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幕間六拾四話 新規ダンジョン管理課 その4

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 広瀬君達の先導に従って小島に上陸すると、直ぐにそれが俺達の目に飛び込んできた。この仕事について幾度となく目にしてきた代物、大きな口を開いたダンジョンの入り口だ。出現してから森の中に長期間放置された結果か、少々枯れ葉や枯れ枝が門を覆っているが間違いないだろう。

 俺は小川君と菅原さんに視線で合図を送り、早速調査を始めるぞと伝える。


「では早速調査の方を始めさせて貰います。皆さんは暫しの間、ココで待機していて下さい。小川君、菅原さん、早速始めるとしよう。先ずは外観チェックからだ」

「「了解!」」


 俺達は湯田さん達に一言断りを入れてから、ダンジョン入り口の外観チェックを始める。入り口の門には他のダンジョンと共通する文様が刻まれており、パッと見る限りは差異を感じない。誰かが文様を真似をして刻んだという可能性も無くは無いが、広瀬君達の他に誰かがこの辺りに踏み込んだ形跡も無いので、人為的に文様が刻まれたという可能性は少ないだろう。何より、入り口から見えるダンジョン内通路の長さは外観に反する奥行きが見て取れるので、イタズラ目的などで人為的に作られたという可能性は無いと言えるだろうな。

 今の所、噂でもダンジョン自体を複製出来たと言う話は聞いた事はない。


「外観を見て回りましたが、間違いなくコレはダンジョンの入り口と判断出来ると思います」

「そう、ですか。やっぱり……」


 外観調査結果を湯田さんに伝えると、湯田さんは軽く息を飲んだ後、面倒事が確定したと言いたげな表情を一瞬浮かべつつ肩を落としていた。まぁダンジョンの公認がほぼ確定する以上、湯田さんが勤務する桐谷不動産はコレから暫くは大忙しになるだろうからな。

 無論、新規ダンジョンを調査した俺達も報告書作成に他部署との折衝と大忙しなんだけどな!


「ええ。まだ内部確認が終わってませんので認定こそ出せませんが、ほぼほぼ決まりだと思って貰って問題ありません」

「認定確定のダンジョンですか……やっぱりハッキリそう言われると、クる物がありますね」

「そうですね。私達も発見報告があった時に可能性が高いと思ってましたが、実際にこうやって目にすると感慨深いモノがあります。協会に来る発見報告の内、殆どは空振りになることが多いですから」


 俺と湯田さんはコレからのことを考え苦笑を浮かべつつ、軽く頭を振って雑念を振り払い次に行うべき事について話を進める。


「コレから内部の確認を行った後、承認が下りるまで仮決定ですがココはダンジョンとして認定し、ダンジョン協会の管理下に置かれることになります。その際、このダンジョンを含む周辺の土地の接収交渉が行われるので、準備の方を進めて貰いたいと思います」

「……了解しました。麓に下りた後、上と相談させて頂きます」

「お願いします。では、私達はコレから3人で内部の確認を行いますので、皆さんはこの場で待機して貰いたい。モンスターの出現の有無を確認するので、1時間以内には戻って来れると思いますので」

「はい。よろしくお願いします、お気を付けて」


 軽く会釈をしながら返答を返してくる湯田さんの姿を見た後、俺は広瀬君達の方に視線を向け声を掛ける。彼等が同行してくれれば内部調査も楽にはなるだろうが、何の装備品も持っていない現状では流石に無理だろうな。なので代わりに、俺は広瀬君達に湯田さんの護衛を頼むことにした。ココは奥深い山の中だ、野生動物が襲い掛かってくる何て事もあり得るからな。本来なら俺達3人の内誰か1人を外部調査という名目で警護を置くのだが、広瀬君達が居るのなら任せて俺達は内部調査に全力を注げる。

 そして広瀬君達は俺の要請を快く承諾してくれたので、安心して内部調査に全力を傾けられる態勢が整った。2人より3人で探索する方が安全性が高まり、結果として調査時間も短くなるので助かる。


「では、私達は調査に向かいます」

「気を付けてください」


 軽く挨拶を交わした後、俺達は余分な荷物を湯田さん達に預けダンジョン内部に調査探索へと向かった。1度広瀬君達が探索しており、少しだが内部の様子を教えて貰えているので、俺達の足取りは警戒しつつも軽いモノだった。






 未発見ダンジョンの内部は広瀬君達に教えて貰っていた通り、他のダンジョンとほぼ同じ様な作りをしていた。薄暗くはある物の最低限の明かりは確保されており、ダンジョンに通い慣れている探索者なら戸惑うことは少ないだろう。

 そして俺達はライトを使い視界を確保しながら、慎重な足取りでダンジョンの奥へと歩みを進めていた。無駄な緊張感を緩和させる為の雑談を交わしながら、な。


「それにしても宇和島さん。資料では知ってましたけど、あの子達凄かったですね。学生って聞いていたので少々侮ってましたけど、確かに実績に相応しい民間トップレベルの探索者でしたよ。まさか移動するだけで、力の差を見せられるとは思っても見ませんでした」

「そうですね。追い付けこそしてましたけど、正直もう少しペースが速かったら音を上げていました。それなのに彼等と来たら、まだまだ余裕そうな様子でしたし……コレでも少しは自信あったんですけど正直へこみますね」

「……ああ。確かに資料として彼等の事を知っては居たが、実物を見ればそれ以上のタマだと思ったよ。恐らく資料に書かれていたあの実績も、健全な学生生活を維持しながら出せた実績、なんだろうな。もし彼等が学生生活そっちのけでダンジョン探索を行っていたら、どれだけの実績を上げていたのか見当も付かないよ……」


 彼等に聞こえていないダンジョン内部で、俺達3人は学生探索者組について意見を交わしていた。正直に言って、驚愕と言った感想がまず上がってくる。彼等に関する基本的な情報については、事前に資料として受け取っていたが、実際に彼等を目にしてみると受ける印象に差異を憶えた。まだ彼等と会って1時間ほどしか接していないが、俺は彼等ほど手練れだと思える探索者を見たことが無い。

 勿論、今まで出会った民間の探索者という枠組みでだけどな。自衛隊の精鋭チームとかは、更にヤバい感じがしたよ。

 

「彼等の卓越した運動能力もだが、何より驚いたのはその運動力を無駄なく活用する制御技術だ。探索者をするに当たって武術を習ってるとは聞いていたが、アレは通り一辺倒で習ったって感じじゃ無い。長年修行を積んだ武術家だと名乗っても遜色ないぞ……」

「確かに彼等、山道を駆け上がってる割に体幹のブレが殆どありませんでしたね。足を踏み外して、滑って体勢を崩すって所も見受けられませんでしたから、相当体幹は鍛えられてると思います」

「ああ、そう言えば障害物を避けるのも随分スムーズというか、最小限の動きで躱してましたね。視野が広いというか、何個も先の障害物を考慮して、最小限の動きで済むルートを進んでいたというか……」

「俺としては広瀬君に背負われていた湯田さんが、気持ち悪そうな顔をしていなかったのが印象的だったな。数度内見に同行し背負われてるそうだから慣れてるってのもあるんだろうが、恐らく走る広瀬君の動きに殆ど上下左右のブレが無かったからこその成果だろう。普通に走ったら激しい上下の揺れが起きる所を、武術におけるスリ足のように平行移動するかの様に動いたんじゃ無いかな? それなら湯田さんのあの様子にも納得が行く」


 とてもじゃないが、俺達には真似出来ないレベルの身体制御技術だ。確かに探索者はレベルが上がれば、常人を遙かに超える身体能力補正がつく。だが、殆どの探索者は上がった身体能力を上手く使いこなせず、振り回されるか力任せな動きをしていることが多い。まぁ力任せに戦ってもモンスターを倒す事が出来ると言う事が、多くの探索者がさほど身体制御技術を磨かない一因なんだろうがな。

 つまりどう言う事かというと、広瀬君らは高レベル探索者でありながら、その身体能力を十全に使いこなせる希有な存在という事だ。だからこそ、彼等は健全な学校生活を維持しつつアレだけの実績を得られているのだろう。


「そうですね。そう考えると彼等、相当な手練れですよ。ますます以ってウチに欲しい人材ですね」

「そうだな。だが無理な勧誘は相手に不快感を憶えさせ、コチラの印象を悪くさせるだけだ。まぁ短い期間だが彼等と接してみて、彼等の性根が悪いモノでは無いというのが分かっただけでも良しとしよう。アレだけの力を持った者の性根がねじ曲がっているともなれば、それはそれで事だからな。それに彼等はまだ高校2年生、来年辺りになれば進路の1つとしてウチへの就職も考えてくれるかも知れない。本格的な勧誘は、その時になっても良いだろう。今は彼等に、ウチへの好印象を持って貰えれば良いかなと思うくらいが丁度良いだろう」

「イメージアップですか……ウチにそんな印象持って貰えますかね? 彼等ほど実績を上げ稼げる探索者なら、そのまま大学に進学して学生と探索者を続けるだけで十分じゃないですか?」

「「……」」


 俺と小川君は、菅原さんの意見に思わず黙り込んでしまった。確かに彼等ほど稼げるのなら、わざわざウチの所属になろうとは思わないかも知れない。企業所属は無論、個人事業主として十分にやっていけるだろうからな。……来ない可能性が高い気がするが、今は考えないでおくとしよう。

 彼等に出来るだけ良い印象を持って貰えるように頑張るか、ウチとしては是非とも欲しい人材だしな。 


「ん? 前方に敵影1体を確認、アレは……ホーンラビットか?」

「そうみたいですね。後方に敵影無し、交戦域に居るモンスターはあの一体のみの様です」

「そうか、ではやるとしよう」

「「了解!」」


 前方に敵影……恐らくホーンラビットを確認した俺達は、敵の増援を警戒しつつ戦闘態勢に入る。今回の攻撃役は俺が務め、小川君と菅原さんが周辺警戒と照明確保等のサポートを担当する体制だ。

 先ず始めに菅原さんがランタン式ライトを点灯し、周辺の広域視界を確保。次に小川君が強力なライトをホーンラビットの顔目掛けて照射し、一時的な目眩ませを行う。最後に俺が素早くホーンラビットに駆け寄り、程良い距離から相手が目眩ませから立ち直る前に大型ナイフを首元目掛けて投擲し貫く。ナイフが首元に突き刺さったホーンラビットは大きく痙攣した後、悲鳴を上げることも無いまま動かなくなった。そして暫く待機していると、ホーンラビットは粒子化を始め姿を消す。


「……どうやら無事倒せたようだな」

「そうですね。それとドロップアイテムは出なかったと言うことは、広瀬君達から預かったアレがこのダンジョンのファーストドロップ品で間違いないようです。鑑定結果からも、別の品と交換したと言う事も無さそうですしね」

「その様だな……良し、では戻るとしよう。ダンジョン内でモンスターの姿を確認出来た事だし、正式承認までの仮承認は可能だ」

「「了解!」」


 内部調査の主目的だったモンスターの有無の確認も出来たので、俺達は警戒しつつダンジョン内部から撤収を開始した。余り深く内部まで入り込んでいた訳では無いので、結局調査開始20分ほどで調査は終了した。

 そして俺達がダンジョン外に出ると、湯田さんが少し心配げな表情を浮かべながら待って居てくれたので、俺は出来るだけ穏やかな口調で宣言をする。


「お待たせしました。内部でモンスターの存在を確認しました。仮ですが、この場でコレがダンジョンであると調査官として承認させて頂きます」


 その後、湯田さんと実務的な話を少しした後、今後の報告と警護に必要な調査を開始した。菅原さんによるダンジョン及び周辺の写真撮影、小川君によるヘリの降下可能地点探し、俺が行う発見報告者への聞き取り調査等々が慌ただしく行われた。 

 そしてヘリの降下地点探しを行っていた小川君が良さげな場所を見付け戻ってきたので、全員で移動し離着陸マークのマーキングと吹き流しを設置し仮設ヘリポート作りを行う。コレで次に来る時は、麓から歩いてくるより少しはマシになるだろう。






「それでは宇和島さん、コレから色々とよろしくお願いします。ダンジョンの譲渡手続きの方は、社に戻り次第早速始めさせて頂きたいと思います」

「いえ、コチラこそよろしくお願いします。今回はダンジョン発見の連絡をして頂き、ありがとうございました。犠牲者が出る前にダンジョンを確保出来たのは、皆さんの素早い対応のお陰です。もしも再びダンジョンを見付けた際も、よろしくお願いします」

「はい。そう何度もあって貰いたくはない出来事ではありますが、こう言う仕事ですのでその際はよろしくお願いします」


 俺は湯田さんと握手を交わしながら、別れの挨拶を行った。現地調査でダンジョンが本物だと判明した以上、素早く関係各所に連絡を入れ動き出さないといけないからな。

 そして挨拶を終えると俺達を乗せたヘリは、来た時と同じように轟音と暴風を立てながら浮き上がり空へと飛びたった。


「小川君、菅原さん。悪いが今回の調査報告書、急ぎで仕上げてくれ。俺は帰還後、直接宮下課長に調査報告を伝えに行ってくる。ダンジョンが本物だった以上、急いで警備の人員を派遣しないといけないからな」

「了解です。報告書の形式は、通常のモノで構いませんか?」

「ああ、それで頼む。それと鑑定アイテムの返却とファーストドロップ品の扱いに関してだが……」

「ソチラも行っておきます。ドロップアイテムの扱いに関してですが、最優先処理を行った上で査定表を速達で送付、明日には彼等の元に届けられると思います」

「分かった、それで頼む」


 二人に粗方の指示出しを終え、俺は大きく溜息をつく。宮下課長への報告、警備人員の派遣、関係各所への報告、ダンジョンの正式承認手続き、今回の現地調査派遣で遅れた確認調査派遣スケジュールの再調整……。 

 ああ、暫くの間はデスマーチの日々だな……はぁ。
















次話から新章開始です、よろしくお願いします。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 別キャラの視点から同じシーンを何回も何回も語られているが、必要ないと思う。別の視点からの補足があったほうが、いい場合もあるけどさ.... やりすぎだわ。くどくて、読みづらいよ。 重要な…
[一言] 可能性が有るのは正式な就職でなく、大学生としてのバイトか。でもバイト料は今の稼ぎから比べると・・・。バイトは顔つなぎという面もあるけど彼らは秘密が多すぎるからな(笑)
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 昔から 「仕事は仕事の出来る人に集中する」 と申しますな。 まぁデスマーチとまではならないでしょうけど。
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