第412話 文化祭の準備は進むよ
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週末に文化祭があるという事で多少浮ついている感じはあったモノの、無事に放課後を迎えた俺達は割り振られているクラスの出し物の準備を手伝った後、頃合いを見計らい部活の出し物の準備があると断りを入れ抜け出す。出し物が出し物だけあって、大した準備も無いので抜け出すことは簡単だった。まぁクラスの出し物の準備自体は8割ほど終わっているので、俺達が抜けても問題無いはずだ。後は前日と当日に、飲食物の搬入するのがメインだからな。
そして文化祭で賑わう教室や廊下を通り抜け、俺達は部室に到着した。
「ドコのクラスも、追い込みの真っ最中って感じだね」
「そうだな。出し物が何にせよ、それなりの準備をしておかないと悪目立ちするからな。それなりのやる気を形で見せないと……」
「そうね。まぁ1年と他の学年で結構温度差はあるけど、文化祭としてはまぁ平均的な盛り上がり方じゃないかしら?」
俺達は部に備え付けられている椅子に腰を下ろし、文化祭を前にし盛り上がる学校の雰囲気について話し合う。俺達自身、やる事はやっているが余り積極的に参加しているとは言えない立場だが、それなりの出し物の準備はしているので面倒だと思いつつ楽しみにはしている。1年生がかなり積極的に参加しているので、余りやる気が無いように見える2,3年生もつられてるって感じだな。
現に、放課後になってからそれなりに時間が経っているのに、まだ美佳達が部室に様子見に来る気配は無い。まぁ今朝もクラスの出し物について熱心に話していたので、向こうの準備に熱中してるだけかも知れないな。一応放課後に集まろうと言ってはいるが、部の出し物の進捗状況を確認し合うのが目的なので、クラスの方の準備が忙しいのなら無理に集まる必要は無い。進捗状況の連絡さえ付けば良いだけだからな。
「そうかもね。美佳達のクラスの方は大分盛り上がってるみたいで、今日の朝も皆で楽しそうに打ち合わせしてたよ。アアでも無い、コウでも無いってさ」
「それは随分と楽しそうだな。そういえば、去年の俺達もそんな感じだったっけ……」
「初めての、高校文化祭だったモノね。ダンジョンは出来てたけど、その時はまだ直接的な関係は無かったから皆気合い入ってたのを憶えてるわ」
あの頃はまだ、柊さんが言うように民間探索者が生まれる前だったので、学生にとって探索者関係は遠い場所での出来事だったからな。遠い所の出来事より近場のイベント、って具合である。まぁあの頃は同時にダンジョンの一般開放の噂で盛り上がっていたので、相乗効果で今以上の盛り上がり方をしていたけどな。
「そういえば去年って確か、お化け屋敷を作ったんだったっけ? 教室の中を改造してさ」
「お化けメイクしたり、雰囲気作りの小物を作ったりしてたな。意外に器用なヤツが多くて、中々の出来だったと思うぞ」
「アレ、結構準備が大変だったのよね。それなりの広さが欲しいから特別教室を借りたり、遮光の為の緞帳を沢山用意したりして」
去年の文化祭での出来事を俺達は懐かしみつつ、今年との落差に少し寂しげな表情を浮かべた。周りが盛り上がっているのに、今一そのノリに乗れないってのは何となく寂しいモノがあるからな。
とはいえ、全体として見ても低調なのでそこまで寂しくは無いんだけど。
「その反動かも知れないけど、今年は学校行事だからやってますよってポーズが全面的に出てるからね」
「他に興味を引くモノが出来たってのもあるだろうけど、去年はかなり気合いが入って……入りすぎてる感じだったからな。準備は勿論だけど、後片付けも中々大変だったよ」
「どこかで聞いた話だと、例年より2割から3割ゴミが増えたって言ってたわ。皆内装に拘ったから、段ボールの書き割りが一杯出たとも言ってたわね」
書き割りか……そういえばウチのクラスでも、背景として結構な数作ってたっけ。あの調子で他のクラスもやってたとなれば、そりゃゴミも増えるか。
などと3人で去年の文化祭と比べながら雑談をし美佳達がくるのを待っていると、俺達が部室に到着して15分ほどして部室に向かってくる人の気配を感じ取った。数は……4人か。
「美佳達かな?」
「そうじゃ無いか? 真っ直ぐこっちに向かってきてるみたいだしな」
そんな軽口をしている内に、部室の扉が開き気配の正体が判明する。まぁ予想通りの答えなんだけどな。
部室に来た美佳達は、部室の中に俺達の姿を確認すると軽く頭を下げながら謝罪を口にする。
「遅れてすみません、クラスの方の準備が押しちゃいました」
「「「すみません」」」
「別に明確な時間を約束してたわけじゃないんだし、気にしなくて良いよ。それより、クラスの方は抜けてきて大丈夫なの? 向こうが忙しいのなら、向こうの準備を優先しても良いんだよ?」
俺は軽く返しながら、抜けてきて大丈夫なのか確認する。忙しい時に無理なタイミングで抜けると、変な恨みを買いそうだからな。折角問題が解決して学校が楽しくなってきたと言ってたのに、無理な離脱で変な問題は抱えさせたくは無い。
「あっ、お兄ちゃん。ある程度目処を付けてから抜けてきたから大丈夫だよ」
「それなら良いんだけど、無理そうなら連絡して欠席して良いからな?」
「うん、ありがとう。でもクラスの子達も部活の方でも発表があるって事は知ってるし、部の出し物の打ち合わせに出るなとは言わないよ」
「そうだと良いんだけどな。まぁ何時までも立ってないで座ってくれ、さっさと打ち合わせを始めて終わらせよう」
俺が着席を促すと、美佳達は素早く室内の空いてる椅子に腰を下ろした。
さて、と。全員揃ったことだし、打ち合わせを始めるとしよう。打ち合わせが早く終わったら、美佳達はクラスの方に戻るというかも知れないからな。
「さて、それじゃぁ各自が纏めたテーマの進捗状況の報告かな。先ずは俺の探索者が関わる税制についてから報告するけど……」
俺は自分が纏めた資料について、皆に報告をする。といっても、基本的な税制について探索者に関する項目を抜き出しているだけなので、それほど手間が掛かるモノでは無かった。
まぁ今回の騒動で得たマジックバッグ関連の収入が非課税対象だ……とかいった特殊な事例は載せてないけどな。
「というわけで、幾つか重要な項目を箇条書きにして目次として張り出すつもりだよ。他に何か展示方法について、意見はあるかな?」
「基本的には、それで良いと思うぞ。後はそうだな、持ち帰り出来るコピーとかを用意出来れば良いんじゃないか? 知ってるヤツは知ってるだろうけど、家に持ち帰って熟読したいって考えるヤツも出てくるだろうからな」
「なるほど。それじゃぁ内容を纏めたヤツを50枚位、持ち帰り出来るようにコピーを作っておくとしようかな。足りなかったら、追加でコピーすれば良いしね」
裕二にアドバイスを貰い、俺は軽く頷きつつ手元のメモ帳に記入しておく。確かにダンジョンが一般開放されて、もうすぐ1年。去年は年末までの期間が短かったので、ダンジョン収入が扶養範囲に収まった学生探索者多かっただろうが、今年は学生探索者の多くが扶養範囲を超えている可能性がある。俺達の部の発表を見て、収入額がヤバいと考え発表内容をメモったり俺達に尋ねてくる生徒が出る可能性は大いにあるだろうな。そういった面倒事を避ける為にも、纏めた資料を持ち帰れる様にして置いた方が無難だろう。
もしかしたら学生探索者の生徒よりも、学生探索者を子供に持つ親御さんの方が持って帰るかも知れないけど。子供の収入が扶養範囲を超えていたら、扶養控除の対象外になって勤めている会社とかに手続き申請しないと行けないからな。
「じゃぁ俺の方からの報告は以上だね。次は……裕二かな?」
「おう、じゃぁ報告を始めさせて貰うな。俺達のテーマであるダンジョンが与える社会的影響についてだけど……」
裕二の纏めた発表は主に、コアクリスタル発電関係とダンジョン経済関連についてだった。テーマがテーマなだけあって中々固い内容に仕上がってはいるが、ダンジョンが登場して以来どのように社会が変化しているのかが良く纏められていた。まだ影響はブームという一過性のモノではあるが、徐々に社会構造自体がダンジョンありきの形に変化していく動きが読み取れるモノだ。
この発表を見ていると、後々の為にも何かしらかの形でダンジョンに関わって置いた方が良いのでは?と思わされる。
「といった形で発表をしようと思うんだが、何か意見はあるか?」
「意見というか、ちょっと堅いかな?という感じを受けるかな。もう少し内容を柔らかくとは言わないけど、所々挿し絵を入れたりして息抜きのポイントを入れるのはどう? 市販の解説本とかにはさ、文の羅列だけじゃ無くキャラクターイラストのツッコミとか入るし」
「確かに、そういうのもありだな。このままだと少し堅い感じはしてたから、試しにイラスト入りの構成を考えてみよう。とはいえ余り時間も無いし、上手く調整がいかなかったら今のままだぞ?」
「それで良いんじゃない? 発表内容の完成度自体は高いし、お試しでやってみるって感じでさ」
短時間で調べたにしては、内容自体は本当に完成度が高いと思う。只その分、ドコで発表する論文だ?と言うほど文字の羅列で資料の大部分が埋め尽くされている。
興味を持ってみる客には読み応え十分だが、ふらりと立ち寄った客には興味が失せる作りだ。折角作った以上、来店した客には内容をちゃんと見て貰いたいからな。
「分かった、次の報告の時までに修正してみるとしよう。そういう訳だから館林さん、日野さん。クラスの準備で忙しい所かも知れないけど、修正に協力してくれるかな?」
「はい、勿論」
「あっ私、簡単なイラストなら描けるので描きます!」
「おお、それは頼もしい。じゃぁイラストは日野さんに頼むとしよう」
「はい!」
良し。裕二の方の修正案も決まった事だし、次に行くとしよう。
俺は視線を裕二達から離し、柊さん達の方に向ける。
「じゃぁ次は、私達の発表ね。私達のテーマ、ダンジョンから産出された素材の利用法についてだけど……」
柊さんの発表は主にダンジョン素材の利用法である、食品的利用方法、工業的利用方法等々幅広く纏められていた。裕二の発表とは違い、浅く広くと言った感じの纏め方である。分野毎にどういったモノが作られているのかが多数掲載されており、しれっと柊さんの家のラーメンが食品利用の一例として載っていたりもした。
商魂逞しいと言うか何と言うか……。
「といった感じで、私達は纏めているわ。何か意見はあるかしら?」
「そうだね。良い感じで纏まってるとは思うけど、出来れば幾つか実物も一緒に展示したりしても良いんじゃないかな? 実物も展示しておけば、ダンジョン素材の利用ってイメージが湧きやすいからね」
「そうね。紹介した商品の幾つかを実物込みで展示するっていう手法は、お客さんの興味を引く為にもありかも知れないわ」
「更に言うなら、加工前の素材を一緒に展示するってのも良いんじゃない? コレが加工されてコレになったのか……ってさ?」
流石に高価値素材や商品を展示するのは、警備上の観点からよろしくないからダメだろうけど。展示物が盗まれました……なんて騒ぎが起きて、文化祭中に警察が来るなんて事になったら興ざめも良い所だからな。俺達なら用意しようと思えば用意出来るからこそ、その辺は気を付けないとな。
そういえば体育祭で使わなかった熊素材……アレも一般的には高価値素材だっけ? お蔵入り品の再利用は止めておこう、うん。
「そうね。幾つかの商品は素材も用意出来るでしょうから、それを並べましょう。美佳ちゃん沙織ちゃん、それで良いかしら?」
「勿論良いですよ! 確かにそっちの方が、お客さんも興味を持ってくれると思います」
「私も賛成です!」
「じゃぁ早速商品選びをしましょう、文化祭まで余り時間も無いし急がないと」
話が纏まると、柊さん達は楽しそうに資料とスマホを広げ、展示物に使う商品の選定を始めた。裕二達の方も話が一段落したと判断し、早速資料の修正に使うイラストの作成を始めている。
「えっと、じゃぁ取り敢えず打ち合わせは以上、って事で良いかな?」
「おう」
「ええ」
「うん!」
「「「はい!」」」
というわけで、打ち合わせは無事終了と言う事になった。ただ裕二達は早速打ち合わせで出た修正点の改善作業を行っており、一人取り残される形になった俺は一人寂しく溜息を漏らす。
はぁ、俺も資料のコピー行くかな?




