表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
465/636

第401話 警戒して損はない

お気に入り33680超、PV82090000超、ジャンル別日刊94位、応援ありがとうございます。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。


小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。


コミカライズ版朝ダン、スクウェア・エニックス様より書籍版電子版にて販売中です。よろしければお手に取ってみてください。







 美佳から封筒を受け取った俺は動揺を抑えつつ礼を言った後、焦る気持ちを抑えながら自室へと移動する。部屋に入った俺は通学バッグを少々手荒に机の上に置き、協会からの封筒を持ったままベッドに腰を下ろす。

 そして軽く深呼吸し落ち着きを取り戻した後、慎重に封筒を開け中身を取り出した。


「ええっと、何々? 中身は査定書と手紙か……」


 予想通り、封筒の中身は祐二に見せて貰った物と同じマジックバッグの査定書と面会お誘いの手紙だった。軽く目を通してみたが、内容は祐二に見せて貰った物とほぼ一緒だった。

 強いて違いをあげるのならば、査定アイテム名の欄にマジックバッグ(2)と書かれていたぐらいかな?


「査定額も5000万円か……こうなると、柊さんの所にも同じモノが届いてそうだな」


 つまりマジックバッグの査定書が3つで、1億5千万円が支払われるって事か……役所が出すにしては本当に頑張った額だな。良くこの短期間で、億超えの予算申請が通ったモノだ。それだけ潤沢な予備費……機密費が用意されてたのかな?

 まぁそれだけ、今回の件が重大案件だったという事なのだろうけどさ。


「……一応、確認しておくか」


 俺は手紙をベッドの上に放り出した後、スマホを手に取り柊さんに電話を掛けてみる事にした。多分今頃、柊さんも俺と同じように封筒の中身を確認しているだろうからな。

 柊さんの番号をコールすると、数回呼び出し音が響いた後に柊さんが電話口に出た。


「もしもし、柊さん? 急に電話してゴメン。ちょっと確認したいことがあるんだけど、いま時間良いかな?」

「……ええ、大丈夫よ。私も九重君に確認をとりたい事があったから、電話をくれて丁度良かったわ」


 電話口にドコか疲れた口調の柊さんが出たので、どうやら柊さんも協会からの封筒を確認していたことを俺は察した。

 なので俺は軽く息をついた後、直ぐさま本題を口にする。


「その様子だともう話題は分かってるみたいだから、回りくどい話はせずに率直に聞くよ。柊さんの所にも、ダンジョン協会からの封筒って届いてた?」

「ええ、届いてたわよ。家に帰ったら直ぐ、お母さんが渡してくれたわ」

「じゃぁ、俺と同じ状況だったって事だな。それで封筒の中身なんだけど、それって祐二の所で見たモノと同じだった?」

「ええ、ほぼ同じ内容よ。少し変わってる部分もあったけど、ほぼ影響が無い変化ね」


 恐らく柊さんが言う変わった所とは、俺と同じように査定アイテム名に余分な文字が付け足されている事だろう。俺のが(2)だったので、柊さんのは(3)だろうか? まぁその辺は後日、現物を見せて貰う事にしよう。

 そして俺と柊さんは封筒の中身の確認が取れたことを確認し、ほぼ同時に大きな溜息を漏らした。


「1人当たりにこの額をくれるって事は、コレって結構な重大案件って事だよね?」

「そうだと思うわ。役所がこんな短期間で億超えの報酬を用意するだなんて、よっぽどの事よ。ダンジョンの件は勿論でしょうけど、アレが私達が思ってる以上に重視されているって事よね」

「まぁ、流通革命の火種に成りかねないモノだからね。向こうが情報管理を重視するのは当然だと思うよ。下手なタイミングで一般に流出すると、大惨事に繋がるかも知れないからね」

「そうね。でもこうなってくると、週末の面会というのがとても気になるわ。一体何を言われる事になるか……」


 1人当たり5000万円も出す上、面談を求めるという事は通り一辺倒の聞き取りだけで済むとは思えない。機密保持に関する話とスカウト話だけならば良いのだけど……面倒な話題が振られそうな気がするな。

 正式に機密保持契約を結ぶ前に、重蔵さんに相談しておくかな? 契約を結ぶにしても、どう言った条件を出しておいた方が良いと助言を貰っておくとかさ。明日相談してみるか。


「今回の件に関する聴取には協力して、スカウト系は基本的に断っておくって対応しか無いんじゃないかな? 他に面倒な相談をされたら……保留って事で先延ばしかな」

「保留……させてくれると良いけどね」

「その場で結論を出せ、とは流石に言ってこないと思う……思いたいね」

「そうね」


 特に今回の件では、あまり可笑しな事はしていないので大丈夫だとは思う。宇和島さん達に見せた運動能力に関しては、トップクラスの探索者なら再現出来ないことも無いだろうし、スキル等は使ってないので追求されることも無いはずだ。強いて挙げるのなら、マジックバッグを素直に提出した事に関する聞き取りだろうが……所有した場合の面倒事は避けたいと言えば、納得してくれると思う。

 ……穏便に面会が済むと良いな。


「まぁその辺は面談があるまで、相談内容を想定して対応をシミュレートするとして、当日を無難に乗り切るように頑張るしか無いよ」

「そうね。余り変に考えすぎても仕方が無いってことか」


 各々に協会封筒が届いた事で、週末の面談の難易度が上がった気がする。まぁ個別に面談日時が指定されていない分、まだマシなのだろうが今から気が滅入ってしまう。

 俺は頭を振り面倒くささが増した面談の件を振り払いつつ、柊さんにもう一つの提案をする。


「それはそうと柊さん。俺達に届いた封筒の件なんだけど、祐二にも伝えようと思うんだけど、俺の方から連絡をしておいて良いかな?」

「ええ、勿論良いわよ。お願いするわね」

「了解。ああそうだ、何か祐二に伝えておきたい事ってあるかな? 俺としてはちょっと面倒くささが上がったから、正式な機密保持契約を結ぶ前に重蔵さんに相談しないか?って提案したいんだけど」

「その提案には賛成ね。正式に契約を結ぶ前なら、まだ大丈夫(グレーゾーン)でしょうから、契約に関するアドバイスを貰いたいわ。私達この手の契約を結ぶ時に、どの辺に注意して置かないといけないとか知らないもの」


 俺の提案に対し柊さんの了承を得つつ幾つか確認した後、俺は柊さんとの電話を終了。ほんの数分の会話だったが、通話終了と同時に精神的な疲れが押し寄せてきた。

 査定額が3倍に成ったことで、面倒事も3倍になってないと良いな、と。






 暫く休憩を挟んだ後、俺は祐二に電話し俺と柊さんの元にも同じダンジョン協会からの封筒が届いていた事を伝える。伝えた時は祐二も驚いていた様子だったが、小さく溜息を漏らしつつ対応について話を始めた。


「確かに、正式に契約を結ぶ前に1度爺さんを交えてその辺を詰めて置いた方が良いかもしれないな。条件のドコを押さえて置いた方が良い、と言った助言を貰って置いた方が無難だろ。分かった、俺の方から爺さんには話を通しておくよ」

「頼むよ。こうなってくると流石に、予備知識無しに面談を迎えるのは怖いしな。あからさまに変な条件は無いだろうけど、分かりづらく紛れ込まされた条件とかはありそうだ」

「そこまで悪辣なことはしない……と思いたいけど、用心に越したことはないだろうからな」


 一応今回の面談日時のように、俺達の事情(学生生活)を考慮してくれる気概はあるようなので、そこまでの無茶振りはしてこないと思うが、祐二の言う様に用心に越したことはないからな。どうとでも解釈出来る文言で書かれた条件があり、後々それを利用して……となったら一大事だ。

 避けられるリスクは避けておくに限る。


「早いほうが良いだろうから、明日か明後日には爺さんと話せるように相談してみるよ。結果が分かったら連絡するから」

「分かった、それで頼むよ。柊さんには俺の方から、そんな感じだと連絡を入れとく」

「頼むな。まぁ多分、明日相談出来ると思うからさ」

「了解、じゃぁ連絡待ってるよ」


 祐二に別れの挨拶をし、俺は祐二との通話を終了した。通話を終えた俺はスマホをポケットにしまった後、ベッドの上に上体を放り投げ寝転んだ。

 そして近くにあった枕を手に取り顔に押しつけた後……心の中に溜まった愚痴を叫んだ。


「ああ、もう! 面倒臭いな!? こんな査定書いらないから、“何も無かった”で終わりにしてくれよ! ホント!」


 引き出しダンジョンという秘密を抱える俺達としては、出来るだけ協会との関わりを持ちたくない。だが今回の場合、湯田さんや桐谷不動産という第三者が立ち会いの下、未発見の新規ダンジョンなどと言う物を見付けてしまった為、ややこしい事態に発展してしまう。まぁ面倒な事になった原因は、ファーストドロップ品として提出したマジックバッグが主な原因なのだろうが。

 ダンジョンらしきものを見付けた、それだけなら発見時の事情聴取だけで終わったのかもしれない。とは言え、ダンジョンかどうか確認の為にダンジョンに侵入しファーストドロップ品を得てしまっていた以上は、目を付けられない為にも提出しないと言う選択肢は無かった。下手に隠匿すると、監視対象になりかねないからな。強力な毒物や危険な魔法スキルを得たんじゃ無いかって。


「週末の面談で一体何を言われるのか考えてたら、胃が痛くなってくる気がしてきた」


 話題が単なる口止めや事情聴取、スカウト程度なら良いが、コレまでの実績を考えると……とかいう事に話が進んだら面倒なことになる。一応重蔵さんや幻夜さんの所での訓練と言った、戦う下地があると判断される状況はある。だがダンジョン探索にのめり込んでいない、出欠状況がまともな高校生活を送る学生探索者がトップ層に食い込む。

 ダンジョン探索がどう言うモノかを知っている者が見れば、トップ層に食い込めた理由が気になるだろうな。

 

「はぁ……面倒くさいな」


 暫く枕に顔を埋め寝転んだまま愚痴を漏らした後、俺はベッドから起き上がり両頬を叩いて気合いを入れ直す。


「今グダグダ考えても仕方が無い、きっと何とかなる! 重蔵さんにも相談するんだし、十分に対策を練って臨むんだから大丈夫だ」


 根拠の無い自信による自己暗示ではあるが、気分を立て直す役には立った。俺は軽く頭を振った後、部屋にある姿見を目にし、自分が未だ制服姿なのに気付きとりあえず部屋着に着替える。

 服装が替われば、ある程度気分も変わるからな。


「とりあえず、飯食って風呂入って寝るか。今日は何だか、何もする気力が湧いてこないからな」


 空元気が出たからと言って、消耗した精神力が直ぐに戻るわけでは無い。ココは英気を養って、明日に備えるとしよう。 

 





 翌日、通学路を美佳と一緒に登校していると、後ろから声が掛けられる。誰だと思いつつ顔を向けると、若干疲れた様な表情を浮かべた祐二が立っていた。


「おはよう祐二、何か随分疲れた表情をしてるな?」

「おはようございます、祐二さん」

「ああ、二人ともおはよう。いや、ちょっと爺さんと話がな?」


 どうやら祐二が疲れている原因は、昨日提案した件らしい。早速重蔵さんに、話を通してくれたようだ。

 そして祐二は一瞬、チラリと美佳の方を見た後口を開く。


「大樹、昨日の話は爺さんに通しておいたぞ。今日の放課後、柊さんも一緒に来いってさ」

「助かる。それより、昨日の今日で大丈夫なのか?」

「ああ、この手の話は早めにしておいた方が良いってさ。まぁ今回は無いだろうが、急用が出来たから予定を変更して今日会えないか?と言って、精神的にも物理的にも準備不足の相手を呼び出して自分有利に交渉を進めるテクニック……不意打ちとかの手法があるらしい。だから事前に出来る準備なんかは早めに済ませておいて、不意打ちを食らわないように注意しておく方が良いってさ」

「……そんな事も考えておかないといけない事柄だって重蔵さんは考えてるんだな、今回の件」


 祐二は俺の言葉を聞き、少し眉を顰めながら小さく頷いた。


「警戒しておいて損はないってさ。無いって思い込んでいて不意打ちを食らうよりはな」

「……そうだな、警戒しておいて損はないか」


 俺は裕二の話を聞き、軽く額に手を当てつつ頭痛に堪えるように小さく唸り声を漏らした。面倒事とは思っていたが、重蔵さんが注意しておいた方が良いと判断するぐらいには面倒な件だったらしい。やはり何も準備をせず、出たとこ任せに面談に臨むのは無謀なようだ。確りと準備をしてから望まないとな。

 と言ったやり取りを祐二としていると、美佳が何とも言えない心配げな表情を浮かべながら声を掛けてくる。


「何だか深刻そうだね」

「ああ、ちょっとな。あっそうだ悪いけど美佳、今日俺達は放課後早めに帰るから」

「ああ、うん。今日はクラスの方の準備を手伝う予定だったから良いけど……大丈夫なの?」

「今度の週末で終わる話だから、文化祭の方に影響は無いよ」

「そう、それなら良いんだけど……危ないことはしないでね?」


 心配げな表情を浮かべる美佳を安心させるように、俺は大丈夫だと苦笑を浮かべつつ頷いて返事を返した。危ないことは無いと思うけど、重蔵さんが警戒して置いた方が良いと助言してくる案件だからな。面倒な気配が更に強まった気がする。

 















交渉事において不意打ちは怖いですからね……。


コミカライズ版朝ダン、マンガUP!様にて掲載中です。よろしければ見てみてください。

小説版朝ダン、ダッシュエックス文庫様より書籍版電子版に発売中です。よろしくお願いします。

コミカライズ版朝ダン、スクウェア・エニックス様より書籍版電子版にて販売中です。よろしければお手に取ってみてください。


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
今回は、なんと1億5000万もあげマース、でも年末には税金として7500万徴収しマース
[一言] 自衛隊の佐官やら議員やら知事やら商工会議長やら経団連の大手企業の重役等の複数人による圧迫面接的な展開でなければいいけど…… 最悪CIAとか米軍の基地司令とかが居たりしたらヤバい……………
[良い点] Sランク [気になる点] 特典は何でしょうね。 [一言] ランクで納税額(=収入)がばれる仕組みは非常に危険だから原則非公開なのでは?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ