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第407話 えっ、税抜きですか……

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 宮下さんのお願いの説明を聞き、俺達は一瞬硬い表情で眉を顰めてしまったが、直ぐに素知らぬ表情を戻す。実質、拒否が出来ない類いのお願いだが詳細についてはまだ何の説明もされていないので、今の段階で受諾か拒否かを表に出すのは時期尚早だからな。

 仮に受け入れるとしても、最大限の譲歩を引き出してからで無いと……。 


「なるほど、今日の大体の話の流れは分かりました。では先ず、ダンジョン発見時の調書取りからとなると思うんですが、その前に2つ要望があるのですがよろしいでしょうか?」

「はい、何でしょう?」


 早速調書取りを始めようとしていた宮下さんに、裕二は小さく手を上げ待ったを掛けながら話し掛ける。宮下さんは一瞬怪訝気な表情を浮かべたが、直ぐに素知らぬ表情を浮かべ直し裕二の要望について尋ねる。

 そして裕二は持ってきていたバッグからソレを取り出し、宮下さん達に見えるように机の上に置いた。


「先ず一つ目は、このまま祖父の同席を許可して貰いたいと言う事です。今日の面談に同行して貰う為にある程度事情は話してますので、このまま同席して貰っても大丈夫だと思いますし、寧ろ3つ目の用件を思えば同席して貰うべきでしょう。そして2つ目は、録音レコーダー(コレ)を使わせて頂きたいのですが……」


 裕二の要望を聞き宮下さんは一瞬悩ましげな表情を浮かべたが、軽く目を閉じて1度軽く頷いてから口を開く。


「分かりました、一つ目の要望に関しては問題ありません。コチラとしても未成年者の皆様だけと話を進めたという形より、保護者の方に同席して頂いて話を進めたと言う形の方が良いですから。そして2つ目の要望に関してなのですが、レコーダーの使用に関しては問題ありません。議事録を残すという意味で有用な手段ですからね。ただし、コチラからも一つお願いがあります」

「お願い、ですか?」

「はい。録音に関しては問題無いのですが、録音後にコチラにも録音データのコピーを提供して頂きたいと思います。両者が同じデータを保有していた方がトラブルが起きた際等に、公平性が担保出来ますので」

「分かりました。では面談終了後、録音した音声データのコピーは提供させて頂きます。パソコンがあれば、簡単にデータコピーは出来ると思います」


 宮下さんのコピーデータの提出要請に、裕二も軽く頷きながら了承の返事を返す。互いに同じデータを保有していれば、自分の都合が良いように改竄など出来ないからな。録音を許可するのなら、宮下さんがコピーの提出を要請するのは当然の対応だろう。

  

「ありがとうございます。それと当然の事ですが、議事録を録音した音声データが流出しないように気を付けて下さい。今回の面談では、まだ表に出すには早い情報が多分に含まれることになりますので。昨今、ウイルス等によって個人データが流出すると言う事件が良くありますから……可能なら、データを保存した機器やメディアは物理的にネットに接続せず隔離して下さると安心なのですがね」

「ではネット上に流出しないよう、メディアにデータを移して保存しておきます。ソチラにお渡しするデータもパソコン経由でコピーより、レコーダーの機能でメディアにコピーしてお渡しした方が良さそうですね」

「そうしていただけると助かります。コピーして頂くメディアの方は、後ほどお持ちします」

「了解しました」

 

 宮下さんも裕二も軽く頷き合い、互いの提案を了承しあった。兎も角、これで事前の話もまとまったので、いよいよ本格的な面談の始まりだな。

 場の緊張感が高まってきたのを感じつつ、俺は出来るだけ穏やかそうな表情を浮かべながら裕二と宮下さんのやり取りに注目する。






 まず最初の議題である、ダンジョン発見時の調書取りは何の問題も無く終了した。まぁ既に1度、宇和島さん達に話していたので本当に簡単な聞き取りだけで事は済んだ。今回宇和島さんが面談に同席したのは、発見時の証言と今回の聞き取りで差異が無いかの確認もあったんだろうな。あの時言っていた事と違うじゃ無いか、などと言われなくて良かったよ。


「ありがとうございました。それでは調書の内容の方は、コチラでお間違いありませんか? 確認の上、内容にお間違いないようでしたら確認欄にサインをお願い致します」

「……はい、この内容で間違いありません。サインは、ココですね。お願いします」

「はい、大丈夫です。確認ありがとうございました」


 祐二が代表し宮下さんから渡された調書にサインを記入し、聞き取り調査は全て終わった。だけど、本番の問題は次のドロップアイテムの査定関係についてだ。

 ココで気を緩めずに、プレッシャー要員としての役割を頑張ろう。


「では次の議題……提出して頂いたドロップアイテムの換金査定について、お話ししましょう」


 祐二がサインを入れた調書を片付けると、宮下さんは別の書類を取り出し俺達一人一人に配る。配られた書類は表面加工が施された独特な手触りがする紙で、一番上には“極秘”“持ち出し厳禁”“TOP SECRET”等と書かれた赤字の判子が押してあった。

 ……うん。完全に機密文書の類いだよな、コレ。


「それは今回のドロップアイテムに関する資料です。お配りした書類の内容については、決して口外しないで下さい。ネットに載せ不特定多数の人に流布する等の悪質な行為を行われた場合、法的処罰が適用される事があります」

「……はい。分かりました」


 無表情ながら真剣な眼差しを俺達に向けてくる宮下さんが、淡々とした口調で配った書類の重要性について説明してくれた。宮下さんの隣で静かに座る宇和島さんも、俺達に妙なことはするなよと警告するような雰囲気を纏いながら真剣な眼差しを向けてきている。

 俺達は一瞬二人の気迫に尻込みしそうになったが、一拍間を開けてから怯むこと無く真剣な眼差しで頷き返した。


「では、提出して頂いたドロップアイテムについての説明を始めさせて頂きます。今回皆様が提出して下さったドロップアイテムなのですが鑑定の結果、マジックバッグであると判明しました」

「「「「……」」」」

 

 宮下さんのその言葉を聞き、俺達は一瞬顔を見合わせ小さく目を開き納得と驚きの混じった表情を浮かべる。重蔵さんも軽く片眉を跳ね上げ、小さく驚いた演技をしていた。

 因みにコレは、事前に打ち合わせしていた行動だ。マジックバッグだろうと薄々感づいてはいたが、協会がマジックバッグだと確定して驚いた、と言う設定の演技である。何の反応もしないのも変だが、宇和島さん達に分かっている感じで提出しているので大袈裟に驚くのも可笑しいからな。


「……説明の方を続けさせて貰います。提出して頂いたマジックバッグですが、バッグの中の空間が拡張されており見た目以上のモノが入れられるという物でした。マジックバッグの容量の方は見た目の数倍、大型バックパックほどありました」

「……やっぱりそうですか。あのバッグを手に入れた時、ダンジョンで手に入るバッグの定番と言えばと思って、手近にあったバッグの見た目より少し大きなモノを入れたんですが……抵抗なく奥まで入っていって驚きましたからね。ハッキリとアレがマジックバッグだと言われると、やっぱりという感想が出てきます」

「やっぱりご存じ……何であるかは察してらしたんですね。コチラの宇和島君が皆さんからアレを回収する時、挙動不審げながらも素直にアレを渡してくれたと言ってましたから」

「ははっ、すみません。何であるかは何となく察してはいたんですが、モノがモノなので俺達の手には余る品だと思ってコレ幸いと思い……」


 宮下さんの探りの牽制に対し、祐二は申し訳なさげな表情を浮かべつつ、バツが悪そうに視線を宮下さん達から逸らした。その時、俺と柊さんも祐二に合わせバツが悪そうに顔を背す。あくまでも、何となく正体は察していましたよというアピールだ。まかり間違っても、俺の鑑定スキルや鑑定アイテムでマジックバッグの正体を知っていたと思われないようにな。

 そんな俺達の様子に宮下さんは苦笑を浮かべ、宇和島さんも小さく溜息を漏らしていた。


「手に余るとおっしゃっていますが、皆様のコレまでの実績を考えれば、コレからの探索においてアレは有効に使えたのでは?」

「ははっ、そうかも知れませんが付随するアレコレを考えると、厄介事の方が多くなると思いまして。少なくとも、日本で一つしか無いかもしれないマジックバッグの保有者とも成れば、今までと同じように探索者活動が出来るとは思えませんでしたので。もしかすると、普段の生活も圧迫されるかもしれませんから」

「確かに現状でマジックバッグの保有者となれば、穏やかな日々をというのは難しいかもしれませんね。ダンジョン系企業や一般探索者、マジックアイテムの研究者にとアレを欲するモノには事欠かないでしょう。アレには、それだけの魅力があります」

「そうだと思ったので、俺達はアレを宇和島さんに素直に渡しました。協会としても、アレが一般探索者の手の内にあるという状況は困るでしょう?」


 先ほどの宮下さんの牽制のお返しにとばかりに、裕二も協会側の思惑を暗示しつつ牽制し返す。一瞬、宮下さんと裕二の間で鋭い視線のやり取りが起き場が緊迫したが、宮下さんが先に引くことで緊張はすぐに緩和する。 

 

「そうですね。お手元の資料にある通り、アレの存在は現段階では機密事項になります。一般の手に渡るという事態は、協会としては避けたい事態だというのが本音ですね」

「頂いた資料を見ましたが、協会は自衛隊と協力し他にもアレを複数確保しているようですが、それでも?」

「ええ。現段階では、アレの存在の公表は避けたい所です。世間から必要だと求められたからと言って、容易に数を揃えられる様な物ではありませんし、現代技術ではコピー生産も不可能という代物です」

「確かにそんな状況では情報だけとはいえ、アレの一般流出は避けたい所でしょうね」


 そんな事を言って大丈夫なのかと心配になるような軽い調子で、宮下さんは協会としてのマジックバッグの取り扱い方針を口にした。裕二も一瞬驚いた表情を浮かべたが、手元の資料を開示されているのなら方針を口にするぐらいは大丈夫なのかと思いつつ、その方針に同意するように軽く頷いている。

 いや、宮下さんは何気ない感じで俺達を共犯者に仕立てたのか。協会の方針を知ってしまった以上、この後にある“お願い”を俺達が断れない様にと。マジックバッグ関連だからと覚悟はしていたが、思っていたより深入りさせられたのかもな……。


「まぁそう言う訳で、今回君達に提出して貰ったマジックバッグの査定なんですが、表向きは別のアイテムだったという形になります。今回は査定額が額ですので、高額なスキルスクロールを換金したと言う事になると思います」

「……分かりました。俺達もそう言う体で通します」

「お願いします。換金関係の書類は後程お渡ししますが、もう1つお伝えしておく事があります」

「何ですか?」


 宮下さんの提案に、俺達は同意するように頷き返した。マジックバッグの存在を表に出せない以上、査定物の名目が別の形になるというのは納得できる話だ。まぁ何を換金したのか聞かれて知らないというのは困るので、変更された査定物の名目は覚えとかないとな。

 しかし、お知らせってのはなんだ?


「皆様にお届けした査定書に記載されている金額なのですが、今回の特殊事情(マジックバッグ)を鑑み税引き……宝くじなどと同じく非課税対象とさせていただいています」

「「「!? えっ、あの額が税引きで貰えるんですか!?」」」

「はい。税抜きであの金額になります。アレの希少性を考えるとオークションに出した場合、もっと高額になると思われるのですが、申し訳ありません」


 そう言うと、宮下さんと宇和島さんは俺達に向かって申し訳なさそうな表情で頭を下げてきた。いやまぁ確かに、オークションに出せたらもっと高額になるとは思うけど、税引きでこの額を協会が出してくれるとは……。俺達は税抜きという思ってもみなかった話に戸惑いながら、頭を下げている宮下さんと宇和島さんに話しかけた。 


「お二人とも、頭を上げてください。元々厄介払いするつもりで提出した物です。俺達としては、これ程の対応をして貰えただけで十分です」

「……そう言って貰えると助かります」


 裕二の返事を聞き、宮下さんと宇和島さんはホッとしたような表情を浮かべていた。まぁココで俺達にもっと寄越せとゴネラレていたら、面倒な事になっていただろうからな。

 だけど、ココ(換金額)で俺達が譲歩したというのは忘れないで貰いたいと思う。 
















税抜き報酬って良い響きですよね……普通なら半分近く持って行かれますから。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
あれ?支払い書の査定額の所でマジックバックって書いてたよね?
[一言] バッグのコピーが現状出来ないのって錬金術で作れるようになる伏線だったり
[一言] 大樹が空気で演技で待機♪ いや柊さんもなんだけどねw 何となくパッと浮かんだのでww これでお父さんのハードル少し下がった でも扶養外した方が良いくらいは稼いでるからこの売却額と合わせて…
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