幕間五拾八話 揺れる1年生 その2
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少々長引いたもののHRでアンケート提出も終わり、私達の濃かった2学期初日は無事?に放課後をむかえた。流石に10人にも及ぶ集団退学事件の波紋は大きく、先生がいない時の教室内はその話題で持ちきり。誰がいなくなったのかと、噂話好き達によるクラス間を跨いでの犯人捜しである。
その結果、誰が退学したのかは放課後までに大凡把握された。
「そっか、やっぱり後藤君達のグループの人達が辞めたんだ……」
「うん、そうみたい。噂話を信じるなら、後藤君と初期メンバーがゴッソリ居なくなったみたいだよ」
「後藤君達か……あの人達って結構無茶な勧誘をやってたからね。それ関係で何かあったのかな?」
「そうかも。あの人達のやり方を嫌ってる人って、結構いたもんね」
私達4人は未だに集団退学の件で騒々しい教室を後にし、部室に向かう道すがらこの件について話しあっていた。噂話を聞き集めた所、どうやら退学したと言う集団は後藤君のグループ。1学期の終わり、体育祭が終わった辺りから様子が少し変だったという話だ。それまで盛んに行っていた自分達のグループへの勧誘を控えるようになり、他の探索者グループの人達に牽制したり威張り散らす事も減っていたらしい。
……コレって、体育祭が集団退学の一因なのかな?
「でも、後藤君達だけが学校を辞めちゃってどうするんだろ? 今回辞めたのって、グループの一部の人達だけなんでしょ? 今までと同じようにダンジョン探索を……ってのは難しいでしょ?」
「そうだよね。流石に全員1度にダンジョン探索をしていた訳じゃ無いだろうけど、一緒に辞めたメンバーでパーティー編成を変えるだろうから、連携練習のし直しでそれまでと同じように動くことは直ぐには出来ないと思うよ。そうなったら、ドロップアイテムの稼ぎも一時的に減るだろうから……」
私と沙織ちゃんは学校を辞めた後藤君達が、無事にこれまでと同じように探索者を続けられるのか不安になった。ダンジョン探索をしている身としては、モンスターと戦う上で連携の大切さを知っている。連携は上手くいけば1+1が2にも3にも成るが、連携が上手くいかなければ5あった物が1や2に成ってしまう。最悪はマイナス……仲違いをして全滅なんて事態もダンジョンではあり得る。
そして、不調による一時的減収という金銭問題は、色々な問題を抱えているだろうグループにおいて仲違いを誘発させるには十分な問題だ。
「……今思ったんだけど、今回辞めた人達って、全員が全員円満に学校を辞められたって訳じゃ無いよね」
「そうじゃ無いかな。流石に子供が学校を辞めて探索者一本でやっていく!なんて言い出したら、親としたら引き留めるだろうから」
「それなのに10人も辞めたとなると……仲違いして勘当同然って所も多分あるよね?」
「確かにそうなってる所もあるよね、きっと」
学校を辞めた時点で生活面で差があるとなると、ますます仲違いする様相を内包している気がする。円満に退学出来ているのなら親のバックアップがあるかもしれないけど、大反対の末に喧嘩別れのような感じで辞めたとなると親のバックアップは期待出来ない。生活面が保障されダンジョンで得た報酬の全てが自分で好きに使える人と、生活面に保障が無く生活費などを自分で捻出し四苦八苦しながら生活する人が同じグループに居るとなると、在学時代と同じノリで探索者活動をしていたら直ぐに仲違いしてグループが破綻する可能性は高そうだ。
うん。後藤君達の詳しい内情は知らないけど、上手くいきそうな要素が少ないように感じる。どうして学校を辞めて、探索者活動に専念するって話になったんだろう?
「でもさ、後藤君達が学校を辞めたって事は、もうしつこく勧誘されることも無いって事だよね? 体育祭以降は殆どしてこなくなったけど、廊下ですれ違う時とか合同授業の時なんかに変な目を向けてきてたし、それが無いって思うだけ何か気分が楽になるよ」
「確かに、それは助かるよね。体育祭で先輩達とアレをしてから、結構変な目を向けられてたし……うん、結果的には私達にとっては悪くないかな? 少し悪い気はするけど……」
「気にしなくて良いと思うよ、美佳ちゃん沙織ちゃん。私達が何だかんだ言っても、結局は彼等が選んだことなんだしさ」
「そうだよ2人とも、2人が気にする事なんて無いって。まぁ体育祭の事を蒸し返されて、少し騒がれるかもしれないけど……」
涼音ちゃんの一言を聞き、私と沙織ちゃんは小さく溜息を漏らした。あの時の事で、また騒がれるのか……と。確かに今回の集団退学の一因になるかもしれない事なので、蒸し返され話題に上がる可能性は高いと思う。はぁ、騒がれたくないなぁ……。
そんな事を話しつつ歩いている内に、何時の間にか私達は部室に到着していた。
部室でお兄ちゃん達とコレから行われるビッグイベント、文化祭について話し、部としての出し物が決まった。ダンジョンが社会に与えた影響と、事業者としての探索者が納めるべき税についてだ。一応部としての設立名目ではあるが、お兄ちゃん達が提案した税金についてって言うのは、文化祭でする発表にしては堅すぎるテーマじゃ無いかな? お客さん、見に来てくれるかな?
ただ橋本先生の呟いた一言で、そんな事を気にしている暇は無かった事に思い至る。
「確認テスト……そう言えばそんなのもあったね」
「あったね……じゃないだろ? ちゃんと勉強はしてたのか?」
「……」
「はぁ、そうか」
顔を逸らしながら乾いた笑みを浮かべると、お兄ちゃんにジト目で見られた。いや、だってね? 前半で課題を終わらせてるんだし、夏休みは目一杯楽しむものだよね?
それに、勉強を余りしてないのはお兄ちゃんだって私と同じなんでしょ?
「「「「「「「……」」」」」」」
と言うわけで、急遽明日のテストに向けて、広瀬先輩の家で臨時勉強会を行うことになった。
確認テストで出題される範囲は夏季課題として1度やっている内容なので、思い出せればそう悪い結果には成らないと思う……思い出せればだけどね。
昨日の勉強会の成果が出たのか、何とか確認テストを乗り切れる事が出来た。手応え的には、7、8割は取れていると思う。
ただ……。
「うわぁ、死屍累々って感じだね」
「そうだね……皆、勉強やってこなかったのかな?」
「ウチのクラスでも、何人も夏休み中に探索者になってダンジョンに潜ってたって聞いたよ」
「そのお陰で課題をやり忘れてたって言ってたね」
確認テストを終え、余裕がありそうなのは男女合わせて半分も居ないって感じかな。幸運にも、私達は昨日の勉強会のお陰で少数の方には入れていた。
更にこの後、課題の提出もあるし今撃沈している人達が復帰するのは今日は無理かも。
「ああ、そう言えば美佳ちゃん聞いた? あの噂」
「? 噂って、どんな噂?」
「余り良い気分がしない噂だよ。ほら昨日、後藤君達が学校を辞めたって話があったじゃない。その影響が、早速出始めてるらしいよ」
「影響って……」
気分悪そうに眉を顰めながら、麻美ちゃんが聞いたという噂話を教えてくれた。
何でも昼休みの時間に後藤君が在籍していたクラスで喧嘩……激しい口論があったらしい。口論になったのは、元後藤君グループに所属していた数人の男子生徒と、1学期に勧誘されて断っていた男子生徒だったらしい。
「その勧誘を断り続けていた男子なんだけど、断ったことが癪に障ったのか、色々嫌がらせをされてたんだって」
「嫌がらせって……」
「この場合、イジメって感じかな? 別に何か暴力的な事をされていた訳じゃ無いみたいなんだけど、周りに圧力を掛けてその男子を無視するようにさせていたみたい。後藤君とその取り巻き……パーティーメンバーの連中がいたから、クラスの子も助けの手を出せないし批判も口に出せなかったらしいんだ」
麻美ちゃんの話に、聞いていた私達3人も嫌悪感で表情が歪む。イジメに加担するなんてと非難するのは簡単だが、イジメに参加している形になってしまった人の気持ちも分からなくはない。誰だって我が身が可愛いと思うし、止めに入ってイジメのターゲットが自分に移ったらと考えたら二の足を踏んでしまう。教員に介入して貰うという手段も、自身も消極的ながら加担しているという罪悪感があるから選択しづらい。麻美ちゃんが聞いたというこの話だって、後藤君達が居なくなったから他クラスにも漏れ出したと言う可能性が高く、後藤君達が未だ在籍していれば漏れ出ることも無かった事かもしれない。
ましてやこのイジメにおける主犯である後藤君達の場合、留年した結果1年生ではレベルが並ぶ者の無い探索者であり、パーティーメンバーも初期参戦組という明確な力の影がちらつかされている。探索者として経験を積んでいる同学年の者なら戦力差を感じ安易に腕っ節任せに止めに入る事も出来ず、本人の訴えも密告者などの証言も無ければ教員も介入出来ない。
「でも今回、後藤君達が学校を辞めた事でその重しが外れたみたいなんだ。クラスに残っていた元グループの男子生徒達に、教室で面と向かってコレまでの事を非難したんだって」
「それは……まぁ文句の1つも言いたくもなるよね」
「うん。当然、その元グループの子達も今回退学していった後藤君達に強要されていたって反論したんだけど、一緒になって参加していたんだから誰に強要されていたかは関係ないって言って大口論になったんだって。更にその口論に、コレまで後藤君達に抑えられていた他の生徒も、イジメられていた男子生徒に味方として加勢して……」
「うわぁ……」
頭を抑えていた重しが無くなった事で、残ったパーティーメンバーの男子生徒達の吊し上げが始まったらしい。コレまで抑圧され鬱憤が溜まっていたせいか、双方手こそ出していないが口論は激しさを増し一触即発の雰囲気だったとの事。まぁ、手が出なかっただけマシかな?
探索者と一般生徒が入り交じっての乱闘にでも成ったら、何かの弾みで死人が出ても可笑しくないからね。私達探索者が持つ力ってのは、それだけ一般人とは掛け離れてるって自覚しておかないと。
「それで余りにも騒ぎすぎたせいで、誰が呼んだか分かんないけど先生が駆けつけてその場はお開き。双方共に遺恨を残したまま殺伐とした雰囲気を残して、って感じだったらしいよ」
「そんな事になってたんだ……」
因果応報と言えば良いのか、今まで自分達がやってきた行いの負債が我が身に返ってきたと言う事なのだろう。諸悪の根源は既に去り、残った小物に民衆が反旗を翻した。昔から良く聞く、独裁政権の末路を辿ったと言う事なのだろう。
そう言えば昨日、橋本先生が部室で残りの後藤君グループが五月雨式に退学しないか心配していたけど、今回のことが続くようなら残った人達も自業自得とは言え居心地の悪さに耐えきれず……となる可能性が高いかもしれない。
「後藤君達が退学したって分かった次の日にコレだと、他のクラスでも同じ様な事が続くかもしれないね」
「可能性は高いと思うよ。この噂も多分明日になれば他のクラスにも広まるだろうから、他のクラスでも似たような事が起きるかもしれない。ウチのクラスでもあったけど、今まで俺は後藤君グループに所属してるんだぞ! って威張り散らしてたヤツとかいたしね」
「そう言えば、ウチにも元メンバーが残ってたね。私達への勧誘文句こそしつこかったけど、そこまで横柄な事はしてなかったから大丈夫だと思うけど……」
流石に噂と同じ様な事がウチでも起きて、更にクラスメートが減るという事態は良い気分がしない。何より、毎日のようにクラスメート達が言い争いをしているのが日常なんて嫌すぎる。
集団退学発表から1日経った程度なのに、こんなにも影響が出るなんて思っても見なかったな。
「うん。でも……」
そう言って麻美ちゃんは、元メンバーである数人の男子生徒がいる方に視線を向ける。つられて私達もソチラに視線を向けてみると、テストの手応えの結果ではなく、別の意味で消沈し顔色が悪くなっている様に感じた。
彼等も、この噂話を耳にしたんだろうな。
「あの人達も風向きが変わって、今までとは違うって感じてるみたい。もしかしたら、私達が何かしたり言ったりするより、先に……」
「……やめちゃう、かもしれないね」
今まで探索者という武力を背景に支配的だった後藤君グループと言う存在が無くなった事で、1年生間の勢力図が刻一刻と変わり出しているらしい。
どうやら私の高校生活、平穏無事にとは簡単には行かなさそうだ。




