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第418話 文化祭でのお約束

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 館林さんから部の様子を聞き、俺は嫌な予感に若干表情を歪めつつ首を捻った。親以外に文化祭のお誘いをした覚えは無いので、そうそう外来客が押し寄せることは無い筈なんだけどな。数少ない例外としては、桐谷さんの所で文化祭の話題を出したので、湯田さん辺りが顔見せに来る可能性は無くは無いと思うけど……押し寄せてる?

 掲載内容自体は真面目に作っているが、文化祭の出し物としては結構地味な分類なんだが……。


「外来の人……そんなに居たの?」

「はい、10人近く居ましたよ。パッと見、年齢は私達の親世代くらいの人達だと思います」

「親世代の外来客か……服装は? カジュアルな私服よりだったり、ビジネス寄りのフォーマルなヤツだったりとかさ」

「……個人の好みも関わるので一概には言えませんが、どちらかと言うとビジネス寄りのフォーマル系だったと思います」


 親世代のビジネス系の服装を纏った外来客が、朝一と言っても良い時間帯でウチの部を訪問しているのか……しかも多数。文化祭のパンフレット自体にはウチの部の紹介も載ってはいるが、特に精力的な宣伝はしていないのにもかかわらずだ。

 うん、中々の厄介事な気がするな。


「ビジネスの香りがする外来客か……アレかな? 先生が言ってた、スカウトの話を持ちかけてきたっていう企業の人達かも」

「スカウト、ですか?」

「ああ、うん。どうも前回の体育祭で張り切ったのが原因みたいで、俺達にスカウトの話が来たてらしいんだ、学校経由でさ。無論、断ったけどね」

「じゃぁ今回、部の方を訪ねて来てる外来の人達って……」


 若干言いづらそうな表情を浮かべる館林さんに、俺は頷き、多分その考えで正解だよと返事をした。

 以前スカウトの話を持ちかけたのに、俺達に断られた企業の人の可能性が高いだろうな。文化祭という外部客が入りやすいタイミングで、直接俺達と話を……と考えたのかも知れない。直接俺達の実家を訪ねたり、ダンジョン前や町中で個人的に声を掛けると面倒な相手だと、悪印象を持たれる可能性があるので、文化祭中の学校内で声を掛ける方がまだマシだろうと考えたのかもな。一応コッチも客と店員という立場で相手するから、無碍な扱いは出来ないと考えたのだろう。


「別の目的で来店したであろうソッチ方面のお客の相手は俺達でするから、館林さん達は気にしないでよ。まぁ客としてくるから、無視は出来ないだろうけど……」

「分かりました、ソッチ方面のお客さんの対応は先輩達にお任せします」

「うん。悪いね、迷惑掛けちゃって」

「いえ。体育祭のアレも私達の為にやって貰った事の余波なんですし、迷惑だなんて思いませんよ。話に聞くだけでしたがあの後、先輩達の周りが色々騒がしかったって聞いてますから」


 体育祭でのアレとは、こういう事が出来る俺達が美佳達の後ろ盾として居るからなと、強引な勧誘をしていた後藤君グループへ牽制する為に行った事だからな。まさか夏休み明けに、グループの主要メンバー達が退学するとは思っても見なかったけどさ。他にも色々な要因があったのだろうが、牽制が効き過ぎたのかも知れないと少し反省しているよ。

 

「そうだね、気持ちはありがたく受け取っておくよ」

「はい」


 俺達はそこで部の出し物の話を一旦終了させる。店員をやってるクラスの出し物の店の席で、何時までも後輩と話を続けていたら他のクラスメート達も困るだろうしな。

 そして俺は軽く咳払いをし、お決まりの台詞を口にする。


「御客様、ご注文はお決まりになりましたでしょうか?」

「えっ、ああはい。この紅茶とデザートのセットをお願いします」

「紅茶セットですね。デザートは何になさいますか? コチラのデザートメニューから1つ選べるようになっています」

「ええっと……じゃぁ、このミルクレープでお願いします」

「ミルクレープですね? 畏まりました」


 俺は館林さんから注文を聞き終えると、日野さんの方に顔を向ける。

 すると日野さんは我が意を得たりと言った表情を浮かべた後、メニュー表の一カ所を指差しながら注文を告げた。


「私は、このコーヒーセットでお願いします。デザートはティラミスで」

「コーヒーとティラミスのセットですね。承りました、少々お待ち下さい」


 俺は注文を確認した後、二人に軽く会釈をしてからその場を離れ調理担当に注文を伝えに向かった。

 そして暫くして調理担当から受け取った注文の品をトレーに乗せ、俺は二人の元に向かう。

 

「お待たせしました、ご注文の紅茶セットとコーヒーセットになります」

「「ありがとうございます」」

「では、ごゆっくりお過ごし下さい」


 注文の品の受け渡しを終えた俺は軽く一礼してから、二人の前を離れる。何時までも側に居ては邪魔になるだろうからな。

 そして店員の待機場所にもなっているパーテーションで区切られている調理コーナーに戻ると、とある男子のクラスメートに問い詰められ始める。


「おい九重。あの子達、お前の部活の後輩ってのは本当か?」

「ん? ああ、本当だよ」

「何であんな可愛い子が、態々お前を訪ねに来るんだよ。ホントに後輩か?」

「何を疑っているのかは知らないけど、間違いなく後輩だよ。部の方の出し物の様子を伝えに来てくれたんだ」


 俺達の会話を他の手空きのクラスメート達は興味津々といった感じで聞き耳を立てており、同時に熱い視線を感じるので下手なことが言えない。あくまでも部の後輩であるという態で話を進めないと……。


「何でも外来の客が多く来てるらしい。用意しておいた配布用の資料のコピーだけだと足りなさそうだから、後で交代する時に用意していこうって話してたんだよ」

「本当か? お前の所、そんなに客が寄るような面白い出し物をしてるのか?」

「さぁ? 部活で調べた研究資料の発表って感じの展示だからな、興味を持ってくれた一部の層に刺さったんじゃ無いか?」


 本当に一番突き刺さった方が良い層は、俺に疑いの視線を向けて来ている目の前のコイツや、探索者資格持ちの学生なんだろうけどな。まぁ後数ヶ月もすれば、否が応にも直面する問題だろうから。親が年末調整をする時になって、まさか子供の収入が扶養控除範囲を超えて……ってさ。

 もしかしたら、多数の来訪者ってのは学生探索者の親が一杯来てるのかも?


「……あんまり面白そうな内容には感じられないな」

「事実、興味を持っていなかったら面白いとは思わないと思うぞ?」

 

 逆に発表内容を見て理解すれば、戸惑いや焦りの感情が湧いてくると思うけどな。主に親が。

 そんな感じで時間を潰していると何時の間にか時間は過ぎ、館林さん達は食べ終わり店を後にしようとしていたので、見送りに向かう。


「ごちそうさまでした、美味しかったです」

「あのデザート、アレって手作りなんですか?」

「いや、アレは業務用の出来合の品だよ。今は素人でも探せば、結構簡単に手に入れられるみたいだからね」


 基本的に出来合の品の組み合わせばかりだからな、ウチの喫茶店。それでも、どこぞのホテルのバイキングとかでも使われてるって売り文句の業務用デザートを出しているので、そうそう不味いって評価されることは無いだろう。 

 

「今時の業務用デザートって、クオリティーが高いんですね。でも言われてみると、何処かの旅行先とかで食べた事があった様な気も……」

「言われてみると、私も食べた事があるような気も……」

「製造元や購入元が一緒だったら、そういう事も起きるだろうな」


 やっぱり聞くと、既視感を覚えるもんなんだな。俺はそうかもねと頷きつつ、二人を教室の出口まで案内する。

 そして……。


「ご来店、ありがとうございました」


 軽く会釈しながら、俺は館林さんと日野さんを送り出した。

 





 館林さん達が来店してから暫くは特に変わったお客が訪れる事も無く、半分以上の席が常時埋まる程度のペースでお客さんの来店が続く。俺はホール担当のクラスメート達と順番で接客を続け、その程々の忙しさを楽しんでいた。折角の文化祭だ、この忙しさも楽しみの一つだろう。

 そして交代まで1時間ほどの時だろうか、とうとう問題のお客が来店する。


「いらっしゃいませ」

「えっと、ごめんなさい。九重大樹って子はいますか?」

「九重君ですか? あの失礼ですが……」

「あの子の親です」


 女子のホール担当の子が出迎えをしているクラスの入り口の前に立っていたのは、多少外行きに着飾っている服装の俺の母さんだった。そういえば、出店の担当中に来るって言ってたな。

 俺は素早く入り口にまで移動し、対応しているクラスメートの女の子に声を掛ける。


「ありがとう、代わるよ」

「あっ九重君。うん、よろしくね」


 手早く交代し、俺は母さんに軽く会釈しながらお決まりの台詞を口にする。


「あっ、大樹」

「いらっしゃいませ、お席まで案内します」

「えっ、ええ、お願い」


 畏まった態度で接客する俺の姿に戸惑いの声を上げる母さんを連れ、教室の隅の方に設置されている一角に案内する。流石空いているとは言え、中央の席には案内しづらいからな。

 そして母さんを席まで案内し終えると、俺は畏まった態度と口調を崩し話し掛ける。


「いらっしゃい母さん、思ってたより遅かったね。美佳の方のクラスに先に行ってたの?」

「えっ、ええ。急に普段通りに戻ったわね」

「一応店員さんだからね。他のお客さんも見てるし、席に案内するまではってね」

「ふふっ、ちゃんと店員さんをやってるのね」


 崩した話し方をし始めた俺に安心したのか、母さんは苦笑を浮かべつつも感心したような表情を浮かべていた。俺も軽く苦笑いを浮かべつつ、持っていたメニュー表を差し出す。


「こちらメニューです」

「ありがとう。それにしても、やっぱりクラス毎に随分感じが違うわね」

「それは、美佳の所と比べて?」

「ええ、向こうの方は随分と気合いが入って賑やかだったわ。ココは落ち着くって感じね」


 まぁ1年の出し物に比べたら、他の学年の出し物は控え目に見えるだろうな。電飾って何だよ電飾って。

 

「そっか。それで如何だった、美佳の様子は?」

「楽しそうにしてたわよ。まぁ中々仕掛けの調整が上手くいかず、四苦八苦していた様だけど」

「そんな大変さも、楽しみ方の一つだと思うよ。何でも無い成功より、苦労した上での成功とかの方が印象に残るからね」

「そうね。苦労はしてたみたいだけど、皆で何とかしようと楽しそうにしていたわ」


 何となく、楽しげな表情を浮かべながら沙織ちゃん達と走り回って居る姿が目に浮かんだ。文化祭を、目一杯楽しんでいて何よりである。

 そして母さんは俺が渡したメニュー表を眺めた後、一部を指差しながら注文を口にする。


「じゃぁ、この紅茶を頼もうかしら」

「紅茶だけで良いの? デザートのセットとかもあるけど」

「この後、他にも行く所があるからあまり長居は出来ないのよ」

「そっか……ご注文、承りました」


 俺はメニュー表を受け取った後、軽く会釈をしてから母さんの前を後にした。

 まぁ注文を伝えに調理コーナーに行った際、その場に居たクラスメート達にからかわれたのはお約束だな。俺はそんなクラスメイト達のからかいをあしらった後、出来上がった紅茶を貰いすぐに後にする。


「お待たせしました、ご注文の品です」

「ありがとう。大丈夫、からかわれていたみたいだけど?」

「ははっ、大丈夫だよ。他の子もやられてたから、まぁ親が来た時のお約束だね」

「そう、それなら良いんだけど」


 自分が来た事で俺に迷惑を掛けたんじゃ無いかと心配げな表情を浮かべていた母さんは、俺の返事に少し安心したような表情を浮かべる。

 

「まぁクラスメートと上手くやってるようで安心したわ。最近の貴方って、休みになると裕二君達とばかり出かけてるから……」

「まぁ確かに最近はそういうのも多いけど、クラスの皆とも程々に付き合ってるから大丈夫だよ」


 確かに休日に特定の友人とばかりダンジョンに出かける生活をしていると、親としては学校で上手くやれているのかと心配になるよな。

 一応、特別親しいというわけでは無いが、普通に話す程度にはクラスメート達との関係は保っている。


「そう、それなら良かった」


 母さんは安心したような表情を浮かべた後、紅茶を飲み始めたので、俺は軽く会釈をしてその場を離れる。

そして母さんは10分ほど滞在した後、俺に見送られ教室を後にする。


「それじゃぁ母さん帰るわね。帰りに貴方の部活の方も覗いていくわ」

「内容が内容だから、余り面白くは無いと思うよ? 結構お固めの感じだからね」

「どんな内容かより、どんな事をしているのかを見ておきたいのよ」


 どんな事か……学生探索者の収入確認と扶養控除範囲確認の大切さ、確定申告の大変さの啓蒙かな?

 後はダンジョン産のアイテムの利用方法とか……うん、あらためて考えると堅い内容だな。


「じゃあ、この後も頑張ってね」

「うん、ありがとう。がんばるよ」


 そう言うと、母さんは軽く手を振りつつ教室を後にした。

 















文化祭にビジネス系服装の大人が沢山……厄介事の香りがしますね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
「探索者の親御様必見!お子さんの収入は扶養内ですか!?」みたいなポスター貼っとけばめっちゃ人入りそう
[一言] お父さんよりお母さんが先に倒れちゃうフラグかな? 通帳の残高を確認されてw
[一言] もし押し寄せてるのが大樹君の予想通り一度断られた会社のスカウト目的の人らだとしたら、自ら自社の好感度を下げてますね。 押せばどうにかなるかも精神…昔のセールスマンかな? 上司や会社上層部から…
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