第399話 驚きの査定額だけど……
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展示物の作成進行状況の確認を終えた俺達は、美佳達と別れ祐二の家へと向かう事にした。美佳達はもう一度クラスの方に戻って、クラスの出し物の方の準備を進めるとのことだ。確かに展示物の内容的に色々作るモノが多いだろうから、少しずつでも時間があれば作業を進めたいだろうからな。
今の所コチラの作業は順調なので、暫くの間は毎日部室に集まらなくとも良いかもしれない。後で皆に、文化祭前日までは2、3日おきに集まらないか?と提案してみるのも良いかもしれないな。
「それにしても、どこのクラスも準備に忙しそうだね」
「ああ、皆気合いが入ってるみたいだ。だけどまぁ、忙しそうな所は忙しそうだけど、暇そうな所は静かなもんだな」
「ウチもその一つなのよね。1年生は初めての文化祭という事で気合いが入ってるし、3年生は高校最後って事で思い出作りに頑張ってるけど、2年生は全体的に……ね?」
柊さんの言う通り、校門までの通り道で各クラスの様子を少し覗いてみると、基本的に盛り上がっているのが1、3年生で、2年生は余り乗り気で無いという雰囲気が漂っていた。何に重きを置いているかという違いと言えば違いであるが、かなり文化祭に対するモチベーションの差が激しい。
コレだけ教室が静かだと言う事は、文化系部に所属している生徒以外の2年生は殆どダンジョン探索に行ってるんじゃ無いか? 確かに放課後に数時間だけの活動だとしても、運が良ければ万単位で稼げるだろうからな。遊興費や飲食費、ファッション代と高校生活を満喫しようと思えばお金が掛かるからな。更に実績を上げれば高収入と噂されるダンジョン系企業への就職にも有利……探索者活動に重きを置く生徒が増えるというのも納得だ。
「そうだね……でもそうなると、文化祭当日が少し心配だよ」
「2年生も出店自体は出すから、雰囲気が悪くなるって事は無いだろうけど……違和感は消せないだろうな」
「そうね、お客さんってその辺のことには敏感だもの。もしかしたら当日、2年生のクラスがある階は閑古鳥が鳴くかもしれないわ。賑わってる所と静まりかえってる所なら、お客さんは賑わってる所に集まるもの」
賑わう1、3年生の階、静まりかえる2年生の階か……拙くないか? 一応文化祭もお祭りの雰囲気を出してるが、学校の学習活動の一環だからな。余り意欲的に取り組んでいないと思われるのは拙いだろう。お客が来る来ないは出店を出す生徒には選べないが、お客が来なくとも真面目に営業だけはして置いた方が良いだろうな。
俺の脳裏には文化祭終了後、2年生だけ体育館に呼び出され叱責される光景が思い浮かんだ。
「流石に閑古鳥は避けたいよね。でも、もう少しクラスの出し物に力を入れようにも……」
「あまり賛同はされないだろうな。一応、お茶濁し程度にはやるって言ってるんだしさ」
「そうね。今の出店だって、最低限の体裁は整えてるもの。これ以上ってなると、手作り料理の提供とかって成るけどそうすると色々と手続きが面倒になるわ」
手作りの品を提供するとなると、保健所などに色々手続きしないといけなくなるからな。流石にそこまでして……と言う反対意見が多く出るだろう。
そうなると内装に拘ると言った方向性になるんだろうけど、何かそれっぽいモノをインテリアとして置けば誤魔化せるからな。アジア風とか欧米風とかって、何たら風と言った感じでさ。
「それなら、何かインテリアを置いて誤魔化すのが一番かな」
「それが無難かもな。皆に声をかけて、何か持ってきて貰えばそれっぽくはなりそうだしさ」
「まぁある程度は、持ってきて貰う物の雰囲気は統一して置いた方が良いでしょうね」
「確かに、色々なテイストのモノが混じったらゴチャゴチャしちゃいそうだしね。ある程度の統一性は決めておいた方が無難だろうね」
多国籍テイストと言うのも風情があるが、上手くやらないと混沌とした雰囲気になるだろうからな。
そんな感じで、どうすればお手軽にクラスの出し物が多少はマシなものになるかを話し合いつつ、俺達は文化祭の準備で賑わう学校を後にした。
祐二の家に到着した俺達は、台所に寄って飲み物を調達してから祐二の部屋へと移動する。今日の用事は祐二に届いた協会からの査定書なので、重蔵さんには後で挨拶をしに行くとしよう。先ずは、コチラの問題を片付けてからだ。
俺と柊さんは通学バッグを下ろし、祐二が用意してくれた座布団の上に腰を下ろし座った。
「さてと……先ずは一服するか」
「いやいや、先に本題を片付けようよ。と言うか、先ずは話題の査定書を俺と柊さんに見せてくれないか? 話を聞かれて困る人はもう居ないし、何が書かれているか把握したいしさ」
「そうね。広瀬君が言葉に出しづらい金額っていうのが、どんなモノなのか早く知りたいわ」
「……分かった」
祐二は軽い冗談で場の雰囲気を和ませて本題に入りたかったのかも知れないが、俺と柊さんからするといい加減話を先延ばしにするのは止めてくれと言う心持ちだった。朝一から驚きの金額が書かれた査定書が届いたという話だけで、数時間待ちぼうけにされているのだ。さっさと本題に入って欲しいと思っても仕方ないと思う。
そして俺と柊さんの気迫?に押され、祐二は机の引き出しから一通の封筒を取り出した。封筒の表面にはダンジョン協会のマークが小さく刻印されており、差出人が誰なのか一目で分かる仕様だ。
「コレが今朝届いたモノだ」
「まっ、外観は何時もの協会からの封筒だな」
「問題は中身よ。取り出しても良いかしら広瀬君?」
「勿論。ただし査定書には中々衝撃的な額が書かれてるから、大声は上げないでくれよ?」
祐二の念押しを耳にしながら、俺と柊さんは封筒に入れられた査定書を取り出し中身を確認した。
すると予め念押しをされていたからか、査定書に目を通した俺と柊さんの口から漏れたのは驚愕に満ちた押し殺した呻き声だけだった。
「げっ」
「うわぁっ」
俺と柊さんは驚きの表情を浮かべたまま査定書を2度3度と見直したが、そこに書かれている数字に変化は無かった。祐二が仕込んだイタズラじゃ無いかと疑いに眼差しを向けてみたが、祐二は無表情のまま頭を左右に振って否定する。
って事は、コレで間違いないって事か!? いやいや、何だよこの数字!?
「おい裕二、コレってマジか?」
「それで間違いないと思うぞ、色々込み込みの金額だけどな」
「じゃぁ本当に……」
「ああ、それが今回提出したマジックバッグの査定額……5000万円だ」
「「うわぁ……」」
マジか、マジックバッグ一つの査定額5000万って……まぁ色々コミ込みの額なんだろうけどさ。マジックバッグ自体の価値に、未発見ダンジョンの情報秘匿にマジックバッグの情報流出防止……結構な口止め料が含まれてるだろうな。でも、それだけ出しても惜しくは無いって額だから即日通知が届いたって話なんだろうけどさ……。
俺と柊さんは頬を引き攣らせつつ暫しの間、視線を祐二と査定書の間で行き来させた。
「それとだ。封筒に同封してあった手紙に、支払い手続きをする際は協会支部に来て担当者と面会して欲しいとあった。今回の件について説明すると書いてある」
「それってアレか? 支払い手続きと同時に、機密保持契約を一緒に結んで貰うよってお誘い……」
「そう言う事だろうな。何しろ手紙には、面会相手と日時が指定してある。恐らく、今回の情報に触れる資格がある相手って事だろうな」
「つまり、そこそこの地位と資格が無いと知らされない情報に俺達は触れてるって事か。元々話す気は無いけど、より一層情報の扱いについては注意しないと拙いね」
思った以上に、俺達は拙い情報に触れているらしい。恐らく、マジックバッグの存在についてだろう。アレの存在は、流通業界にかなりの混乱を招くだろうからな。運搬物資の容量が数分の1に減らせるとなれば既存の流通業者の多くが欲し、手に入れられなかった所が潰れ失業者が溢れるなんて事に成りかねない。
政府や協会としては、公開出来る状況が整うまでは公式に存在を認めたくないって所なのだろう。
「ああ。それと面倒だからと振り込み手続きだけして、担当者との面会を辞退する事は出来ないぞ。そんな事をしたら、間違いなく目を付けられるだろうからな」
「そんな事はしないよ。こうなると、粛々と手続きをする事が一番面倒が少ない方法だろうしね」
「だろうな。向こうも学生をしてるコチラに配慮してくれているみたいで、面会指定されている日時は今度の土曜日午後からだ」
「土曜日の午後からか……確かにコチラに配慮してくれてるみたいだね。向こうとしては、早めに機密保持契約を結びたい所だろうから」
査定書を即日送ってくるくらいだ、出来るなら向こうは今日にでも機密保持契約を結びたいだろうに。それを週末まで待ってくれるとも成れば、コチラに十分に配慮されている。
俺達なら情報漏洩はしないだろうと、宇和島さん達が仲介してくれたのだろうか?
「そうだな。まぁと言うわけで、二人も土曜日の午後は予定を空けていて欲しい。協会に顔を出すからさ」
「了解。土曜日の予定は空けておくよ。と言っても、元々ダンジョンに行くか物件の内見に行くかだったんだけどさ」
「そうね。ああ、私の方も大丈夫よ。特別コレと言った用事は入ってなかったしね」
「俺の方も問題無い」
とりあえず、全員協会行きは問題無さそうだ。
……あれ? 自分で言ってて何だが、急に悲しくなってきた。週末の予定がダンジョンか物件の内見だけって、高校生として良いんだろうか? 土日に友達と遊びに行く予定が一つも入ってないって……。
「……どうした大樹? 急に落ち込んだ雰囲気を出して?」
「いや、ちょっと気が付いたら駄目なことに気付いちゃってさ……」
「? 何に気付いたんだよ?」
「週末に遊ぶ予定が何一つ無い高校生活って……ってさ」
「「……」」
俺のその言葉を聞き、祐二と柊さんもハッとしたような表情を浮かべた後、愕然とした表情を浮かべながら押し黙った。
ダンジョン探索が友人と一緒に遊ぶ?予定だと言ってしまえばそれまでだが、随分と血と汗に満ちた危険な予定だよな。確かに友人と一緒に存分に体を動かし、1日の少なからぬ時間を共有している。充実していると言えば充実しているが、何か高校生の週末活動として違うと不意に思ってしまったのだ。
「……たまにはダンジョンや内見だけじゃなく、週末にドコかに遊びに行くのも良いかもしれないね」
「そう、だな。ここのところダンジョン通いが続いていたし、たまには気晴らしに遊びに行くのも良いかもしれないな」
「……ええ、そうね。たまには、遊び回る週末ってのも良いかもしれないわね」
俺達はコレまでの週末の出来事を思い出し、若干虚ろな眼差しを浮かべつつ示し合わせたかのように小さく溜息を漏らした。
平日は時間が足りず、ダンジョン探索に余り行かないのでそこそこ適当に遊んでいたが、もう少し週末も遊んで良かったのかもな。探索階層が深くなれば成るほど移動にも時間が掛かるので、最近は週末ぐらいでないとダンジョンで探索出来ない。浅い階層で活動するのなら平日でも問題無いが、俺達の特異性的に多くの人がいる階層での活動は望ましくない。そうなると必然的に、俺達がダンジョン探索を行う場合は週末になってしまうのだ。
「今回の件で暫く内見の予定も無いし、ダンジョン探索には行かずに1日遊んで回るってのも良いかもしれないね……」
「ああ、久しぶりに1日遊び回るってのも良いかもしれない……」
「そうね。たまには、それも良いかもしれないわね……」
俺達は祐二の部屋の壁に掛けられたカレンダーを眺めながら、今度の週末をどう過ごすか話し合う。土曜日の午後は協会の担当者との面会で予定が埋まっているが、日曜日は幸か不幸か3人とも空白状態だ。軍資金という意味では3人とも豊富な軍資金があるので、何処かに行ってアトラクション等で遊ぶのに障害は特にない。
とは言えだ、ここ暫くまともに遊び回っていないので、今どんな遊びが流行っており何をして遊べば良いのか浮かんでこないという問題に突き当たった。
「……なぁ、遊ぶって言っても何をすれば良いんだ?」
「……さぁ? 一般的には買い物に行ったり、テーマパークに行ったり、映画見たり、ゲームセンターに行ったりとかじゃ無いか? 今一ピンとこないけど」
「難しく考えずに、何処かのテーマパークに遊びに行くとかで良いんじゃないのかしら? 実際に行って遊んでいたら、その内楽しくなるわよ……多分」
俺達は何とも言えない表情を浮かべながら、週末の予定について話し合う。
5000万円という査定額の衝撃も、この気付きに比べれば些細な事だよな、ホント。




