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幕間六拾弐話 新規ダンジョン管理課 その2

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 未確認ダンジョン候補の調査依頼が多数書かれた壁掛けホワイトボードを眺めながら調査班の派遣スケジュールを確認していると、デスクの上に乗った電話が甲高い呼び出し音を鳴り響かせた。液晶ディスプレイの表示を確認して見ると内線とあったので、また調査依頼の追加かと思いつつ受話器を持ち上げる。学校の夏休み期間中に発見したというダンジョン候補の調査依頼が多数舞い込んできていた為、調査班は最近過重労働気味で疲労が積み重なっているのだ。  

 俺は思わず、もう新しい調査依頼は持ち込むな!と罵声を上げそうになったが、そんな馬鹿な事を叫ぶわけにも行かないので軽く深呼吸をし心を落ち着かせてから電話口に出る。


「はい、こちら新規ダンジョン管理課調査班です。どう言ったご用件でしょうか?」

「ん、その声は宇和島君か? 丁度良い、宮下だ」


 俺は電話口に出た相手を確認し、思わず受話器を耳に当てたまま天井を仰ぎ見た。課長直々の電話なんて、厄介事の匂いしか無い。こんな仕事が立て込んでいる時に勘弁して欲しい。

 だが直接本人に対し愚痴を溢す訳にもいかないので、素知らぬ口調を保ちつつ用件を尋ねる。


「ああ課長ですか、お疲れ様です。課長直々の電話とはめずらしいですね、どう言ったご用件ですか?」

「ああ少々問題……と言うか、未発見ダンジョンの調査依頼だ。とある山奥で、未発見ダンジョンを見付けたという連絡が総合相談窓口の方に届いてね」

「ああ何時ものヤツですね、分かりました。所在地を確認次第、調査班を向かわせます。と言っても、他の調査依頼が立て込んでますので暫く後になると思いますが……」

「ああ、その事を相談しようと思って直接電話したんだ。最近君達が忙しく動いてくれているのは理解しているが、今回はそこを曲げて最優先でココの調査に向かって貰いたい」


 はっ? 何を言ってるんだ、この人は? 最優先で調査しろ? 只でさえギリギリのスケジュールで調査班を回してるのに、予定外のダンジョン候補の調査を!? 

 思わず相手が上司である事を忘れ怒鳴り散らそうとしたが、課長の続く一言で開こうとしていた口を閉じた。


「今回見付かったと報告された候補地では、既に内部でモンスターの存在が確認されている」

「……は? 既にモンスターの姿が確認されてるって、まさか中に誰か入ったんですか!? 死傷者は出ていないですよね!?」

「ああ、幸か不幸かダンジョン内部に入った者は探索者資格を持つ高レベルの探索者であり、報告では怪我1つ負ってないそうだ。ただ、内部でモンスターの姿が確認されたと言う事は、報告された場所がダンジョンであると言うことはほぼ確定と見られる」

「……そうですね。報告者が高レベル探索者であるのなら、野生動物とモンスターを見間違える可能性は低いでしょうから、報告された場所はほぼダンジョンであると言えると思います」


 確かに、ほぼ間違いなくダンジョンと断言出来る未発見ダンジョンが報告されたのなら、ダンジョンかも?と思われる案件の調査スケジュールを変更し最優先で調査を行って欲しいと言われるのも理解出来る。ダンジョンであるのなら侵入者防止の為、警察や自衛隊と協議を行い警備しないといけないからな。その為には、協会が行う正規調査の後に認定協議を経て、新規ダンジョンと認められなければならない。仮認定でさえも、正規調査後でないと行えないからな。関係各所が動き出すのは、全て協会が調査を行ってからである。

 つまりは、だ。俺達調査班が、この急な調査依頼を拒否することが出来ないと言う事である。終わった後に、乱れた調査スケジュールの帳尻合わせのせいでデスマーチが始まるとしてもだ。くそっ!


「更にもう一つ、急いで調査に行って貰いたい理由がある。実はこの報告をしてくれた探索者達なんだが、ダンジョン内でモンスターを討伐したとの事だ。その際、アイテムがドロップしたそうで扱いに困っているらしい」

「……それって、既にファーストドロップのレア物が報告者の手に?」

「幸い話をした感触では、彼等もコチラの事情を理解してくれているようで、聞き分け良く(・・・・・・)ドロップ品は素直に提出してくれるそうだよ、今の所はね」


 事情を理解してくれているか……つまりファーストドロップ品の価値を理解している上で、下手に提出を拒否したら面倒事になるかもと考え暗に協会、ひいては国との面倒事は望まないと主張している相手という事か。

 変にゴネ続ける相手より、警戒は必要だろうが話の分かる相手で助かるな。

  

「分かりました。では調査班派遣時に鑑定アイテムを持って行かせ、現地でドロップ品の確認(・・)をさせます。急な派遣になりますので書類は後日提出となりますが、鑑定アイテムの持ち出し許可を貰えますか?」

「もちろん許可するよ。分かっていると思うが貴重品なので、取り扱いに気を付け持ち出し書類の方は出来るだけ早く提出してくれると助かる。それと移動手段にヘリを手配出来たので、それを使って急いで現地に向かってくれ」

「了解しました。では、派遣員の選定を始めさせて貰います」

「よろしく頼むよ」

 

 宮下課長との話を終えた俺は受話器を置き、デスクの天板を眺めながら思いきり溜息を吐き出した。






 急いで調査にと言う事だったが、鑑定アイテムを持ち出せ直ぐに動かせる調査班がおらず、仕方なく俺が班長を務め臨時の調査班を結成し現地へと赴く事となった。鑑定アイテムは今でも貴重なアイテムな為、外部調査へ持ち出すにはそれなりの立場の者が同行する必要があるのだ。面倒くさい手続きだが、以前やらかした(・・・・・)ヤツがいるから仕方が無い。

 そして宮下課長から未発見ダンジョン関連の報告書を受け取りつつ、臨時調査班員になる小川君と菅原さんと共に出発準備を進めた。


「宇和島さん、出発準備出来ました」

「鑑定アイテムの方も、無事に貸し出して貰えました」

「良し、じゃぁ出発と行こう。ヘリの方も確認したら大丈夫との事だ」


 俺達3人は調査に必要な機材一式を詰めたバッグを持ち、ヘリの駐機場へと急いだ。駐機場に到着すると、聞いていた通りヘリは駐機場に待機しており何時でも出発出来る状態だった。

 そして俺達はパイロットや整備員さん達に挨拶をしてからヘリに乗り込み、ローター音と暴風を撒き散らしながら大空へと舞い上がって行く。


「目的地には20分ほどで到着する予定です!」

「了解しました、よろしくお願いします!」


 流石はヘリ、車で移動していたら2時間近く掛かっていた筈だからな。

 そして現地に到着するまで機上の人となった俺達3人は、宮下課長から貰った資料を参考にしつつ現地での動きを確認し始めた。


「ええっと? 今回発見されたダンジョンはXX県の○○市にある山中で、不動産屋の紹介した山林物件の内覧中に発見っと」

「発見者は4人。内3人が探索者資格を持つ者で、ダンジョン内部でモンスターと遭遇討伐をしたのはこの3人ですね」

「湯田さんと言う人が不動産屋の案内人で、広瀬君、九重君、柊さんと言う高校生の3人が探索者になりますね。高校生で不動産屋の内見に来るってのも凄い話ですが、まぁ協会の資料を見た感じ、彼等探索者として相当稼いでるみたいですよ」


 菅原さんが言う様に今回のダンジョンを報告してきたという彼等、貰った資料を見る限りかなり凄い実績を上げている。30階層を超えて活動してるって少人数パーティーは今の所、探索者企業勢を除くと中々居ないからな。民間の探索者としては、トップ勢の1つだと考えて良いだろう。ドロップアイテムの換金額も、少人数パーティーとしては中々凄いことになってるしな。

 まぁだからこそ、今回のダンジョン報告も信用されて即時の調査隊派遣に繋がったんだろう。


「まぁ少々思う所はあるだろうが、先ずは今回発見されたダンジョンの事を考えて欲しい」

「そうですね。ええっと? 発見されたダンジョンは湿地帯の中央にある小島にあるらしいですね。小島には木々が生えているので、直接ヘリで着陸するのには向かない土地であると。そうなるとやはり、報告者さんが待っているという麓の広場に着陸して徒歩で移動するのが良さそうですね」

「報告者さんの話によると、徒歩でも30分もあれば到着出来るとありますね。……まぁ探索者にとっての30分ですから、それなりに苦労する道程かも知れません。今後の事を考えると、ダンジョンがある小島の近くにヘリが着陸出来る場所を確保した方が良いかもしれませんね」

「そうだな。ダンジョンだと正式に認定されれば、警備員派遣や監視小屋の建設などを行う必要が出てくる。毎回麓から人員や物資の運搬を行うというのも、長期的に考えると非効率的と言えるな。そうなるとダンジョンの周辺環境の調査を行う際、ヘリポート建設に適した候補地の調査もやってしまうか」


 今出ている情報が事実なら、今回赴くダンジョンが認定されるのはほぼ確実だ。とは言っても正式認定が下りるのは時間が掛かるので、今回の調査で仮認定を行って入り口の警備を行うと言う流れになるだろう。そしてダンジョン内部に入るので無いなら警備人員は探索者で無くとも構わないのだが、そうなると今度は移動に際し色々問題が出てくる。探索者の足で30分の道程ならば、一般人では数時間は確実にかかるだろうからな。 

 そんな所で警備を行うのなら、最低でも簡易宿泊施設とヘリポートの整備は必要になってくる。幾らそれが仕事とは言え、険しい登山の末にテント泊しながらダンジョンの警備を行えなんて言えないからな。


「賛成です。後ほど機長にヘリの着陸に適した土地の条件という物を聞いておきましょう」

「後は何時も通り、実際にダンジョンに行ってから様子を見つつって感じですね」

「ああ。ダンジョン認定を行う為には俺達が実際にダンジョン内に入り、モンスターと戦闘を行う必要があるからな。準備は万端だが、二人も決して油断はしないように」

「「了解!」」


 俺達3人ともそれなりに鍛えた探索者ではあるが、幾ら強くともちょっとした油断で怪我を負う事がある事を知っている。今回調査の為に1階層を軽く回るだけではあるが、決して油断はできないからな。一応回復薬は持ってきているが、この手の調査においては先ず使われることは無いものだ。

 そして現地到着後の流れを一通り確認した後、俺はもう一つの懸念事項を2人に話す。


「それと今回の調査において、俺達にはもう一つ仕事がある。それは報告者が確保したというファーストドロップのレア物アイテムを回収することだ。幸い向こうさんには、アイテムの引き渡しの意思があるそうなので、揉める事は無いと思うが素早く回収作業を行う」

「レア物ですか……普通は是が非でも自分の物にと欲しがりそうな気がするんですけどね。素直に引き渡してくれる気があるというのは、コチラとしては助かるんですが……」

「どうやらレア物ではあるが、扱いに困る感じの物が出たと言う感じなんだろう。未発見ダンジョンのファーストドロップ品は、稀少故に色々問題がある品ばかりだからな」

「と言う事は、彼等もその辺に付随する面倒事を避けたい為に、レア物の引き渡しに積極的って事なんですね。手元に置いておきたくない品ですか……何が出たんでしょうね?」

「さぁな?」


 どんなアイテムなのか鑑定前なので分からないだろうが、それでも持っているより手放したいと考えるアイテムね。見た目で分かりづらい薬品系では無く、見た目で分かり易い鉱物系か、直感的に使い方が分かったマジックアイテム系って所かな? ああそう言えば、拳大のダイヤモンドとかも出たことが有るって話を聞いたこともあるから、売るに売れない系の物かも知れない。

 とまぁ大体の話も終わっているので、俺達はファーストドロップで何が出たのか色々妄想しながら気晴らしに話をしていると、機長からもうすぐ着陸するとの連絡が入ってきた。






 ヘリが轟音と暴風を立てながら着陸した。俺達がローターが止まるのを待って外に出ると、車の陰に隠れローター風をやり過ごしてたらしい4つの人影が出て来た。おそらくあの4人が、ダンジョンを見付けたと報告をしてきたと言う者達なのだろう。

 資料では見ていたが本当に高校生の子供がここに居る事に少し驚きつつ、驚きが表情に出る前に俺達は自己紹介を行うことにした。


「お待たせしてすみません。連絡ありがとうございます、ダンジョン協会新規ダンジョン管理課調査員の宇和島と申します。コッチは部下の小川と菅原です」

「小川です、よろしくお願いします」

「菅原です、よろしくお願いします」


 さぁて、お仕事の時間だ。
















突発的な仕事が入りスケジュール変更した結果……やめて貰いたいですよね。


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挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] ファーストドロップが意外に多岐に渡ってるのは3人にとって僥倖かな? でも5年後10年後にファスドロの傾向(中層深層含む)を集めた資料が出た時違和感を持たれるんじゃないかと少し心配 まあその…
[一言] 恐らく今回発見のダンジョンは立地が不便過ぎるため最低限の管理と監視の人員だけ置いて塩漬けだろうなと思いますが… 後日ここに配置される担当者、協会内部で島流しみたいに言われそう。
[良い点] 多忙な部署に無理に依頼するではなく、 優先度高い理由を説明して納得したり、部下に今回の目的を説明したりと、(忙しいですが)ストレス少く働いてそうでかっこよかったです。 ダンジョンという前代…
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