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第402話 相談は重要

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 文化祭前で普段以上に賑やかな雰囲気の学校の放課後、俺達3人は重蔵さんと協会面談対策相談という話し合いをする為に、文化祭の準備に勤しむ生徒達を横目に校舎を後にし校門へと向かっていた。

 文化祭までの残り日数を数えながら楽しげな表情を浮かべ作業している生徒達の姿を見ていると、何で俺達は文化祭の代わりに協会との面倒な交渉にいそしまなければならないんだと思わず嘆きそうになる。高額報酬の対価だと言われればそれまでなのだろうが、面倒なモノは面倒だとしか言えない。


「こう見てると、去年の文化祭が懐かしいな。あの頃は只単純に、文化祭を楽しみにしてるだけで良かったのに……」

「それを言うなよ大樹。心情は理解出来るけど、お前のボヤキを聞いてるだけで無性に悲しくなってくる」

「ははっ、ごめんごめん」


 思わず俺の口から漏れた愚痴を耳にした祐二が、憂鬱そうに顔を顰めながら苦情を口にした。因みに一緒に歩いている柊さんも口にこそ出していないが、同じように憂鬱そうな表情を浮かべている。

 俺は失敗したと思いつつ軽く頭を下げ、申し訳なさげな表情を浮かべながら謝罪した。心情を理解し同意出来たとしても、口に出し言葉にされるとテンションが下がるものだからな。


「それより祐二。重蔵さんに、コレから行くって連絡入れてるか?」

「ああ、さっき入れておいたぞ。30分後くらいに、二人を連れて行くからってさ」


 祐二の返事に、俺と柊さんは安堵の息を漏らす。

 コチラから急な相談をお願いする立場だ、先触れも無くいきなり訪問するというのは失礼だからな。相手に大体の訪問時間を伝え、向こうが準備を整える時間を作らないと。

 

「そっか、じゃぁ急いだ方が良いかな?」

「いや。大体30分って感じで伝えたからな、あまり早く着くより少々遅れても問題無いと思うぞ?」

「まぁ確かに予定より早く来られるより、多少遅れた方が準備する時間が出来るしな。じゃぁ慌てず急がずって感じで向かうとしよう」

「それでいいだろ。俺達が走って帰ったら、ものの5分と掛からないだろうからな」


 何だかんだで、俺達って自動車並の速さで走れるからな。田舎で道を尋ねたら車で何分掛かるとかって説明されたりするけど、俺達の場合そのまんまの説明でも問題無く時間通り到着出来るだろう。

 寧ろ車が通れない道も通れるだろうから、もっと早く着ける場合もあるだろうな。


「じゃぁ何から話すか順番を整理しつつ帰るとしよう」


 そして俺達は、話し合いの手順を確認しながら校門を潜り抜けた。






 大体予定通りの時間で祐二の家に到着した俺達は、一旦祐二の部屋に通学バッグなどの荷物を置かせて貰ってから、重蔵さんが待っている道場へと向かう。

 そして道場に到着した俺達は、戸をノックし重蔵さんの返事を待ってから中へと入った。


「ただいま爺さん」

「「こんにちは、お邪魔します」」

「お帰り。二人も良く来たな。しかし何とも、毎度のように面倒な話に巻き込まれとるみたいだの?」

「ははっ、ホント勘弁して貰いたいぜ」


 俺達の顔を見た重蔵さんは、苦笑にも似た表情を浮かべつつ俺達を迎え入れてくれた。

 そして俺達は何時も通り座布団を手に取り、重蔵さんの前へと腰を下ろした。


「して話というのは、昨日祐二に事のあらましは聞いておるが、話を整理する為にも改めて聞くとしようかの?」

「分かった。じゃぁまずは、桐谷さんの紹介で内見に行った所から……」


 重蔵さんの問い掛けに祐二が代表して、今回の事のあらましを話していく。無論、話せる範囲でだけどな。ファーストドロップ品のスキルスクロール……錬金術関係は流石にアウトだろう。

 そして10分ほど掛け、祐二は事のあらましを話し終えた。


「なるほど、お主等は本当に厄介事に縁があるの?」

「ははっ、誰も望んでない奇縁だよ」

「奇縁もまた縁じゃよ。まぁ上手いこと乗り切って、良縁とするが良かろう」

「良縁、ね……。」


 協会と結ぶ良縁か……協会専属という名の宮仕えの事じゃないよね? 協会からの秘密依頼を高額報酬で熟すエージェントとかもやだよ。

 マジックバッグの報酬を貰って、機密保持契約結んだ後は何も無かった、で終わるのが一番嬉しい。


「さて、大体の話は分かったので、どのような対策をとったら良いのかの話をするとしよう」

「「「……」」」


 重蔵さんが姿勢を正し口を開いたので、俺達は姿勢を正し重蔵さんの目を見ながら耳を傾ける。


「先ずはダンジョンについてじゃが、コレは特に気にせんで良いじゃろう。基本的な後始末は桐谷のヤツがやるじゃろうからな。お主等はその見付けたというダンジョンの事を、時期が来るまで口にせんで置けば良い」

「時期って言うのは……」

「何れ協会の方から正式に発見報告がされるじゃろうから、その時まで喋らなければ良いじゃろう。向こうさんも、公表準備が出来るまで表立って話が出まわらなければ良いだけだろうしな」

「周辺の用地買収とかの話があるからか?」

「そうじゃ、ダンジョンまでの道程の最低限の土地は協会の方で押さえたいじゃろうからな。下手に話が出まわれば、利益に貪欲な民間会社に買い漁られ高騰し無駄に予算を使うことになる。向こうもそれは避けたいじゃろうな」


 重蔵さんが口にしたのは、俺達も考えていた事と言えた。役所としても情報流出の結果、無駄な予算など使いたくないだろうからな。準備が整うまで、新発見ダンジョンの情報は口にしないでくれとは言ってきそうだ。

 まぁ、その件に関しては特に吹聴する気は無いので、黙っていろと言われるのなら黙っているけどな。


「ただし、この件に関して正式な機密保持契約を結ぶのであれば、公開されるまでと言う文言では無く、何時何時までと明確に期限を区切るようにするのじゃぞ。何れ公開される事は決まっておるじゃろうが、用地買収の遅れ、公開準備の遅れ、人員不足等々、幾らでも公開を先延ばしに出来る理由は用意出来るからな。公開日が明確に決まっていないという事は、実質無期限の機密保持契約になってしまうぞ。お主等も、何十年と契約に縛られたくは無かろう?」

「ははっ、確かに明確に機密保持契約の期限を区切っておかないと、何時までも黙っておかないといけないって事になっちゃうな。公開予定……確かに、明確な期日が無いのなら予定は未定だ」

「だからこそ、明確な期限を加えておく事じゃな」


 重蔵さんの言う通り、明確な期限設定は重要だ。予定は予定ですからと問題を先延ばしにされ続けた結果、何時の間にか10年経ってたとかもあり得なくは無いからな。

 何処かのニュースで聞いたことがあるが、新幹線などの線路敷設の用地買収に何十年も掛かったとか何とか……。ダンジョンが出現した当時ならいざ知らず、ダンジョンの価値を知った今では、その新幹線用地買収話と同じ事にならないとは限らないからな。気を付けよう。


「まぁダンジョンの件に関してはそんな物じゃが、問題はお主等が提出したというマジックバッグじゃな。渡さざるをえない状況だったとは言え、中々厄介なモノを渡したの……」

「いや、まぁそうなんだけどさ。あの時、あのダンジョンから出たドロップアイテムを渡さなかったら、俺達監視付きになっていたと思うぞ?」

「そうじゃろうな。ダンジョン最初のドロップアイテムは、貴重品が出やすいという話は有名じゃ。ダンジョンが現れた当初、海外のダンジョンに無断で潜った輩がネットやSNS等で高価なドロップ品を自慢しておったからの」

「だろ? 仮に俺達が提出してなかったら、次に調査に入った宇和島さん達が違和感に気付いてたと思うよ。あっ、コイツらファーストドロップ品を隠匿しやがったってさ? そうなったら……」

「隠匿したアイテムの没収、そして以降も探索者を続けるのならば監視対象に認定されるじゃろうな。いや、仮に探索者を辞めてもお主等の実績を考えれば、監視対象のままじゃろう」


 俺達は揃って冷や汗を浮かべながら、安堵の息をついた。重蔵さんもそう考えるのなら、実際にそうなっていた可能性は高いだろう。

 一般人を遙かに超える力を持った探索者が、誘惑に負けて安易に犯罪行為に手を出す。協会が監視対象に指定するには十分な理由だ。ましてや俺達のような実績持ちともなれば、なおのことだ。


「だから、アイテムを渡した事自体は間違っておらん。まぁこの場合、渡したモノに運が無かっただけじゃ。お主等が考えても仕方の無い部分じゃろう」

「ははっ」


 重蔵さんのその言葉に、俺達は乾いた笑みを浮かべるしか無かった。すみません。その渡すモノを選んだのは俺達自身なので、運が悪かったとかって言う話じゃ無いです。もう少しよく考えて渡すモノを選べば良かったと反省してます、マジで。

 でも、錬金術のスキルスクロールをそのまま渡すのもな……。


「まぁ渡してしまった事についてクヨクヨしておっても仕方が無い、今後どうするかを話し合うとしよう」

「お、おう」

「先ずは渡したマジックバッグの価値についてじゃが……各々に査定表が届いたそうじゃな?」

「あっ、ああ。査定書の内容自体は、全員同じだった」


 祐二は部屋から持ってきた封筒、ダンジョン協会から届いた査定表を重蔵さんに差し出す。封筒を受け取った重蔵さんは素早く中身に目を通し軽く眉を顰めた後、何か言いたげな表情を浮かべながら俺達の顔を見る。


「全員に同じモノが届いたと言う事は、マジックバッグの評価額は1億5千万と言う事だな。役所が即決したにしては、随分と頑張った額じゃ無いか」

「確かにそうは思うけど、正直コレが適正価格なのかどうなのかはサッパリだ。恐らく口止め料も入ってるだろうしな」

「モノがモノじゃからな、ワシもこの金額が適正価格かは分からん。だが先程も言った通り、役所が即日支払いを決めた額としては大きな額じゃ。マジックバッグの重要性は、かなり高いと思って間違いないじゃろう。実際、見た目の容量以上のモノを入れられるバッグなんて代物、探索者に限らず方々に大きな影響を与えるに決まっておるからな」

「探索者なら回収物量のアップ、一般業種でも流通業を始め様々な業種で影響が出るのは間違いない。だけど、その様々な業種が求める需要に応える術は今の所、ドコにも無いだろうな……」


 最低限、国内需要を賄える量を回収するか、再現度が低かろうが自作出来るように技術蓄積が成されるまでは公式に存在を認めたくない代物だろうから。今回俺達が提出したマジックバッグは、然程容量は大きくないがマジックバッグがドロップ品として存在すると言う事実だけでも一大事だろう。

 もし俺達が受け取っていると言う情報が出まわれば、譲ってくれと交渉してくる者が鈴なりになるのが目に見える。いや、譲ってくれと交渉してくるだけマシという事態にもなりかねないか。


「今回掲示されている額は、確実に回収したいと言う思惑からでたからこその金額とも言えるじゃろうな。下手に安い額を提示すれば、譲渡交渉を打ち切ると考えたのじゃろう」

「一応、宇和島さん達に譲渡したいって感じに何となく意思は伝えておいたんだけどな……」

「まぁ彼方さんにも、外聞という物もあるじゃろうからな。下手に安い金額を提示して引き取っておったら後々、無知な高校生につけ込んで搾取したとかと言われかねん。モノがモノじゃから、安くも無いが高くも無いという額を提示したんじゃろう」

「1億5千万が高くも無い、か。まぁ確かに国の機関が出す額と考えれば、1億を超えていたとしても無茶苦茶高い額って金額でも無いのかもしれないな。しかも1億を超えていれば世間一般的には、買い叩いたとは言われないな……」

「国の予算からすれば、1億程度で世間に混乱が起きないですむのなら安いモノじゃ。もし都市の至る所で長期にわたるデモか何かが起きてみぃ、1億程度の出費では納められんわい」


 確かに治安維持対策費と思えば、1億は然程高い額でも無いか。それにもしもデモが起きるとしたら、恐らくそのデモの参加者の多くは探索者という事になる。モンスターと渡り合い、一般人を遙かに超える能力を持つ探索者が、武器を持ちだしてはいないとは言え多数集まって抗議の声を上げる。政府側からすれば、悪夢のような光景だろう。

 万が一、物の弾みでも参加者と治安維持部隊が衝突するようなことになれば……大規模な器物損壊もしくは死傷者が多数出かねない。


「元々渡すつもりだったというのなら、金の方は受け取って問題無かろう。問題はそれに付随する機密保持契約などの方じゃ、下手な契約を結べば長期にわたってお主等が苦しむ事になる。先も言ったが、契約期間の確認は明確にすべきじゃな。そしてこの件に関してはマジックバッグの公開、もしくは契約締結後何年経過するまでなどにしておく方が良い。マジックバッグなど、何時公開出来るようになるか分からない案件じゃからな。条件が合わず合意が結べそうに無ければ、1年単位で増やして相手の出方を見ていくのが良いじゃろう。もしくはその場で回答はせず、ご提案は分かりました持ち帰って検討させて貰いますと言って引き伸ばし工作をするかじゃな」


 重蔵さんは俺達の顔を一瞥しながら、眉を顰つつ助言をくれた。

 うーん、1年づつ契約期間を交渉するのか……中々タフな交渉をする事になりそうだ。
















その場で回答せず撤退するのも交渉術の一つ……ですよね?


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] この話で気づいたけど、ちょっと前から広瀬君の名前「裕二」が「祐二」になってる。
[気になる点] 自衛隊の探索班ってまだあんまり進んでないのかな? 大樹達で50Fなら80F以上進んでてもおかしくなさそうなのに。 ガンガン貴重なアイテム出てもおかしくなさそうなのに。
[一言] 金額が大きすぎたせいだろうけど考えすぎw 未成年にNDAのサインは出来ないですよ。 サインするなら親権者が子供に口外させないと言う契約になるかな。 未成年には契約上の責任を取る事は出来ないだ…
感想一覧
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