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第415話 文化祭開幕前のお願い

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 いま目に映る光景は普段の質実剛健といった学校の雰囲気とは違い、色とりどりに華やかかつ賑やかに飾り付けられており、各クラスの前を通り自分のクラスへ向け廊下を歩く俺の目を楽しませてくれていた。どのクラスがどんな出し物をするかは何となく噂や文化祭のパンフレットで知っていたが、実際にこうして目にしてみると感心してしまう程の本格的な作りをしている出し物のクラスがチラホラ見受けられる。

 やっぱり気合いが入っている所は気合い入ってるな、こういう小物大物作りが得意な生徒が主導してたのかな?


「美佳達の様子を見て思ってたけど、1年生のクラスがある階はドコの出店街なんだ?って感じだな。初めての高校の文化祭って事で気合い入ってるのは良い事なんだろうけど、外観を整えるだけでもどれだけ準備に時間を掛けたんだ?」


 上級生のクラスの出し物は基本、外観より内装に力を掛けている所が多い印象だ。精々扉や窓にポップが貼られていたり、可愛らしい手作りの案内看板が出されているくらいである。逆に1年生のクラスではカラフルなパーティーモールやフラッグガーランド、紙製造花で飾られていたり、LEDライト?を使っているのか七色に光っているクラスなんてのもあった。

 ちょっと……気合い入りすぎじゃ無いか?


「美佳達、文化祭が終わった後に燃え尽き症候群とかにならないと良いんだけど……」


 恐らく1年生は後藤君グループが引き起こした留年探索者勧誘騒動などが終息し、後味悪い感じの終わり方にはなったが騒動の心労から解放されたから今回の文化祭ではハッチャケているんだろう。

 折角、受験という試練を乗り越え楽しみにしていた高校生活なのに、一部の暴走?のせいで息苦しい日々を強いられてきただろうからな。それからの解放感を考えれば、まぁ仕方が無いのかも知れない。


「まぁ始まる前から終わった後の事を心配しても仕方ない、別にダンジョンみたいに命の危険があるわけではないんだしな。とりあえず、文化祭を全力で楽しんでるのは良い事だ」


 仮に燃え尽き症候群になったとしても、霜降りミノ肉は品切れ中だが通常のミノ肉バーベキューを文化祭後に部の打ち上げと称してやれば復活するだろう。美味しいモノを食べれば気分が上がるのは先日、俺達自身で実証した事だしな。

 後で、裕二達にも相談してみるか。 






「うん……普通だよな」


 1年生のクラスを見た後だと、そこそこ華やかに飾られているはずの自分のクラスの外観の飾り付けがショボく見えてしまう。流石にLEDで七色に光るとまで行かなくとも、もう少し飾り付けを考えた方が良かったのかもしれないな。

 俺は少し後悔しながらクラスの飾りを見た後、既に中から賑やかな声が聞こえてくる教室へ足を踏み入れる。


「おはよう」


 朝の挨拶をしながら教室へ入ると急ぐ必要は無いと言われていたのに、既に半数以上のクラスメート達が登校してきていた姿が目に飛び込んでくる。教室の中は昨日の時点で飾り付けを終えているので、殆どのクラスメート達は立ったまま雑談をしていた。お客さんが座るテーブルクロスが掛けられた席はあるが、到底全員が座れる脚数ではないからな。

 まぁ雑談の内容自体は、一年生クラスの外観飾りについてが殆どだ。やっぱり皆も見てきていたんだな、アレ。まぁ昇降口からの移動経路的に、意識しなくとも目に入るんだけどさ。


「おはよう、九重君も早めに来たんだ? 昨日も言ったけど、別に急がなくても良かったんだよ?」

「妹が早く出るって言ってたから、一緒のタイミングで出ただけだよ」

「そっか。まぁ見ての通り、他の人も早めに来てる人も多いから」


 教室へ入ると俺の存在に気付いた、クラスの文化祭実行委員を務める女子生徒の(あずま)さんが話し掛けてきた。どうやら東さんはクラスの責任者という事もあり、早めに登校してきていたとの事らしいが、クラスメートの半数以上が既に登校してきているこの状況は少し予想外だったらしい。

 教室は出店仕様に模様替えし全員が座れる席数も無いので、出来るだけ遅めに来て貰う方が都合が良かったのにと若干嘆いている。まぁ椅子は良くて、半分が座れるぐらいの脚数しかないからね。

 

「そうみたいだね……何か手伝う事ある?」

「大丈夫よ。もう朝やる準備は大体終わってるから、皆みたいにオシャベリでもして待っていて。あっ、念の為に店番のローテーションの確認しておいてね」

「了解、何か用事があったら遠慮無く言ってね」

「ありがとう」


 幾つかの確認を終えると、東さんは忙し気に歩き去って行った。聞いた限りだと、既に出店で提供する食材関係の搬入も終えているようで、時間が来れば開店出来る段階らしい。その段階まで来ているとなると、俺が変に出しゃばるのは逆に迷惑になるだろうな。何か用事を頼まれたら、快く手伝う事が一番の協力だろう。

 しかし、そうなると早めに来た分だけ変に時間が空いちゃったな。裕二と柊さんは……まだ来てないみたいだ。だとすると、他には……ああ、良いヤツが居た。


「よう重盛、おはよう。お前も早く来たんだ?」

「ん? ああ九重か、おはよう。何だか早く目が覚めてな、何か手伝う事でもあればって思って早めに来たんだよ。そう言うお前は?」

「俺は妹が早く家を出るって言うから、そのタイミングでな」


 早めに登校していた組の中に重盛が居たので朝の挨拶をしつつ、俺は時間潰しの雑談に勤しむ事にした。一仕事終えた感がしたので話を聞いてみると、重盛は俺より10分以上早めに登校してきていたらしく、食材搬入などの朝の準備をしていた東さん達を手伝ったらしい。

 まぁ搬入と言っても、氷水の入ったクーラーボックスに各種ペットボトル飲料を入れて冷やしたりしただけだったらしいんだけどな。


「最近の業務用のデザートって良く出来てるな、自然解凍で1時間も置いておけば食べられるようになるらしい。それにカチコチに凍ってるから、多少揺らして運んでも形崩れしないしな」

「へー、最近の業務用のデザートってそんな感じなんだ」

「ああ。しかも業務用って聞いて質素で飾りっ気が無さそうなのを想像してたんだけど、幾つか確認したけど見た目もかなり良かったぞ。食材を準備した東さん達に詳しく聞いてみると、ホテルとかレストランのビュッフェとかでも使われてるモノと同じなんだってさ」

「それなら、来てくれたお客さんがガッカリする事は無さそうだな」


 まぁ逆に、何処かで食べた事がある様な……といった既視感を覚えるかも知れないけど。俺達の手作りデザートのモノより品質自体は保障されているので、その辺は目を瞑って下さいとしか言えないな。

 そういう訳で、ウチのクラスはちょっと一寄りして休憩を……という感じで使って貰うのが丁度良いのだろう。

 

「ああ。それと、使う分だけ自然解凍させるらしいけど賞味期限の関係もあるから、余った分は希望者に帰りに配るって言ってたぞ。味見したかったら、その時に言ってみると良い」

「おっ、良い事聞いたな。でも配るくらいに余るって事は、それだけお客さんが来なかったって事だし……微妙な感じだな」

「まぁ、な。とりあえず業務用デザートの方は全部で100人分くらい用意してるらしいから、人いりが多かったら残らないと思うぞ」

「100人分も用意してるのか?」


 100人分と言えば、結構な数だ。えっ、そんなに用意したの? 他に乾き菓子も用意したって言ってたし、過剰在庫じゃ無いか?


「業務用で一箱当たり、そこそこの数が入ってたらしい。何種類か注文したら、人数割りすると100人前ぐらいになるんだってさ。1個あたりの大きさは小さめだから、一人が何個か注文してくれれば直ぐに無くなるだろうっていってたけど……まぁなる様になるだな」

「ふーん。確かにホテルのビュッフェとかのデザートって、一個あたりの大きさは小さめだよな。俺も何個か一緒に取る事あるし……そう考えると100人前でもすぐ無くなる、か?」

「まぁ出来るだけ残りは出したくないから、お客にデザート盛り合わせメニューも提案してみるって言ってたぞ、東さん達が」

「ああ、さっきから東さん達が何か作ってるのは、その為のポップか」


 俺と重盛が向けた視線の先では、東さんを筆頭に何人かの女子生徒が数少ない机を一つ占領し何かを作っていた。重盛の話を聞き、それが何かやっと理解出来た。注文パンフを見て考えていたより、実物を目にしてみると意外に数があって焦った結果……という事なのだろう。

 まぁ普通、一般人が業務用デザートを大量注文する機会なんてまず無いだろうからな。思っていたより……という事態はままある事だ。


「1セット幾らにするか、って言ってたな。セット売りは想定してなかったから、価格付けが難しいらしい。単純に単品価格の合計するのか、セット割りを効かせるか。効かせるのなら幾ら引きにするのか、ってな」

「元々、単品合計でいくって言ってたからな。セット割りを効かせるにも、下手な割引をすると原価割れして赤字になる、と」

「元々全部売れても、トントンか少し黒字になる計算だったらしい。その分値下げして提供出来るように、ってさ」

「そこで急遽セットメニューを割引価格で提供しようとなると、経費計算が難しいだろうな。お得感は無いけど、もう単純に単品価格の合算で良いんじゃないか? 継続した商売なら兎も角、一日だけの高校の文化祭だしな」


 普通のお店だと、お得感のある割引価格というのは継続的集客策の売りになるが、文化祭の出店で継続策を使ってもな? 元々利益度外視の低価格提供なので、単品価格合算方式会計してもそうそう文句は出ないとは思う。多分、合算しても普通の喫茶店の半分以下だろうからな。 

 と、そんな話を重盛としている内に何時の間にか大分時間も過ぎていたようで、何時も通りの時間で登校してきた裕二に声を掛けられた。

 

「おはよう、二人とも。大分話が盛り上がってるみたいだけど、もしかして大分早く来たのか?」

「おはよう、俺は美佳と一緒のタイミングで来たよ。重盛は……」

「おはよう。今日は大分早くに目が覚めてな、どうせならって早めに登校したんだよ」

「そうなんだ。だから今日は通学路がえらく空いていたんだな、遅刻かって少し焦ったよ」


 裕二の話を聞くに、どうやら予想通りの展開になっていたらしい。普段と比べ人通りが少ないと、やってしまったのかと不安になるからな。

 そして俺と重盛、裕二を加え3人で朝礼が始まるまでの時間潰しの雑談を続けた。






 朝礼の時間になり、先生が教室に入ってきた。少し憂鬱で疲れた様な雰囲気が出ているが、顔には楽しげな表情が浮かんでいる。多分、教員としての文化祭準備が忙しかったんだろう。授業や文化祭で気分が高揚する生徒の相手は勿論、周辺住民や役所等との打ち合わせ……少し考えるだけで色々と疲れそうな案件が出てくる。

 そして先生は教室内を一瞥した後、俺達に向かって話を始めた。 


「さて皆、いよいよ今日は文化祭当日だ。この日に向けて色々と苦労しつつも、クラス一丸となり協力しながら準備を進めてきたと思う。今日はその成果を発揮する場であり、近隣住民の方々や君達の親御さん、来年の入学を考える中学生等がウチの学校がどのような学校かを観に来る場でもある。学校生活における数少ない大規模イベントという事で、羽を伸ばし楽しみたいとは思うが当校の生徒として恥ずかしくない行動を心掛けるようにして欲しい」


 先生はそこで話を切り俺達の顔を見渡した後、若干目を細めつつ苦虫を噛んだような表情を浮かべながら再び口を開く。


「今年の文化祭は、ダンジョンが一般開放されてから初めての文化祭だ。例年、この手のイベントでは生徒同士や外部の来客との間で揉め事が起きている。だいたいは大事には発展せず穏便に解決されるが、当然ながら一部例外はある。激しい口論で済むケースならまだ良いのだが、周囲を巻き込んで乱闘に発展したケース等も報告されている。……当校には探索者資格を持つ者が大勢所属しており、外部から訪れる来客の中にも当然探索者資格を持つ者は含まれているはずだ。万が一報告されている様な事が起きた場合は、より酷い事に発展する可能性があるのは想像出来ると思う」


 真剣な眼差しと表情を浮かべ語る先生の話を聞き、文化祭という事で少し浮かれ気味だった俺達は冷や水を掛けられたかのように沈黙する。考えてみれば大規模イベントというのは、大なり小なり問題が発生しやすい。先生が言うように小さな揉め事で済めば良いが、探索者というファクターが存在する中で大事に発展したら……想像さえしたくないな。

 教室に入ってきた時に先生が疲れた表情を浮かべていたのは、問題が発生しないように対策をどうするかと文化祭当日まで議論していたからかも知れない。もしかしたら先生が最初に浮かべていた憂鬱そうな表情の意味は、俺達にこの話をして冷や水を掛けないといけない事に対して浮かべていたのかも知れないな。


「故に、もう一度皆にお願いする。当校の生徒として恥ずかしくない行動を心掛け、コレまでの成果を発揮し文化祭を楽しんで貰いたい」


 申し訳なさげな表情を浮かべながら頭を下げる先生のお願いに、俺達は真剣な表情を浮かべながら静かに頷いて応えた。

 















楽しいお祭りだった、で終わりたいですからね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
フラグが立った?w
[気になる点] 記憶違いだったらすみません 裕二って同じクラスだったっけ?
[気になる点] 乾き菓子って何? [一言] クッキーは焼き菓子だし?
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