驚きの表情で入り口を見る。

 そして怒声の元、入り口に立っていたのは嫌らし気な表情を浮かべた、先程撃退されたクレーマーの男子生徒だった。それもオマケ付き、外来客っぽい人が同行している。


「おい! また来てやったぞ。今度はインチキするなよな!」


 男子生徒は、大声で再びインチキだと言いがかりを付けてきた。先程の女子店員の実演で、言いがかりでしか無いと証明された筈なんだけどな……。

 現に店の中は困惑の空気で満たされており、店員達も途方に暮れたような表情を浮かべている。


「ええと、その件は先程の実演で言いがかりだと証明された筈ですが?」

「おいおい、店員がやって見せたからって証明になるわけ無いだろが! どうせお前等が成功させたのだって、事前に練習しまくったおかげだろ! そんな物が証明になるか!」

「はぁ……では、どうやって証明しろと?」


 ある意味、クレーマー生徒が言っていることにも一理あるが、流石にそれは無理筋過ぎないか? そうなると、対応している店員が言うように、どうやって証明しろって言うんだ?

 そんな事を俺が考えている内に、話はドンドンと進んでいく。


「だから、その為に先輩を連れてきたんだ! この先輩はな、探索者をしてる人で弓矢を使ってるんだよ! この人なら、お前等のインチキだって証明してくれる!」


 ええ……何か、妙な展開になってきたな。

 クレーマー生徒のせいで、俺を含め店の中は困惑と戸惑いの雰囲気に満たされた。
















しつこいクレーマー、協力者を引きつれ再び


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] これ1セット5回同じ矢で打つのではなく、別々の矢を打つのか。 矢の精度が悪く一本一本別のクセ持っているならば試し打ちもないような
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 何と言いますか。 お連れになったご学友の方が真面目に狙うとは限らないので、インチキかどうかの証明は難しいような気もします。 立証は第三者がやらないとね。
[一言] そろそろ、スリルをかもん! クレーマーさん来訪もいいけど、個人的には自衛隊のトップクラスのひととか、勧誘の有名人とか… もっと意外なお客様こないかなー。
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