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第405話 いざ面談へ

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 駅前の広場にただ立っているだけ。それだけの筈なのに、俺は何故か周囲の人々の注目を集めていた。初めてと言える状況に、俺はどういう行動をとって良いのか分からず、只々立ち尽くしている事しか出来ない。嫌悪や疑惑の眼差しでない事だけは幸いだが、好奇の視線に長時間さらされるのは精神的につらいものがある。

 そして時間が経つにつれ、だんだんと注目する人が増えてきた事に俺は焦りを覚え始めてきた。


「誰でも良いから、早く来てくれないかな……」


 思わず、俺の口からは小声で愚痴が漏れる。待ち合わせ時間に遅れたら申し訳ないと思い、少々早めに着いたのだが……こうなるのならギリギリを狙えばよかったかな。

 そんな事を思いつつ周囲からの視線に耐えていると、祈りが通じたのか俺に声を掛けてくる人がいた。


「お待たせ九重君、少し遅れてしまったわ」


 周囲が少しざわつくような雰囲気になったのが一瞬気になったが、俺は声を掛けられた方を慌てて……ゆっくりとした動作で振り返る。するとそこには、俺と同じくスマートカジュアルな服装を纏った柊さんが立っていた。周囲からざわついた雰囲気が出た原因は、コレか。

 俺は少し目を見開き驚いた表情を浮かべながら、声をかけてきた柊さんの服装を確認する。ネイビー色のプリーツロングワンピースをベースに、小さめのベージュ色のクラッチバッグ、パールのネックレスとブレスレット、金具部分に輝く細工のアクセントの付いた装飾ベルト、ベージュ色のパンプスと、シンプルながら落ち着いた大人感のあるコーディネートだ。服装と立ち振る舞いの雰囲気を含めて柊さんの立ち姿からは、どこぞの御令嬢感が出ていた。周囲の人達は、コレに反応したんだろうな。


「ああ、いや。俺もついさっき来たばかりだから、そんなに待ってないよ。それにしても柊さん……その服装、上品な大人って感じでとても綺麗で似合ってるよ」

「ありがとう。そう言って貰えると、頑張ってコーディネートの勉強した甲斐があるわ。普段こう言った服装はしないから、自分でも似合ってるか少し不安だったのよ」

「ははっ、それは俺も同じだよ。俺だってこの服装が自分に似合ってるか、朝から不安で不安で……」

「心配ないわ。その服装、九重君にとてもよく似合ってるわよ」


 俺と柊さんは普段と異なる服装に戸惑うお互いを安心させる様に、ニコヤカな笑みを浮かべつつ互いのスマートカジュアルコーディネートを誉めあう。家族からはそこそこ似合うとは言われたが、家族目線での評価だろうからな。他人目線の評価で似合うと肯定され、ようやく大丈夫なんだと安心できる。

 と言った感じで柊さんと話をしていると、何故か周囲のざわめきが大きくなり好奇の眼差しが強くなっていた。……何でだ?


「……何か私達、周りから注目されてるね」

「……そう、だね。さっきからこんな状態なんだけど、原因がさっぱり分からないんだ」

「……もしかして、私達の格好が変なのかな? 子供っぽくない服装だって」

「いやいや、俺達の年頃でもフォーマル寄りのパーティーに参加するって場合もあるんだし、特別変だと言う事は無いはず……だよ」


 盆正月などのイベントシーズンでもなければ目撃する数は多くはないだろうが、普段でもいない事は無いはずだ。それなのに、何で俺達がこんなに注目を集めてるんだ?  

 もしかして、柊さんの言う様に似合ってない……馬子にも衣裳と思われているのだろうか?


「そうよね……」


 俺と柊さんは周囲から向けられる眼差しがどうしても気になり、それとなく耳を済ませてみれば断片断片ではあるがヒソヒソ話の内容が聞こえてきた。


『ねぇねぇあの二人、もしかしてモデルさんかな?』

『そうかもしれないよ。2人ともあんなに綺麗だしカッコいいし、近くで撮影があるのかもしれないよ?』

『ええっ、違うよ。あの二人は……』


 聞こえてきた話の内容に俺と柊さんは、小さくではあるが思わず驚きの表情を浮かべた。えっ?モデル?誰が?と言った感じである。

 俺と柊さんはまさかの注目の理由に、何とも言えない曖昧な表情を浮かべ苦笑を浮かべた。互いに似合わない格好をしていると思っていたのに、似合う似合わない以前のまさかの評価である。


「「……」」


 予想外の評価に俺と柊さんは向けられる眼差しに急に気恥ずかしいと言う感情を覚え、周囲の眼差しを避ける様に壁に貼られた広告を見るふりをして顔を背けてしまった。いやいや、誰がモデルと思われてるなんて思うよ? ただの高校生なんだよ、俺達。

 そして俺と柊さんは現実逃避をしつつ、この状況をどうやったら抜け出せるか頭を悩ませることになった。俺達としてはココには居づらいので逃げたいのだが、待ち合わせの約束をしているのでそういう訳にも行かない。裕二と連絡を取って待ち合わせ場所を変えようかと思ったが、こちらから連絡する前に先程裕二からもうすぐ到着すると連絡が来ていたので動くに動けない。つまり……周囲からの好奇の視線に耐えつつ耐え忍ぶしかないという事だな。


「裕二……早く来てくれ」

「広瀬君……早くお願い」


 俺と柊さんは周囲の眼差しから全力で視線を逸らしながら、祈るような気持ちで裕二の到着を待つ事になった。






 裕二と重蔵さんが到着するまでたった5分であったが、その5分間は俺と柊さんにとって果てしなく長く感じた5分間だった。普段向けられなれてない眼差しが向けられるという事が、これほど精神的に削られるものだとは思ってもみなかったよ。

 そして裕二と重蔵さんが到着した時、安堵の感情から思わず満面の笑みを浮かべながら出迎えたのは間違いではないだろう。まぁ出迎えられた裕二と重蔵さんには、怪訝気な表情を浮かべられていたがな。


「なるほどの、だから満面の笑みを浮かべとったのか」

「ははっ、はい。ちょっと色々慣れない場面に遭遇して、テンパってしまいまして……」

「あんな事になるとは思ってなくて……」

「その、何だ? すまなかったな、もう少し早く来れれば良かったんだろうけど……」


 裕二たちと合流した事で妙にざわつきを増した駅前から二人の背を押す様に移動した俺達は、電車に乗り込んで移動していた。何時までもあんな所には居られないからな。

 そして恥ずかし気に視線を逸らしつつ、事情説明と言う名の弁解を口にする俺と柊さん。そんな俺達の反応に若干呆れた様な表情を浮かべる重蔵さんと、申し訳なさげな表情を浮かべている裕二。という構図が出来上がっていた。


「まぁ今回の話し合いの為とは言え、慣れない服装で戸惑う気持ちはわかる。だが、何時までも服に着られている様だと、交渉の場では相手に舐められる要因になるぞ?」

「「はい……」」

「とは言え、こう言う事は口で言っても慣れるもんでもない。実践を繰り返して身に付けるしかないからの」

「いや爺さん、実践と言ってもさ……」

「じゃから今日はこうして、早めにお主等と行動を共にしておる。交渉に入るまでの短い時間じゃが、色々連れまわすから慣れる練習にすると良い」


 ……ん? 連れまわす? 練習にすると良い? 昼食は一緒に取ると言われてたけど……えっ? これから他に何かするの、俺達?

 確認する様にちらりと裕二に視線を向けてみると、裕二は小さく溜息をつきつつ俺達に視線を向けながら頭を小さく左右に振っていた。


「なぁに、心配せんで良い。練習の為に、ワシの馴染みの店を何軒か回るだけじゃよ」

「馴染みの店って……爺さんの言う馴染みの店ってのは、名店や老舗って言われてる所じゃないか」

「そういう店でも無いと、ドレスコードやマナーの練習にはならんじゃろ? 度胸を鍛えるにしても、一流の店を使った方が良い勉強になる」

「「……」」


 好々爺然とした笑みを浮かべながら、とんでもない提案を口にした重蔵さん。暫くその言葉の意味を理解するのに時間が掛かったが、理解が及ぶに従い俺と柊さんの頬が引きつっていった。

 えっ? もしかして今から、格式高い高級店巡りに連れまわされるって事?


「向こうさんには孫とその友人の勉強の為に連れて行くから、厳しく接してやってくれと伝えておる。今回の為だけでなく、今後の為にも良い勉強になると思うぞ」

「「「……」」」

「なぁに、誰しも初めてという事はある。ほんの数軒じゃし、頑張るんじゃぞ」


 こうして俺達は協会との面談の前に重蔵さんプロデュース、短期マナー研修兼度胸作りの旅に連れていかれる事が決定した。コレ……面談前に倒れないかな?






 協会との面談時間が迫り、漸く俺達の短期研修旅行は終わりを告げた。俺達3人は疲れ果てた表情を浮かべ、重蔵さんはどこか感心したような表情を浮かべていた。


「まぁ、初心者の付け焼刃としては及第点じゃろう」

「及第点、ですか」

「うむ。その道に通じているモノは別じゃが、凡そのモノに見られて不快に思われる事は無いというレベルじゃな。まぁ短時間でそこまで身に付けられたのなら、今回の件では十分じゃろ」

「はぁ……」


 結構な精神的疲労と引き換えに磨いたつもりだったが、重蔵さん的には及第点だったらしい。まぁ素人の付け焼刃と言われればその通りなので反論のしようも無いし、蒸し返して更に研修旅行が組まれるよりはマシなので黙ってることにした。 

 凡その人に通じるのなら、まぁまぁの成果だったと納得しておこう。


「さて、このまま講評を続けても良いが、まずは面倒な用事を済ませてからじゃな」

「ああ、はい。そうですね……」


 突然始まったマナー講習旅行のせいで忘れかかっていたが、本来の用事はこれから行う協会との面談だったな。ただ……マナー講習旅行のせいで朝感じていた緊張感は微塵も無く、今なら普段通りの落ち着いた対応が出来そうだ。

 重蔵さんは、これを見込んでマナー講習旅行に連れて行ったのか?


「徒歩でも行けん事は無い距離じゃが、アピールも兼ねてタクシーを使うとしよう。裕二、タクシーを捕まえて来てくれ」

「分かった。そこの大通りを何台か走ってるのを見かけたから、直ぐに捕まえられると思う」


 そう言うと裕二は一足先に、タクシーを捕まえる為に大通りに向かっていった。

 そして裕二が離れた事を確認し、重蔵さんは俺と柊さんに向かって口を開く。

 

「さて、裕二のやつがいない内に言っておくかの。お主等2人は今回の店回りで、ある程度余裕をもって交渉に臨む心づもりが出来たと思う。だが、それはあくまでも交渉の場に同席できる程度じゃ。今回の協会との交渉では、お主等は無理に話に加わらんでおった方が良いじゃろ。最低限の挨拶と返事だけし、交渉の主体は裕二のやつに任せてお主等は余裕がある態度を見せながら黙って座っておると良い。余裕がある姿と言うのは、交渉相手に対し程よくプレッシャーを与えられるからの」

「……交渉を裕二だけに任せて良いんですか?」

「ワシが交渉の場にまで同行できる保証はないからの。それにあ奴は幼い頃より色々とパーティーや会議の場に同行させ経験させておるからの、大人との交渉でも己の不利にならない様に交渉を進める程度の事は出来るじゃろうて」

「「……分かりました」」


 確かに、まともな交渉事を経験した事が無い俺や柊さんが見栄の為に出張るより、的確に対応できるだろう裕二に前に出て貰った方が無難と言うやつだ。俺と柊さんは重蔵さんの提案通り、交渉の場ではプレッシャー要員に徹しておく方が良いだろう。

 そして裕二がタクシーを捕まえたと手を振ってアピールしているのが見えたので、俺達は足早に大通りへと向かっていった。






 タクシーに乗って指定された協会支部に到着した俺達は、受付で今回の件で担当者と指定された人物と連絡を取ってもらう。面談の日時指定自体は向こうがしてきたので、問題なく連絡は取れるはずだ。

 そして連絡をして貰い5分ほど受付の近くで待っていると、奥の方に見えるエレベーターから眼鏡をかけたスタイリッシュな出来る系中年男性が足早に近づいてきた。


「すみません、お待たせしました。こちらがお呼び出ししたのに……」

「あ、いえ。こちらこそ、事前に到着予定時間の連絡を入れておらず申し訳ありません」


 中年男性と裕二は互いにニコヤカな笑みを浮かべつつ、軽く握手を交わしながら続けて挨拶を交わしていく。


「広瀬さん、九重さん、柊さんですね? 新規ダンジョン管理課の宮下です。本日はお忙しい所、こちらの要請を受けていただきありがとうございます」

「お気になさらないでください。広瀬です。今日はよろしくお願いします、宮下さん。それとコッチが九重で、あちらが柊になります」

「そうですか。よろしくお願いします、九重さん柊さん」

「「こちらこそよろしくお願いします」」

「それと、ええっと……そちらの方は?」


 宮下さんは俺達をにこやかな笑みを浮かべたまま一瞥した後、一瞬緊張したような表情を浮かべたが直ぐに消し、俺達の後ろに控える重蔵さんに視線を向ける。

 そして視線を向けられた重蔵さんは好々爺然とした笑みを浮かべたまま、裕二に自分を紹介する様にと視線を向けていた。


「こちらは自分の祖父で、今回保護者として同行してもらいました。いくら協会からの要請とは言え、俺達はまだ高校生の未成年者ですからね」

「広瀬重蔵と言います、今回はこの子らの保護者として同行してきました」

「はっ、はい。今回は御同行していただき、ありがとうございます」


 重蔵さんを保護者として裕二が紹介すると、宮下さんは一瞬俺達を細めた目で見た。余計な同行者が出来た事を気にしたのか、自分達の企てが難しくなったと考えたのか……どちらの反応なのか分からないが、予想通り一筋縄ではいかない交渉になりそうだ。
















まずは先制パンチ成功……ですかね?


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] ストーリーはまあまあかな [気になる点] ストーリーの進め方が遅い ダラダラしすぎ、協会からの手紙が来て 6話かかってやっと挨拶では長すぎだと思う。 [一言] ダラダラ長くするのではなく、…
[良い点] 何だか、普段と違う口調の重蔵さんが、凄く格好よく見えますね! [気になる点] 主人公も流石に百レベル越えているだろうしステータスが知りたい! 後、主人公が机をどうするのかこの先凄く気になり…
[一言] こんな感じで内面鍛えられていくと逆に高校で浮きそうですねぇ 大人から見ればまだまだでも同年代からしたら風格っぽいものを感じそう
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